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“ツヴィリング”

「……僕らは負けた、お前らの強さを見下しておきながら」

「……負けた方は勝った方の言う事を聞くのが条件。何でも、僕らにできる事なら」


じっと全く瓜二つのそっくりな顔がアイリスを見つめた。

視線は低く、瞳は暗く、だからこそアイリスたちはその視線を一心に受けながらも困った顔を見合わせた。


模擬戦闘を“イリス”の勝利で収めた彼女たちの前に現れたのはツヴァイン双子のその2人だった。

一先ずと部屋にあげた彼女たちへ放った第一声がこれで、双子の纏う雰囲気もあって返答に困りきってしまう。


しばらくの沈黙の後、ようやく口を開いのはフランだった。


「あー……じゃあ、アイリスに謝ってくれ。俺たちがアンタらに喧嘩ふっかけのはそれが原因だしな」


元々の始まりは子供の喧嘩みたいなそれで、張本人のアイリスは一欠片だって気にしてはいなかったけれど落とし所としては妥当だった。

アイリスへと向いた双子はきちりと頭を下げた。


「アイリス・オークランド。あの時貴女に対する侮辱と侮辱、謂れなき誹謗中傷」

「そして貴女たちの強さを見下し見誤って否定したこと、心の底からお詫びする」

「本当に申し訳ありませんでした」

「言葉でしか謝罪を表せず申し訳ありません」


口調すらも丁重に、恭しく謝罪を放つ双子に苦々しく眉を下げてしまう。

態度が違うどころか別人のようだったからだ。


最初こそフランもミシェルも、アイリスへ双子が言い放った悪意を込めた悪口に怒りを覚えていた。

だからこそケイトに止められるまでバチバチとしていたのだし、模擬戦闘も受けた。

けれど肝心のアイリスが一欠片だって気にしていないこと、そもそもの始まりが子供の喧嘩みたいなそれだったこともあり、「一言謝らせてしまいにしよう」と、模擬戦闘が始まるよりも前にはすでにそう落とし所をつけていた。

だからアイリスは初めから、そしてフランとミシェルも満足だった。


頭を上げることなく下げたまま、ぴくりとも動かない双子に狼狽えながらも顔を上げるよう言えば今度はじっと暗い視線を向けられて恐る恐る会話を切り出す。


「えーと、それくらい、なんですけど……」

「……それだけ?」

「……どうして?」

「それじゃあ他は?」

「何か命令は?」

「いや、ありませんし…」


どちらも噛み合わずで、双子は意味がわからないと首を傾げる。


負けたのだから、勝ったのだから、そして負けた双子はアイリスに対して食ってかかったのだからそれに対する罰があるべきだ。

強者は弱者を“使う”のが当然だと、それこそ双子は息をすることと同じくらい当たり前と捉えている。


だから意味がわからないのだ、謝ればしまいだと言う彼らの原理が。


といっても特に深い意味も原理もない、ただそれを落とし所としているだけで、言い方は悪いがもう気にしていないのだ。


「だから、そんなに気負ったみたいな態度とかも別にいりませんよ」

「…………うん、わかった」

「…………けど、もし何か思いついたら、言って」

「……僕らができることは限られてるけど」

「……なるべく、早く」


納得がいかない、理解できないという顔をしながらも頷いた双子はもう一度頭を下げてから部屋を後にした。

背中を見送ったアイリスたちは再び顔を見合わせ肩をすくめた。


「なんか……最早別人だよねぇ?」

「最初こそ餓鬼みてーって思ってたけど、ちゃんと約束事守るんだな」

「んー…多分だけど、先生の言ってた通り完全な強者主義だからこそじゃない?強いことに誇りを持ってるからこそ、敗者に課される約束ってか罰ってのに忠実なんだろね。……ん?どしたのお嬢さん、なんか腑に落ちないって顔してるけど」


うぅむと腕を組んで腑に落ちない、双子とは違った意味で納得できない顔のアイリスにそう問いかければ「うー?」と首を傾げながら唸った。


「私の肌感だけど、なんかこう…切羽詰まったみたいな、崖っぷちで半歩落ちかけみたいな顔してたから、変なのって」


戦っている最中に負けたくないと切羽詰まるのはわかるが、終わってからそんな顔をした双子へ疑問を浮かべる。

しかし首を傾げたのも数秒、「まぁいっか」と打ち切ったアイリスのあっけなさは潔かった。


「いいのか?さっきの時にききゃよかったのに」

「あくまで私の肌感だし、それにそういうのに踏み込むのもね」


確かにそれは、あくまでもアイリスの肌感で感じ取ったものであり踏み込む理由も好奇もなく、だからこそ正解などわかりやしない疑問を追求することはなかった。

けれどここで隅に追いやられた疑問は、割と直ぐにアイリスたちにその答えを押し付けた。







今期の模擬戦闘、“イリス”は1日置き、5日間の間に計3日の参加を果たした。

理由としては無理は禁物、作戦会議のため、休息を取るのも大切だから、と色々と含まれているが1番は「休めるんだったら休むべきだよ休みって与えられる時に感受しないと与えられないとおかしくなるから頑張るのと頑張りすぎるのは違うから」とアイリスがノンストップでハイライトを消して口にしたためだったりする。


作戦会議、と言っても相手が同じ1年である場合はそもそも収集できる情報もなければ、そもそもの戦闘スタイル自体を手探りで固めている状態だ。

故に体を休め、しかし肉体がその休みでだらけないように適度に鍛える。

そうして迎えた3日目、B組のパーティとの戦闘を白星に収め着々と勝利を重ねていた。


その帰り道のことである、アイリスが抱いた疑問の答え合わせが予期せず訪れることとなった。


何か揉めるような話し声が曲がり角の先から聞こえ、そっと隠れて盗み見聞く。

そもそもその道を通ろうとしていたからという真っ当な理由に隠したほんの少しの邪推な好奇心。


盗み見の視線の先にいたのは困り顔のケイトと、俯いたツヴァイン双子。

ケイトは眉間に皺を寄せて頬をかき、ため息を吐いた。


「はぁ……まさかつい先日の“イリス”との戦いで啖呵を切っておきながら負けたから、なんて理由ではないだろうね?」


思いもよらず自分たちの名前が上がり、びくりと体が跳ねる。

双子は尚も視線を上げることなく、表情は見えないまま首を振る。


「……それはただのきっかけ、理由にある意味含まれるけれど」

「……相手が“イリス”でなくても、もう決まってた」

「…………もう決めたことだと?変える気はないのかい」


少し硬くなったケイトの声色に、ぎゅっと唇を噛み締める。

はく、はく、と口を開けては閉じ、ようやく絞り出した言葉は振り切るようなyesだった。


「……決まったことだから」

「……あなたには、感謝してる」

「……この学園を進めて推薦までしてくれたのは、あなただから」

「……けれど、もう、変えることはできない」

「「夏季休暇が始まるその前に、僕らはこの学園をやめる」」


ステレオみたいな双子の言葉に、顎髭を触ってもう一度ため息を吐く。

何かいいたげに、けれど少なくとも今は無駄だなという思いを込めたそれだった。


「はぁ、わかったよ。でももし気が変わればまた来なさい」


そう言葉を言い残し、アイリスたちとは反対の方向へを去っていく。

その背中を見送り、随分と最初とは印象がガラリとかわってみたいな、元々小柄な体格がさらに小さく見える双子がアイリスたちの方へと足をすすめてきた。


盗み見聞いていた立場で慌ててその場を離れようとしたものの、そもそも距離も碌に離れていなかったためにそれよりも前にばっちりと双子と目が合う。


「……何してるの?」

「……こんなとこで」

「あー…か、かくれんぼ?ですかね…」


誤魔化し笑いに、双子の怪訝そうな顔がぶつかる。

曲がり角付近で固まるようにいた3人に、すぐに察したらしい。


「……聞いてたの」

「……さっきの話」

「あー……はい、(盗み)聞いてました」


確信を得た問いかけに、素直に答えるしかなく気まずい空気が間に漂う。


「……別に気にして気まずくならないでよ」

「……僕らが学園を止めるのは君達に負けたからじゃないからね」


例え事実がどうであろうと、”イリス“に負けた日から期間中は毎日と戦っていた”ツヴィリング“がその一切を放棄した挙句夏季休暇前に学園を辞めれば大多数が思うだろう。

本質を知らずとも、”イリス“と”ツヴィリング”が戦うよりも前から確執を生んでいたことを知っているのだから尚更に。


今にして思えば勝利者の“おねがいごと“を急かすような言葉を吐いたはずだ、休暇前に学園を辞める、すなわち留学者としてやってきている彼らは必然的に国に帰ることになるのだから。



正直に言ってしまえば、アイリスたちからすればツヴァイン双子は模擬戦闘で戦っただけの、確かに言い争いはしたがそれだけの関係性だ。

始まりが同じでもその後順当に関係性を築いたテユたちともまた違う、本当にただ、それだけの関係だ。


だから、酷いと言われようと双子が学園を辞めようとアイリスたちの感することではないのだ。

嫌いだからとかとかそんな感情論でもなく、ただ本当に碌に間に関係も接点もほとんど少ないだけの間柄に対して首を突っ込めるほど勇者でもなければ手を差し伸べてあげるほど仲良しでもない。


だからここで何故と問うことも、やめないでと静止することも、アイリスたちにはそれに足る材料もない。


けれど「あぁそうですか」と済ませてやれるほど、あぁ、だって。









何やら、とっても______






気にくわない(・・・・・・)




その、顔が、その態度が、気にくわないんだよ、と自分勝手に吐き出した。

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