白の聖女と崇拝疑惑
_____今でも夢に見る
_____遠目に見えた雪のような白い髪
_____何十倍も大きい天災とすら揶揄われた嵐の虎を子猫同然に、数多の魔法を繰り出した
_____負けてしまうと、それでも、国にだけはと、“リーリエ”だけは逃がそうかと、それぞれがそれぞれに別の思いを、けれど諦めを含んだ我ら第三騎士団の命を救ってくれた
嗚呼!まさに彼女は 白の聖女_____!!!
「_____おい、聞いてんのかジャック!」
「ふがっ」
と、そこで思考が中断された。
ここは、王国騎士団の訓練所の中に併設されている食堂。
休憩中の騎士たちの喧騒が支配するそこでジャックと呼ばれた男は彼の上司に頭を思い切り叩かれ、可笑しな声を漏らした。
叩かれた箇所を抑えながら恨めしそうに上司を睨みつけるが、肝心の相手の方に睨み返されて視線はあっけなく負けて落ちた。
「ったく、ぼーっとしてんじゃねえ。とっとと飯食いやがれ。休憩時間だって長くねぇんだぞ」
「っうす、すいません」
「どーせまた、あの件の“聖女様”に懸想でもしてたんだろ」
呆れたようにため息を吐いた上司にジャックは肩を下げる。
ジャック、本名ジャック・フリージャ、スエルテ王国第三騎士団所属の騎士。
先日の“白亜の塔”攻略にて“リーリエ”と共にかの塔へと赴き、そしてテンペスタティグレと遭遇した騎士の1人である。
テンペスタティグレ、種族の枠を超え天災認定を下された嵐の虎。
生還した騎士たちは口を揃えてこういった。
嗚呼まさしく彼女は“白の聖女”だ_____!と。
その恐ろしいまでの強さに憧れるもの、懸想するもの、信仰すら抱くもの。
それは決して、実際に見たものでなければ理解できない感情である。
さて、このジャックもそのうちの1人でありかの事件から時折“白の聖女”に想いを馳せぼんやりとする事が増えた。
勿論そこは王国騎士団の一員、訓練や任務中はきっちり精神統一、騎士としての務めを果たしているがその分こういった休憩時間やプライベートでのふやけっぷりと言ったら。
上司、こと第三騎士団団長はぽやんと頬を染めて白の聖女を思い出してはうっとりとするジャックに頭を抱えた。
_____まったくもって、これじゃあもはや片想いしているみたいじゃあないか!
恋にうつつを抜かすなとは言わない。
公私混同さえしなければ片想いしようがなんだろうがその感情をしばれるものはなにもない。
だがしかし、顔もろくにわからない、わかることといえば髪の色とその恐ろしいまでの強さと魔法くらい。
言ってしまえば、たしかに白の聖女に感謝はしている、第三騎士団団長はかの遠征には出向いていなかったため実際を見たことはないか話に聞く限りでも恐ろしいまでに素晴らしいと思っている。
しかしその素性も性質も一切不明、そんな相手にそこまでの偶像崇拝を抱いては欲しくないというのが実のところの本音だ。
思い描くのは自由だけれど、事実とはきっとかけ離れてしまうのが常だから、可愛い部下がそれにショックを受けてしまうのは避けたいのだ。
_____実際の白の聖女の性質は、かの遭遇した騎士たちが思い描く聖女像とはいい意味でも悪い意味でもかけ離れている、上司の懸念は間違っちゃいない
そんな上司の心配をよそにぽやんとした顔で白の聖女に想いを馳せてぼんやりとし始めたジャックの頭に本日二回目の衝撃が走った。
場所は変わって王宮、第1王子の部屋にて。
水晶に映し出されるとある模擬戦闘を観戦した王子は白い髪の彼女は言うまでもなく、彼女のチームメイトまでもが若干破茶滅茶人間の道に片足を突っ込みかけていることに頭を抱えた。
「ていうかなんだその魔法は………!!」
ちなみに彼は最近“白亜の塔”遠征に赴いた騎士たちの中で“白の聖女”に対する崇拝もどきのファンクラブ的な感情が渦巻いていることについ最近目眩がしたばかりである。




