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作戦会議、後々雑魚寝

寮に戻り、彼らの溜まり場と成り果てているフランの部屋でアイリスは困り果てていた。

というのも、一度は落ち着いたと思っていた熱は完全に冷えたわけでないらしいフランとミシェルがここにはいない双子へと険悪な空気を向けていたからだ。


「あ、あのー…そんなに怒らなくてもいいのでは」

「は?」

「ん?」

「ごめんなさい」


ヒェッ、と小さく悲鳴をあげたアイリスは咄嗟に正座付きで謝罪の言葉を述べる。

全く気にしていないとばかりのアイリスに、2人の感情の矛先が移る。


「大体ね、お嬢さんは気にしなさすぎなんだよ!」

「えっ!?い、いやほら…実際そんな酷いこと言われたわけでもないし…近所の子に出会い頭いわれた、みたいな…」


そも、アイリスの基準は彩芽の頃に形成され、精神的な頑丈さはアヤメの頃に確固となった。

どんな誹謗中傷であろうとも「どうでもいい」だったり「別にいっか」の枠内に当て嵌められた瞬間馬に聞かせる念仏よりもするりと抜けていく。


「俺はね、何も知らない奴から根拠もない事で非難されるのが一番嫌いなんだよね」


どうしたものかと悩み込むアイリスに、ぴしゃりとミシェルが言い放った

その隣、フランも頷く。


アイリスは、3人の中で1番注目を集める。

それは外見だったり、その実力だったり、だから注目も噂が尾鰭をつけて広まってしまうのもどうしようもないことであるのも事実だ。

けれど、だからといって仕方ないで済ませないことは山ほどある。


尾鰭のついた噂に踊らされたのだろうが、どんな思いがあってだろうが、どんなにくるしんでいるのだろうが、そんなもの知るものか(どうでもいい)

謂れもない悪意だ、紛れもなく侮辱だ、それを目の前で見せつけられて仕方ないと許してやれるほど、どうでもいいと流してやれるほどアイリスを大事に思っていないわけじゃない。


例え張本人のアイリスがどうでもいいと流せてやれるのだとしても、だからこそ、言われたままで許してなんてやるものか。


「そもそも、お嬢さんは自分に対して無頓着すぎるんだよ」

「えぅ、いやだって…」

「だってじゃねぇ」

「別に私はどうでもいいし、気にしてないし…」


アイリスにとっても、それからかつての友人たち“ノーフェイス”たちにとっても、“これ”は長所であり悪癖でもあった。

なにせ彼女たちはどうでもいいのだ。

自分の興味や好奇心の対象、それから大切にしているもの以外はどうだっていいし、無関心だ。

きっとこれは誰だってそうだ、誰だって自分の世界が第一だ。

けれど彼女たちはそれに輪をかけて無関心で、評判も何もかも気にしない性質だった。

その反動でか、彼女たちにとっての逆鱗に触れられた瞬間龍よりもたちのわるく怒り狂うのだが、それはそれ。


そしてアイリスは彩芽であった時に鍛えられたこともあって自分に対する防御力、というよりも流す能力が異常でなく高い。

だから、今回のこれが例えばフランやミシェルに向けられていたのならば兎も角自分に向けられている以上そもそも興味すら持たない。

初対面のテユの時しかり、今回しかり、あぁ絡まれてるなぁの一言で終わるのだ。

自由で、奔放で、感情と好奇心の赴くまま生きてばかりいるけれど、人生3回目は伊達じゃないのだ。


残念ながら誤算だったのが、“ノーフェイス”はそれぞれが他人でそれぞれが自分のような感覚であったせいで忘れていたのだ。

アイリスが彼らのために怒り狂うように、フランとミシェルとてアイリスのために怒り狂うのが当然であるということを。



「アイリス、お前俺かミシェル、どっちでもいいけど、一切合切根拠もない誹謗中傷受けてたらどう思う」



フランの質問にきょとりと目を丸めたアイリスは腕を組みうぅんと首を傾げ、考え込むような仕草をした。

とはいえ、考え込むこともなく当たり前の結論が出た。


「え?んー……そこに至るまでの経緯とかにもよるけど…ひとまずぶちとばすかなぁ」

「お嬢さんにぶっとばされたら軽く死ぬんじゃない」


一才の躊躇なく、正真正銘の全力を込めてぶっ飛ばすこと間違いなしだった。

すとんと目から光を落として真顔でいいのけたアイリスに、ミシェルがそっと引き笑いをした。


「てな事で、俺らも手加減せずにあの双子をぶっ飛ばす」

「まぁ勝てるって言い切れるほど自信はないけど、負ける気はないからねぇ」


清々しい笑顔でサムズアップ。

どうせ引く気もなく引けるわけもなく、取る手としては一つだけ。


「さくっと情報も一応集めとこうか」

「わぁいそこに痺れる憧れるー!」

「よっ俺たちの情報屋!」

「照れるー」











その僅か2日後、ツヴァイン双子のパーティこと“ツヴィリング”の過去の模擬戦闘データ諸々含む情報を集めたミシェルによって、アイリス命名“双子対策作戦会議”が始まった。


「一応集めた情報によると、予想通りというかなんというか、双子らしく息のあったコンビネーションの戦いが強みっぽいねぇ。俺たちが最初の日に見に行ったの覚えてる?」

「ん?あ、そうだそうだ、最初の日に見に行ったのあの2人と3年の人たちのだったね」


ぽん、と手を叩いて思い出す。

近くの席で観れたわけでもなく、その後のテユとの戦闘(濃い記憶)などが加わって覆い隠されていた。


「パーティ名は“ツヴィリング”、入学して初めての模擬戦闘は“特攻隊”と、ほとんど瞬殺で終わってるねぇ。その後は同学年も上の学年も含めて総当たり戦みたいな感じで」

「総当たり戦?全部のパーティってこと?」

「俺の調べたところによると模擬戦闘期間は基本毎日やってるね、ただそれでも1年で35回、全部のパーティとは出来ない。1回目の期間はA組(同じクラス)のパーティと、それ以降は上の学年のパーティの上位ランクのパーティと。もし評価の上位に新しく何処かのパーティが繰り上がってきたらそのパーティとも」

「要するに強い人と戦いまくってたって訳だね」

「そういうこと。それで一通り上位のパーティを戦ってほとんどは勝ちを収めてた。その後は今の3年総合評価2位の率いるパーティと勝ちつ負けつつ、ほとんど引き分け状態だね」


そう言えばと思い出すと、あの時見に行った模擬戦闘では“ツヴィリング”の方が負けていた。

しかしと首をかしげる、3年の総合評価3位の率いるパーティと毎回戦っているようだが、1位の方のパーティとは戦っていないのだろうかと浮かんだ疑問に察したらしいミシェルが言葉を続ける。


「あー、そもそもね3年1位の人のパーティはほとんど模擬戦闘には出てないみたいだね。ほら、放送クラブ、それに所属しててあと座学の方、これでほとんど成績を残してるみたい。数少ない模擬戦闘でもあの双子と戦ったことはないね、まぁその数少ない内のほぼ全部勝ってるみたいだけど、放送クラブの活動としても解説はすごいわかりやすかったし」


さてと手を叩いて話題を転換させる。

所謂基礎知識、身もふたもないことを言ってしまえば、戦闘に関わり合いはない。

ただ為人を知るためには必要だから前座として話しているのだ。


「じゃあまずは、あの双子の基本的な戦闘だね」

「はーい、よろしくお願いしますミシェル先生!」

「ん?あは、大変元気でよろしいお嬢さん。質問があったらすぐに言うように」

「はーい!」

「あ?これって俺も乗った方がいいのか?勉強会のノリ再びか?」


数日前の勉強会の“教師と生徒”のノリが再び始まり、いち早く気づいたミシェルは即座にそれに乗り先生役を担当する。

少し乗り遅れたフランも戸惑いずつもそのノリに乗っかる。


そこから先は作戦会議と名のついた飲み会的なものだった。

本軸は一応対策を練りつつも、定期的に脱線し、「お腹すいたね」と言い出したアイリスが軽食を用意し最終的には飲み会に落ち着いた。

“飲み”といっても飲み物はもちろんお茶、水、もしくはジュースである。


トラブルに巻き込まれ、学校終わり、ひと段落して疲れは染み渡り、程よくお腹もこなれた。




そして目が覚めた時には朝だった、健全的な朝チュンであった。


「お嬢さん、俺たちも寝ちゃったのは悪かったよ。けどさお嬢さん最後まで起きてたんなら自分の部屋帰りなよ……」


1番早くに目を覚ましたのはミシェルだった。

クッションを枕に床で寝転がっていたミシェルは寝ぼけ眼に散らばる雪のように白い髪を目にした。

(きれいなしろだなぁ)と呑気に思うこと数秒、「うぅん」と声を漏らし動いたそれに一気に意識は覚醒した。


「いや、私も眠くて気がつけば寝てた」

「気がつけばじゃねぇだろ……俺らも悪いからなんも言えねぇけど……お前、年頃のくせに男の部屋でがっつり寝るなよ……俺起きた瞬間叫んじまったよ……」


ミシェルの「うわぁ!?」という声によって目を覚ましたフランに至っては、その瞬間眼前にすぅすぅと寝息を立てるアイリスの寝顔をばっちり見てしまって「うあああぁあ!?」とあらんかぎりに叫んだ。

その叫び声にようやく目を覚ましたアイリスはといえば呑気に「ふたりともおはよぉ…」なんていうものだから、ようやっと落ち着いたミシェルはアイリスの危機感のなさに只管心配になった。


「ほんとお嬢さん、そこら辺の危機感持とう?」

「んー…?べつにフランとミシェルは、そいうこと、しないでしょ?………まぁそれにそういうことしようとした奴は吹き飛ばすし」


ぽやぽやと未だ意識の半分は夢の世界に残したままのアイリスが最後にぼそりと呟いた言葉に、当然するつもりはないがぞっと寒気が襲った。


「ぼそりと怖いこと言うなよ」

「お嬢さん吹き飛ばすって何を?塵も残さずって意味?」

「四肢」

「おいマジか、いや、やらねえけど」

「こっわ、いや、別にお嬢さんに無体とか働かないけどね?」


きっと本当に“そういうこと”になりそうになれば過剰とはいえ防衛できるのだろうアイリスに、けれどフランとミシェルはこんこんと「あのね、それでも年頃の女の子なんだし…」「危機感をもってだな…」と注意する羽目となった。

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