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模擬戦闘 その余波

“特攻隊”との模擬戦闘の後、アイリスはテユから謝罪を受けた。

内容は廊下での暴言についてである。

周りが見えなくなり(暴走し)がちな気質はあるが、根は真面目なのだろうテユは土下座せん勢いだった。

客観的に思い出し、自分がいかに視野が狭まっていたかを痛感したのだろう。

肝心のアイリスはといえば、「そんなこともあったな」とそこで思い出したくらいで特攻隊主催の謝罪会見はあっさりと終了した。


さて、模擬戦闘は7日間。

パーティごとに1日1回の模擬戦闘が行えるので、最高で7回の模擬戦闘が可能だが、毎日戦うパーティは学園でも一握り。

多くは1日置いてなどをし体を休めるらしく、全体といえば3日か4日の参加が多い。


“イリス”はといえば、あまり参加しては更に注目や変なやっかみも増えるだろうと言うこともあり、“特攻隊”との模擬戦闘を含め計3日の参加となった。

“特攻隊”、そして残りの2日は1年生のパーティとの模擬戦闘で、アイリスは言うまでもなく、フランは魔力操作を、ミシェルは精神干渉と幻術の複合発動を実践で少しずつモノにしていき、“イリス”は華々しくも全てに勝利を収めた。



_____さて、これで終わらないのが人生のままならないところである。

厄介なことが主にアイリスに降りかかった。



1年生でありながら前年度個人総合評価3位のテユ率いる“特攻隊”を倒したパーティなんてものが、注目されないわけがない。

特に同学年では、勿論やっかみや悪意の目も増えたが、それ以上に増えたのが“尊敬”の目である。


今迄は畏敬に似た目が殆どだったが、“特攻隊”を倒したこと、アイリスとテユの最後の一騎打ち、そしてテユ本人(・・・・)がアイリスの素晴らしさを語りまくったのだ。

そう、ようするに__________ファンができた。


「おかしい、私が全力でやった、やりきった……なのに、なんでこうなった……?」


フラグ回収と行こう。

先程も言った通り、テユがアイリスの素晴らしさを語りまくった。

アイリスは若干死んだような目で___皮肉にも模擬戦闘時のテユの目に似ていた___付き纏うテユを見た。


「アイリス!今日こそ俺を弟子にしてくれ!」


つまりはそういうことである。


模擬戦闘期間が終わり通常の授業形態へと戻ったその日からテユはアイリスに「弟子にしてください!」と付き纏うようになった。


元よりテユとの戦闘が終わって、謝罪された時からそんな風潮はあった。

確かに最初のテユの態度は割とひどかった、初対面で廊下で暴言吐いたのだから。

当然それを目撃した生徒も数人いて、こっそりと、心配の声も上がっていたくらいだ。


肝心の本人はハゲ上司の方がよっぽど理不尽で酷かったしなぁ、と密やかに目を暗くさせた。

アイリスからすれば道端でいきなり「肩当たったじゃねぇか!」と言われたような感覚で、悲しきかな、ブラック会社に培われたメンタルはそれくらいじゃ傷つかない。


普通ならテユが魔力を使い切った時点で、諦めてしまったあの時点で、ぶち放ってやってもよかったのに、アイリスはそれでもテユとの一騎打ちに応えた。

あの場所で何より優位だって点を投げ捨て、同じ土俵で全力で戦ってみせたアイリスへの感謝と尊敬の念が爆発しても仕方のないことだ。


トドメは戦闘後にタブレットに挙げられた戦闘時の映像だ。

テユは元々魔法よりも物理的な肉体戦を非常に得意とする、魔法使いや騎士よりも戦士よりの戦い方と思考回路の持ち主だ。

だからこそ、その目で客観的に見て、感動した。

戦っている最中はただただ必死だった、だから、客観的な場面からのそれ。


まるで花が咲いたかのようだった。

一切隙を見せないその立ち振る舞い、攻撃への移り方、視線のフェイントすら降り混ぜられた一瞬の駆け引き、型にはまっていない本人曰く超我流の戦い方は、けれど目を奪うほど。



「きれいだ…」



踊っているようなそれは、あまりにも綺麗に思えた。

戦っているときは気づけなかったそれに、テユの興奮は爆発した。


結果、アイリスが「弟子にしてください!」と付きまとわれる事になった。

最初に言われたときは敬語でさん付で言われたが寒気がしたのでやめてもらった。


「……あの人、懲りないよな」

「根性だけは凄いと思うよ、お嬢さんにはばっさり断られても次の日にはけろっと弟子にしてくれ!って言いに来るんだから」

「もういっそ弟子にしてやれば?」


完全に他人事で言いのける2人に、ぎょっと目を丸くさせて勢いよく首を振る。

冗談じゃない、生憎と弟子なんて前世から募集していないのだ。


「いやだよ!?なんで年上の人弟子にしなきゃなんないのさ!それに師匠になったところで、私の戦い方なんか滅茶苦茶だよ!?超我流!教えられるものなんてないよ!!?」

「まぁお嬢さんの戦い方が綺麗ってのはわかるかも、何だろうね……あぁ、実践で戦える人だって感じ。繕うことなく、ただ只管に勝つ為に本気だってのがわかる」

「…?何言ってるの、勝負だよ、例え命がかかってなくても、勝負は勝負だ。誰が相手だろうと気は抜かないし、全力でする。余裕と油断は違うんだから。勝つと決めたんならそれ相応に動かないと、負けるなんて悔しいし、やだもん」


アイリスはこれで、負けず嫌いだ。

どんな勝負だって負けたくない、勝つためなら負けたっていい、けれど、ただ負けるだけなんて許すものか。

あの時全力を出せばなんて後悔もうんざりだ。

大人気ないと言われようが全力を出してないから負けたのだ、なんて子供じみた言い訳をするよりよっぽどマシだ。


「あとは……あー、そうだな、最後の一騎打ちの時、お前一切魔法使わなかったろ」

「うん、だって教えてもらったからね。一騎打ちを受けるんなら相手の土俵でやってやれって。それが1番、悔しいでしょう?元々先輩、今回は別として、主軸は物理的な肉体戦の方がよっぽど得意みたいだしあの時魔力もほとんど尽きてた。それにさぁ…先輩の一騎打ちをうけたくせに、魔法を使うなんて、ちょっぴりださくない?」


にしし、と当たり前のように笑うアイリスに苦笑いしか出来ない。

こういうところだ、清廉潔白を体現したような見た目のくせに人間臭くて、そのくせに相手が1番望んでいるようなことをしてのける。

当然、無意識に。

可愛らしくて綺麗で真っ白なのに、格好良くてたまらない。


そんな風だから、付き纏われるんだよとは言わなかった。

優しさだ、言ったところで変わらないだろうし。


「負けるかもーとか思わなかったの?」


まぁお嬢さんの実力的に無いだろうけど、と思いつつ問いかけたミシェルに、アイリスはそれこそ愚問と言わんばかりに胸を張った。


「負けるかも、なんて思った方が負けなのだよミシェルくん」

「ごめん、どういうキャラ?」

「私はね、勝つ気しかないの。2人が勝ったのに、肝心の私が負けてちゃ締まらないじゃない?だって負けるかも、って思う暇がないくらい、私は2人に負けるわけないでしょって思ってもらえてるからね」


にっと悪戯っぽい笑顔でピースサインをしたアイリスに2人は顔を見合わせた。

フランも、ミシェルも、あの戦いだけでなくいつだって、アイリスが負けるわけないと思っているとも。

無茶苦茶だから、馬鹿みたいに魔力があるから、意味不明な強い魔法が使えるから、その癖肉体戦も力こそあまりないけれどその素早さで相手を翻弄させてみせるから。

理由はいっぱいあるけど、最大の理由は、アイリスは一切不安を抱かせない。


大丈夫、だって負けるつもりはないもん、そう魅せつけてくる、カリスマのようなものだ。


挙句その枕詞に、だってフランもミシェルもいるからね!なんて笑うのだから、あぁ、もう、こいつが負けるわけないだろうよ!と思ってしまうのだ。


頬をかいて照れ臭そうに、わざとらしく息を吐いて顔を見合わせる。

鏡写のように同じ感情が顔に出ていて、更に笑った。


「……ま、弟子なんか出来たら俺たちが構ってもらえなくなるし、今んとこは阻止だね」

「そうだな、アイリスの性格上たらしこむのは間違いねーし」

「何か言ったー?」

「何でもないよー、お嬢さん」

「だな、何でもねぇよ」


2人とも、天邪鬼で素直になれない性質なのだ、素直に言ってなんてやるものか。

ま、そういうわけで、仲間離れはまだ先なのでお弟子さんはまだ先の話ってことで。



そうして今日も、アイリスの元に弟子志願のテユが特攻をかまして来る。

その目に、諦めの感情は、ない。














_____時間は少し遡って、王宮では1人の騎士が絶句していた。


「いやいや、いやいやいや……すいません、この子かっこよすぎません……?」


見たこともない雪のように白い髪、海のように青い瞳、顔つきは可愛らしく覗く腕は白魚のよう、儚さを纏うその見た目とは裏腹に魔法を操り、一騎討ちに応え、戦士として戦った少女。

彼女は騎士や戦士としての性質が強いものほど惹かれやすい人物だろうな、とロメルスは顔を引き攣らせた。


なんせあんまりにも綺麗で格好いいのだ。

魔法を使わないとは、余裕でも手加減でもない。

魔力を消費すれば必然的に体力も消費される、生半可に魔法を使うよりも一切使わないほうが有利に場面が動く場合だってたくさんある。


一騎打ちを受けた時点でアイリスはその全てを肉体戦に注ぎきった。

踊るような、花が咲くような綺麗さを見せつけながら一切隙を見せず、文字通り全力で一騎打ちを受け、見事に勝ち誇った。


「しかも、彼女を筆頭にパーティのメンバーもそうです。こんな魔法使えるってなんですか!?」

「……俺も驚いた。彼女とパーティを組んでるがどうだろうと懸念していたのだが、これなら大丈夫そうだな。虎の威を借る狐になってないようで安心だ」

「………しかしこれは、確かに“滅茶苦茶”ですね。魔力操作で魔法の発動を阻害するなんてA級の冒険者位しか使えませんし、精神干渉と幻術の組み合わせなど思いつきませんでした。彼女の使う魔法に至っては見たことありません」

「恐らく、彼女に仕込まれたな。入試結果を見る限り彼らは成績優秀者(A組)だがあそこまでではなかった。まだ付け焼き刃のようだが一週間近くでよく形にしたものだ。魔法自体とも相性も良かったんだろう」


事実、彼らの考察はそっくりそのままその通りだ。

虎の威を借る狐になりたくない、しかも女の子に集るヒモみたいにはなりたくない、男としてのプライドとかも加わって彼らは一週間で死にものぐるいでモノとした。


何より、アイリスは信じている。

彼らならできる、というそれではない。

2人が出来ないわけがないと、信じている。


頑張ればできるのではない、2人にそれに足るだけの実力があると彼女は知っている。

思い違いの勘違いでも、分不足の期待でもない、ただの事実として知っている。



フランとミシェルが、出来ないわけがないと。

出来なくとも、ならこれはどうだと手を替え品を替え食らいつくような諦めの悪いふたりだとしっているのだ。



まだ付け焼き刃なのは否定もしない、相手が魔物であったり実践慣れした本職などにはまだ通じないかもしれないからこそ、実践で更に使いこなそうと特訓を続けているわけで。


悔しいじゃないか、それがどんなにめちゃくちゃだって出来ると言われてしまえば。

あぁやってやるともと、なんて負けず嫌いに火がついた。


「ちなみに彼女の魔法だが、曰く、天体魔法というそうだ」

「……彼女のオリジナルですか?」

「さてな、だがまぁ、そうだろう。俺も聞いたことのない魔法だった。オリジナルか、そうでないなら失われた古代魔法(ロストマジック)だろう」

「……彼女たち、卒業したら王宮に属してくれませんかね。この2人…特にこちらの黒髪の彼は今はまだ拙いようですが、これはもう暫くすれば化けますよ。緑髪の彼は、どちらかといえば暗躍に向いてそうですね」

「無理だろう、他の2人は知らんが彼女は何より自由を好む人だから。冒険者が割にあってると思うぞ」

「ユリウスさんといいどうしてこういう方々は冒険者気質の人が多いのでしょうか」

「はは、それこそ、実力があるからこそ、だろう。性格は悪くないんだからいいだろう」

「割と戦闘狂ですけどね、あの人たち実力のある人を見ればすぐに戦闘を申し込みますから」


ロメルスの深い溜息が、空気に溶けて消えた。

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