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初めての模擬戦闘 終

2018/07/27:あらすじを少し変更させていただきました。

テユ・ケーリングは、“天才”が嫌いだった。

どうしても追い越せないその壁を、いつしか言い訳にして唾を吐くことしかできなくなるから、嫌いだった。



拳を、足を、アイリスに向かって何度も繰り出す。

一心不乱に、ただひたすらに、攻撃を避け続けるアイリスを倒すことだけを考えて。


「避けてばっかだな!それが全力か!!」

「いや、あの……」

「それともなんだ!?俺には本気を出すまでもないってか!?」

「えっ、何でそうなるの!?」


テユの繰り出す攻撃を避けながら、アイリスは突飛したその発言に顔を歪める。


「大地よ、俺の敵を呑め!“ソイルスワロー”!」

「あぶなっ」


アイリスの態度に腹を立てたのか、舌打ちと共に足を地面に叩きつける。

地面が盛り上がり土塊がアイリスを呑み込もうとしたが、空中に飛び退きするりと避けたアイリスは右手を銃の形にした。

指先に魔力を放ち狙いを定めて、打つ仕草。


「“バレット”」


放たれた魔力の銃弾がアイリスを飲み込もうとした土塊を破壊し、更にテユにも銃弾が放たれる。


「大地よ、俺を覆い隠せ、俺を攻撃から守れ、その姿を盾となせ、“ソイルシールド”」


テユの体の前に分厚い土の壁が現れ、魔力の銃弾を防ぐ。

様子見のようなそれに、テユは屈辱的な感情を燃やした。

あの大的がこの銃弾では壊さないそれと知っていたからだ。


「こんなものか、あのユリウス・ヘンベルトの不動の入試結果を超えたのに…!!それとも、やはり!!俺には全力は出せないのか!!!」

「だからさっきから何の……!!」


どろりと憎しみが溢れる。

意味がわからないと言わんばかりのアイリスの顔に、あぁそうだろうと八つ当たりじみた感情が湧き上がる。

事実、そうだ。

アイリスが知るわけもない、彼女はテユという人物像なんて一欠片も知らないのだ。

わかってもらえる方がおかしい。


けれど頭の中が感情でいっぱいになったテユにそんな思考回路は回らなかった。

ただひたすらに、目の前の(アイリス)を叩き潰したいという感情だけが体を動かす。



「撃て、穿て、潰せ……姿を見せろ、その巨体で彼奴を潰せ、現れろ土の巨人、“ソールティターン”!!!」



テユ・ケーリングは“天才”が嫌いだ。

才能が嫌いだ。


決して超えられない壁は、今も彼の目の前に。



『弱いね』

『強くないね』

『これで総合評価三位?』

『これで総合評価三位。』

『実力出すまでもないね』

『実力出さなくてもいいね』

『『キミじゃ絶対勝てないよ、だって才能ないもん』』



圧倒的敗北。

プライドも意地もかけた勝負だった。

けれど彼らは途中から遊び始めた、本気を出すまでも無いと、嗤った。

2年の総合評価1位と2位。

3位という順位だけならば近いが、彼らとテユの間には途方も無い距離があった。


そこに現れた新しい天才(アイリス)

テユだけでなく今までの、あのユリウス・ヘンベルトの成績すら抜かした入試。



同世代の彼奴らにすら踏み潰されて、今度は、今度は……?





大地が盛り上がる、土塊が形を作り、アイリスたちより一回り、それ以上、三倍以上に大きな土の巨人となる。


テユは主に体術を主流とし、土魔法を織り交ぜながら戦う。

それはひとえに魔力量が少ないからと、自身は魔法をほとんど使わなくても仲間の2人の支援と補えるだけの体術センスがあったからだ。


土の巨人を生み出し、操り動かす。

少ない魔力はきっと、試合終了まで持たないかもしれない。



それは意地だった、テユには体術のセンスがあった。

だからこそ、魔法と体術どちらも優れる天才たちには敵わないと痛感していた。



後先何も考えず、何処にもぶつけられない感情は暴走していた。




「アイリス・オークランドォ!!本気を出せ、俺を、バカにするなァァ!!」





吼えるテユの感情に同調するように、土の巨人がアイリスに向かって拳を振り下ろす。


「“隕石(メテオライト)”」


入試試験でも見せた炎を纏った岩の礫(メテオライト)

弧を描き放たれた魔法は土の巨人が振り下ろした拳諸共、大きな風穴を開け破壊した。


ぼろぼろと土が崩れる、テユの感情諸共に。



『ここでーー!!フラン・ユーステスによってサワー・エイジが気絶!戦闘不能となり“イリス”が一歩リードーーー!!!』



『ここで、マクラ・カーズも倒れたーーー!これで更に“特攻隊”は窮地に立たされたーー!残るはアイリス・オークランドと対するテユ・ケーリングのみ!さぁどうするーーー!??』



遠く感じた先で聞こえたのは、放送クラブによる仲間2人の敗北。


目の前に立つのは、グラスフィール史上最高入試成績保持者。

無詠唱魔法を当たり前のように使い、見たこともない魔法を使い、自身の魔力をありったけ込めた土の巨人を簡単に破壊した。



(かてるわけ、ない)



今まで蓄積されていた、見ないふりをし続けたいた、“諦め”の感情が、テユを支配する。

アイリスがゆっくりと近づいてくる。


(さっきの魔法で倒せばいいだろうに……あぁ、俺には、そんな価値もないってか)


胸倉を思い切り掴んだアイリスに、来るであろう痛みの衝撃に目を瞑る。

その瞬間、頭に衝撃が走る。


テユはアイリスに頭突きをされたのだ。


思いもよらなかった攻撃に目を白黒とさせながら叫んだ。


「な、な……っ!?何しやがる……!」

「何しやがる?それはこっちの台詞だよ…!さっきからなんかよくわかんないこと言ってたけどね、『俺には本気出すまでもない』?『本気を出せ』?やけくその八つ当たりみたいな事しといて勝手な事言わないでよ!」


互いに頭を抑え、痛みに耐えながらぎゃんぎゃんと喚く、何とも言えない光景。

不貞腐れたように頬を膨らませたアイリスがテユに指を突きつける。



「私のモットーは『やるからには全力で』、なのに本気を出せ?本気出すつもりだったんだよ!けど八つ当たりみたいに周りも見えない後先考えない、爆死する前提で特攻かましてこられたら困る!!」

「俺のせいだってか!?」

「そうに決まってるでしょ!しかもさっき、諦めた(・・・)でしょ!!勝つ気もない、死んだ魚のまな板の上の魚みたいな目で見られて本気出せるかぁー!!!!」



ぽこぽこと怒りの感情が爆発しているアイリスは、模擬戦闘が始まった時から只管に思っていたのだ。

まだ始まってもないのに、攻撃すらされてないのに、負けると思っているような目をして怒りに隠した諦めの感情をしているテユに、正直言おう、ちょっとイラっとした。


考えてみれば当然である、本気を出せだの言っているテユ本人が負ける前提で、諦めていたのだから、本気を出したくとも出せないしもやもやするのも当たり前だ。


「お、おいアイリス、何怒ってんだよ?」

「お嬢さん落ち着いてって」

「やる前に諦めるのが何よりむかつくー!」

「俺お前が怒ってるの見たけどあれだな、子供の癇癪みてぇ」

「それどう言う意味!?」

「よしよしお嬢さん、あとで飴あげるから」

「子供扱いされてる!?」


一対一で対戦した相手を倒したフランとミシェルが集合してみればそこにいるのは何故か憤慨しているアイリスで、状況が理解できずとも兎に角宥める。

それを囃し立てる放送を横目に聞きながら、テユはアイリスの言葉に呆然と立ち尽くしていた。


そうだ、テユは諦めたのだ。

アイリスが許せなかった、それは嫉妬だ。

だから廊下でばったり会った時、脇目も振らず喚き立てた。

模擬戦闘でアイリスに戦闘を申し込んだ。

自分の我儘に仲間たちを巻き込んだ、彼らはテユの気持ちを理解し付いてきてくれた。


それなのに、今の自分は何だ?




「……アイリス・オークランド。頼みがある。この戦い、お前に一騎打ちを申し込む。生憎と俺はもうこれ以上魔法を使えない、味気のないつまらない物になるだろうが……」

「よっしゃこーい」

「いいのか!?」

「だめなの!??」


即答したアイリスにテユが驚きの声を上げる、そしてアイリスも驚きの声を上げる、コントのようなそれにすっかり傍観者のフランとミシェルはつい笑いをこぼす。


「では、行くぞ」

「もちろん」


アイリスとテユが、地面を蹴った。



『アイリス・オークランドとテユ・ケーリングの一騎打ち!両者魔法を使わず完全物理で鬩ぎ合う!!いけ!そこだぁっ!どちらも一歩も引かない!!!!』


「魔法を使わないのは何故だ!」

「一騎打ちでしょ、なら魔法は使わない。戦士が自分の力を見せるための戦い、一騎打ちっていうのはそういうものだって、昔、友人が言っていた。私はそれを受けた、なら、魔法は使えない!」


強欲な友人が言っていた、戦士とは難儀に面倒な生き物だと笑っていた。

魔法も使わず自分の肉体だけで戦うことが大好きで手加減も嫌いだし負けるのも大嫌い。

ギラついた瞳をして、笑いながら戦いにはしゃいで、自己満足に頑固で、勝利とそれへの真っ当な道を創り上げる奴こそが戦士だ。


魔法が卑怯なわけではないし、自分の肉体を持って物理的に戦うことが全てではない。

それでも。


『だから、覚えておけよアイリス。もし、戦士から一騎打ちを申し込まれたら______』




「手加減なんざ当然なし!自分のもちうる最大限!なによりもその体で、物理的に、圧倒的に叩き潰せって!」




『その方が効果的だろ?』



きししと悪党のような悪どい笑顔で思い出の中、お兄ちゃんみたいな友人が笑って言い放っていた。


「戦士と呼ぶのか、この、俺を……!」

「君みたいな人のことだって、私は教えてもらった。だから私にとってはそう!ねぇ先輩!もっともっと、楽しもう!」

「……っ、俺は、誤解していた、何も見えなく、なっていた……気付かさせてくれて、ありがとう。ならば俺も、勝つ為に!!」

「悪いけど、それは駄目!フランとミシェルが勝ったからね、リーダーが勝たなきゃ申し訳ないからね!」


テユの振りかぶった拳を避けたアイリスはくるりと跳んだ、まるで妖精のような、飛んでるようだった。

にっと笑ったアイリスはその勢いのまま足を振り下ろし、テユの体へと回し蹴りを繰り出した。



『テユ・ケーリングが倒れたぁぁぁぁぁ!!!この瞬間!!アイリス・オークランド率いる“イリス”の勝利だぁぁぁぁぁ!!!』




「あぁ、楽しかったね、先輩」

「……あぁ、とても、楽しかった、何よりも、ありがとう…」


初めての模擬戦闘は、アイリスたちの勝利で幕を閉じた。






しかしアイリスは知らない、その後こそが本当の試練だと。

具体的に言うと、この模擬戦闘終了後、テユに弟子にしてください!とついて回られる事になるのだが、それはまた次のお話。

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