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初めての模擬戦闘3

ミシェルと向き合うのはマクラ・カーズ。

赤い髪は風に靡き、強気な瞳でミシェルを睨みつけた。


「さっさと終わらせちゃうよ!炎よ形を作れ、その姿を蛇となせ、私の敵を燃やし喰らえ、“フレイムサーペント”!」


マクラが魔法によって魔法陣から作り出したのは炎の体を持った蛇だった。

術者のイメージによってその体を作り出された魔法は、本物の蛇さながらにうねり牙が生えた口を大きく開けた。


鳴き声すら聞こえそうなそれが、ばくり、けれど食らいついたはずのミシェルの姿は霧にようにもやけて消えた。


「幻術?なら解いて仕舞えば_」

「“はずれ(・・・)”だよ!」


ひゅっと空気を切り裂く音が真後ろで聞こえ、反射的に飛びのく。

いつの間に背後に立っていたのか、マクラはミシェルを睨みつけた。


「性格悪い!」

「えぇ?酷くない?“今度はこっちの番かな?”炎の蛇、あの人燃やし喰らっちゃえ“フレイムサーペント”」


マクラの“真似”をして炎の蛇を生み出したミシェルに、マクラは顔を顰めた。

腹立ちげに舌を出しながらマクラが吠える。


「真似とかやっぱ性格悪いじゃない!!炎よ形を作れ、その姿を剣となせ、剣よ空を飛び私の敵を燃やせ!“フレイムソード”」


十数も生み出された炎の剣は弾丸のように発射され、ゆるりとした動きをするばかりの炎の蛇を撃ち抜いた。

ミシェルが生み出した炎の蛇の体は幾つも穴が空き、姿が霧散する。


「更に追加!魔法を重ねろ、炎よ剣となれ、“フレイムソード”!」


更に追加に生み出された炎の剣は幾つも放たれ、反撃もできずミシェルは跳び回って避け続ける。


「いつまで逃げられるかしら?」


得意げに笑ったマクラにミシェルは何も言い返さない。

とうとう避けきれなくなって炎の剣がミシェルを穿つ、しかしまたその姿は霧のようにゆらりと消えた。


「また消えた!?」

「こっち、だよ!」

「きゃあっ!」


今度は反応しきれなかったマクラは後ろからの攻撃を諸に喰らう。

後ろを慌てて振り返るが、まるでミシェルの姿は幽霊のようにどこにもなくてマクラの頭はパニックに襲われる。

困惑、パニックは焦りへと変わりとうとう必死に首を振って叫ぶ。


「っ、なんで姿が見えない(・・・・)の!?」

「だって、“俺の姿は絶対見えない”から」


声だけ聞こえるミシェルの姿を必死に探す、焦りは視界を狭め、周りで戦っているはずのテユたちの姿すら今の彼女の瞳には映っていなかった。


(姿が見えない、なんで!?魔法の術中なのは間違いないのに……!そうだ、声は?何処から聞こえる……?)

「考え事?余裕だねぇ?」

「しまっ」


「鎖よ縛れ、自由を奪え、もう“君は体を動かせない”」


探すことばかりに意識を割かれていたマクラは突然体の周りに現れた鎖によって体が縛り付けられる。

必死に体を捩って解こうとするが、ミシェルの“言葉通り”動かすことが出来ない。


「、これはちょっときついな……」

「くっ……!!」

(このままじゃ負ける、でも体を動かすなんて出来ない(・・・・)。……あれ、なんで、できない、って……だって……?)



『ここでーー!!フラン・ユーステスによってサワー・エイジが気絶!戦闘不能となり“イリス”が一歩リードーーー!!!』



その時、放送クラブによって仲間であるサワーの敗北が声高々と叫ばれ、マクラの顔は驚きに染まる。


「っ、サワーが負けた!?」

「ひゅぅ、フランやるねぇ……あー、じゃあ俺も、そろそろキツイし……」


ふぅー……っと大きく息を吐いたミシェルは額に汗を浮かべた。

ぐっと拳を握りしめれば、じゃらりとした鎖の擦れる音や服越しに感じる鉄っぽい冷たさ、ぎちりと体を縛り付けられる痛みが鮮明にマクラの脳裏を襲う。


「“センパイの体はもう動かない、そもそもその鎖が壊せる?”」

「何を……」

「“だってほら、今まで俺の手の平の上だった、術中にはまってばかりだったのに?”」

「っ、それは!」

「“つまり、負けはこれで決まったってわけ”」

「……そ、れは……」

「“じゃあ鎖を解ける?そこから出れる?今だって、指先一つ動かせない、縛りはキツくなっていく。”」

「………」


マクラを追い詰めていくミシェルの言葉に、最初こそ反論しようと口を開いていたマクラの瞳から光が徐々に失われていく。

言葉に込められた魔力は彼女の体を蝕んでいく。



「……ほんっと、お嬢さんは凄いこと考えるよね」



苦笑いと共に、思い返されるのはきょとりとしたあの顔で告げられた言葉。


『幻術と精神干渉を同時に使う?』

『え、そんなおかしいかな』

『いやいやお嬢さん、そもそも全く系統の違う魔法複数同時させることの難しさをだね………まぁそれで、どうするかは気になるから教えてよ』

『私の友人に五感に干渉する幻術を使う人が居たんだけどさぁ』


アイリスの突拍子もなく規格外な発言は今に始まったことではなく、ミシェルが聞けば口から出たのは信じ難いこと。

幻術とはその名の通り幻を生み出す魔法だ。

幻と本物を織り交ぜて攻撃を多数にごまかしたり、自分の上に重ねて透明に見せたり、要するに搦手で使われるもので直接的な攻撃手段として使われるものではない。

そもそも幻なのだから、触れてしまえば通り過ぎる、そっくりな姿をしただけのもやのようなものなのだ。


理解ができずミシェルが頭を抱える。


『ちょっとまって意味わかんない、そもそも、え?なに、お嬢さんも出来るわけ?』

『流石に無理だよ、ぜーんぜん。ただ精神干渉で暗示をかけてそれっぽくする方法は教えてもらった』

『それっぽく……?どういうこと?』


アイリスの言葉が飲み込めず聞き返せば、「例えばね」と話し始める。


『幻の炎は、当然幻だから熱さを感じない。触れたところで触らないだけのもやと同じ。けど、思い込みで熱いとか痛いとか感じることってあるでしょ?』

『……あぁ成る程、そういうことか。炎は確かに幻だけど、精神干渉による暗示で熱いと思い込ませる……うへぇ、何その並列作業無駄に必要なやつ……』



ネタバラシをすると、ミシェルはこの試合が始まってからずっと幻術と精神干渉以外の魔法は使っていない。

あの炎の蛇も幻術によって生み出したものである。

炎そのものへの魔力を変換させるよりも、幻として生み出した方が魔力の消費は少なく済む。


そしてここからだミシェルの精神干渉と幻術の同時使用の真骨頂。


ミシェルの姿が消えたことを最初は幻術によるものと分かっていたはずのマクラに“はずれ”といって、幻術以外の魔法と暗示をかけた(思い込ませた)

姿が見えない事を不思議に思ったマクラに“絶対に見えない”と暗示をかけた(思い込ませた)

幻術で鎖を出してマクラの体を縛ったように見せた、けれど所詮は幻、五感に干渉する(実体のある)幻なんて滅茶苦茶なものミシェルには作れない。

だから“もう体は動かせない”と幻の鎖がマクラの体を縛ったのと同時に体は動かせないと暗示をかけた(思い込ませた)


ひたすらにずっと二つの魔法を同時に使い続け、使って、もうそろそろ魔力が尽きる。

実戦でも使えるかの実験も込みだったが、これはなかなかキツイなと、頬を汗が伝う。

ミシェルは割と魔力は多い方だが、回す魔力の丁度良い量も把握しきれなかったのだ。

例の五感にすら干渉する幻なんてものを作り出すに比べれば、きっとマシだ。


精神干渉における暗示は割と簡単なきっかけで解ける、特にその暗示が突飛のないものだったら余計に、暗示とはすなわち思い込みだ。

ぱちんと手を叩いた音やちょっとした衝撃なんかで解けてしまうこともある。

だから先ほどの放送は本当に焦ったのだ、フランが勝ったという内容だったために追い込みやすくなったので結果オーライではあったが。


精神干渉という魔法を使うなら、焦りは厳禁、じっくりと、真綿で首を絞めるように、ゆっくり体に回る毒のように。



「“さて、もう、御仕舞いだよ、おやすみ”」



ゆらゆら、ゆらゆら、マクラの視界が揺らめいていく。


(早く倒さなきゃ、テユの元にいって……テユ、を、…………あぁ、でも、ねむたい……)




_____いいかミシェル、我らは影、その姿は見えず、決して目立たず、どんな手でも使い、毒のように、けれど確実に任務を遂行する、それが我らの戦い方だ




がくりと意識を失い、幻の鎖をすり抜けてマクラの体が地面に倒れる。

口からはすやすやとした寝息が漏れていた。

幻術の鎖を解き、ずっとかけ続けていた精神干渉の魔法もようやく解き、溜息を吐いた。


「悪いねぇ。俺、女にだろうと手加減すんなって教え込まれてるからさ。……胸糞悪いことにね」




『ここで、マクラ・カーズも倒れたーーー!これで更に“特攻隊”は窮地に立たされたーー!残るはアイリス・オークランドと対するテユ・ケーリングのみ!さぁどうするーーー!??』


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