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初めての模擬戦闘2


フランに向き合うのはサワー・エイジ、開幕早々に雷魔法を放った男だ。

橙に近い金色の髪を靡かせながら、フランをじっと見つめる。


「さっさと終わらせる。雷よ、矢となり我が敵を穿て“サンダーアロー”」


詠唱を重ね。練り上げられた魔力によって魔法陣が浮かび上がる、ばちちと空気に振動を振るう雷の音。

放たれた雷の矢は真っ直ぐとフランに襲いかかるが、フランは先程と同じように飛び跳ねてそれを避け、意地の悪い笑みを浮かべた。


「二番煎じだな、隙が多いぜ?」


地面を蹴り上げ瞬きの間に距離を詰めたフランはサワーに蹴りを入れる。

体を逆方向に捻り直撃は避けるがフランの足が腕に掠る。

幸いにも痛みもダメージもほぼなく、腕を払えば再び距離をとられる。


「……雷よ、矢となり我が敵を穿て、地の果てまでも追い続けろ“サンダーシュート”」


詠唱を追加し効果の変わった数十の雷の矢は再びフランに襲いかかる。

飛び跳ね避けるが、雷の矢は方向進路を変えて後を追いかける。

幾つかはその方向転換の際に地面などに突き刺さり消滅したが、まだ半分以上も残る雷の矢はフランの背をついて回った。


「追尾型か!」

「君に当たるまでその矢はずっと付いて回るよ。どうする?」

「ちっ……“身体強化:対雷耐性”!」


雷への耐性を魔法によって足に会得させ、蹴り飛ばす。

本来ならば雷による電撃を喰らわせる矢は、けれど会得された耐性によってその一切をレジストされ弾かれていく。

だが全身が“そう”なっているわけではなく、追尾する矢に意識をむけていたフランは再び発動されていたサワーの魔法に気づかなかった。


「…!」


フランの背に雷の矢が突き刺さり、不意に穿たれたそれに電撃の衝撃がフランを縛る。

膝をつきかけるフランに、それを眺めるサワーが少し馬鹿にしたような意図を込めて言葉を言い放つ。


「…隙が多すぎる、フラン・ユーステス。やっぱり、狐だね。とっとと終わらせてあげるよ。雷よ、矢となり我が敵を穿て、地の果てまでも追い続けろ、その力をもって撃ち貫け……“ライトニングアロー”!」



重ねられた詠唱と自分の魔力を大量に消費し練り上げられた魔法陣、一本の稲光のような強大な雷の矢。

真っ直ぐと向けられたそれに、フランはぴくりとも反応できずその矢は__________






__________しかしフランに届く前に、空気中で霧散した。



「なっ……、?!魔法が、消えた……!?」


今まで無表情を貫いていたサワーの表情が歪む。

動かなかったフランはゆっくりと傾いていた姿勢を立て直し、深く息を吐いて頭をかいた。


「やっと効いたか。やっぱアイリスみたいにはいかねぇな」

(効いた?何を……何か仕込まれた?)


唯一フランとの直接な接触があった左腕を慌てて見れば薄く浮かんだ魔法陣。

そこからサワーの体内の魔力へと干渉される感触にようやく気づいて顔を顰める。


「魔力操作……?だけど、こんな、魔法が使えないなんてありえない……!」


サワーの知る魔力操作のそれとは違う、理解が追いつかずに叫ぶサワーにフランは肩をすくめた。

「わかるよ」と言わんばかりのプランに、尚も魔力を練り上げようとしても魔法がつくれず霧散するばかり。


「魔法をどんどん使ってくれて良かったよ、俺はアイリスみたいにあんな器用にできないからな」


特訓の初日、フランの得意魔法をアイリスが聞いてきた時。

あれが地獄みたいな始まりだったと思い返す。





『フランの得意魔法は魔力操作と強化魔法だっけ?』

『ん、あぁ。けど魔力操作の方は魔法の軌道をずらしたり威力を抑えるくらいにしか使えねぇぞ。そもそも戦闘にはあんまり役に立たないし』

『え?』

『…え?』



魔力操作はその名前の通り、魔力の流れを操作する。

魔法道具に組み込まれた魔法陣の流れを弄ったり、本来掴めない魔法そのものを掴んだりができるだけのそれ。

使用用途とすれば、例えば放出された魔法の向きを変えたりすることくらい。

どちらかといえば戦闘ではなく、付与や魔法道具の作成なんかに使われるそれだというのに、アイリスはきょとりと首を傾げて言い放った。


『魔法として放たれた魔力そのものを霧散させたりとか、魔法そのものを一時的にだけど使えなくするとか、色々と役に立つのになんで?』

『は、ぁ!?魔法を使えなくするって、どうやって』

『えっ。えーと、まず、相手の魔力回路に自分の魔力を捩じ込む。魔法の原理ってようするに、巡回する魔力を魔法陣を通して体外に放出するってことだから、魔力自体が放出できないと使えない。魔力が巡回してるからこそ、放出できる』


イメージとすれば水道だ。

水は常に流れている、だから穴を開けたらそこから水が漏れてくる。

しかし水がそもそも流れていなければ穴を開けたところでそこから水は出てこない。


『そこに、自分以外の魔力を流し込まれたら?』

『……それでも、そんな簡単に魔法が使えなくなるのか?』

『そこは魔力操作の仕様によって、かな。フランはそもそも他人に魔力を流し込む感覚自体は知ってるはずだよ?』

『……強化魔法か!』


例えば強化魔法。

自分だけではなく他人にもかけることの多い魔法は、つまり練り上げた魔力を変換して他者へと譲渡するということだ。


『結果は勿論違う、けど同じ。魔法陣を構築して、他人に譲渡。魔法を使うにあたって、例えそれがプラスに働くものでも被術者が抵抗すれば破棄される場合もある。勿論過程も厳密には違う。けど、イメージはしやすいでしょ?』

『……魔法を重ねず、魔力を流し込めばどうなるんだ?』

『当然魔法っていう緩和剤がない以上ちょっと、厄介。けれど流し込めれば魔力そのものの流れが滞る。勿論、その流し方にもよるけれど。うまくいけば魔法陣が例え展開できても魔法そのものが発動できなくなる。』

『……めっちゃくちゃじゃねぇか』


ただ魔力を流し込むだけではだめだ。


大きなコップに9割ほど入ったオレンジジュースに、リンゴジュースを数滴入れたところでオレンジジュースの味は変わらない。

ではリンゴジュースをいっぱい入れたところで、コップから溢れるだけ。


求められているのはオレンジジュースにリンゴジュースを入れること。

リンゴジュースがたった数滴が完全に溶けあわないようにすること。


『魔力が魔法陣を通して放出されるのは、そもそも魔力自体が流れているから。流れが止まれば魔力への変換はできなくなる。魔力操作を使って膜を張った魔力を流し込む、数滴程度のほんの僅かな魔力を、そこに“留まらせる”。勿論ずっとじゃない、魔力はその間も流れようとするから、時間が経つうちに膜が溶けて流される』

『ちなみに聞いていい?それ、どうやったら治せる?』

『まずひとつは流しこまされた場所自体は自分の体の中の魔力の流れを探知すればわかる。そこに留まる他人の魔力を魔力操作を使って体外に放出するやり方。もう一つはしんどいんだけど、無理矢理流れを押し込んで正常にする。ただこっちは最悪その押し込みにつられて魔力が大半外に放出される可能性もあるからおすすめはしないかなぁ』

『………お嬢さんって戦闘とか魔法においては引くぐらいスパルタだよね』


遠い目でアイリスを眺めながらぼそりと呟いたミシェルの言葉は、残念ながら彼女には届かなかった。


まず第一案について。

オレンジジュースの中に入れられた数滴のリンゴジュースは溶けあわず漂っているとする。

つまり第一案はこのリンゴジュースを取り出す、ということだ。


第二案について。

魔力の流れを押し込む、といったが魔力は血液のように勝手に流れているものだ。

血液が自分の意思で流したり出来るわけではないように、無理矢理魔力を押し込むという感覚そのものが理解できない。






「ありえない、魔法そのものを、結界魔法や封印魔法でもなく、たかが魔力操作で使えなくするなんて!」

「わかる。それな」


サワーが叫びながら魔法を必死に展開しようと詠唱を重ねるが、魔法は発動されることなく、魔法陣は霧散していくばかり。


「しっかしまじで焦った、失敗したかと思った……」


フランが魔力を流し込んだ後でもサワーは魔法を使ってみせた、最後には強力な魔法すら展開しかけた時には内心焦りばかりだった。

膜を張った魔力は溶け合うことこそなかったが、流れそのものを阻害するために“留まる”なに、少し時間を有してしまったのだ。


(俺はアイリスみたいにまだうまくはいかない、多分またすぐに使えるようになる。それで、俺のこれは初見殺し。……あー、まだまだだな、もっとものにしないと。得意じゃないって言ってたアイリスに負けてたまるかよ)


とん、とん、と爪先で地面を叩く。


魔法を使うことを諦めたサワーはぎりりと歯を食いしばりフランを睨みつけた。


「今回は、今回だけは、負けるわけにはいかないんだ……!」


吠えるサワーが走り出し、フランへと拳を振り上げる。

今まではテユの動きに合わせ支援する形で攻撃魔法を放つばかりだったサワーの動きは、どうしてもつたなかった。


「俺だって、負けるつもりはないんだよ!」


その拳は当たることなく、避けたフランはその腕を掴み一気に背負い投げをした。

勢いよく地面に投げられたサワーは「がはっ」と呻き声をあげ、そのまま気を失った。



『ここでーー!!フラン・ユーステスによってサワー・エイジが気絶!戦闘不能となり“イリス”が一歩リードーーー!!!』



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