初めての模擬戦闘1
2018/07/23に今までの話を少しずつ訂正させていただきました。また、模擬戦闘システムの期間を10日から7日に変更させていただきました。
……どうしてこうなった?
だって、そう、私は全力を尽くした。
なのに、どうして?
あぁ……どうしてこうなった……?
「わひゃぁ……すごい人いるんだけど、こっわ」
「まぁ、相手さんも2年の中じゃ上位のパーティってのもあるだろうけど、やっぱりお嬢さん影響かなぁ」
「お前この短期間で色々やらかしてるからな……」
「え?」
「「え?」」
互いに「何言ってんだこいつ」と顔にでかでかと書いて暫く視線が交差する。
暫くの沈黙の後、アイリスはこれまでの経験からわかっていた、こういう時立場が弱いのはアイリスの方だということを。
そっと視線を先に逸らしたアイリスは話の舵を無理矢理きった。
「……でも流石にちょっと緊張するなぁ…」
「はは、それは流石に冗談がきついよー」
「えっ、ミシェルは私をなんだと思ってるの」
「えっ?」
「えっ?」
「……えっ??」
彩芽の頃は勿論のこと、アヤメも気の向くまま赴くまま、楽しいことのためだけに好き勝手ばかりしていた彼女にとって、そもそも人前ですること前提の戦闘はする機会などなかった。
コロシアムへの乱入したことがあったこともあったが、ここでは割愛することとする。
「…と、そろそろ入らないとね」
模擬戦闘期間におけるルールは幾つかある。
・制限時間は15分
・どちらかのパーティが全員戦闘不能となればその時点で終了
・もし致死量に至る怪我を負った場合などは強制的に外へ転移される魔法陣が組み込まれている
・パーティ人数が同じであれば最後に残っていた人数ごとで、違えば残数人数の状況によって判断する
・観覧席には開始時刻より20分前から戦闘場への入場が可能
・参戦者は開始時刻より10分前から戦闘場への出場、3分前までにいなければその時点で失格、不戦敗扱いとする
ギリギリまで精神統一をしていたり、早くに出てファンサービスをしたり、そのパーティごとに自分がベストとするタイミングで出場する。
アイリスたちは3分前ギリギリのタイミングで戦闘場に出場した。
すでにテユのパーティはそこにいて、アイリスたちの姿に観覧席からはわぁと歓声が上がる。
〈さぁ〜て、戦闘開始の合図かなるまであと3分!両パーティともちゃーんといますね?いますね!では合図がなるまでの間に今回の参戦者のしょーかいといっきましょーぅ!〉
空にあちこちに浮遊するのは水晶型の映像記録魔法道具だ。
更に小型の気球にのって音声拡張魔法道具を持ち叫ぶ生徒。
彼らは放送クラブという模擬戦闘における解説、ナレーションを担当する特殊役割である、彼らは模擬戦闘期間に参加しない代わりにその解説によって成績をつけられる。
勿論模擬戦闘自体に参加できないわけではなく、期間ごとに放送クラブとして参加するかパーティとして戦闘に参加するかを選択できる。
〈まずは、知っている人も多いでしょう、テユ・ケーリング率いるパーティ“特攻隊”!主に物理的な攻撃の多い2年の中でも上位クラス!リーダーのテユ・ケーリングの入学試験においてその物理試験の成績は2年の中ではトップ!彼の素早い攻撃から生み出された隙をパーティメンバーであるサワー・エイジとマクラ・カーズが遠距離魔法で支援!繊細なコントロールでカバー!!そのチームワークはすばらしいーーー!〉
盛り上げ上手な放送クラブによって観覧席からはわぁあぁ!と歓声が湧く。
そこでふと、アイリスは気づく。
パーティにはリーダーが必要であり、そして他のパーティとの区別つけるために名前をつける必要がある。
今の今まで自分のパーティの“名前”なんてものに意識がいっていなかったアイリスはミシェルの服を引っ張り声をかける。
「ねぇミシェル、私、パーティの名前とか全然知らなかったんだけど…」
「そりゃあいっぱいパーティがあるんだから、区別をつけるためにも必要だよ」
「初耳なんだけど」
にっこりと笑って誤魔化そうとするミシェルの体を「ねぇ、ねぇ??」と揺さぶる。
リーダーを勝手に決められた時のような匂いがしたからだ。
そんなアイリスをよそに放送クラブのナレーションはアイリスたちに移る。
〈そしてそんな彼らの対戦者は今や時の人!“あの”ユリウス・ヘンベルトの不動の入試試験結果を上回ったアイリス・オークランド率いる“イリス”ーーー!入試試験では無詠唱魔法を使ったと言う噂もあるが本当なのかーーー!?不良系イケメンフラン・ユーステスと爽やか系イケメンミシェル・ケイネスも合わさってこのパーティ顔面偏差値高いなおいーーー!〉
とても関係のないことだが、この放送クラブのテンションのハイっぷりは目を見張るものがあった。
アイリスの名前からとったとしか思えないパーティ名にじとりと目を薄くしたアイリスに、犯人2人はいっそ開き直って笑顔を浮かべた。
「……ねぇイリスって、そのまま過ぎない?“あ”ぬいただけじゃない?」
「いや、まぁ、いいだろ、細かいことは」
「そんなことよりさ、あは、俺爽やか系イケメンだって。照れちゃうなぁ」
ナチュラルに話を逸らしたミシェルが放送クラブの言葉にけらけらと笑う。
照れると言いながら、全くそんな素振りを見せていないのはお約束だった。
はぁ?と眉を顰めてツッコミを入れたのはフランだった。
「お前は爽やかってより腹黒そうな読めない系だろ」
「あー、たしかに。爽やかに見せかけてのお腹の中に黒いの飼ってる系男子」
「えぇーどこがぁー?」
「「その笑顔が」」
少し前に緊張すると言っていた癖に、すでに緊張感のかけらもない。
特にテユから向けられる鋭い視線が、ざくざくと突き刺さる。
彼らからすれば元より気に食わないアイリスたちが、だというのに呑気に話す姿はみくびられているように思えて仕方ないだろう。
〈ではわ!そろそろ戦闘開始の合図のカウントダウンといきましょう!10、9、8、7、6…〉
放送クラブのカウントダウンが始まる。
とん、とん、と飛び跳ねて楽しげに笑うアイリスとは対照的な顔でテユはぐっと拳を握りしめた。
「じゃあ、ひとまずは作戦どおりでってことで」
「アイリス、なんか変なことすんなよ」
「名指し、失礼だよ!?」
〈5、4、3、2、1!!開始!!!〉
開始の合図と共に再び歓声が湧く。
いの一番に飛び出してきたのはテユで、その狙いはまっすぐとアイリスだけを映していた。
パーティメンバーであるサワー、マクラは最初の位置から動かず魔力を練り上げ、詠唱を重ねる。
「雷よ、矢となり我が敵を射貫け、“サンダーアロー”」
「炎よ、燃え盛る球となりて我が敵を穿て、“フレイムボール”!」
サワーが雷の魔法を、マクラが炎の魔法を発動させてテユを支援する。
魔法陣から放たれた雷の矢と炎の球はテユの動きと同調し、地面を抉り振り下ろされた拳と共にイリスへと襲いかかった。
飛び退いてよければフランにはサワーが、ミシェルにはマクラが、そしてアイリスにはテユが分断するように向き合った。
「アイリス・オークランド、お前はここで俺が潰してやる。何が時の人、何が無詠唱…!!ただ奇抜な事で人目を引いてるだけじゃないか!ここで、心もろともへし折ってやる!!」
「えっなんか、すごい敵視されてる……でも残念、簡単に折れる柔な心じゃないんだよねぇ」
「黒髪か、珍しいね。見掛け倒しじゃないことを希望するよ、ま、俺たちが勝つけど」
「そりゃどうも。でも悪いけど俺負けるの嫌いなんで、勝つのは俺たちっすよセンパイ」
「一番チャラそうなのきた!さくっと終わらせてテユの支援しなくちゃだしね、テユは私たちの支援なしでも強いけど!」
「あは、俺チャラそうなの?さっきは爽やか系って言われたんだけどねぇ、まぁさくっと終わらせる事については同感〜」
そうして、試合が始まった。




