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同時刻 王宮にて

スエルテ王国の王立都市、その中央部には王宮がある。

創始者リト・クロスロードの末裔たち、スエルテ王国の王族が住まう王宮のとある部屋に1人の青年がたのしそうな笑みをうかべていた。


青年は陽の光を浴びて輝く金色の髪に透き通る碧眼を持っており、その碧色の瞳が向けられた先にはつるりとした水晶があった。

ゆらゆらと揺らめく水晶に、玩具箱をみるような目を向ける青年にそばに立っていた騎士は不思議そうな、驚いたような表情を浮かべた。

騎士の表情に少しだけ意地の悪そうな顔で騎士を見る。


「俺が嬉しそうな顔をしてるのがそんなに不思議か?」

「も、申し訳ありません。そういう訳ではなく……」

「あぁ、別に構わん、咎めたわけじゃない。お前はいささか真面目すぎるなぁ。 トーリスみたいに少しは気を緩めたらどうだ?」

「……………………善処します」


たっぷり間を置いたあと、苦虫を何百個も噛み潰した顔で言葉を絞り出した騎士に、面白くて堪らないと言わんばかりに喉を鳴らして笑う。

騎士はといえば、青年が口にした名前に尚も顔を顰めていた。


「はは、本当にお前は彼奴が嫌いだなぁ!あぁ、そういえば、俺が嬉しそうな顔をした理由だったな。お前だから、特別に教えてやろう」


とっておきの宝物を見せるように手招きをした青年に誘われて水晶を覗き見る。

水晶にはここではない別の場所、グラスフィール学園の第1戦闘場が映し出されていた。


「ここは、グラスフィール学園の…?あぁ、確か今は模擬戦闘期間中でしょうか。」

「あぁ、少しジェット達に無理を言って回線を繋げて貰ったんだ。」


青年の言葉に騎士の目を丸くなる。


「……珍しいですね、いえ、初めてでは?」

「あぁ、初めてだ。一応俺も立場があるからな。グラスフィールだけあからさまに贔屓するわけにもいくまい。あの貴族共がじゃあこっちもと喧しくなるしな」


整った容姿とは裏腹に、鬱陶しげに吐き出された言葉に騎士は苦笑いをこぼす。

それでも否定の言葉はかけないあたり、内心がわかりやすい。

溜まりに溜まった鬱憤を吐き出さんばかりにと、青年の文句はするすると口からでていく。


「そもそもなぁ、見栄を張るためだけに金と権力さえありゃ何とでもなるような学園(掃き溜め)に何の意味がある。全てが本人の実力だけで決まるグラスフィールを贔屓するに決まってんだろうが…!優秀な人材は学園内で潰してばかり、輩出するのはゴミばかりじゃねぇか」

「流石にお言葉が過ぎますよ。オブラートに包まないと。一応貴方の立場上……」


オブラートに包めば同じ内容でもいい、と言外に伝えている騎士に、青年は肩をすくめる。


「ま、それもそうだな。最近また貴族や隣国の奴等がうるさくてつい、な。……あー、また話が逸れたな。まぁ今迄はそうだったんだが、今回は特別だ。」


その瞳には羨望に似た愛しさが浮かんでいて、とうとう騎士は呆気に取られた間抜けな顔を晒すこととなった。


「本当なら生で見に行きたかったんだかなぁ……」


心の底からの言葉だが、慌てて騎士は首を振る。

心の底からだからこそ、青年の言葉は本気に満ちていた。


「それこそ本当に無理ですよ!視察という名目にしたとしても流石にすぐには許可も下りないでしょう、特にグラスフィールを敵視する古株の貴族達がこぞって反対するに決まっています。貴方という存在は、とても大きいのです。なにせ______貴方はこの国の王子なんですから、エイト様」


青年____________スエルテ王国第一王子、エイト・クロスロードは億劫そうに溜息を吐いた。


「重々に分かっているに決まってるだろ、ロメルス。騎士団(お前達)の立場も分かっているから抜け出したりしなかったんだ。けど…………はぁ、まぁあの村からこっちに呼び寄せられただけでも御の字か…………」

「しかし、エイト様が見たいと言うなんて、一体どう言う方なんですか?」


騎士であるロメルスの問いに、エイトはうぅんと腕を組んで考え込む仕草をした。

しばらく考え込んで、唸りつつも言いづらそうに、けれどまっすぐな瞳で答えてみせた。



「一言にするのは難しいが、非常識な存在だな」



「は!?」

「いや、非常識だとあれだな……非日常を詰め込んだような存在、だな」


言い直したところで意味がわからないと、ロメルスは困惑に目を回す。


「別に性格が破綻してるわけじゃない、寧ろ人の輪にするりと入るし、お人好し。見た目なんて一見すりゃ儚くって弱々しくって可愛い女の子だってのに、中身は全然。心も、体も、とても強くて一緒にいれば安心する。………ただ、引くぐらいに規格外なのを自覚していない、世間知らずなんだ」

「…???ますますよく分からなくなりました……エイト様がそこまで絶賛するならば相当な実力者なのですね…?」

「あぁ。ただ育ったのが国端、魔法を扱える人もいないような村だったせいか、自分の規格外っぷりを自覚していないんだ」


エイトの語る人物像が全く想像できず、困惑ばかりを浮かべるロメルスを他所にエイトは更に話を続けて水晶が映す先を指差した。



「だが言ったように、実力だけは本物だ。しかも規格外っていう枕詞をつけての、な。お前も見てみろ、きっと度肝を抜かすぞ。めちゃくちゃって言葉が似合う、あいつにな」



心底楽しくてたまらないと言わんばかりのエイトに興味がそそられる。

そっとエイトの横で水晶を眺めながら、ふと一つのことを思い至る。


「……ところでエイト様、その方は国の外れに住んでいらっしゃるのですよね?……何時お会いになられたので?というか先程こっちに呼び寄せただとかなんとか仰られてましたよね?……まさかエイト様、時折水晶を持ってこそこそしていたのはその方と……」


すいとあからさまにロメルスから視線を逸らしたエイトに、更に顔を近づける。

泳ぐ目が全てを物語っていた。


「……なるほど、開始時刻は12時ですか。まだあと30分ほどありますね。エイト様、少々それまでこの私と『話』をしていただいてよろしいでしょうか」

「ロメルス、お前その遠回しに圧をかけてくる戦法トーリスに似てきたな」

「あんな女誑しの戦闘狂と一緒にしないでいただきたい!!!」


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