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チームワークは大事

模擬戦闘期間は謂わば実力試験。

参加しなくても成績につながる他があるのは確かであるために、参加が自由となっている。

けれど、参加するならば勝ちたいのは当然。

特に1年の初め、とっときの最初を勝利で飾りたいと思うのは仕方のないこと。


そうした時、白羽の矢が立つのは“強い”人間。

特に今年度は入試を過去類を見ないそれで合格したアイリスがいる。

他の組の生徒ですらも、パーティを一緒に組まないかと勧誘をしてき初めてフランは冷たい目で見つめた。

ほんの少し前までは嫌煙とすらしていたのに、手のひら返しだなと思ったのだ。

わぁわぁとクラスメイトに周りを囲まれるアイリスに、流石に助け舟を出そうとした時に、ふとアイリスが口を開いた。


「いいの?今の私と君たちなら、多分、君たちのこと殺すけど」


あまりにも素直に、真っ直ぐに言ったアイリスに途端に周囲は静寂に襲われた。

恐ろしい言葉は、だからといって恐怖を貶めるために発せられたものではなく、ただの結果論として口にされたことだった。


「だって私、君たちの癖も、使う魔法も、どんな戦い方をするのかも何も知らない。同時に君たちも私の使う魔法、知らないでしょ?そんな状態でチームワークの一文字だって抱けないんだもん、味方の攻撃が味方に当たるっていう、言葉にすると馬鹿みたいなこと、実際に起こることってあるからね」


今まで碌に、会話もしたことのない彼らは黙りこくる。

彼らはアイリスが”めちゃくちゃに強い“という事実は知っているが、使う魔法も戦い方も何にも知らないからだ。


「それに、その、言いにくくいんだけど…戦う時、こうして欲しいとかあぁしようか、とかそういうの気兼ねなく話し合えるような関係の方が戦いやすいと思うなぁ…」


それは言外に、アイリスと彼らはそんなに仲が良くないよね、と断言するようで言いづらそうに視線を逸らす。

アイリスの言葉にだまりこくったクラスメイトたちのうち、1人が恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「じゃ、じゃあいつも居るようなメンバーで組んだ方がいい、のかな?」


アイリスに意見を求めるようなそれに、うぅんと腕を組んで考える仕草の後「そうだなぁ」と話し始める。


「まぁ友情が間にあっても一緒に戦うってなると、相性とかあったりはするんだけど…最初だし、ほとんど喋ったことないような人よりも、そっちの方がいいんじゃないかなって私は思う。実際に戦ってみたいことには細かいことはわかんないんだし、手探りの段階で互いに思ったことを言いやすい方が、やりやすいと思うし」


きちりと自分の考えを返したアイリスに、クラスメイトたちは驚きの感情を含む。

その問いかけに後押しされたように、他のクラスメイトもアイリスに話しかける。


「もし、先輩とかと当たったら勝てると思うか」

「さぁ、それはやってみないとわかんないんじゃないかな。まぁ確かに慣れてる先輩と慣れてない私たちとじゃ経験っていう大きな差があるけど、だからって勝てないとは断言できない。何せ勝負に絶対はないから、終わるまではわかんない」

「俺、魔法得意じゃないんだけどそういう時ってさ…」


気がついた時にはパーティへの誘いへと集まっていた彼らの口からは、アイリスへの質問、というよりかは相談のようになっていた。

船を出そうとしたら行き先なくなったフランとミシェルはそれを眺めて、いっそ関心を浮かべた。


「さっすがお嬢さん。これじゃ強制参加の課題、始まる前から解決しそうだねぇ」

「課題ぃ?」

「そ、1年の最初の模擬戦闘期間が強制参加なのは、要するにパーティの組み方、味方との共闘の意味と、自分以外にも味方がいるっていう戦闘状況、そういうのを確認させるためのものらしいからね。お嬢さんの相談室でその辺全部言われちゃったってこと」

「前から思ってたんだけどミシェルのそういう情報はどっから仕入れてるんだよ」

「えー?ひ、み、つ」


悪戯っ子の顔でしぃと人差し指を口に当てたミシェルは、随分と楽しそうに笑った。




残念なことに、アイリスの相談室によってそれを思い知ったのはA組のクラスメイトだけである。

模擬戦闘の前日までパーティへのお誘いが止むことはなく、定期的に人に埋まる現場が発見されることになった。

これは余談になるのだが、毎年成績上位者であるA組の生徒たちはどうしたって勧誘の嵐にあうのがお約束なのだが、一点注目を受けてしまったがためにそのほとんどがアイリスに集中したこととなった、らしい。







「……ってことで、お嬢さんがモテにモテまくってるから早々に参加表明しとこうか」


「フランとミシェルと組む予定なので」といっても、人によっては最後の1人に入れてくれなんて言い出す人もいたために、正式にパーティを作り参加表明を済ませて仕舞えばパーティメンバーの変更は少なくてもその期間が終わるまでは行えない。

少しだけどんよりとした雰囲気を纏ったアイリスが、しゅんと項垂れる。


「ありがとう……はぁ、正直こんなモテは想像してなかった」

「そ?わかりやすいし、想像しかできてなかったけど。」

「しかしわかんねぇな、どうせ個別で成績つけられるんだからアイリス入れたところで逆に“虎の威をかる狐”になるだけだろ」

「それでもそのパーティにいる、っていう事は残るからね。人間のプライドってそういうもんだよ」

「くっだんね……んー?あ?」


悪態をつきながら、タブレットを手にはてなを頭の中に浮かべながら首を傾げるフランに、見かねてミシェルが「みせて」と手を出した。


「うん?あぁこれ、押すとか間違ってる。一回戻って…こっちだよ」

「…おぉ」


感心しながらもよくわかっていない声に、アイリスも横から口を出す。


「次はここ、ここに人差し指をぐーって押して。私のと、ミシェルのにも」

「パーティ全員分のタブレットに全員分の魔力を読み取らせることでメンバー詐称を防止する目的なんだろねぇ。いやほんと、学園で無料に配布される魔法道具なのに超すごい!」


タブレットに感心するミシェルに、アイリスも頷く。

まさか彩芽(前前世)がお世話になったかまぼこ板に再び出会えるなんてと感動すら覚えたものだ。


「俺たちも特訓しないとね。お嬢さんが言ってた通り、チームワークって存外馬鹿にできないからね〜。……ていうか俺たち冗談抜きでお嬢さんの魔法なんか当たったら死ぬし」


そっとアイリスの魔法を思い出して青ざめる。

駄弁りながら参加表明、パーティ登録を終える。

するすると迷いない手つきでタブレットを操作する2人にフランは少しだけ納得のいかない顔をする。


「俺これ使える自信ねぇんだけど。…ていうか、お前らは逆になんであっさり使いこなしてんだよ!特にアイリス!」

「俺器用だもーん」

「私名指し、酷くない??」


彩芽の経験があるアイリスはともかく、ミシェルは本人の自称通り器用なのだろう。

チュートリアルを一度見ただけでするりと呑み込みものにしている。

フランは機械音痴の気はあるが、不器用なわけではないのだ、動かなくなった魔法道具をばしんと叩いてしまったりはするが。


「まぁほら、使っていくうちに慣れるよ。………たぶん!」

「慰めんな!しかも最後に多分とかつけんな!」

「多分」

「2回!いうなぁぁぁぁ!」


因みにこれは本当に関係のない話なのだが、大事なことほど2回いう、という言葉がある。

本当に関係のない話だが。

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