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異世界転生二回目はじめました

人気のない森の奥、静寂だけが広がるその場所に、一筋だけ差し込んだ光を頭上から浴びながら背中を合わせあって座り込む8人の影。


「オレいっぱい美味いもの食えて幸せだった」

「お前は何でも食うじゃねーか」

「オレだって美味いまずいは思う!」

「私は色々引っ掻き回して楽しかった」

「おれは………めんどかった……まぁ……楽しかったけど……」

「我は我がしたいことをしたまでじゃ!」

「それ言ったら俺は欲しいものあらから手に入れれたな」

「ボクはボクの恋を受け入れてくれたのが何より嬉しかった」

「俺は友人がこんなに出来るなんて思ってなかったな。……幸せだった、君達といれたことが、何より……アヤメは?楽しかった?」


好き勝手に喋り合う彼らの顔はどれも笑顔で、突然話を振られた1人の少女は腕を組んでうぅんと考え込んだ。

頭を過ぎ去る幸せばかりの思い出に、少女は笑みをこぼす。

どうしようもなく幸せだといわんばかり、光を反射した雪のような白い髪は柔らかく揺れて少女の笑顔を彩った。


「……うん、ふふ、振り回されてばっかりだったけど、とっても、楽しかった。みんなと出会えて、とっても幸せだったよ」


その言葉に、彼らは笑う。

彼らにとってもその言葉は正しくそうだったからだ。



______これが後の世、「8人の英雄」と語られる古き時代を伝説と共に生きた魔導士たちの、誰も知らない最期だった。









それから何百年、何千年も経った世界。

真っ青な空は高く、平和を象ったように白い鳥が羽ばたいていた。

木製のベットで寝ていた雪のように白い髪を持つ少女は、海のように青い瞳を開けた。

ゆっくりと体を起こし、鏡に写った自分の姿を見た少女は頭を抑える。

頭痛はない、けれど頭の中を流れる昨日までは覚えていなかったかつてに、叫び声が口から漏れないように、ちゃんと手で押さえてから心の声で叫んだ。


(……転生二回目だぁぁぁぁぁ!)


さて、まずはこの少女____アイリス・オークランドの事について話す必要があるだろう。

現在5歳、彼女には前世の記憶があった。

厨二病ではない。

追加して言うならば前世と言わず、前世を飛び越えて前前世の記憶すらあった。


前前世、彼女は柏木彩芽(かしわぎあやめ)という名前の日本人だった。

どこにでもいる、普通の人間だった。

ちょっぴりアニメとゲームが大好きで、そして若干真っ黒な会社に勤めているだけの、どこにでもいるような普通の人間だった。


ある日のことだ、彼女のスマホに届いたメール。

宛先不明で添付されたファイルを、徹夜明けのバグった頭で開ければ所謂mmorpgのキャラクターメイキングのような画面だった。

いつもの彼女であればそんな画面に何だこれと疑問を抱けた、そもそも宛名不明のメールに添付されたファイルなんてものを開けたりしない。

けれど悲しいかな、2桁超えた連続勤務に徹夜を明かしたばかりの彼女にそんなまともな思考回路はない。

自分の考えた1番好みの外見と、雪のように白い髪に海のように青い瞳を持った女の子をキャラメイクして勝手に1人でテンションを上げて、そのノリで会社へ出勤。

睡眠不足と疲労が祟っておぼつかない足元、ふらっふらの彼女に世界は優しくない。

居眠り運転、信号無視、トラック、この3つの単語で誰だって察せるだろう。


はねられた、最後の意識すら刈り取られ、彼女は簡単に死んだ。


呑気なことに彼女の脳内には『残念ですが貴方は死んでしまいました___』なんてゲームじゃおなじみのテロップが流れた。



かと思えば気がつけば見知らぬ森の中にぽつねんと立ち尽くしていた。



状況判断も整理も間に合わず、できたことといえば漫画のヒロインみたいにおろおろとすることだけ。

フラグは立っていた、グルルルという唸り声、ゲームではお馴染みの魔物といえば狼であった。


察した、これが捕食者の目だ。


彼女はとりあえずダッシュした、bボタン連打であった。

社畜舐めんなの根性で最近はめっぽう披露することのなかった本気のダッシュであった。

背後から聞こえる足音と唸り声に、足を止めたらイコール死ということだけは分かった。


無我夢中、がむしゃらに走っていた彼女は気づく。

足元をそっと見ると彼女は水の上に立っていた。

水溜りなんかではなく、ちょっと大きめの湖だった。

振り返れば泳げないのか、困惑した様子の狼がウロウロとしていた。


そっと足元を見る。

そこに写っていたのは雪のように白い髪に海のように青い瞳を持った、あの日、徹夜明けのハイテンションで作り上げた女の子の姿だった。

けれどその顔つきは長い間付き合った自分のそれにも思えて、ただ成人していたはずの彼女はどうみたって若返って、身長も縮んでいた。


若返りトリップというにはあまりに違いすぎた、若い自分でもこれほどの体力や不思議な力はない。

彩芽はトリップもどきの、転生を果たしたのだ。

世界観はお察しの通り、剣と魔法のファンタジー世界であった。


その後すぐ、彩芽は変人達(後の友人達)と出会う。

随分と変わり者でおかしくって楽しい人たちだった。

柏木彩芽改めアヤメ・カシワギとなった彼女は、剣と魔法的な異世界で彼らと旅をした。

あちこちを旅して、美味しいものだって食べた、美しいものを見た、綺麗なものを見た、好き勝手ばかりの彼らに負けず劣らず好き勝手して、楽しくて愉快に振り回されてたまには振り回して、最後は寿命で死んだ。



_____という記憶を思い出した。

昨日はまでは覚えていなかった、今日になって思い出した記憶。

今世ではアイリス・オークランドという名前授かった少女。


彼女がアイリスとして生まれてからこれまでの記憶を遡る限り、どうやら今世も剣と魔法的な世界、というよりも、アヤメとして暮らしていた前世と同じ、ただし数千年も経った世界だという事はわかった。


「あー……まさか二回目があるとは……しかも外見引き継ぎ制度デスカ……」


再び窓に映る自分の姿を見る。

今世の両親から生まれるとは思えない色合い、といってもそこは色とりどりのファンタジー世界だからそういうものだと思われたのだろうか。

雪のように白い自分の髪を掴んで若干の溜息、嫌いではないし寧ろお気に入りだ。

けれど、もしも前世と同じようならばその扱いも想像に固くない。

幸と今彼女の周りにいる人々は全く気にしていないようだから、ありきたりなそれなのかもしれない。


この勘違いは数年と訂正されることなく彼女にとっては普通と認識されてしまうこととなった。


指を少し振って魔力を込める。

軽い音と共に現れたのは、言葉にするならばデフォルメ化した星、星型のクッションなんかを想像してもらえば分かりやすいだろうか。

ぽんぽん、ぱちりん、小さな火花をたててくるくる指先で星が回る。

これはアイリスがアヤメだったころ創り上げた自作の魔法だ。


「魔法も引き継いでる感じかな……流石に身体能力とかはあれだろうけど。まぁ……今世ものらりくらり普通に暮らすとするかぁ……」


記憶の中の自分と差異のない魔力と魔法の様子を確認し、アイリスの口からは色々な感情が込められた溜息が再び吐かれた。



前世でのあの変人達(友人達)ともう会えないのは、少し、いや、結構、寂しいなぁと泣き言を漏らした。




_____だから、アイリスは知らない。

これから数年村を出ることなく過ごすこととなる彼女は、知る由もないのだ。


前世で培われたこの世界の『普通』と思っていることは、実の所全く“一般的な普通“じゃないこと。

前世での友人達と合わせてアヤメが伝説にすらなっていること。

何なら前世の頃からチート並の力を持ち、そして周りもそんな友人達しかいなかったからこそ、それが『普通』だと思い込んでいることも


アイリスが知る由もないのだ。


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