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魔法少女がいる世界で  作者: ぽんこつ白水
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約束、そして暗雲

いつもよりだいぶ短くなってます


俺と光と矢凪さんの3人でリビングのソファーに座って談笑している。いや、俺は2人の会話を聞いて頷いているだけであった。


どうやら2人は知り合いであり先輩と後輩の関係だそうだ。学年としてはこちらが1つ上であるが、魔法少女としては4年程矢凪さんのほうが上であると、矢凪さん自身が言っていた。4年前と言えば、魔獣が世間に確認されてから半年後であるため、古株の部類に入るだろう。世間からもまだ冷たい眼差しを向けられる時期に魔法少女として生きていくのは過酷な環境であっただろう。

「矢凪先輩、凄いですね」


今はどうやら光に質問されて昔の活躍を話している。災害救助や凶悪犯逮捕の貢献の話は光の目を輝かせていた。

「別に誉めなくてもいいのだけど」


そう言っている矢凪さんの表情は柔らかい。学校よりも過ごしやすそうにしている様子が気になった。

「矢凪先輩、今は何をしているんですか?」


矢凪さんは腕を組み目を閉じる。魔法少女同士でなければ話しにくい内容なのだろうか。俺は席を外そうと立ち上がる。

「いいの京くん。今から話すのは機密事項ではないから」


サラッと機密事項という単語が出る辺り、矢凪さんは数多くの秘密を知っているのだと分かる。俺がソファーに座り直したことを確認すると矢凪さんは口を開く。

「とりあえず今は2つよ。後輩の育成と黒騎士の存在の有無についてよ」


後輩の育成は妹を含めて2人。近々グループで活動する魔法少女も受け持つことになるらしい。

「あの、黒騎士って何でしょうか?」


妹が質問をする。俺もネットの掲示板でしか見たことがなく、殆どが謎に包まれている。

「実は私も本部もよく分かってないの。目撃証言で、この町で深夜に活動しているという事だけ。今は私1人で見回りを行っているわ」


バツが悪そうに俺たちから目を背ける矢凪さん。そんな矢凪さんの手を握り妹は提案する。

「それなら私も付き合います」

「え?」


あっけに取られた矢凪さん。そんな事を気にせず、妹が話しを続ける。

「だって1人より2人で探したほうがいいに決まってます。だから、協力させてください」


勢いのある物言いに、矢凪さんは思わず頷いた。

「よろしくお願いしますね矢凪先輩」


笑顔を見せる妹と、驚きの表情が隠せない矢凪さん。俺は矢凪さんの耳元で妹に聞こえないように呟く。

「光は結構お節介焼きなんで、ここまできたら妹に手伝ってあげてさせてください」


納得したのか、今度は矢凪さんは光の手を握る。

「光さん、手伝うのはいいけど魔法少女として力をつけていきましょうか」

「は・・・・・・はい」


ぎこちなく、冷や汗をかいて妹は返事をした。



時計をみると8時を回っていた。これ以上矢凪さんの家に迷惑がかかるだろう。そう思い声をかける。

「矢凪さん、時間も遅いし俺が送ろうか?」

「いいの?」

「こんなに暗いのに1人で帰らせるのは流石に悪いだろ」


数秒の間矢凪さんは「うーん」と悩んだ後、

「そしたらお願いします」と一言、答えを出した。


そう言うと矢凪さんは立ち上がり玄関へ向かう。俺と妹はその後に続くように歩く。扉を開き左に曲がり玄関へ向かう。靴を履いた矢凪さんに続き俺も靴を履く。

「2人とも、今日はありがとう」


矢凪さんが頭を下げる。深々と頭を下げている矢凪さんに妹も頭を下げる。

「私の方こそありがとうございます。先輩と活動できると思うと本当に楽しみです」



時刻は8時20分。ようやく俺と矢凪さんは家から出発することができた。玄関を開けた状態で話すものだから、閑静な住宅街とはいえ人目を気にしてしまった。


玄関を出て左にひたすら向かう。その間は無言であった。話題を振りにくいというのが頭を悩ませた。魔法少女の事を聞くにも知ってはいけない事があるのでは、矢凪さんが傷つくのではないかと勘ぐってしまい言葉にすることができなかった。魔獣についてはわざわざ聞く気にもならなかった。どこから来ているのかなんて分っているならそもそもニュースや新聞の一面記事になる話題だし、どんな魔獣がいたかなんてネットである程度は知ることができるからだ。


10分経つと周りの雰囲気が変わる。一軒家からアパートやマンションの集合住宅が目立ってきた。その明かりは必要以上に存在を知らしめるように輝く。


だが、矢凪さんは光が少ない、暗い道に足を進める。どこに家があるのかを聞こうとしたが、その疑問はすぐに解決した。


そのアパートは電灯が切れかけているのかチカチカと点滅している。照らしているのはアパートの看板であった。

『矢凪荘』


ふと気になり、矢凪さんに視線を移す。その横顔は表情というものを感じさせない、仮面を思わせた。



あの後、俺は矢凪さんの家の前で別れた。何も言えず、無言で手を振ると矢凪さんは笑って手を振り返した。その笑顔はとても辛そうで、だけど何も聞くことができなかった。


俺はさっきまで通ってきた道をなぞるように足を進める。先程の矢凪さんの家まで送る道とは反対の印象を受ける。マンションやその周りの明かりがより一層影を強くしているかのようだった。


目の前に人影が見える。街灯が逆行になり顔は分からないが、細身だという印象を受ける。堂々とした歩き方とは裏腹に疲れた感じでネクタイを緩める仕草は何かに弊癖したのだろうか。

「おい、新田。こんな遅くにどこを出歩いている」


力強い語意に思わず足を止めた。聞き覚えがある声。影がどんどんこちらに迫る。短く切っている髪、四角形の角を取った黒縁の眼鏡、やや痩せ気味の体格。担任の市松先生だ。この時間に歩いているということはこのあたりに住んでいるのだろうか。

「いや、友達を家まで送っていただけです」


嘘は言っていない。ただ名前を伏せているだけだ。先生は苦い顔で黙っていたが、すぐに口を開く。

「夜は不審者が出るから気を付けろよ。特にこの辺りは目撃情報も出ている」

「分かりました、気をつけます」


一礼して俺はその場を後にした。動かない影を横目に見ながら。



しかし市松先生に会うとは思ってもみなかった。不思議と緊張はしなかったが何を聞かれるか内心穏やかではなかった。だが、もうすぐ家の近くだ。


今の時間を確認する。8時50分だ、おそらく9時くらいに家に着くことだろう。


スマホをポケットに入れ前を見た。俺は言葉を失った。


黒い鎧が前方から歩いてくる。噂の黒騎士だろうか。その場を離れようとさっき来た道を走って逃げようとした。後ろを向いたが、既に黒騎士は俺の手が届く範囲に来ていた。


頭を掴まれる。声が出ない。これほどまでに恐怖を感じたのは初めてで、声が出なくなるのもこれが初めてだった。不思議と痛みはないがその場から動くことは叶わない。体が金縛りにでもあったように強ばらせていた。


意識が薄れる。視界がぼやけて、徐々に意識が闇に呑まれていくのが分かる。頭の中に浮かんだのは何故か、友人がいじめを受けていた光景だった。

黒騎士は主人公が住んでいるあの地域でしか確認されてません。そのため矢凪さんはその目的と可能であれば捕らえるのが仕事として言い渡されています。

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