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【初代地球王】  作者: 池上雅
第三章 【飛躍篇】
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*** 22 全世界激怒 ***


 さらなる北の国の行為に備え、デフコン4が発動された。


 これにより五隻のイージス艦が常時警戒態勢に入り、日本海上空には中部と西部にそれぞれ一機ずつのAWACSが護衛機と空中給油機を伴って配置された。

 さらに、北の国の上空一万五千メートルには、密かに二機の最新鋭B2-Aスーパーステルス戦略爆撃機が投入されている。


 このB2-A爆撃機は一機が三十億ドルもする。

 最新鋭のイージス艦の一・五倍もの価格であったが、その機体重量は軽量で、四十五トン程しか無かったため、金より高い爆撃機と言われていた。

 米軍すら二十八機しか保有していない貴重な兵器である。


 北の国にはこのスーパーステルス機を探知可能なレーダーや、一万五千メートルもの高空を飛ぶ航空機を撃墜可能な地対空ミサイルは保有していないとされているが、念のため、それぞれが世界最強の空対空戦闘力を持つステルス戦闘機、F22ラプターの三機編隊に護衛されていた。



 北の国の偉大なる将軍様は、顔面蒼白になった側近から、瑞巌寺が無礼にも将軍様のご招待に応じなかったとの報告を受けた。

 将軍様は不思議そうな顔をした。

 今までに自分の希望が叶えられなかったことが無かったからである。


 将軍様は、「それでは少し懲らしめてやりなさい」と言った。

 側近は自分が逮捕されなかった安堵とともに、将軍様の指示を拡大解釈して、即時報復を命令した。



「敵国首都北部のミサイルサイロが開きました」


「日本海海岸沿いで移動式ミサイル発射台が移動を開始しました」


 日米合同瑞巌寺防衛軍司令部に、相次いでKH衛星コントロールルームからの報告が入った。

 どちらも完全にあの黒いもやもやが予告した地点である。

 司令部の幕僚たちの全身に鳥肌が走った。


「デフコン5発動」


 司令官であるアメリカ軍中将の冷静な声がした。


「日本海上空のB2‐A爆撃機にパトリオット6巡航空対空ミサイルの発射を命令。

 同時に全てのイージス艦にミサイル発射予想地点を伝達し、発射次第ロックオン開始を命令」

 副官が復唱し、幕僚たちが直ちに司令官の命令を伝達した。



 最新鋭パトリオット6巡航空対空ミサイルは、現代における最高度の空対空ミサイルである。

 やはり最高度のステルス性能を持ち、空中をマッハ〇・三から二・〇までの速度で最大六時間旋回しながら目標の発射を待つことが出来た。

 そして中距離弾道弾ミサイルの発射と同時に空から襲いかかることが出来るのである。


 そのパトリオット6巡航ミサイルが、二機のB2-A爆撃機から六基ずつ発射されて、それぞれが目標空域上空を巡航し始めた。


「パトリオット6の巡航状況は正常」


「三時間後に十二発のパトリオット6を追加発射準備」


「地上待機B2-Aに発進を命令」


 また二機のB2-Aが発進していく。


 五分ほど経つと、KH衛星からの報告が入った。


「弾道弾ミサイルの点検が終わった模様です」


「上空の巡航空対空ミサイルの状況を報告せよ」


「十二基のミサイルは、発射予想地点上空高度一万二千メートルでそれぞれ順調に旋回巡航中」



「首都近郊のサイロから中距離弾道弾ミサイルが発射されました!」


「パトリオット6に撃墜を命令」


「撃墜命令!」


 巡航空対空ミサイルはその巡航用の短い翼を棄て、アフターバーナーに点火して高度一万二千メートルからほぼ垂直に弾道弾ミサイルに向けて急加速した。

 重力の助けも借りて、空対空ミサイルはその終端速度であるマッハ5に達する。


「五隻のイージス艦が敵ミサイルにロックオンしました」


 黒いもやもやの示した地点が万が一間違っていた場合に備えて配備されていた五隻のイージス艦が、中距離弾道弾ミサイルのロックオンに成功した。


 続いて地上に展開されていたPAC‐3部隊にもAWACS機からの通信が入り、敵ミサイルのロックオンが行われる。


 これでもしパトリオット6巡航ミサイルが迎撃に失敗したとしても、弾道弾ミサイルは、イージス艦と地上のPAC‐3部隊からの計百二十発に及ぶパトリオット5の迎撃に晒されることになるだろう。


 だが大気圏再突入の際には最高速度マッハ六に達する弾道ミサイルも、発射直後は速度が遅い。

 ロックオンも撃墜もかなり容易である。

 そのために一基百二十億円もする巡航空対空ミサイルが開発されていたのである。


 パトリオット6は単独でも敵ミサイルにロックオン可能だが、この場合は上空のAWACS管制機からの誘導も行われて万全を期していた。



 それから十秒後、六基の巡航パトリオット6のうち、最初の一基が見事に中距離弾道弾ミサイルを捉えて爆発四散させた。

 首都の上空二千メートルだった。

 まだほとんどの燃料が残っていたため、その爆発は激しいものだった。


「首都近郊の残存パトリオットの弾頭停止。

 同時に上空のB2-Aにパトリオット6を六基発射命令」


 三分後、またKH衛星から報告が入る。


「日本海付近の移動式発射台から中距離弾道弾ミサイルが発射されました」


「撃墜せよ」


 十秒後。


「パトリオット6、敵中距離弾道弾ミサイルの撃墜に成功。

 発射地点から一千メートル上空」


 たったの一千メートル上空では地上に被害も出たことだろう。

 だがそんなことはこちらの知ったことではない。


「追加発射したパトリオット6は上空にて巡航待機。

 燃料消費後は弾頭を停止の上、海上落下。

 KH衛星とAWACSは警戒態勢を続けよ。

 上空のB2-Aは一旦着陸してパトリオット6を補給後、再び発進準備」

 また副官が復唱して命令が伝達された。


「その後のミサイル発射の兆候を報告せよ」


「現在のところミサイル発射の兆候は見られません」


「無人偵察機プレデターS48五十機を発進させ、北の国内の高度一万メートルでの偵察開始」


「プレデター一個大隊全機発進せよ」


 最新鋭無人偵察機プレデターS48は、上空で十二時間の偵察飛行が可能であり、その後は自動的に発進地点に帰って来る。

 たとえ対空砲火で撃墜されても安価であり人命も失われない。


 日米合同瑞巌寺防衛軍司令部では、警戒態勢が続いた……




 北の国の首都近郊、地下三百メートルの秘密指令部では、貴重な弾道弾ミサイルを二発も失ったという報告がなされていた。


 偉大なる将軍様が口を開いた。


「君はなぜわたしの命令に逆らうのかね」


「は……」


 別に逆らっているわけでは無いのだが、彼我の戦力差はいかんともしがたいのだ。

 そう言いたかったミサイル部隊の司令官は言葉を呑みこんだ。


「憲兵隊長」


「ははっ!」


「この男を即刻逮捕せよ。罪状は上官抗命罪、並びに反逆罪だ……」


「ははっ! 偉大なる将軍様っ!」


「諸君らは三日以内に総攻撃を行うための準備を始めたまえ」


 そう言い残すと全知全能と自ら信じ、全ての意思が叶うと考えている偉大なる将軍様は、司令部を出て自宅に向かった。


 そして…… 

 北の国の全域に散らばっていた霊たちが、ついにその移動を捉えたのである。

 北の国には軍の将軍はわずかに三十名ほどしかいなかったが、地下司令部から飛び出て来て慌てて作戦立案に向かう将軍たちも、すべて膨大な数の霊たちに追尾された。


 数時間後、高級霊たちは、高速移動可能な中級霊の案内の元、それら将軍たち全員への憑依を完了したのである。

 中でも最高に霊としての力が強く、また経験も積んでいる超上級霊が偉大なる将軍様に取り憑いた。

 そして、その一族や側近たちにも上級霊たちが続々と取り憑いていったのである。


 その周りには、連絡役の霊たちが無数に浮かんでいるがもちろん誰にも見えない。



 北の国がZUIGANJIに向けてミサイルを発射したとの報道に、全世界が激怒した。

 幸いにも発射から三十秒以内に日米合同瑞巌寺防衛軍により撃墜されたとの続報で皆安堵したものの、怒りは収まらなかった。


 そして、二度とこのような危機を繰り返さないために、徹底的な報復が要求されたのである……







(つづく)


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