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【初代地球王】  作者: 池上雅
第三章 【飛躍篇】
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*** 21 日米合同瑞巌寺防衛軍 ***


 スティーブたちがガン完治を喜んでいたころ、ロシア大統領がZUIGANJI空港に降り立った。

 一週間前の検査で悪性腫瘍が発見されてしまったのだ。

 診断は余命一年半だった。


 大統領ともなればもちろん政府専用機も使えたはずである。

 だがロシア大統領は、隅に小さくロシア国旗が描かれたエンジェル・エアー機から降り立った。

 さすがに随員は大勢いたが、治療施設に入る際には担当のシスターが同伴しただけで、大勢の随員はジェインと同じようにロシア・東欧棟の待合室で待っていた。


 大統領とその随員たちは、その日は大勢のロシア人に囲まれてロシア・東欧病棟で寝た。

 周囲は皆、実に幸せそうな顔をした人々ばかりである。

 レストランのロシア料理も実に美味しかった。


 翌日診断が終わった大統領は、随員と共に東京に移動し、非公式に首相の元を訪れて礼をのべた。

 歓迎祝賀会兼回復お祝い会は、非公式訪問だという理由で丁重に辞退していた。


 そして…… 

 帰りのロシア大統領の顔は、晴れ晴れとしていて実に満足そうだったそうだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 そのころ、ZUIGANJI病院に、あの北の国から一通の招待状が届いた。

 その招待状には、全知全能の偉大なる将軍様のお慈悲により、光輝と崇龍を招待するので○月○日までに中国○○市の○○ホテルまで来るように、と横柄な調子で書かれていた。


 龍一所長は、その招待状に書かれていた日本国内連絡先に、多忙につき御辞退しますとすぐに返事を書こうとしたが、徳永署長に止められた。

 同時にその招待状は、徳永署長を通じて日本政府はもとよりホワイトハウスとバチカン上層部まで駆け上って行ったのである。



 日米合同瑞巌寺防衛軍は、念のためデフコン3警戒態勢に入った。

 これは警戒体制としては最高度である。

 デフコン4は交戦準備であり、デフコン5は交戦状態を意味する。


 アメリカ第7空母機動部隊が津軽海峡を通って日本海西部に向かった。

 沿岸のロシアにも直ちに事情が告げられたが、ロシア側は「支援の必要あらば即座にご連絡されたし」という返事だけを送ってきた。


 デフコン3発令により、瑞巌寺上空一万メートルには護衛戦闘機三機を伴った早期警戒機AWACSが交代で飛び、高度百キロの衛星軌道上では六機のKH偵察衛星が最高警戒態勢に入った。


 同時に瑞巌寺や瑞祥研究所上空には、極秘で二万人の霊部隊が動員されている。

 バチカンの擁する聖戦霊団のベテラン高級霊たちは次々に韓国入りした。


 そして……

 韓国内に集結したバチカンの聖戦霊団は、韓国人の霊の道案内で続々と国境を超え始めたのである。

 その数は実に十万人にのぼる。


 韓国内では急ピッチで霊たちが集められて訓練を受けており、最終的には北に派遣される霊たちの総数は四十万人に達する予定であった。




 ある晩、瑞巌寺治療施設での仕事を終えた光輝が帰宅しようとすると、久しぶりに光輝の前にあの白いもやもやが現れた。


 そして、それは最近霊力が更に上がって来ている光輝の目には、徐々に僧侶の姿に見え始めたのである。

 白い僧衣の霊は光輝に向かって微笑むと、瑞祥研究所の方向を指差した。


 光輝はすぐに研究所に向かいつつ、念のために奈緒や龍一所長にも連絡を取って、研究所に集まってもらった。

 もちろん厳空や厳真にも連絡を入れる。

 あの黒いもやもやがいなかった為に、緊急事態では無いと思われたが、念には念を入れたのだ。


 厳空や厳真が来たために、一同は白い僧衣の霊を見ることが出来た。

 その霊はどう見ても相当な高僧の霊である。

 衣も大僧正の上、上人クラスのものであった。

 厳空と厳真は平らかに平伏している。


「地図をこちらに……」


 白い僧侶の霊は静かに言った。

 すぐに研究所の図書室から大きな地図帳が運び込まれる。


 その地図帳をテーブルの上に乗せると、何もしていないのにページがはらはらとめくれ、そうしてあの北の国のところで止まると、その上にあの黒いもやもやが現れたのである。

 それも二か所。


 驚愕する一同の前で、その黒いもやもやの中には深紅の光が走り、二点を示していた。

 それは首都の北側と、日本海沿いの二か所であった。


 その情報は直ちに指揮系統を駆け上り、翌日には瑞祥研究所に自衛隊の統合幕僚長とその幕僚たち、加えて日米合同瑞巌寺防衛軍のアメリカ人司令官一行も参集した。


 幕僚の一人が研究所の会議室に大きな北の国の地図を広げると、そこにはまたしてもあの黒いもやもやが出現してくれている。

 地図が大きい分だけ今日はもやもやも大きい。


 そうしてやはりその中には深紅の光が二点を差していたのである。


 米軍の一行は硬直した。

 黒いもやもやという奇跡を目にしたこともさることながら、その地点は極秘事項ながらKH衛星が捉えた弾道弾ミサイルの発射サイロと、移動式ミサイル発射台の格納庫の場所であったのである……




 招待の期日が迫ったころ、北の国の参謀本部では鳩首会議が開かれていた。

 議題は、無礼にも偉大なる将軍様のありがたいご招待を無視しようとしている不埒者をどうするべきかということであった。

 誰も将軍様に招待を断られたと報告して御怒りを買いたくなかったため、この国の常套手段が取られることが決定された……



 招待日期限の夜、日本国内の空港から一機の大型セスナ機が飛び立った。

 その機体はすぐに事前に提出されていたフライトプランから外れて、低空飛行で瑞巌寺に向かい始めたが、自衛隊の長距離レーダー、上空のAWACS早期警戒機、宇宙空間のKH偵察衛星のすべてがその機影を追尾していた。


 この最新型KH(キーホール:鍵穴)衛星の地上解像度は初代に比べて大幅に改善しており、晴れた日なら地上の新聞の見出しが読めると言われている。


 そのセスナ機は三尊邸近くに差し掛かると高度を上げ、その機内から八名の特殊部隊員を吐き出した。

 八名の特殊部隊員はギリギリまで自由落下し、三尊邸上空わずか三百メートルで落下傘を開く。

 目的は明らかに三尊光輝氏とその家族の誘拐であると思われた。


 だが…… 

 習志野の第一空挺団と何度も訓練を重ねていた上級霊が、三尊邸上空に二百人も配置されていたのである。


 人の自由落下速度は、空気抵抗があるために通常時速三百キロが限界である。

 だがこの訓練を重ねた高級霊たちは、時速五百キロ以上で移動出来た。

 中には時速一千キロ、音速近くで移動出来る者もいる。

 まあ、なにしろ彼らには空気抵抗が無いのである。


 その霊たちが、降下中の特殊部隊員に先を争って取り憑いた。

 それは凄まじい競争であり、セスナから飛び出した数秒後には八人全員が取り憑かれている。

 だが、霊たちはまだ彼らの動きを止めてはいない。

 ただ取り憑いただけである。


 そうとは知らない八名の特殊部隊員たちは、次々に三尊邸の敷地内の車寄せ付近に降り立った。

 三尊邸の敷地内には偽装網で隠蔽された完全武装の自衛隊員百五十名が配置されていて、建物内にはおなじく完全武装の自衛隊員五十名が潜んでいる。


 もちろん龍一所長たちと瑞祥豪一郎一家と三尊光輝一家は、別の場所に極秘で移動していた。

 それは最寄りの自衛隊基地内であり、五百名の隊員と無数の火器で防衛された場所だった。

 さらに高空には最新鋭ステルス戦闘機F35の三機編隊が旋回中である。



 地面に着地した特殊部隊員に自衛隊員の自動火器が向けられる。

 一名につき五つの銃口が照準をつけている。

 彼らが着地後に三メートル以上移動した場合には発砲せよとの命令が出ていた。


 だが……

 特殊部隊員が着地すると同時に上級霊たちが彼らの体の自由を奪った。

 彼らには意識は有ったが、体はまったく動かない。

 着地した場所に横たわったまま動けないのだ。


 そのころ、三尊邸から二百メートルほど離れたところに止められた小型のバスも同様に監視されていた。

 運転手とその助手にも既に高級霊が取り憑いている。

 高級霊の周りには、高速移動可能な中級霊たちがサポートとして各二十名配置されていた。

 さらに上空には一千名の浮遊霊たちが警戒に当たっている。


 特殊部隊員たちはその場に五時間も拘束された。

 その間も隠れた自衛隊員たちの銃口が彼らに狙いをつけている。

 無線機に繋がれたイヤホンから出る指揮官の指示により、十分交代で三つの銃口が常に彼らに狙いをつけ続けた。

 十分以上照準をつけ続けるとその命中率が極度に落ち始めることが分かっている。


 そして、一時間ほど立つと、小型バスの運転手が無線でひとこと「撤収します」と言い、その場を離れ始めた。

 もちろん霊たちは取り憑いたままだ。

 上空の霊たちもバスを追尾した。

 バスはそのまま三尊邸から一キロメートルほど離れたところで停車した。



 東の空が明るくなるころ、ようやく高級霊たちは特殊部隊員たちの拘束を解いたが、これももちろんまだ取り憑いたままである。

 彼らが邸に向かって移動し始めたらまた拘束せよとの指令を受けている。


 まあ、もう何度も習志野で訓練してきたことだ。

 敷地内のすべての自衛隊員も再び銃口を向けている。


 だが、特殊部隊員の隊長は、小声で「撤収」と命令すると、敷地外周の塀に向かってよろよろと走り、隊員を率いてロープで塀を乗り越えて撤収していった。

 そのままふらふらと走り続けて一キロメートル離れた小型バスを目指す。


 全員が乗り込むとバスはすぐに発車した。

 霊力のある者が見れば、そのバスが無数の霊たちに取り囲まれたまま走っているのが見えただろう。

 だがいかに特殊部隊員たちといえども霊力のカケラも持っていなかったのである。



 こうして彼らの拠点も発見され、彼らの言葉を解する霊たちが張りつけられた。

 特殊部隊の隊長が必死で電話に向かって状況を説明していたが、電話の相手はまったく聞く耳を持っていないようだった。

 特殊部隊員たちはうなだれたまま連行されていった。


 霊たちは最後まで彼らを追尾し、彼らが自国内に戻っても監視を続けて定期的に状況を報告するよう指示を受けていた。


 そのための連絡係の霊が各人につき三十名も配置されていたのである……







(つづく)


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