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【初代地球王】  作者: 池上雅
第三章 【飛躍篇】
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*** 16 熱狂 ***


 バチカンの設立したエンジェル・エアーは、その事業を開始した。


 世界各国の航空会社から莫大なカネで五年間チャーターした航空機を、患者輸送機に改造して運行を始めたのだ。

 その数は当初二十機におよび、続々と増えている。


 この機体は最初、ヨーロッパ各地から日本に患者をピストン輸送していたが、すぐにその活動をアフリカ大陸にも広げて行った。


 アメリカ合衆国も、急遽改造したC140スーパーハーキュリーズ空軍輸送機二十機をもって、最初は北米大陸、そしてすぐに南米大陸にその活動範囲を広げた。

 この超巨大輸送機は、完全武装の兵士を一度に三百人も運ぶことが出来る。

 戦車ですら三台も運べた。


 ロシアやオーストラリアは自力で自国民を日本に送り込み始めた。

 だが、バチカンとアメリカ合衆国からの説得により、バチカンのエンジェル・エアーに金銭や機体を現物出資する形で次第にその活動を統合させ始めている。

 アメリカも将来エンジェル・エアーに統合することを了承していた。

 今はあくまで臨時措置なのだ。



 エンジェル・エアーの活動は、次第にアジアにも広がって行った。

 中国は最初、国内の道教の導師たちにより同様な治癒効果が得られたと自慢げに大々的に発表したが、どうやらハッタリだったらしい。

 その後は沈黙している。


 光輝たちが治癒させたガン患者はすぐに十万人を超えた。




 アメリカの大手テレビ局が、空軍基地のC140スーパーハーキュリーズに乗り込むガン患者たちをクローズアップで映し出している。

 重篤患者ばかりで皆ほとんど意識も無い。もちろん動く者はいない。

 皆ベッドごと次々と輸送機に収容されていく。


 レポーターも沈痛な面持ちで、「これらのお気の毒ながん患者さんたちは、いずれも余命三カ月未満と診断されている方々です」と神妙な小声で囁く。


 膨大な数の視聴者たちも、涙を流しながらその映像に見入っていた。

 視聴者の多くは、これほどまでに大勢の死期の迫った末期がん患者など見たことはないのだ。

 なぜなら彼らはすぐに天に召されてしまうからなのだ。


 三カ月後には、この大勢の患者さんたちはひとりも生きていないはずなのである。

 そう考えただけで皆涙が止まらなかった。


 さらに気の毒な小児がん患者たちの姿が視聴者の涙を振り絞った。

 多くの視聴者たちがその映像を見ながら指を重ねて神に祈った。



 だが…… 

 その重篤患者たちが、身動きすらままならなかった重篤患者たちが、一カ月後、全員同じ輸送機から元気に降りてくるではないか。


 ほとんどがベッドでは無く車椅子に座っている。

 中には歩いている者までいる。

 無事に母国に帰って来られた大人の患者たちは皆泣いており、おなじく泣いている家族たちに付き添われている。


 だが子供たちの中には笑顔で手を振っている者までいるではないか。

 もちろん付き添いの家族たちはろくに歩けない程号泣している。



 この映像を初めて全米に報道した番組は、記録的な視聴率を叩き出した。

 各局合わせれば全米のほとんどの視聴者が見たと言っていい。

 そしてその視聴者のすべてが、感動の涙で頬を濡らしたのである。


 全米は熱狂した。

 アメリカ空軍を、アメリカ合衆国政府を絶賛した。

 大統領の支持率もはっきりと上がった。


 そして……

 その偉大な功績が、奇跡の恩寵が、全てあのZUIGANJIがもたらしたものであり、実はたった二人の人物がもたらしたものであると知らされて驚愕するのだ。

 この恩寵が、現代医学の成果では無く、たった二人の為す奇跡によって得られていることを知らされて、その偉業に畏怖するのである。


 そうして全米から、どうしてもっと瑞巌寺を助けないのだ、どうして米軍の総力を挙げて瑞巌寺とその人物を保護しないのだという投書が殺到した。

 その数は五十万通に達し、まだまだ増え続けている。


 ヨーロッパの状況もアメリカと全く同様だった……




 当の光輝は、毎日の自宅通勤にご機嫌である。

 なにしろ毎日毎日自宅に帰って奈緒ちゃんやひかりちゃんに会えるのだ。

 また毎晩エッチできるようになったのである。


 つまり、光輝にとってはごくごくふつーの生活に戻れたのだ。

 二人はひかりちゃんが座ったと言っては手を叩いて喜び、はいはいをしたと言っては泣き、親子三人の幸せな日々を過ごしていた。


 だが何故か送迎の車列は長くなっている。

 その車両はいまや十二台もいて、光輝の専用車の前後は警備会社の護衛車ではなく自衛隊の装甲車両だ。

 最後尾の車両には対空砲まで積んである。


 装甲車両は全部で八台もいて、それぞれの装甲車には機銃がつき、内部には完全武装の自衛隊員が十二人ずつ詰め込まれている。


 行き帰りの道には大量のおまわりさんたちがいて、光輝たちの車ではなく、車におしりを向けて道路の周囲を見ている。

 反対車線の車はなぜかいない。


 自宅敷地に隣接する機動隊駐屯地も増築されて、今や一個中隊二百人が詰めている。

 敷地の周囲は二十四時間体制で武装機動隊員が巡回していた。

 隊員同士の間隔は三十メートルしか無い。

 彼らは皆、手を通信機に結び付けていて、無理に引き離すと駐屯地の警報機が鳴るそうだ。


 一度若い機動隊員が転んでこの警報機を鳴らしたことがあったが、二十秒で完全武装の機動隊員が三十名全速力で駆けつけて来た。

 二分後にはその隊員は百二十名の完全武装機動隊員に取り囲まれて、土下座して泣きながら謝っていた。

 上空には武装ヘリの音まで聞こえてきている。


 彼らの士気は異様なまでに高かったのである。

 なにしろ自分たちが何を守っているのか分かり過ぎるほど分かっていたのだ。

 その保護対象者については、毎日全世界で報道されているのである。

 しかも隊員たちの中には末期がん患者であった親の命を救ってもらった者までいたのだ。


 土下座する隊員とそれを取り囲む真剣な表情の隊員たちを見渡した隊長は、安堵の胸をなでおろすとともに、「皆、実に見事な即応行動であった。実によい実践訓練であった。コイツのことは許してやれ」と言ったそうだ。


 また、瑞祥グランドホテルの隣接地には、自衛隊の臨時駐屯地が作られ、こちらは自動小銃を持った自衛隊員が巡回している。

 隠された対空砲や短距離地対空ミサイルも大量にあるそうだ。

 装甲車両は二十台もいた。



 だがそうしたことは光輝の生活にはまったく関係が無い。

 相も変わらず毎日奈緒ちゃんといちゃいちゃ出来ればそれでいいのだ。

 その傍らにはひかりちゃんまでいるのだ。


 光輝が欲しいものはそれしか無かったのである。

 あとはなんにも要らないのだ……




 光輝の朝は早い。

 出勤前に親子三人で敷地内を散歩するからである。


 最近、敷地内の森にリスの夫婦が住みついた。

 まだひとを怖れていて、えさをあげようとしても近づいてはこないが、それでも時折光輝たちの目の前を横切っていったりする。

 ひかりちゃんは大喜びだった。


 また、最近光輝たちの邸から少しだけ離れた敷地内に、あの五人のお弟子さんたちの寮が作られ始めていた。

 寮といっても各部屋は百平方メートルもあって超豪華である。

 結婚してもそのまま新居に出来そうだ。

 奈緒は五人のお弟子さんたちから女王様扱いでなく、女神さま扱いされるようになっている。



 散歩の後、光輝たちは朝食を済ませて家族みんなで瑞巌寺に行く。

 また車列は十二台だ。


 光輝が瑞巌寺に着くと、一千人の僧侶が平伏して出迎える。

 光輝が何度頼んでも皆これをやめてくれない。


 ほかの事はお願いした途端に百人の僧侶さんたちが駆けずり回ってすぐに聞き届けてくれるのに……






(つづく)


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