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【初代地球王】  作者: 池上雅
第三章 【飛躍篇】
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*** 12 空高く飛んで行く…… ***


 また瑞祥院長はにやりと笑った。

(こいつらにはみんなMの気があるのかもしらんな……)


「まあ、今は明日をも知れない重篤患者さんたちを助けているので緊急事態だということもありますが…… 

 実はこれは本当に極秘事項なので、知人上司部下はおろか、家族兄弟にも言わないでください」


 そう言うと、医師たちの目が輝いた。

(やっぱりMだな……)


「三尊氏には超極秘警護部隊五十名が二十四時間体制で警護にあたっています」


「そ、そんな方々はいませんでしたけど……」


「ええ。その五十名の方はみな霊ですから皆さんの目には見えません」


「!!!!!」


「もし皆さんが三尊氏の胸ぐらをつかんだとすると、その高級霊の護衛部隊にたちどころに取り憑かれます」


「うわぁぁぁぁぁぁぁーっ!」

「とっ、ととと、取り憑かれるっ!」


「ええ、そうして…… そうですね、少なくとも皆さんは二十四時間は体の自由を奪われて動けなくなります。因みにその間は糞尿垂れ流しになります」


「たっ、たたた、垂れ流しっ!」


 医師たちは明らかに興奮している。鼻の穴が開いて来ている。


「以前通りすがりに突然立ち止って三尊氏に道を聞こうとしたひとがいましたが、急に倒れて動かなくなり、救急車で病院に運ばれました。

 護衛霊部隊の仕事です」


「うわぁぁぁぁぁぁーっ!」

「そっ、それでそのひとは……」


「ええ、動けないだけで健康にまったく心配はありません」


「で、でももし三尊さんにトラックとかが突っ込んで来たとしたら……」


「ああ、その五十人の霊のうち二十人はポルターガイスト現象を起こせる超高級霊です。

 ですからそのトラックは彼らの力によって空高く飛んで行くでしょう」


「…… そっ、空っ ………」


「自衛隊のトラックを使ってこの演習は何度も行われました。

 もちろんトラックは地上に落ちるときには彼らによってゆっくりと降ろされますから、運転手は無事です」


「……… うう …………」


「三尊氏はこの部屋にいましたよね。

 あの間も皆さんは護衛霊たちに監視されていたのですよ。

 彼らは何者も信用しないよう訓練されていますから」


 医師たちは不安そうに上方の空間を見た。


 瑞祥院長はまたにやりと笑って続ける。 


「ご安心ください。今はいないはずですから。

 今ごろは緊急重篤患者対応部隊の皆さんやその周りを監視しているはずです」


 医師たちはごくりと唾を飲み込んだ。


「それに彼らは超精鋭部隊ですからね。

 なにしろ二十万人の捜査霊たちの中から選抜された精鋭中の精鋭ですよ。

 安心して三尊氏の警護を任せられます。

 もし足りなくなっても周りで見守っている普通霊たちがすぐに大集結して彼らを助けると思います」


「そ、そんなにたくさんの霊たちが助けてくれるんですか」


「ええ、これも極秘ですけど、今全国では五十万人近い霊たちが組織されて警察の捜査を手伝っています。

 そして三尊氏さえその気になって指令を出せば、その五十万人の霊がいっせいに動きます」


「ごっ、ごごごごご、五十万人っ!!!!」


「おかげで今日本の犯罪検挙率ははっきりと上がって来ていますよね。

 犯罪の発生率ですら下がって来ていますよね。

 三尊氏のいる県がオレオレ詐欺発生ゼロを達成して話題になっていましたよね」


 医師たちは皆こくこくうなずいた。


「あれはみんな三尊氏を中心とするグループが霊たちを組織して為した功績です。

 そういえばそのときの県警本部長は、その功績で栄転して今警察庁の要人警護部長をしていますから、頼めばいくらでも三尊氏の警護を増やしてくれるでしょう」


「ううううううううっ……」


「と、ところで、なんで霊たちは三尊氏に従うんですか」


「三尊氏が彼らや彼らの仲間たちの恩人だからです。

 三尊氏やその仲間や警察に協力すると、その功績を讃えられるだけでなく、瑞巌寺の僧侶たちに成仏させてもらえたり、そもそも彼らが浮遊霊となってしまった原因の妄執を解決してもらったりできるんです」



 医師たちは完全に納得した。

 あの青年は、ガンを治せるだけでは無かったのだ。

 既に途轍もない功績を挙げているスーパーVIPだったのだ。


 そのあまりにもな功績の故に一千人の僧侶と武装機動隊と地対空ミサイルと精鋭霊部隊に守られている超VIPだったのだ。


 あまつさえその超VIPがついでにガンまで治し始めたのだ。

 ほんのついでに……


 いったいぜんたいなんという男だろうか。それもあんなに若い優男なのに……



「ということでですな……」


 瑞祥院長は続ける。


「次の議題の結論ももう明らかですな」


 瑞祥が指差したホワイトボードには、「治療の拠点:国立がんセンター東京本部?」とあった。


「三尊氏に頼み込めば、家族と一緒だという条件ならば、ここ東京に来てくれるかもしれません。

 ですが、その場合には瑞巌寺の別院も作ってやらなければ彼らが納得しませんよ。

 それから武装機動隊の駐屯地も、さらに自衛隊のレーダー基地やミサイル基地も。


 それらが無いところに三尊氏を置いておくのは、日本政府のみならずアメリカ合衆国とバチカンが許さないでしょう。

 あの警備態勢は、もともとアメリカとバチカンが日本政府に要請したものですから。


 アメリカはもし日本政府が動かないなら在日米軍が代わりに警備するとまで言ったそうです。

 ですからこの東京本部の近くに自衛隊の基地を作らなければ、代わりに米軍基地が出来るだけです。

 もしくはこの東京本部に、米軍基地内に引っ越せと言ってくるだけですな……」


 その場にいた医師たち全員が蒼ざめている。


「ということでですな。

 どう考えてみても治療の拠点は三尊氏の地元に作るしか無いのですよ。

 最初は私の病院を使っていただいてけっこうですが、大至急大規模な診療施設を作り始める必要があります。それから研究施設も。

 それから患者さんやその家族のための宿泊施設も。そして皆さんの住居も」


 そう言った瑞祥はまたにやりと笑った……



 国立がんセンターの医師団は心配そうに言う。


「そ、そんな大規模な施設を作る土地や資金など我々には用意できません……」


「何の心配も要りません」


「ど、どうしてですか」


「必要な資金はすべてバチカンやアメリカが出してくれるでしょう。

 その場合は日本政府も出さざるを得なくなるでしょう」


「し、資金はともかくとして、と、土地は…… そんなに広い土地があるんですか?」


「瑞巌寺も瑞祥研究所も私の病院も、すべて瑞祥本家の所有地の中にあります。

 その辺りだけで瑞祥本家は百万坪を超える土地を保有していますし、県内の市街地にある民有地のおよそ四%を所有しています。

 瑞祥一族全体なら八%です。山林を含めればもっとあります」


 またしても医師団は蒼白な顔で沈黙した。


「そ、その瑞祥本家と一族は、協力してくれるんでしょうか……」


 またもや瑞祥院長はにやりと笑った。


「先ほど三尊氏は瑞祥研究所の副代表であると申し上げましたね。

 代表を務めているのは瑞祥龍一氏、瑞祥一族の本家次期当主で、三尊氏の学生時代からの親友です。

 三尊氏の頼みはなんでも聞くことで有名です。


 先日も三尊氏の行きつけのレストランが廃業するので三尊氏が悲しんでいると、そのレストランを買い取って研究所の子会社にしてサプライズプレゼントにしていました」


 医師たちが盛大に仰け反った。


「瑞祥一族は地元では一族の結束が固いことで有名ですし、三尊氏が命を救った二人目の患者はその一族の中心人物のひとりです。


 この件で三尊氏は一族にも崇拝されるようになりました。

 おかげで瑞祥グループ各社の三尊氏への顧問料は続々と値上げされており、来年の三尊氏の年収は六億円ほどになると思われます。

 彼が生活に困ることは今後も無いでしょう」


 今度の沈黙も長かった。

 事実上診療と研究の拠点が決まった。




 その日のうちに、緊急重篤患者対応部隊の医師たちのもとに、東京の佐藤本部長からの重要指令書が届いた。


 その指令書には、

「三尊氏の健康と安全のため、考えられうるあらゆる配慮をとること。

 必要とあらば深夜であろうと即座に東京本部に連絡のこと」


「三尊氏については、その風貌と年齢に惑わされることなく、常に最上級の敬意をもって接すること」


「万が一にも、例え自分たちが転びそうになったときでも絶対に三尊氏を掴んだりしないこと。また、三尊氏の近くで急に立ち止まったりしないこと」

 とあった。


 緊急重篤患者対応部隊の医師たちの頭上に大きな「?」マークがたくさん浮かんだ……




 その後光輝が一時帰宅を許されたとき、奈緒とのいちゃいちゃの合間に光輝が言った。


「そういえばさ。ちょっとフシギなことがあったんだ」


「どんなこと?」


「うん、緊急重篤患者対応部隊のひとたちって、皆さん偉いお医者さんなんだけどね」


「ええ、皆さんその道ではとってもご優秀で尊敬されてるお医者さまたちなんでしょ」


「うん」


「そんな偉いお医者さまたちといつも光輝さんが一緒にいらっしゃると思うと、わたしもとっても安心なの。しかも回っていらっしゃるのは病院ですもの」


「うん。でも……」


「どうしたの?」


「あのね、さすがにあれだけ一緒に全国行脚してるとみんな親しくなってくるんだ。

 それに僕、その中では圧倒的に年下だよね」


「ええ」


「だから皆さん僕のこと、三尊くんとか光輝くんって呼んでたんだ」


「まあそうでしょうね」


「ところがさ、先週のある日から突然皆さんが僕のこと三尊さんって呼ぶようになったんだよお。その中でも若いひとなんか三尊様とか言い出したんだよお」


「まあ」


「それになんだか皆さん急に僕に近寄らなくなったんだ。

 車の中でも隣に座ってくれないんだもん」


「まあ、なぜかしら?」


「それがどうしてもわかんないんだよねー……」







(つづく)


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