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【初代地球王】  作者: 池上雅
第三章 【飛躍篇】
79/214

*** 5 国立がんセンター東京本部 ***


 誠一院長に要請された仕事は昼からだったので、翌朝光輝は久しぶりに瑞巌寺に行って座禅を組んでから病院に行くことにした。


 朝早くその旨瑞巌寺に連絡を入れて直接座禅場に行くと伝える。

 さすがは瑞巌寺でいくら朝早くても電話番の修行僧がいる。


 光輝は専用車の運転手さんに、直接座禅場の入り口前に車をつけて欲しいと頼んだ。

 粗末な修行衣はすでに身につけている。


 車を降りたところからは、美しい玉砂利を敷き詰めたなだらかな坂道を百メートルほど登ったところに座禅場がある。

 光輝はその道が好きだった。


 ところがその朝、光輝が車を降りると……

 なんと道の両側にみっしりと僧侶たちが並んで、そろって平伏しているではないか。

 よく見れば若い順に並んでいるようだが、座禅場までの間に五百人はいようかという修行僧がみな平らかに平伏している。

 バチカンからの留学生たちまでいる。


 光輝は景色を楽しむことも出来ずに、その間をぺこぺこしながらおっかなびっくり進んで行った。

 そうして座禅場に辿りつくと、そこにも五百人を超えようかというこちらは高僧を含む僧侶たちが、おなじくみっしりと並んで平伏している。

 マリアーノくんもミハイルくんもいる。


 光輝が驚いて立ちつくしていると、その中でも最年長である最慎大僧正が、一同を代表して大音声で言った。


「名誉法印大和尚様。 

 このたびは我らが僧侶仲間の命をお助け下さいまして、誠にありがとうございました!」

 全員の「ありがとうございました!」という大音声の唱和が続く。


「また、この度の名誉法印大和尚様の、尊い人命を、とくに可哀想な子供たちの命をお救い下さった大奇跡を拝させて頂き、我ら一同誠に心より感服させていただきました。

 ありがとうございました!」


 それに続いてまたもや僧侶全員の「ありがとうございました!」という大音声の唱和が起き、全員がいっそう平らかに平伏した。


 驚愕した光輝が立ちすくんでいると、ようやく面を上げた最慎が晴れやかに言った。


「おお! まことにお見事なご剃髪姿でございますな!」


 僧侶全員が面を上げて光輝を見てうれしそうに微笑んだ。

 彼らの大英雄が彼らと同じ姿になってくれたのである。


 その後の座禅の後の一同の平伏もやはり長かった。

 また厳真が教えてくれたのだが、今日の光輝の後上方のお釈迦さまのお姿は、なお一層大きく、かつ柔和なお顔であったという。





 昼前に光輝が崇龍さんと一緒に瑞祥総合病院に着くと、もう準備はすっかり整っていた。

 厳上や瑞祥真二郎氏は普通の病室に移っていたが、経過は順調だそうだ。

 子供たちもまた無菌室に戻っていたが、こちらも経過は順調だと聞いて光輝は安心した。


 代わって大病室を埋めていたのは、瑞祥病院に入院しているガン患者のうち、特に容体が重篤な成人五名である。

 やはりお年寄りが多かった。


 光輝たちはそこで瑞祥院長から六時間の座禅を依頼された。


「六時間だけでいいんですか?」


「はい」


「たったの?」


「はい。六時間後に患者の皆さんにはまた検査に入っていただきます。

 それで効果があれば明日はもう少し容体の軽い患者さんたちの前で六時間の座禅を組んで頂いて、一時間ごとに患者さんを一人ずつ検査します」


「…… ? ……」


「それはとても重要な治癒実験になるでしょう」


「はあ、そんなものなんですか」


「三尊さんの御光がどのぐらいの時間で患者さんの治癒を始められるのか、それはたいへん貴重な情報です」


「はあ……」


「それによって三尊さんがこれから治せる患者さんの数が決まるからですよ」


 そう言った瑞祥院長はにっこりと微笑んだ。


「それから今度は距離の実験です。

 座禅を組んでいる三尊さんと患者さんの距離が、治癒開始時間に影響するかどうかの実験です」


「は、はあ……」


「この距離が長ければ長い程、やはり治せる患者さんの数が飛躍的に増えます」


「あ、そうか……」


「その実験は、別の場所でやっていただくことになるでしょう」


 そう言うと瑞祥院長は窓の外を見た。

 遠くを見つめる目つきだった……




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 実験の結果、光輝たちが座禅を組み始めてから三時間ほどで患者さんのガン細胞に変化が始まり、その後は光輝の光を浴びなくとも治癒が進んで行くことがわかった。


 まだ追試は必要だが、それでも三時間で重篤だったガン患者全員が快方に向かい始めるのだ。

 三時間ですべてのガン細胞がお釈迦様に説得され、いったん説得されればあとは勝手に元の細胞に戻って行くものと推察された。


 そしてこの日、また五人ものガン患者の命が救われたのである。



 瑞祥院長はまた光輝に丁重に依頼をした。


「明日はまた昼からお願い致します。あさっても」


「はい」


「そしてその次の日から恐縮ですが東京へご同行願います」


「と、東京ですか」


「はい。これは何日かかるかわかりません。

 宿や車の手配などはすべてこちらで行います。

 もちろん奥様や子供さんもご同行いただいてけっこうです。

 崇龍様もぜひともお願い致します」


 光輝は崇龍さんと顔を見合わせた。

 旅行好きの崇龍さんはけっこう嬉しそうだった。



 翌日もその翌日も、光輝は朝早く瑞巌寺に出かけ、皆と座禅を組んでから瑞祥病院に通った。

 二日間の座禅で瑞祥病院に入院していたガン患者がすべて快方に向かい始めている。


 これで光輝たちが治癒させたガン患者は二十人にもなった。

 まだ通院してくるガン患者も多かったが、こちらは緊急性が少ない。

 それよりも全国の重篤な末期ガン患者を救う方が先だったのである。



 奈緒は光輝と一緒に東京に行きたがった。

 ひかりちゃんを連れた奈緒の疲労を心配した光輝が、厳空に恐る恐るお伺いを立ててみると、厳空権大僧正はまたサポートの女性弟子をつけてくれることを快諾してくれた。


 光輝がぺこぺこ頭を下げてお礼を言うと、厳空は言った。


「お忘れになられたのですか。

 我が光輝宗は、その総力を挙げて法印大和尚様とその御家族をお守り申しあげると誓ったではありませんか。

 しかも今回はお気の毒なガン患者の方々に、その御光の御恩恵を施される旅とのこと。

 これをお手伝いさせていただかないわけには参りませんな」


 そうして厳空権大僧正は晴れ晴れと微笑んだのである。



 瑞祥院長は光輝と東京に行くのに車を使わずにJRで行くことにした。

 渋滞に巻き込まれることを回避するだけでなく、もしも事故などで三尊氏に万が一のことがあれば、それは日本のみならず世界の損失である。

 それを考えれば車は出来るだけ使いたくなかった。


 一行は、光輝一家と瑞祥誠一院長とその秘書。

 崇龍さんと、療養中の厳上に代わって崇龍さん担当になった厳勝僧正とそのサポートの厳勝さんの弟子二名。

 瑞祥院長に頼み込んだマリアーノくんもついて来た。

 奈緒のサポートの若い女性のお弟子さんはまたも五名。

 それから瑞祥警備保障からは交代要員を含む警備員がなんと八名。

 加えて事情を聞いた徳永警察署長がつけてくれた警備の為の警察官が二名。

 いつもの先導のパトカーに乗っている警察官だった。

 どうやら光輝の担当らしい。


 総勢二十五名もの一行が駅に着くと、瑞祥旅行社の若い社員が二人いて、ご案内させていただきますと挨拶した。どうやら同行添乗員らしい。


 これで一行は二十七名に増えた。

 なんとも凄まじい旅行だ。


 一行が在来線のグリーン車に乗り込むと、光輝一家と瑞祥院長は警察官や警備員に取り囲まれて座った。

 厳しい目つきをした男たちは辺りを見渡している。

 よく見れば警察官は拳銃まで携帯している。


 新幹線に乗り換えても同様だった。

 途中警察官が失礼と断ってデッキに電話をしに行った。

 妙に大きな電話だなあと思って光輝が見てみると、どうやら衛星電話らしい。

 もう一人の警察官に聞いてみると、その警察官も懐から衛星電話を取り出した。 

 予備の電話だそうだ。



 東京駅に着いた一行は、警察官に通常の出口ではなく北口の修学旅行生専用出口に案内された。

 今はシーズンではないらしく、閑散としている。


 入り口前の道路には、二台のパトカー、三台の黒塗り、五台のタクシーが止められていた。

 徳永署長から県警本部長を通じて警察庁の須藤警視正に連絡が行っていたらしい。


 地元から光輝たちについて来た警察官たちは敬礼をして帰って行った。

 ここからは警視庁が引き継いでくれるそうだ。



 一行はまず帝国ホテルに案内された。

 驚いたことにというか当然というか、光輝たち家族の部屋はロイヤルスイートである。

 帝国ホテルでは貴賓室についで高い部屋だ。


 入り口を入ってすぐのところには、警備員用の部屋と、お付きの者のための部屋が二つもある。

 その奥には書斎と簡単なキッチンと広大なベッドルームがあった。


 光輝と奈緒は「なんだか落ち着かないねえ」などと言いながら広大なダブルベッドの上に座ってぽよんぽよんした。

 まあ、いくらロイヤルスイートが広大だからと言っても光輝たちの邸よりはだいぶ小さい。

 小さいので落ちつかないらしい。


 控えの警備員たちや女性のお弟子さんたちはそれぞれ下の階の部屋に落ち着いた。

 三十分後に光輝は瑞祥院長と一緒に出かけることになっている。


「奈緒ちゃん、お留守番で退屈だろうけどよろしくね」


「いいえ、お弟子さんたちとおしゃべりでもしてるわ」


 奈緒はそう言うと、光輝の首に手を回してけっこう熱めのキスをしてくれた。


「またがんばってね、あなた……」


「うん」



 迎えの黒塗りの車内で光輝は瑞祥院長に聞いてみた。


「これからどこに行くんですか?」


「国立がんセンター東京本部です」


「はあ」


「そこでまた三尊さんたちに座禅を組んで頂きたいのですがよろしいですか」


「も、もちろんです……」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 がんセンターの東京本部長室に通されると、本部長の佐藤医師が瑞祥院長に握手を求めて来た。


「いやあ瑞祥、よく来てくれたなあ。久しぶりだ」


「佐藤も元気そうだな。

 佐藤、こちらは電話で伝えた三尊光輝氏だ。

 それからこちらは瑞巌寺の厳勝僧正さん。

 それからバチカンから派遣されて来ているマリアーノ司教さんだ」


 瑞祥院長はひととおりの紹介を終えたが、まだ崇龍さんは紹介していない。

 厳勝さんも、まだ佐藤本部長やその背後に控える医師たちに崇龍さんを見せていない。


 佐藤本部長は、光輝や厳勝やマリアーノ司教の若さに驚きながらもそれは顔には出さず、今度は自分の部下の医師たちを光輝たちに紹介した。


「この瑞祥とは学生時代からの同級生でしてな。

 いつもコイツが首席で、わたしはどう頑張ってもいつも二番目止まりだったんですよ」

 佐藤本部長が光輝に朗らかに言った。

 大きな体格をした快活そうな男だ。


 だがなんといっても国立がんセンターの東京本部長を務める男である。

 その貫禄は快活そうな外見の中からもにじみ出て来ている。


 光輝はまたどぎまぎした……







(つづく)


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