*** 1 恐るべき大ピンチ ***
光輝と奈緒夫婦にひかりちゃんが生まれ、光輝の後上方の三柱の尊いお姿はひかりちゃんの後上方にお引っ越しされた。
代わって光輝の後上方にはなんとお釈迦様ご自身が顕現され、とうとう光輝は生き仏扱いされるようになった。
必死でお願いした結果、御供えされたり御燈明をあげられたりするということは無くなったが、それでも光輝に出会うと咄嗟に地面に座り込み、平伏しようとするヤツが後を絶たない。
でも…… それでも光輝と奈緒にとっての日常は変わらない。
平日の夜は相変わらずいちゃいちゃしていたし、休日の濃厚なプレイはさらに濃厚になっている。
(僕の霊力が上がったり、みんなの霊力を上げてあげられるようになったりしたのも、みんな奈緒ちゃんといっぱいエッチしたからだもんな……)
やはり光輝はそう考えている。
最近では厳空や厳真、厳上ら結婚した退魔衆たちもそう考え始めている。
なにしろ結婚してそれぞれのパートナーと毎晩エッチし始めると、自分の霊力が飛躍的に上がったからだ。
退魔衆たちは、その霊力に比例して僧階が上がる。
退魔衆頭領厳空は、今や権大僧正である。
退魔衆頭領を引退すれば即大僧正になることが決まっているが、なにしろまだ三十歳だ。
当面引退の予定は無い。
厳真も僧正になり、もうすぐ権大僧正になるとのことだ。
厳上も無事僧正になった。
それ以下の十二名の上級退魔衆も今や全員僧正である。
ふつうの宗派に比べ上級僧侶がやや多いようにも思えるが、彼らは実社会にも貢献しているのだ。
すなわち霊たちと現世のひとびとの橋渡しとなってそのコミュニケーションを為すことで、霊界と現世の双方に多大なる恩恵を施して、結果信じられぬほどの実績を残しているのである。
その点からして異例の出世は当然のことと言えた。
いまやその名を知らぬものはいないほど全国的に、いや全世界的に有名な瑞巌寺である。
その瑞巌寺を高名にしたのは彼らの功績なのだ。
よって、高位の僧侶が多くなるのも当然なのである。
その下の中級退魔衆も二十名に増え、その中には上級退魔衆候補も五人ほどいる。
さらにその下の三十名の下級退魔衆を加えれば、退魔衆は六十名を超える大所帯になっている。
瑞巌寺の退魔衆宿舎は大幅に増築され、結婚すればバチカンから寄贈された素晴らしく豪華な退魔衆家族宿舎に移れることになっている。
結婚してたくさんエッチすると飛躍的に霊力が上がるということは公然の秘密になっており、女性の弟子たちや瑞祥研究所の女性職員たちとの節度を保った交際は、黙認から奨励に変わっていた。
まあ、みんな僧侶であるし、退魔衆に名を連ねるほどの修行を重ねてきた者たちである。
言われなくとも節度は保っている。
修行僧から昇格し、法名を貰って一人前になった僧侶は、修行僧とは違い週休二日制になる。
給料も以前に比べてかなり増えた。
例の沖縄のリゾートにも、年に一回は一週間タダで滞在できる。
修行や仕事は大変だが、それ以外の待遇は数年前に比べて劇的に改善した。
なにしろ瑞巌寺の宿舎の賄いは、修行僧たちが手伝っているとはいえ、あの料亭瑞祥の直轄である。
毎日毎日新鮮な食材で途轍もなく旨いものを食べさせてもらえる。
もちろんそれで肥満するような軟弱な者はひとりもいないが、代わりに彼らの体躯はますます強靭なものに変わって行った。
大幅に増えた女性の弟子たちや研究所のスタッフたちの目は、さらにハート型になった。
他にパートナーを見つけるすべのよくわからないマジメな僧侶たちも、それぞれに交際相手を見つけられるようになっている。
その僧侶たちの上には、彼らの憧れであり目標でもある退魔衆がいた。
待遇はさらにいい。
その退魔衆たちは、自らの厳しい修行による霊力の上昇と、それを使った社会への貢献という仕事によって、その地位、その好待遇を勝ち取ったことを誇りに思ってはいたが、それらが全て三尊様との修行のおかげでもあることも知っていた。
三尊様が現退魔衆No2、厳真僧正様(権大僧正心得)の命の恩人であることも知っていた。
退魔の仕事中に悪霊に敗れ、無明の闇を彷徨って死にかけていたところを、厳真様の枕頭で座禅を組んだ三尊様の三柱の光の導きで助けられたのだ。
この話は退魔衆の中でも最も厳粛なる伝説として扱われている。
つまり三尊様とは、彼らにとって生ける伝説でもあるのだ。
そして今や霊力の上がった彼らには、そのおなじ御三柱の御光が三尊様のご息女の後上方に見えるのだ。
三尊様ご自身の後上方には、なんとお釈迦様ご自身のお姿さえ見られるのである。
従って、彼らは三尊様を生き仏扱いすることに、なんの違和感も抵抗感も持たなかった。
そして、現在三百人もいるバチカンからの留学生。
最近世界を震撼させたあのイタリアでのマフィア壊滅は、瑞巌寺で修行し、三尊様に霊力を上げていただいた留学生たちの能力が無ければ到底為し得なかった大快挙なのである。
しかもあのときには死者はひとりも出さなかったのだ。
それからそのバチカンとアメリカ合衆国からの年間数百億円に達する莫大な寄進。
きっとアメリカでもなにか大きな功績があったのだろう。
そして瑞祥研究所と三尊様のお邸を守るためだけにその隣接地に作られた警察分署。
瑞巌寺の隣接地に建てられた、瑞巌寺を守るためだけの機動隊駐屯地。
噂では近隣の山中に自衛隊の基地まで作られていて、戦闘ヘリや地対空ミサイルまで配備されているという。
それらは元を正せばすべて、三尊様によって霊力を上げてもらった者たちの功績を、日本国政府のみならず世界が認めたからに他ならない。
そしてそれらの大手柄をあげた者たちは、すべて三尊様によって霊力を上げて頂いた者たちなのである。
例外は無い。
つまり、三尊光輝様とは、考えただけで震えが来るほどの超重要人物なのである。
その超重要人物は、今日も座禅の後、清二板長の下で野菜の皮を剥いている。
あまりにも畏れ多いことだが、修行僧や留学生たちの食事の準備を手伝われていらっしゃるのだ。
今や全国的に高名になった瑞祥椀のおかげで、清二板長の下には全国から弟子入り希望の若者たちが殺到しており、清二板長の高弟たちも続々と料亭瑞祥に戻って来てはいるが、それでもやはり人手は足りないのだ。
三尊様は、以前は割烹着を着て僧侶たちに食事を配る仕事をされていたという。
だが、食事の盆を受け取った修行僧が、それを渡してくれたのが三尊様だとわかると、お盆をひっくり返して平身低頭することが相次いだために、厳空権大僧正様に止められて野菜係に転職されたそうだ。
おかげで他宗派から法要のお手伝いに来てくれている高僧たちですら、食事のときは野菜の煮物に手を合わせてから食べている。
中には泣いている老僧もいる。
極楽に行く前に、生き仏様手ずからのお料理を頂戴することが出来たと言って泣いているのだ。
まあ、光輝は野菜の皮を剥いて切っただけなのだが……
時間に余裕のあるときに、光輝が板長に教わった花飾り包丁をにんじんに入れていたりすると、そのにんじんをそっと僧服のたもとに入れて帰る高僧も多い。
家にいる糟糠の妻や孫に食べさせてやりたいのだそうだ。
こちらもやはり泣いている。
それに気づいた龍一所長は、お手伝いに来てくれた僧侶たちの家族の瑞巌寺見学ツアーも用意した。
そのバスが来るときには必ず光輝に野菜を切るようにも言った。
光輝は苦笑しながら朝からかかりきりでにんじんに飾り包丁を入れている。
こうして光輝は、平日の昼間は文字通り生き仏として尊崇されている。
瑞巌寺から自宅までの帰りも、パトカーに先導され、瑞祥警備保障の護衛車に前後を挟まれた光輝専用の黒塗り送迎車で、おなじくお手伝いに来ている奈緒ちゃんやひかりちゃんと一緒に帰る。
その車は、数百人、ときには千人を超える僧侶たちや留学生たちが合掌して見送った。
だが、ひとたび自宅に帰ると三尊様ご夫妻はそろってでれでれである。
飽きもせず毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日いちゃいちゃしている。
休日の愛のプレイも最近ますますエスカレートしてきた。
「ねぇん、わたしの光輝さぁん……」
「なんだい、ボクの奈緒ちゃん……」
「また最近わたし苦しいのよ……」
「ええっ!」
「もっとわたしを奪って欲しいの。
もっともっとわたしをアナタに捧げさせて欲しいのよ……」
「う~ん、これ以上もらうものなんて想像できないんだけどぉ……」
「もうわたし、光輝さんの愛でイきっぱなしになっても窒息しないようになれたでしょお」
「う、うん」
「子宮にだって毎回直接射精してくださってるし、一日に十回も愛していただいたこともあるでしょお……」
「う、うん……」
「そんなに愛していただいているお礼に、もっと私を捧げたいのよ……」
「う~んう~ん…… あ、そうだ! だったら一回だけあれやってみようか」
「あれって……」
「それでもし嫌だったら一回でやめればいいし……」
「それってもしかして……」
「うん、奈緒ちゃん、奈緒ちゃんのお○りのバージンも僕にくれないかい?」
奈緒は光輝にしがみついた。
「う、うれしいわ……
光輝さん、わたしにお○りのバージンまで捧げさせてくださるのね……」
「う、うん、いいのかい?」
「もちろんうれしいわ。また光輝さんに捧げられるんだもの……」
「あ、ありがとう奈緒ちゃん……」
しばらくの後、奈緒の準備も無事終わり、光輝は奈緒にお○りのバージンも捧げてもらった。
奈緒にはそれはまったく未知の快感だったらしく、ものすごく満足してくれていた。
もちろん光輝も大満足していた。
二人ともこれからちょっと病みつきになりそうだ。
ったく…… こんなことが瑞巌寺の僧侶たちに知られたら……
みんな呆れかえるぞっ!
だが……
めでたく光輝が奈緒にお○りのバージンも捧げてもらった翌日。
朝の座禅会が終了して光輝が平伏し、いつものように僧侶たちも平伏を返した後、光輝が頭を上げても僧侶たちが頭を上げない。
後ろの方の若い修行僧たちは頭を上げたが、前列の方にいる高僧たちほど頭を上げない。
それを見た後方の若い僧侶や留学生たちも慌ててまた平伏する。
今や一千人を超えて座禅会に参加している僧侶と留学生たちが、いつまで経っても頭を上げないのだ。
最前列にいる厳攪や最慎ですら平伏したままだ。
よく見れば最前列の高僧たちは多くの者が涙を流している。
体が震えている者も多い。
そうして十分近くも僧侶たちの平身低頭は続き、光輝が大声で、「皆さまどうか、どうか頭をお上げくださいませ」と懇願したことでようやく終わった。
その後すぐ、光輝は厳攪や最慎のところに行った。厳空と厳真もいる。
「あのぉ…… 今朝は皆さんどうされたんでしょうかぁ……」
「そうでございましたか……
やはり三尊様ご自身はお気づきではございませんでしたか……」
他宗の総本山の首領である最慎大僧正ですら、最近は光輝を三尊様と呼ぶようになっている。
「は、はい、恥ずかしながらわけがわかりません……」
厳空が言う。
「三尊殿。今日の三尊殿の後上方のお釈迦様の御姿と御光は、今までの倍以上の大きさだったのです……」
厳真も言った。
「そうしてそのお姿は、後ろ上方というより、もう三尊様のすぐ上におわしたのです……
まるで三尊様ご自身が御仏になられ、後光を発しておられているかのような尊いお姿でありました……」
「そ、そそそ、そうだったんですか……」
「三尊殿、昨日なにかおありになったのですか?」
まさか「昨日奈緒ちゃんにお○りのバージンも捧げてもらったから」とは言えない光輝の額に脂汗が浮かんだ。
これほどのピンチが来ようとは想像だにしていなかった、今までの人生最大とも言える恐るべき大ピンチである。
そんな光輝の顔色を見た厳攪が助け舟を出してくれた。
「まあまあ、なにせ御仏のお考えになられたことじゃ。
我ら凡俗には思いもつかぬことじゃろうて。
それにしても、なんというありがたい御仏の御厚意であろうことかのう……」
その場を取り囲んでいた全ての僧侶が、また合掌して光輝に頭を下げた……
(つづく)