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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
73/214

*** 42 危ういところだった…… ***


 イタリアの対マフィア諜報局には当面の仕事は無くなった。


 たまにマフィアの構成員にもなれなかったチンピラ達が、徒党を組んでマフィアの真似ごとを始めようとしたケースもあったが、住民たちから、「お前たちも失禁裸踊りピス・ダンスがしたいのか」と笑われてすぐに自然消滅した。


 もはや組織犯罪に絶対に必要な権威と恐怖はどこにも無かったのである。


 しかし、世界各国からノウハウの供与と研修生の受け入れなどの依頼が殺到しているため、対マフィア諜報局の組織の規模はかえって大きくなった。

 これでもう実験台の若者にも困らないだろう。

 やや気の毒なことではあるが……


 大きくなった諜報局の局長に就任したのは、もちろんリッツイアーノ警視監である。

 まずは待ちかねているキーガン警視のために働かなければならない。

 アメリカ軍ならばさらにもっと派手なパフォーマンスを見せてくれるだろう。

 リッツイアーノ警視監は、そう思ってその気難しくて無礼な顔をほころばせてにやりと笑った。



 バチカン聖戦霊団も解散などされなかった。

 そのメンバーたちには、依頼国に渡って異国の地でその国の霊たちを訓練するために、語学の特訓が始められている。


 大勢の霊たちが集まって、講師の霊に続いて「ディス・イズ・ア・ペン」などと唱和している光景は、けっこう笑えたがやっぱりそれなりに怖かった。



 あの怖い顔軍団の百一人は、数百回もの場数を経てその仕事が芸術の域に達している。

 劇場などでその技を披露したら、たちまち大金持ちになれたであろう。

 もっとも客の全員がすぐにその衣服を汚してしまうために、その劇場はあっという間に使用不能になるだろうが……


 彼らもまた、聖戦霊団の特殊部隊として徴用され続けることになった。

 仲間の霊たちからも英雄扱いされている。


 生前自分の顔の怖さに悩んでいた彼らも、死してようやくたくさんの人の役に立てて実にうれしそうだった……





 光輝と奈緒の子は無事生まれた。

 予想通り女の子だった。


 その子の名は、龍一所長が三日三晩悩んだ挙句、「ひかり」と命名してくれた。

 たぶん光輝の後上方から差す御光から来た名前だろう。


(まさか二人目の子の名前は「のぞみ」じゃあないよな)

 と光輝は思ったが何も言わなかった……


 後で聞いた話だが、本家の当主となる者が名付け親になると言うのは、筆頭様でもおいそれとお願いできない破格の名誉なのだそうだ。

 それは本家当主が自動的にその子の義父になることを意味し、一生庇護下に置くことになるからだという。


 なんだかいろんなひとたちに守られる子になったものだ。

 実際には将来は光輝から受け継いだ三つの光で大勢のひとびとを守る子になっていくのだが……


 まあ、守り守られてみんなを幸せにしていくのだろう。


 光輝は警備犬たちにまた鼻を押しつけられた。

 今度はけっこう激しく何度も押しつけてきた。

 きっと祝福してくれたのだろう……





 それからしばらくの後。

 光輝はいつもの通り修行場で大勢の僧侶たちと座禅を組んでいた。

 今日は厳攪と最慎もいる。

 最近は崇龍さんも参加するようになっている。


 座禅が終わるころ、いつもの光が天から降りて来た。

(あれ? 子供の霊もいないしお経も読んでいないのにどうしたんだろう?)


 それは光輝だけでなく、そこにいた皆が感じた疑問だった。


 その光の中を最初に降りて来たのはいつもの先の大僧正厳空だったが、今日は見慣れない大きな僧侶の姿が後からついてきた。

 その大きさは五メートル近くある。

 楽しそうで気さくそうな顔をした壮年の僧侶の霊だった。


 厳空大僧正の霊が、そこに居た現世の僧侶たちに、少し場所を空けてくれと頼む。


 大僧正の霊は、壮年の僧侶の霊とともに、光輝や厳攪や最慎と正対する位置に座った。

 厳空大僧正の振る舞いからすると、その大きな僧侶の霊は、厳空よりも相当に格が上らしかった。



 厳空大僧正の霊が静かに言う。


「こちらにおわすは、厳隆上人様にあらせられる」


 途端に厳攪と最慎が大硬直した。

 すぐに弾かれるようにして平らかに平伏する。

 二人の体は少し震えている。


 その場にいた千人近い僧侶たちも、全員が硬直していっせいに平らかに平伏した。

 こんなに平らになったひとたちは見たことが無い。


 光輝は後で聞いたのだが、厳隆上人様とは、厳攪大僧正や最慎大僧正が属する宗派の開祖だったのだそうだ。

 その後弟子たちの跡目争いで分裂したのである。


 まあ、空海や日蓮と同格のひとである。

 厳攪や最慎が震えるのもよくわかる。



 厳隆上人が口を開いた。意外に気さくで優しい声である。


「みなのものの働き見事である」


 僧侶たちがもっと平らになった。


「お釈迦様は、そなたたちにお褒めのことばを授けるようわしに命じられた。

 もう一度申す。

 みなのもの見事な働きであった」


 千人近い僧侶が声を揃えて、「うはははーっ!」と言った。

 厳隆上人は皆を満足そうに見渡している。


 上人様が突然言う。


「三尊光輝よ」


「はっ、ははは、はいっ!」


 光輝が慌てて答える。


「はい」の発音がちょっと「はひぃ」に聞えた。


「我が子孫の大いなる働き、わしも実に満足じゃ。

 しかもまた最近子孫を増やしたようじゃの。わしはさらに満足じゃ」


 僧侶たちは絶句したが、みんなの頭上には(やはり……)というフキダシが千コ漂っていた。


「光輝よ」


「はっ、はいっ」 


 光輝の声はまだ震えている。


「褒美になんぞ取らせよう。なんでも希望を申せ」


 光輝は姿勢を正すと言った。

 もう声は震えておらず、実に真剣な声だった。


「崇龍さんを成仏させてあげて天に昇らせてあげてください。

 そうしてまたあの子供の霊たちと再会させてあげてください。

 どうかお願い致します」


 光輝も平伏した。


 厳隆上人は顔中で嬉しそうに笑った。


「厳空よ。やはりわしの言うた通りじゃったろう。賭けはわしの勝ちじゃな」


「拙僧もそう申し上げたはずでございます。賭けは成立しておりません」


 厳空大僧正はそう言いながら風呂敷包みを取り出して、中身を厳隆上人に渡した。


 厳隆上人は厳かな声で言う。


「崇龍殿」


「はっ」


 崇龍さんが畏まる。


「天はそなたの働きもことのほか喜ばれておられた。

 そなたに上人位を賜られるそうじゃ。向後は崇龍上人と御名乗りくだされい」


 そう言うと厳隆上人は崇龍に見事な上人の法依を渡した。

 崇龍さんはその法衣を押し頂いて泣いている。


 光輝が恐る恐る聞いた。


「あ、あの…… と、ということは崇龍さんは成仏出来るのでしょうか……」


 途端に厳隆上人が呵呵大笑した。


「わっはっはっはっはっ。

 どこの世界に上人を地獄に落とす阿呆がおるかっ!

 成仏出来て当然じゃ! それも自分の好きなときに自分でな」


 厳隆上人はまた崇龍さんに向き直った。

 崇龍さんは上人衣をまだ大事そうに手で握り締めている。


「崇龍上人殿」


「は、はい」


「上人衣を着てみては下さらんか」


「はい」


 それは見事な衣だった。崇龍さんを別人のような高位の僧侶に見せている。


「うむ。やはりお見事であらせられるの。

 この上はお好きなときにいつでもご成仏くだされい。

 あの童たちは鬼子母神さまのお屋敷で皆仲良く暮らしておる。

 みな崇龍殿のご活躍を見る度に、手を叩いて喜んで大いに盛り上がっておるのでご安心くだされ」 


「はい…… かたじけのうございます……」 


 崇龍さんの目からはまた大粒の涙が落ちていた。


「それでは皆の者。これからも精進するように。

 まあ、わしが言わなんでも今まで通り勝手に精進するじゃろうがの」 


 厳隆上人様はそう仰ると嬉しそうにまた笑い、厳空大僧正の霊を伴って天に昇って行った。

 その場の全員は長いこと天を仰いで合掌していた。




 沈黙を破ったのは崇龍さんだった。


「光輝殿」


「は、はい」


「心より御礼申す。ありがとう」


 崇龍さんが平伏している。


「そ、そんなあ。崇龍さんのご活躍のおかげですってばぁ。

 で、でも…… 崇龍さん。 

 も、もう崇龍さんともお別れなんですね」 


 光輝の声が少し震えた。目の端に涙が滲む。


「いや。わしはまだまだこの世におる」


「えっ」


「厳隆上人様も仰ってくださったじゃろうが、好きなときに自分で成仏せいと。

 それにわしのことをあの童たちがいつも見ていてくれたのじゃ。

 じゃからもっと活躍せねばの」


 光輝が嬉しそうに微笑んだ。

 崇龍さんも嬉しそうに微笑んだ。



「それはそうと光輝殿」


「は、はい」


「貴殿の後上方の御光じゃが……」


「はい……」


「なにやら増えておらんか?」


「は?」


 感動覚めやらぬ厳攪大僧正と最慎大僧正が光輝の後上方を見た。

 と、その体がまた震え始めた。

 二人ともわななきながら光輝に向かって平らかに平伏した。


 周囲の高僧たちも上級退魔衆も皆震えながら平伏した。

 厳空や厳真が必死の思いで気を入れて、他の僧侶たちにも光輝の御光を見せてあげる。



 光輝の後上方の三つの御光の後方に、巨大な光が出現していた。

 その大きな光は他の三つの光を圧倒して大きく光り輝いている。


 そしてその光の中心に見えたお姿は……

 なんとお釈迦様そのひとのお姿だったのである。


 僧侶たちの平伏は光輝が困惑するほど続いた。 

 自分だけ帰るわけにもいかず、光輝はお腹が空いて困った。


 もしあのとき、みんなが平伏していて自分を見ていないことをいいことに、こっそり帰っていたらどうなっていたのだろう?



 それからしばらくの間、僧侶たちの光輝への生き仏扱いは続いた。


 本堂のご本尊の前ではなく、光輝の前で法要をしようと言った者がいた。

 そうだ御輿を作らねばと言った者がいた。

 座っていたら前に御燈明を立てられた。

 ハスの葉の形をした座布団を用意された。


 光輝の前にお供えを置こうとした者までいた。

 皮をむいていない梨を置かれたのでお供えだとわかったのだ。

 みかんだったら気づかずに自分でむいて食べていたところだ。

 危ういところだった。



 遠くの方で若い僧侶たちが会話している。


「どうやら生き仏様は梨がお嫌いらしい」


「うむ。御燈明もあまりお好きではないようだな。御線香の方がいいのかな」


 光輝は「違っがぁ~うっ!」と叫んだが、周りの僧侶たちが硬直して平伏したのでうかうか大声も出せなくなった。


 その話を厳空に言って嘆くと、どうしてそれで嘆くのですかという顔をされたので、光輝はますます落ち込んだ。

 みんなに必死でお願いして元通りになってもらうまでに三カ月近くかかった。

 もう野菜も切らせてはもらえなかった。




 美樹ちゃんは畏れ多くてあの極小Tバックショーツが穿けなくなった。

 なにせ生き仏様の奥方様が下されたものなのである。

 厳上と美樹ちゃんの部屋では、小さな祭壇を作ってその上にあのショーツが置いてあるらしい。


 いったいどんな宗教だというのだ?

 親が遊びに来たらどうするんだ?

 泣かれるぞ。




 留学生寮と退魔衆の家族寮が完成した。

 竹林に囲まれた白亜のものすごく美しい建物だ。

 その前には広い美しい芝生の庭も広がっている。


 留学生たちも全員が権僧正並みの霊力を持つようになった。

 来月全員バチカン聖戦団に任用されて、半分はアメリカへ、もう半分は欧州各国へと派遣される予定である。

 彼らが居なくなると同時に、すぐにまた二百人の留学生が来日することになっている。


 瑞巌寺は相変わらず法要で忙しかったが、もうみんな慣れた。

 新しい留学生たちも一生懸命手伝ってくれている。


 奈緒も少し大きくなったひかりちゃんを連れてお手伝いに復帰した。







(つづく)


……次号第二章エピローグ……

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