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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
72/214

*** 41 超高級リゾート ***


 光輝たちにバチカンとイタリア共和国政府からまた招聘の依頼が来た。

 今回は正式に国賓待遇である。


 もちろん奥様達も婚約者の方々もご同行をお願いしますという。

 いつもの龍一所長と光輝、それから厳空と厳真と厳上が夫人や婚約者と同伴で行くことになった。


 かなりお腹の大きくなって来ていた奈緒ちゃんは、万が一のことを考えて断念したが、光輝は空港でかなり長いこと奈緒ちゃんにキスしてもらった。

 崇龍様にもお越しいただきたいと言われたのだが、崇龍さんはもちろん行く気満々である。


 一行を乗せたバチカンのビジネスジェットは無事ローマ国際空港に着くと、すぐに黒塗りの車列に迎えられてバチカン宮殿に案内される。


 出迎えたロマーニオ枢機卿に歓迎されたあと、宮殿内の国賓の間で正式ディナーが行われた。

 法王様も出席してくださっている。


 光輝はバチカン中の全てのトイレにウォシュレットがついていたのに気づいて驚いた。


 ディナーが終わると一行はバチカンにほど近い三つ星ホテルに案内される。

 話はすべて明日である。

 崇龍さんは日本から持って来た菰樽を抱えた厳上と、嬉しそうにまたあの騎士のところへ行った……



 翌日、一同は法王様の私的書斎に集まった。

 光輝たちの他にはロマーニオ枢機卿とマリアーノ司教、それに今やバチカン聖戦団の一員となっている十人の元留学生たちがいる。

 他には法王様の執事であるマリオと名乗った若い神父がいるだけだ。


 法王様は悲しそうな顔をしていた。そしてしんみりとした口調で言う。


「皆さんのご協力で、教会の敵を倒すことが出来ました。

 この御恩にはどれだけ感謝してもし足りません。


 ですがとても悲しいことに、バチカンはまだ公式にはキリスト教以外の宗教を認めてはいないのです。

 私が生きているうちには改善したいと思ってはいるのですが……


 ですから皆さんの功績を公式に賞賛させて頂けないのです。

 とても申し訳なく悲しく思っています。

 どうかお許しくださいませ」


 龍一所長が明るい声で言う。


「そんなのどうでもいいじゃないですか。

 我々はお役に立てて嬉しいですし、法王様は夢を達成されて嬉しい。

 誰も謝る必要は無いですし、誰も悲しむ必要も無いと思います」


 光輝たちも皆笑顔で頷いた。


 ようやく法王様は晴れやかな嬉しそうなお顔になった。

 やはり思った通りのひとたちだったと言いたげな顔である。


「それでは私の個人的な感謝の印として、皆さまにつまらない記念品を受け取っていただきたいと思います」


 そう言った法王様は、そっと自分の指輪を外して龍一所長に渡した。


「ほっ、法王様ぁっ!」


 驚愕したロマーニオ枢機卿が叫ぶ。

 こんなに慌てた枢機卿は見たことが無い。

 マリアーノ司教も聖戦団の元留学生たちも硬直していて口もきけない。


 法王様は枢機卿を無視して、後ろを振り返ると仰った。


「マリオや」


「はい、法王様」


 何も見なかったような顔をしたマリオが答える。


「頼んでおいたフェイクの指輪はあるかな」


「はい、法王様。こちらに」


 何でもないことのようにマリオが答えた。


 法王様はにこにこと微笑みながらフェイクの指輪を嵌められた……




 夕方には光輝たち一行はイタリアの大統領公邸に招かれた。

 その場にいたのはイタリア共和国大統領と首相、それからイタリア警視総監と昇進したリッツイアーノ警視監だけだった。


 対マフィア防諜局の警察官も全員が昇格して、多くの者が勲章を授与されたそうだ。

 警視総監とリッツイアーノの胸にはイタリア共和国最高名誉勲章がきらきらと輝いている。


 イタリア共和国大統領が言った。


「皆さまの御助力には本当に感謝しております。

 おかげでイタリアは救われました。

 イタリア全国民を代表して心より御礼申し上げます。


 ただ…… 皆様にささやかな御礼の品を差し上げたいと思ったのですが、皆さまのご功績については、バチカンから極秘にしておいて頂きたいとの申し入れがございました。


 また、イタリア共和国へは、皆さまのおかげをもちまして、ヨーロッパ各国やアメリカ合衆国からも組織犯罪撲滅のノウハウの供与を求める声が相次いでおります。

 そうした国々の為にも、皆さまのご関与は極秘にしていた方が良いとの決定が為されました。


 ですから真に申し訳ないことに、このささやかな御礼は公式の場で差し上げることが出来なくなってしまったのです。どうかお許しくださいませ」


 そう言ったイタリア共和国大統領は、龍一所長と光輝、そして厳空と厳真の胸に勲章をとめた。

 それはリッツイアーノとおなじ勲章だった……




 帰りの飛行機の中で、光輝はマリアーノ司教にそっと聞いてみた。


「やっぱりあの法王様の指輪ってそんなにすごいものなの?」


 マリアーノは呆れ果てた顔で光輝を見ると、首を振りながら言う。


「そんなこと仰ってるのを誰かに聞かれてご覧なさい。

 全世界二十億のキリスト教徒から一発ずつおしりをぶたれますよ」


 光輝は恐ろしげにおしりをさすった。




 瑞祥研究所と瑞巌寺は実績を残した。

 それも極秘ながらバチカンとイタリア共和国から絶賛されるものだったのだ。

 アメリカ合衆国政府も大絶賛した。


 彼らは日本国政府にも丁重に謝辞を伝えるとともに、さらなる警備の増強も依頼してきたのである。

 万が一にもマフィアの残存勢力や、今後予想される世界各国の反社会的勢力からの攻撃から瑞巌寺や研究所を守るためである。


 政府は研究所や瑞巌寺近くの国有地の山の山頂付近に、航空自衛隊の長距離レーダー基地の分屯地まで作った。

 分屯地の近くの山中には陸上自衛隊の武装ヘリコプター部隊の駐屯地も出来、輸送ヘリ一機とAH64アパッチ新型武装ヘリ二機が配備された。


 極秘で陸自の地対空ミサイル部隊もいる。

 パトリオット長距離地対空ミサイルとスティンガー短距離地対空ミサイルが配備されていて、交代で即応体制が取られている。





 イタリアの英雄、共和国最高名誉勲章受章者リッツイアーノ警視監にも、ひとつだけちょっと困ったことがあった。

 それは警察本部や対マフィア諜報本部を歩いていると、リッツイアーノの顔を見た若い警官たちが、皆恐怖に顔を引き攣らせて逃げて行ってしまうことだった。


 多くが実験台になってくれた警官たちだったが、噂を聞いていたその同僚たちも皆逃げて行く。


 その話を聞いたロマーニオ枢機卿は、けっこう巨額の寄付をしてくれた。

 その警官たちのトラウマを癒すためのセラピーの費用である。


 また、枢機卿はトラウマの解消にはリゾートでの休暇が有効だとも言った。

 シチリア島の海岸沿いにある超高級リゾートならば、宿泊費はバチカンが持つとも言ってくれた。


 リッツイアーノ警視監は、霊たちの練習台になってくれた若い警察官たちに交代で長期休暇を与え、順番にそのリゾートに送り込んだ。

 結婚していた者は奥さんの同伴を推奨し、独身の警官には彼女の同伴も許した。


 彼女がいなかった者も、同行を申し出てくれる婦人警察官にはこと欠かなかった。

 なにしろイタリアの英雄のひとりなのだ。

 彼らにはアルコール飲料以外の費用はすべて無料だとも伝えた。


 その超高級リゾートホテルは、あのドン・オブ・ザ・ドンの邸跡地にほど近く、毎日観光のバスツアーを出していた。

 邸跡地はもう整地されていたが、ボロボロになった塀の一部と門の一部はマフィア壊滅の記念として保存されている。


 トマホークが穿った巨大なクレーターもひとつ残されていた。

 観光客はその大きさと深さにみな驚く。


 邸の跡地には聖戦の勝利を記念する大きな十字架も立っている。

 現在戦車隊を指揮するリッツイアーノの銅像が建設中である。


 そうした名所をひと目見ようと、イタリアのみならず全ヨーロッパからたくさんの観光客が訪れている。

 超高級リゾートも、そうしたお金持ちのお客で連日満員だった。




 若い警察官がその奥さんや恋人と一緒にそのホテルに行くと、まずその豪華さに驚かされる。

 宿泊料を聞くともっと驚かされる。

 しかもそれを全部バチカンが払ってくれていると聞かされているので驚きはさらに大きい。

 奥さんも恋人も、彼らを惚れ直したという熱い目で見てくれる。


 さらにホテルの支配人が、他の宿泊客に、あのお方はイタリアの誇る対マフィア殲滅作戦に従事された警察官なのですと伝えると、警察官とその同伴者は宿泊客たちから英雄扱いされた。


 みんなが酒をおごりたがる。ラウンジやバーにいると必ず人垣が出来る。

 サインまで求められる。そうしてみんな英雄の話を聞きたがるのだ。

 中には涙を流しながら警察官の手を握ってくれる人たちもいた。


 なにしろそういう宿泊客たちは、あの英雄的大作戦の跡地を見たくてはるばるシチリアまで来ているのだ。

 一緒に写真を撮らせてくれと言われて何百枚もの写真を撮られた。


 もう奥さんや恋人たちは、完全に彼らを惚れ直してくれて、常に彼らを熱い目で見てくれている。


 ただし、宿泊客たちからあの作戦の中であなたはどういった役割を果たされていたのですか、と聞かれると、彼らは口ごもりながら、「そ、それは機密事項なので言えないのです」とは言っていたが……


 だが他の宿泊客にはそれがまたたまらないのだ。

 機密事項になるほどの働きをしたひとなのだと思って、さらに褒め称えてくれる。


 しかも、彼らがその功績を讃えたバチカンの経費でこの超高級リゾートに来ていると聞いて、宿泊客らはさらに熱狂した。

 もう完全に英雄扱いである。



 警察官たちは、一週間もするとあのトラウマを完全に忘れていたことに気がついた。

 もうすっかり立ち直っている。


 昇格や昇給もいいが、やはり同胞たちからの感謝と賞賛こそがひとを動かす原動力だったのだと気づくのである。


 その行動原理は、日本もイタリアも、人も霊も違いは無かったのであった……







(つづく)


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