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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
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*** 39 この世ならぬ光景 ***


 リッツイアーニの命令と同時に、十八両全ての戦車の砲身が火を噴いた。


 現代の最新鋭戦車の複合装甲をも貫く百二十ミリ徹甲弾が、塀と門に至近距離から襲いかかる。


 M1A2エイブラムスの戦車砲の水平射程距離は約四キロメートルである。

 その五分の一程度の距離では狙いは外しようもない。


 同時に全ての攻撃ヘリが、これも戦車の上部装甲を貫く威力のあるヘルファイアミサイルを各機二十発ずつ連続発射した。

 その発射音と爆発音が、周囲を圧倒して何も聞こえない。


 邸の塀や門の辺りからは猛烈な煙が上がっている。

 ヘリのミサイル攻撃が終わっても、十八両の戦車たちは猛然と打ち続けた。

 一両につき二十発の徹甲弾を撃った後は、さらに二十発の炸裂弾を撃った。


 凄まじい一斉攻撃である。

 これでは門や壁はひとたまりも無いだろう。


 だが、邸があるのはさらに門から丘を昇ったところである。

 塀を貫通した砲弾も、途中の地面にめり込んで爆発し、邸には直接被害は及ぼさないだろう。

 塀と邸の間に人がいないのは偵察霊たちの報告でも二重に確認してあった。



 アパッチが邸の上空から離れ始めると、二百キロ離れたイタリア本土から発射されていた、五発の最新鋭大型トマホーク4-A巡航ミサイルが仕上げをした。

 それまではタイミングを計って海上で旋回を続けていたのである。


 この巡航ミサイルには二百キロもの弾頭が搭載され、GPSが使用されていたため、CEP(半数必中界)はたったの五メートルだった。

 すなわち目標物の半径五メートル以内に着弾する確率が五十%という驚異的な精度を誇っているということだ。

 特に無風の環境下では、そのCEPは二メートルにまでになる。

 幸いにも当日は快晴無風であった。


 そのミサイルが塀や門のあった辺りに順番に綺麗に並んで着弾した。

 合計一トンにも及ぶ高性能炸薬の大爆発が大地を揺るがす。


 しっかりと足を踏みしめて立っていなかった観衆が何千人も転倒し、戦車ですら少し跳ねた。


 三百五十キロ離れたベスビオス火山に設置されていた地震計の針が振り切れた。

 もしも観測所の職員もテレビを見ていなかったら、イタリア中部に火山噴火警報が出されていただろう。


 ドン・オブ・ザ・ドンの邸の塀のあったところには、壮大な火柱が上がっている。

 まるでショーのクライマックスの仕掛けのようだ。



 ようやく一斉攻撃が終わった。


 各国のアナウンサーたちが母国語でマイクに向かって絶叫している。

 一般人では見たこともないであろう戦闘車両と攻撃ヘリとミサイルの恐ろしい総攻撃を目の当たりにして、アナウンサーたちも相当に興奮している。


 爆煙が晴れて来た。

 さっきまで見えていた重厚な塀や門はもう跡かたも無い。

 完全に消滅している。


 まあ、計八百発近い戦車砲弾と四百発近い対戦車ミサイルを浴びて無事でいられるものはこの世に存在しないだろう。

 おまけに五発ものトマホーク4-Aまで参加したのだ。


 呆れるほどの飽和攻撃だ。もはや常識外だ。

 戦艦や巡洋艦でも百隻は撃沈出来ただろう。

 エジプトのピラミッドですら粉砕出来たかもしれない。

 あの程度の塀や門ならば、その百分の一でも充分過ぎる効果があっただろう。


 塀と邸の間に広がっていた美しい芝生は、もはや無残に掘り返されていてぐしゃぐしゃだ。

 トマホークの穿った巨大なクレーターが綺麗に並んで開いていた。


 よく見れば広壮な邸の表面も砲弾や塀の破片でずたずただ。

 無事な窓ガラスなど全く無かった。

 破片が当たらなくともすべてミサイル着弾の衝撃波で粉砕されたのである……



 十万人を超える大観衆から途轍もない大歓声が上がった。

 さっきの砲声よりも大きいぐらいだ。

 全ヨーロッパのテレビの前でも同じような大歓声が上がっていることだろう。


 みんなこんなスカッとする光景は見たこともなかった。

 チャンピオンズリーグの決勝で、味方チームがロスタイムに勝ち越しゴールを挙げたときのような大歓声だ。


 それもサポーターは欧州全国民なのである。

 敵は悪の権化、マフィアのドン・オブ・ザ・ドンなのである。


 テレビ各局ともこの瞬間の視聴率は過去最高を記録した。


 イタリア陸軍参謀総長は満面の笑みを浮かべた。

 同じく満面の笑みを浮かべた傍らの国防大臣と肩を叩きあって喜んでいる。


 キーガン警視も須藤警視正も各国からきた警察関係者も、皆震えが来るほど感動している。

 全身に鳥肌が出ていた。



 すると邸から三十人ほどの男たちが手を上げたまま走り出て来た。

 掘り返された庭を苦労して乗り越えると、そのまま戦車の方に走って来る。


「止まれっ!」


 リッツイアーニの大声がスピーカーから聞こえた。

 男たちは全員雷にでも打たれたかのように止った。


 六機の戦闘ヘリが旋回して男たちを取り囲む。

 機体は動いても機銃の銃身は男たちから外れない。

 ガンナーのヘルメットに組み込まれた光学機器が、ガンナーの眼球の動きに追随して機銃を動かしているのだ。

 従ってガンナーは照準をつける必要がなく、男たちを見つめてトリガーを引くだけで彼らを粉砕できるだろう。


 またリッツイアーニの大声がスピーカーから聞こえた。


「手をゆっくりと頭の後ろで組んでひざまずけ。不用意に動けば射殺する」


 男たちはみなすぐに従った。

 先ほどの飽和攻撃がよほどに恐ろしかったのだろう。


 男たちは皆、到着した警官隊に手錠を嵌められ、身体検査されると待機していた警察車両の方に連行されていった。

 それを見ていたのか邸の方からまた三十人ほどが走り出して来た。


 その男たちに対して邸から誰かが発砲した。

 走り出て来た男の一人が足を抱えてうずくまる。

 銃を持った男に取り憑いていた霊が、咄嗟に腕を硬直させたが間に合わなかったらしい。

 銃弾が少し逸れただけだった。


 十二機の戦闘ヘリが邸に向けて連続発砲した。

 戦車の上部装甲ならば貫ける威力を持った大量の機関砲弾が、邸の屋根に突き刺さる。

 見る間に屋根はボロボロになっていくが、水平射撃なので邸の中の人は安全だろう。


 大観衆からまたもや大歓声が上がった。

 邸はもう完全に沈黙している。


 先ほど邸から走り出て来た男たちは、倒れた男を抱えあげると、待ち構えていた警官隊のところに無事到着して拘束された。

 また少し観衆から歓声が上がる。



 いつの間にか壇上に上がっていた聖職者がまたマイクに向かって言った。


「神はお怒りです。すぐに改心して神の慈悲にすがりなさい。

 さもなければ神の軍勢が怒りの鉄槌を下すでしょう」


 邸からの返事は無かった。

 しばらくの間沈黙が広がった。


 すると、その静けさの中を、邸の上空から何かが複数降りてくるではないか。

 あまりにも高いところから降りて来るので最初は何かわからなかったが、三百メートル程の上空に来ると、ようやくその姿が白い服を着た十人の人の形をしたものだということがわかるようになった。


 まるで天使である。


 それは二百年もの以上の超高級霊たちの姿であった。

 さすがのバチカンにも十人しかいなかった聖職者の超高級霊は、着ているものの色も変えられたのでみんな白い服に変えてもらっていた。

 そうすると遠目には天使のように見える。


 上空にいたときには人型のせいで普通の人間の大きさにも見えたのだが、地上に近づくにつれて次第に彼らの大きさが明らかになってきた。

 大観衆のあちこちで悲鳴に似た叫びが上がる。


 そう、彼らは皆十メートル近い大きさだったのだ。

 ワシントンの木の霊といい、崇龍さんといい、古い霊になればなるほど大きくなるらしい。


 その十メートル近い天使のような姿は、邸を取り囲むように空中に浮かんだ。

 巨大な天使たちは全員邸を取り囲んで見ている。


 もうあれほどの大観衆も絶句している。

 テレビのアナウンサーですらほとんどの者は絶句している。


 皆、ついにこの世ならぬ光景を目の当たりにしたのだ。

 これが神の軍勢なのだ。

 跪いて祈りを捧げる観衆も大勢いた。


 なぜかその場にいないディレクターたちだけが、アナウンサーのイヤホンに向かって「なぜ喋らない! 何が起きてるんだ!」と言い続けている。



 と、さらに邸の上空から何かが降りて来た。

 今度は鈍い金属の色をした何かである。

 その姿が地上に近づくにつれて、今度は本当に大観衆から悲鳴が上がり始めた。


 そう……

 それはあの騎士の霊、ミケッツイオ君の姿だったのである。







(つづく)


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