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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
69/214

*** 38 突入 ***


 ここまでの段階で、イタリア警察は全国民から絶賛されていた。


 イタリアのテレビでは毎日毎日逮捕されたマフィアや、壊滅させられたファミリーの様子が大々的に報道され、国民は熱狂している。


 その報道は全ヨーロッパにも翻訳されて配信された。

 やはり組織犯罪に悩まされていた各国国民も拍手喝采して報道に見入った。


 しかもイタリア警察の警察官や、一般国民には犠牲者は一人もいなかったのである。

 マフィアにすら死者はいなかった。

 まあ、精神病院送りはいたが。


 壊滅させられたファミリーの規模が大きくなり、上部団体に行くほどイタリアのみならず全ヨーロッパが固唾を飲んで見守った。


 毎日ヨーロッパ全てのニュース番組ではイタリアンマフィアの組織図や系統図が紹介され、ファミリーの数が少なくなればなるほど視聴者は熱狂していたのである。


 このときには既にイタリア警視総監とリッツイアーノ警視には、イタリア共和国最高名誉勲章が与えられることが内定していた。

 内閣の支持率も史上最高を記録している。

 もはやイタリアの英雄リッツイアーノ警視の要請を断れる者はどこにもいなかったのである。



 リッツイアーノは警視総監と共に総理大臣官邸を訪れた。

 そこには国防大臣も呼ばれている。

 首相は警視総監とリッツイアーノを大歓迎し、なにか要望は無いかとにこにこしながら聞いた。


 リッツアーノ警視は、現在だけでなく将来に渡ってマフィアの芽を摘んでおくためにと言って、ある要望を口にした。

 首相も国防大臣も大喜びして賛成してくれた。






 イタリア南部、シチリア島の果樹園が広がる丘の中腹にその広大な屋敷はあった。

 イタリアのドン・オブ・ザ・ドン、ピエトロ・マイケリーニの邸宅である。


 塀は石造りで一メートル近い厚さと五メートル近い高さがあった。

 まるで城壁である。

 門は鋼鉄製で高さは八メートルもあった。


 マイケリーニの配下、二百名もの武装した若いマフィアたちが警護している。

 もはやイタリア全土の組織は壊滅状態だったが、もしここを守り切れれば、自分たちは大幹部としてイタリア全土に散って各地のファミリーのボスになれる。

 そう思った配下たちの士気は高かった。



 イタリア政府はドン・オブ・ザ・ドンの屋敷に踏み込む日時を公開した。


 もちろん霊たちによって、ピエトロ・マイケリーニが邸に居るのは確認済みである。

 逃亡出来ないように、大勢の霊も現世の警官隊も、もう何日も前から交代で邸の周囲を取り囲んでいる。


 その決戦の日の朝、マイケリーニ配下たちの目にはとんでもない物が飛び込んで来たのである。

 まずは巨大なクレーンの林があった。テレビ局のカメラ用のクレーンである。

 遠過ぎて邸からではライフルでも届かなかったが、カメラの望遠レンズで屋敷内は丸見えだろう。


 クレーンは全部で十五本もあった。

 テレビ局のヘリも多数飛んでいる。


 ただ、邸から撃たれると危ないので、離れて飛んでくれと当局から言われており、今は主にクレーンの上空を飛んでいる。


 そこにはイタリアのみならずヨーロッパ中から報道陣が押し寄せて来ていた。

 望遠カメラの映像を映すための巨大スクリーンの設置工事まで行われている。

 ボスの側近たちの指図の元、屋敷中のカーテンが閉められた。


 そのクレーンの周囲には、信じられないほどの人の数があった。

 ドン・オブ・ザ・ドンの屋敷に警官隊が踏み込む日時が公開されたため、イタリアだけでなく全ヨーロッパから見物人が押し寄せて来ていたのである。

 イタリア本土からのフェリーは臨時便を大増発して見物客をピストン輸送していた。


 全部で十万人近い面物客がいて、まるでロックコンサートのようである。

 みんな世紀の一瞬を見たくてわくわくしながら集まっていたのだ。


 各国の警察官僚の姿も多く見られた。

 もちろんキーガン警視もいた。その横には須藤警視正の姿も見える。

 NY市警本部長もかけつけていた。全米麻薬取締局の幹部たちも大勢いた。



 突入予定時刻の正午が近づいてきた。

 観客たちの真ん中に設置された大きな台の上に、煌びやかな法衣をまとった聖職者が登場する。

 その様子は巨大スクリーンにも映し出されている。

 その聖職者は実は変装したロマーニオ枢機卿だった。


 正午になった。

 教会の鐘が鳴る。


 と、上空にイタリア空軍の最新鋭戦闘機ラファールの二個小隊六機が飛来した。

 三機編隊ずつ違う方向から飛来して、低空飛行でドン・オブ・ザ・ドンの屋敷の上で交差する。


 ラファールは、交差と同時にマグネシウムのフレアーを放出した。

 本来は赤外線追尾式空対空ミサイルを振り切るためのものだが、その異様に明るい光球は快晴の日の下でもよく見えた。

 まるでオリンピックの開会式である。


 観客は熱狂した。

 これでイタリア空軍もマフィア壊滅作戦に参加したことになる。

 空軍参謀総長も喜んだ。


 ドン・オブ・ザ・ドンの邸の上空から戦闘機の編隊が飛び去ると、壇上の枢機卿がマイクに向かって説教を始めた。

 大観衆が静まり返る。


「キリスト教会の敵、イタリア全国民の敵、マフィアの諸君。

 神は全てを許したもう。今からでも遅くありません。

 投降して神に許しを乞いなさい。神の愛にすがりなさい」


 その声は巨大なスピーカーを通じて大観衆にはっきりと聞えた。

 カモフラージュされたスピーカーを通して丘の中腹の邸にもはっきりと聞えた。


 普通これだけの範囲に音を届けようとすると、遠方では何を言っているのかわからないものである。

 だが、本当にロックコンサート用の最新鋭機材が大量に投入されていたのである。


 大勢の音響技術のプロにより、正面の大スピーカー以外にも、各地に百ヶ所もの中型スピーカーが設置されていたのだ。

 さすがはバチカンである。仕事の仕上げにカネは惜しまなかった。


 邸からの返事は、十数発の銃声だけだった。

 もちろん弾の届くような距離には誰もいない。

 大スクリーンにはライフルを構えるマフィアの構成員の姿がテレビカメラの望遠レンズで映し出されている。


 聖職者が壇を降り、代わってリッツイアーノ警視が壇上に昇った。

 イタリアの英雄、リッツイアーノ警視は、しばらく丘の中腹の邸を睨みつけていた。

 その恐ろしい面構えが欧州全域のテレビ画面に映っている。


 リッツアーノが大きな声で言った。


「これより突入開始っ!」


 すると、大観衆から見て左手、遠くの果樹園の中から土煙が上がった。

 みるみる邸の方に近づいてくる。

 土煙の先頭にはM1A2エイブラムス主力戦車が見える。

 イタリア陸軍の誇る最新鋭戦車が、隠されていた掩蔽壕から飛び出して来たのだ。

 全部で十八両もいる。


 戦車部隊はきゅらきゅらとキャタピラの音を響かせながら、ドン・オブ・ザ・ドンの邸に向かって突進して行った。

 まるで戦争映画の世界である。


 大観衆は、十八両もの戦車部隊の戦闘行動を息を呑んで見つめている。

 全欧州のテレビの前のすべての人々も息を呑んだ。


 戦車隊は大観衆と邸の間に到着すると、その場で超信地旋回を行って邸の方を向く。

 キャタピラを左右逆方向に動かしてその場で旋回する戦車お得意の旋回方法である。


 これを十八両もの戦車が一度に行うと大変な壮観だった。

 再び大観衆から歓声が湧きあがった。


 戦車隊が邸を向いて停止し、全ての戦車が砲塔や砲身を塀や門に向けている。

 そこへ戦車が現れた方向と反対側、大観衆から見て右手側から、最新鋭攻撃ヘリ、AH64アパッチの二個中隊十八機が飛来してきた。


 戦車の上空で旋回して邸を向いて攻撃態勢に入る。

 十八機もの攻撃ヘリ部隊は、戦車隊の火線の周囲に低空飛行で邸の包囲網を築いた。


 恐ろしげなヘリに囲まれて、最後まで邸の広大な庭に散らばっていたマフィアの子分たちが邸に逃げ帰った。



 かつてアフガニスタンのタリバンの指揮官が言った言葉がある。

「我々は米軍など全く怖れていません。でもあのヘリは恐ろしいです」と。


 別に恐ろしく見えることを意識して設計したわけではないのだが、恐ろしい殺傷力を持ったヘリは自然と恐ろしく見えるのである。

 トラやライオンなどの顔が恐ろしく見えるのと同じなのだろう。


 その恐ろしい攻撃ヘリに囲まれて、マフィアたちも堪らなかったのだ。

 庭にいた全員が邸に避難した。


 邸の中では十人ほどのマフィアが、RPG7ロケットランチャーを構えようとした。

 対装甲車両用のバズーカ砲だ。

 さすがはドン・オブ・ザ・ドンである。そんなものまで用意していたのだ。


 だがリッツイアーノ警視の対策は万全だった。

 RPG7があることは霊たちの屋敷内の徹底捜索でわかっている。


 既に邸のマフィア全員に取り憑いていた聖戦霊団の中級霊が、ロケットランチャーを構えようとしたマフィア全員を硬直させて動けなくさせた。

 そして九人のマフィアに庭にロケットランチャーを放り投げさせたのだ。


 残りの一人が後ろを向いて、その部屋に居た中位のボスたちにロケットランチャーを向け、「フリーズ」と言った。

 もちろん乗り移っていた中級霊の仕業である。


 その声は若干聞きとりにくかったが、かえってそれがそいつの狂気を反映しているように聞こえた。

 霊はその若者に白目まで剥かせている。


 ボスたちはあまりのことに硬直して動けなくなった。

 もっとも少しでも動こうとしたら、既に彼らにも取り憑いていた霊たちが、たちどころに彼らを硬直させていただろう。


 ヘリ部隊の指揮官からリッツィアーノのイヤホンに報告が入った。


「庭はクリア。繰り返す、クリア」


 再びリッツイアーノ警視が大きな声で命令を発した。


「邸の塀と門を破壊せよっ!」







(つづく)


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