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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
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*** 36 マフィア構成員全員監視 ***


 マフィアの支配原理は恐怖と権威である。


 苦痛への恐怖。自分や愛する者が殺されるかもしれないという恐怖。

 その恐怖による支配はまずファミリーの構成員に向けられる。

 ボスや幹部の命令に逆らったら痛めつけられる、場合によったら殺されるという恐怖がファミリーのヒエラルキーを強固にする。


 したがって、このヒエラルキーが固まっていない末端組織ほど残虐な内部制裁が行われることになり、上部団体や大きな組織のドンになるほど、こうした暴力の必要性は少なくなる。


 組織のヒエラルキーを昇って、恐怖を振りまく必要が無くなるのにつれて増大するのが権威である。

 それは配下の組織に命じて、いつでも巨大な暴力をもって恐怖を与えられるという権威なのである。


 ドン個人では暴力の手段などほとんど持っていない。

 ただその権威をもって、いつでも誰にでも暴力を与えられるという権力を擁しているだけであった。


 そして彼らは一般社会をも自らの末端構成員とみなしていた。

 つまり、彼らの利益にならない者には暴力による制裁を。

 それは血生臭いものであればあるほど、恐怖を振りまいて彼らの権威を高めることが出来る。


 そうやって権威を作れたものこそが、ファミリーのヒエラルキーを昇って行けるのだ。

 故にファミリーの末端に行くほどその暴力は残虐なものになる。



 首都ローマの片隅にフランコーナファミリーという構成員二十名ほどの末端ファミリーがあった。

 主に恐怖を振りまく暴力屋として組織の役に立っている。

 彼らの暴力は目に余るものであり、一般人の犠牲者も多かった。


 リッツイアーノ警視はまずこの小規模ファミリーで実験を行うことにしたのである。

 まず、聖戦霊団の霊たちに頼んで構成員二十名をそれぞれ十名の霊たちで二十四時間監視してもらう。


 本当は霊は一人でも充分なのだがこれは霊たちの訓練も兼ねているのだ。

 その監視結果は順番に本部に帰ってもらって報告してもらう。

 報告を受ける側の霊も、三人もいれば充分なところを三十人で聞いてもらって練習してもらう。


 そうして、恐喝の現場とか、銃器の隠し場所とかの情報を集めてもらうとともに、霊たちを訓練した。

 人に取り憑いたり出来ない聖戦霊団の低級霊たちがこれにあたっている。



 そうした訓練の結果に満足したリッツイアーノ警視は、志願してくれた元留学生の司教一人を伴っただけで、フランコーナファミリーの本部に乗り込んで行ったのである。

 ただし聖戦霊団の中級霊は大勢従えている。


「フランコーナはいるか」


「ああ、なんだお前ぇは」


「イタリア警察対マフィア諜報局のリッツイアーノ警視だ。

 フランコーナを連れてこい」


「なんだ死にてぇのかてめぇ!」


 おなじみの会話が繰り広げられる。


 彼ら末端構成員にとっても権威は重要なのである。

 警察官相手にびびったりしたらもう出世の道は閉ざされるのだ。


 まあ、いつものやり取りが終わると、リッツイアーノは応接室でフランコーナと向かい合った。

 配下のチンピラ達が大勢周囲を取り囲んでいる。


「いったいこの俺様に何の用でぇ」


 まるで安っぽいテレビドラマの俳優のような口調で、ボス・フランコーナがおなじみのセリフを言う。


 リッツイアーノが静かな口調で言った。


「いやな、こちらの司教様によると、キミは悪いことをし過ぎていて、このままだと地獄に落ちてしまうそうなんだよ。そうですよね司教さん」


「ええ、このままだと地獄に落ちてしまうでしょう。

 ですが今悔い改めればなんとか助かるかもしれません」


「な。だからお前もひざまずいて許しを乞えば、地獄に落ちなくて済むかもしれんぞ。

 地獄は怖いところらしいぞ」


「ふざけるんじゃねぇっ!」


 とこれもテレビでおなじみのセリフを叫ぼうとしたフランコーナだったが、その声は口から出なかった。声帯が動かないのだ。

「ううううううっ」という呻き声しか出ない。


 志願者の警察官を相手に練習を重ねて来た聖戦霊団の聖職者の中級霊が、既にフランコーナに取り憑いていたのである。


 フランコーナはそのまま強制的にずるずるとソファを滑り落ちさせられて床に座り込み、両手も床につけてリッツイアーノと司教に土下座をする形にさせられる。

 配下のチンピラたちはボスの姿を呆然と見ている。声も出せない。


「そうかそうか、ようやく地獄の恐ろしさがわかったか」


 そう言ったリッツイアーノ警視は指を立てて合図した。


 フランコーナに取り憑いていた霊が、フランコーナの骨盤底筋と尿道括約筋を緩めて膀胱を縮めた。

 人は直前にトイレに行っていない限り、こうされると尿が出るのを防ぐことは出来ない。


 呆然とするチンピラたちの目の前で、ボスのアルマーニのズボンからじょろじょろと音を立てておしっこが噴き出してきた。

 みるみる床に水たまりが出来て行く。


 志願して霊たちの練習台になった警察官も呆然として涙した、屈辱の強制失禁の刑である。

 これをやられると三日ぐらいは呆けてなにも出来ないらしい。


 こうしてボス・フランコーナの権威は崩壊したのである。

 もはやファミリーの中では再起不能だろう。



 サブボスが拳銃を抜いた。

 このチャンスに配下の前で権威を示して、次のボスの座に着こうとしたのだろう。

 もちろんそいつに取り憑いていた別の聖職者の霊が、すぐに体の自由を奪って拳銃を下に落とさせる。


 すでにファミリーの構成員全員に聖戦団の中級霊たちは取り憑いていたのだ。

 それを確認してからリッツイアーノ警視は部屋に入って来ていた。


 チンピラ達の目には、それはまるでサブボスが改心して拳銃を棄てたように見えているはずだ。


 取り憑いた霊は、そのままサブボスにも土下座の姿勢を強制させて、骨盤底筋と尿道括約筋を緩めて膀胱を押したのだが、こいつは直前にトイレに行っていたとみえてあまりおしっこが出ない。


 霊は打ち合わせ通りに、取り憑いたサブボスの体を動かして服を脱がせて裸にし、そうしてその場でいかなる者の笑いをも誘いうる猛烈に滑稽な裸踊りをさせたのである。


 これも志願した警官の体で練習を重ねた技だ。

 こっちをやられると、実験台になった警察官は五日ぐらい呆けてなにも出来なくなった。

 恐怖の強制裸踊りの刑である。


 しかしチンピラたちは誰も笑わない。

 チンピラ達の目には、サブボスが地獄の恐怖に発狂したように見えたのだ。


 その後リッツイアーノは逮捕状を読み上げて全員を警察署に連行した。

 もちろん取り憑いていた霊たちが彼らを強制的にそろって行進させたので、逮捕連行は実に整然と行われた。


 実験は大成功だった。

 フランコーナファミリーは消滅した。

 呆けて何も出来なくなっていた警察官たちも報われ、キーガン警視たちも報告書を読んで大笑いしていた。





 近年のマフィアは、その恐怖による権威を維持するために、銃器では無く爆発物に頼るようになっている。

 警官隊との銃撃戦に何度も敗れて死体を晒し、かえって権威を失墜させたためである。


 爆発物なら失敗しても権威はほとんど失墜しない。

 それに彼らも銃撃戦で死にたくはなかったのである。


 こうして現代のマフィアは爆弾によるテロに傾斜してきている。

 マフィアに有罪判決を出した裁判官や、警察署に対する爆弾テロで多くの犠牲者が出ていた。


 マフィアは、情報漏洩を防ぐために爆弾製造と設置を分業化している。

 爆薬の保管係と爆薬運び人と爆弾の製造係とその爆弾の設置係である。

 手間はかかったが、こうしておけば万が一その中の誰かが掴まって自白したとしても、全体への被害は最小限に出来る。


 既に膨大な人数が集まっていた聖戦霊団の霊たちは、手始めにローマ中のファミリーの全ての構成員の監視を始めた。

 特に爆薬の保管場所と爆弾製造工房を発見するのが目的である。


 監視役の霊たちの地道な努力が実を結んで、ローマ市内で三か所ほどの爆薬保管場所が発見され、ある夜に現世の警察官たちがその三か所に一斉に踏み込んで爆薬を押収した。


 保管場所には結構な人数の護衛もいたが、もちろん予め全員に聖戦霊団の中級霊たちが取り憑いていたので抵抗は皆無だった。


 組織内の裏切り者から情報が漏れたと考えたファミリーのボスたちは、慌てて爆薬を移動させ始めた。

 リッツイアーノ警視の思う壺である。


 もちろん構成員全員を監視していた大勢の霊たちが、次々にその動きを追尾して新たな保管場所を特定し、その保管場所も監視された。

 実験は大成功で、キーガン警視も満足そうだった。



 次はイタリア全土の爆薬保管場所の特定作業である。

 またもや膨大な数の霊たちが徴用され、訓練を受けた後イタリア全土に散って行った。


 中には元マフィアの構成員だった霊も混ざっていたことだろう。

 だが誰もリッツイアーノの秘密作戦をマフィアに知らせることは出来なかった。

 マリアーノ司教たち霊能力者がいなければ、誰も現世の人間とはコンタクトが取れなかったからである。


 中級霊であればマフィアの構成員に憑依して筆談で密告できたかもしれないが、そうした中級霊はほとんど聖職者の霊しかいなかった上に、リッツイアーノは捜査霊たちを必ず二人以上組にして相互監視させている。

 情報漏洩対策は万全だった。


 聖戦霊団の霊たちの必死の努力で膨大な捜査霊が組織され、既知のファミリーの構成員全員に一人当たり五人の捜査霊による監視体制が取られた。

 爆薬の隠し場所も、イタリア全土で十か所ほど見つかった。


 ある日、イタリア警察は警視総監からの緊急命令によって、その十ヶ所の爆薬保管場所に一斉に家宅捜索が入った。

 警察内からの情報漏洩を危惧してのことである。


 現場に踏み込んだ警察官たちも、どこそこに行って爆薬を押収して来い、と言われただけで、なぜその場所に爆薬があるとわかったのかという情報は知らされなかった。


 マフィアに抱きこまれて情報を漏洩していた警官も、連絡する時間が無かった。

 仮に連絡出来ても、ファミリーが慌てて爆薬保管場所に行くと、警官隊と鉢合わせすることになる。

 予め現場に待機していた多くの聖戦霊団の中級霊が、彼らにも憑依したため抵抗はほとんど無かった。


 情報を漏洩していた裏切り者の警察官については放置しておけばよかった。

 マフィアが裏切られたと思って報復しようとしたので、マフィアさえ全員監視しておけば裏切り者の警察官も全員特定出来たのである。

 やはりマフィア構成員全員監視は効果的だった。


 こうしてイタリア全土で計十か所の爆薬保管所が空になったのである。



 やはりファミリーのボスたちは残った爆薬を必死で移動させ始め、またもや全ファミリーの全構成員たちに張りついていた聖戦霊団の監視霊たちが尾行を開始した。


 これにより、さらにイタリア全土で新たに八十か所の爆薬保管所が特定され、今度はもっと大規模な一斉捜索が入った。


 イタリア中の爆薬がほぼ無くなった。

 かろうじてまだ爆薬を保有しているファミリーも、これを気安く使えなくなった。

 なにしろ他のファミリーとの抗争が始まったときの主要兵器でもあるのである。



 欧州のブラックマーケットでは爆薬の価格が高騰している。

 フランスやオランダの組織からイタリアへ緊急輸入が行われたが、急いだあまりに仲介者を使わなかったファミリーは、その構成員に張りついていた霊たちによってその取引相手も特定出来た。


 そして予め打ち合わせてあったとおり、霊たちは取引相手にも張りついて、はるばる海を渡って行ったのである。

 その取引相手の情報は、後に各国警察当局に知らされることになっている。


 もちろんイタリア側のファミリーが運び込んだ爆薬は、霊たちがすぐに保管場所を特定した。

 仮に仲介者を介した慎重な取引をしても、最後には必ずファミリーの誰かが受け取らなければならない。

 こうしてファミリーの構成員ではなかった国内の仲介者たちも特定されていったのである。


 因みに郵便などでの輸入はほぼ不可能である。

 現代の爆発物探知機は優秀であり、輸入荷物はほとんど全てこれらのチェックを受けているためである。


 やはり人の手で海上ルート中心に取引されていた。







(つづく)


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