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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
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*** 30 破門 ***


 留学生寮の建設と同時に瑞巌寺に留学生たちがやってきた。


 皆若い神父か神学生で真面目そうな顔をしている。

 大司教様たちに言われて真剣に勉強するつもりで成田空港に降り立った。


 総勢百五十一名で、バチカンから百名、アメリカからは五十一名である。

 ほとんど全員に霊視能力があった。

 予定では百五十名だったはずだったが、最後にアメリカ側で一名追加になっている。


 この最後に追加された一名が問題児だったのである。


 その問題児はニューヨークを擁する大司教区から送られて来ていた。

 その大司教の弟の孫で、一人だけ司教の階級で年も上だった。

 自分で注文して仕立てたらしい派手な司教服を着ている。


 その司教は、宿泊先のホテルで部屋を勝手にスイートルームに変更した。

 ホテル前へは毎朝瑞巌寺への送迎バスが横づけされたのだが、それにも乗らずにタクシーで通った。


 留学生たちに課された最初の修養は、朝の掃除である。

 退魔衆たちの指示のもと、全員が修行衣に着替え、雑巾で本堂を拭き清めた。

 その後は瑞巌寺全体を拭き掃除して回り、それから庭の掃き掃除をする。


 みんな不思議そうな顔をしてこの修養をしていたが、マリアーノ司教様とミハイル司教様が手本を見せてくれていたので何も言わずに修養を行っていた。


 だがあの司教だけはこれに参加しなかったのだ。

 そんな下賤の者がするような作業は出来ないと言う。

 服装も派手な司教服のままだった。


 ミハイルくんは懸命に説得した。午前中を丸々かけて説得に当たった。

 だがその司教は説得に応じなかった。

 早く霊を昇天させる術を教えろと要求するばかりである。


 教えなければニューヨークの大司教に連絡してお前を更迭させるとまで言った。

 この司教にだけ霊視能力が無かった。


 ミハイルくんは三日耐えた。懸命に説得した。だが無駄だった。

 とうとう諦めたミハイルくんは、本当にその司教をアメリカに送り返してしまったのである。

 退魔衆たちに頼んで無理やり車に押し込んで空港に連れて行き、ニューヨークまでのチケットを渡して空港に置き去りにしたのだ。


 その司教の最後の捨て台詞は、「大司教様に言って、必ずお前を首にしてやる!」だった。


 瑞巌寺に帰ったミハイルくんは、すぐにワシントンDCの大司教とバチカンのロマーニオ枢機卿にお詫びの報告書を書き始めた。

 自分の力が足りなかったばかりに司教を送り返すことになってしまったと真摯に詫びた。


 その後、その司教の祖父の兄であるニューヨーク担当の大司教は、本当にバチカンのロマーニオ枢機卿に電話をしてきたそうである。

 大変な剣幕でミハイルくんを罵り、すぐにあいつを首にしろと言う。

 もし首にしなければニューヨークからバチカンへの献金をストップするとまで言った。

 ロマーニオ枢機卿が相手にしないでいると、大司教はさらに激怒した。


「そっちが動かないならホワイトハウスから日本に圧力をかけるぞ! 

 うちの一族が大統領の有力支持基盤であるのを知らんのかっ!」 


 大司教は、バチカンがそうした政治圧力をどれほど嫌悪しているかは知らんようだった。


「致し方ありませんな。それではこちらも特別査問会を招集することになります。

 ああ、皆さんお忙しいのにお気の毒なことだ」


 ロマーニオ枢機卿はそう言った。お前は気の毒ではないという口調である。


「な、なんだとっ! 査問会だと! 

 き、貴様はなにを言い出したのだっ!」


「そうですあなたの特別査問会です。

 議題はあなたの破門についてになるでしょう」


「は、破門だとっ! き、貴様にそんな権限は無いはずだっ!」


「ああ、法王様から、このプロジェクトの邪魔をする者は即刻排除するよう命じられておりますので……」


「は、破門……」


「そうです。今はっきりと申しあげました。聞き間違いだとは言わせませんよ。

 破門です」


 ロマーニオの声は冷静そのものだ。



 破門…… それこそはバチカンの最終兵器である。

 キリスト教会からの懲罰的登録抹消である。


 絶句したニューヨークの大司教はそのまま電話を切った。


 翌日、その大司教のもとへバチカンから引退勧告が送られて来た。

 勧告の理由は老化の進行による弊害だった。

 一週間以内に勧告に従わなければその勧告はバチカンの正式広報に載せられるが、それまでに健康上の理由で引退を表明すればそれは妨げない、とも書いてある。


 大司教は手で顔を覆ったまましばらく動かなかった……

 後任の大司教にはワシントンDCの大司教が栄転した。



 残された百五十名の留学生たちは優秀だった。

 みな霊視能力はあるので瑞巌寺の法要をひと目見て感動し、その後はいっそう修養や修行に邁進した。


 この掃除がどうやって自分の能力の向上に役立つのかはわからないが、それでも司教様達はそれであの素晴らしい能力を手に入れられたのだ。

 そのうちにみんな、禅の心もわかるようになり、心を無にして掃除をするようになっている。


 彼らは座禅にも熱心だった。

 マリアーノ司教様たちに光輝の後上方の光を見せてもらうと、やはり感動してすぐに熱心に座禅会に参加するようになったのである。


 マリアーノ司教とミハイル司教は、ロマーニオ枢機卿の承諾を得てある実験を行った。

 百五十人の留学生たちを三つの組に分け、一組は掃除等の修養中心の生活、二組は座禅中心の生活。そして三組には両方やらせてみた。


 少しでも早く留学生たちを一人前にするための試みだったが、後に明らかになった結果では、三組の霊力UPが最も早かった。

 やはり霊力の為の修行には近道は無かったのである。

 この結果を受けてマリアーノ君とミハイル君はむしろほっとした。


 そのうちにぽつぽつと、マリアーノ君たちの助けを借りずとも光輝の後上方にの三つの光が見えると言い出す者が出始めた。

 調べてみると皆格闘技の上級者だった。


 考えてみればマリアーノ君は柔道の黒帯だし、ミハイル君はマーシャルアーツの達人である。

 二人は日本に派遣されたときから、ストレス解消のために退魔衆や修行僧たちの体術の鍛錬にも参加していたのである。


 百五十人の留学生たちの課程に体術が組み込まれることになった。

 全員が一度に鍛錬を行うことはスペース的に無理だったので、例の五十人ずつの組に分けて行われている。



 ミハイル司教の報告書を読んだ大統領首席補佐官は、在日米軍基地から五人の訓練教官を派遣してきた。


 最高司令官からの要請である、と基地司令官に言われて緊張して瑞巌寺にやってきた教官たちは、法要によって昇天する子供霊を見せてもらって大感激した。

 皆家庭があり子供もいたのだ。


 その彼らの前に立っている百五十人の留学生は、普段教官たちが目にしている逞しい若者たちではない。

 中にはひょろひょろの若者もいる。


 だがこの若者たちは軍隊に入ったのではない。

 可哀想な子供の浮遊霊たちを昇天させてあげる能力を身につけるために、母国アメリカやなんとあのバチカンから派遣されてきたというのである。

 彼らの訓練内容は、毎日バチカンに届けられ、法王様ですらご覧になっているという。

 自分たちの最高司令官も見ているはずだ。


 教官たちは、基地の若者たちが見たら驚くであろう優しさと、異常なほどの熱心さを持って、留学生たちの訓練に取りかかった。

 留学生たちを体力順に五つの組に分けて、それぞれに合った訓練内容を毎晩深夜まで必死に考えてやった。

 筋肉痛に苦しむ若者たちには交代でマッサージまでしてやっている。


 そうした教官たちの真剣さは留学生たちにも充分に伝わり、訓練が苦しくて脱落する留学生は一人もいなかった。


 彼らの霊力向上のペースが早くなってきた。


 ミハイル司教は教官たちの功績と彼らへの感謝を十二分に報告書に盛り込んだ……







(つづく)


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