*** 5 NYダウ ***
こうして光輝と奈緒は大歓迎されつつ異常現象研究会の一員に迎えられたのである。
もちろん豪華な部室には居放題で、コーヒーもお菓子も好きなだけ頂いていいそうだ。
幹部たち三人は忙しいらしくて夕方にしか来なかったが、光輝たちは、いつもお昼や講義の空き時間には部室で溜まっているようになった。
小恐竜たちの名前と顔も覚え始めている。
そのうち奈緒ちゃんは、また豪華弁当を持って来て部室で光輝と食べるようになった。
小恐竜♀たちも、毎日ではないにせよ、タマに顔を赤くしながら小恐竜♂たちにお弁当を作って持ってくるようになっている。
「作り過ぎちゃったから……」とか言っていた。
やはり閉鎖空間に於ける光輝と奈緒のフェロモンの効果は凄まじいのである。
小恐竜たちは、どうやらひとりにつきひとりが好意を寄せあう三つのペアになっているようだったが、どのペアもつき合っている様子は無いようだ。
龍一部長は、毎日夕方部室にやってきては光輝たちと雑談をした。
「ボクたちのサークルの活動目的って、もちろん異常現象研究会の名の通り異常現象を研究することなんだけどね。
実はその先の超常現象を探求することでもあるんだ。
ボクのライフワークは、死ぬまでに一度でいいから超常現象をこの目で見て体感することなんだよ。
だけど、超常現象なんて、本当はあるかどうかもわからないじゃない。
死ぬまでに一度もお目にかかれないかもしれないんだから、研究なんてすることも出来ないし。
だからせめて日頃は異常な現象やフシギな現象を探して、それを研究しているんだ。
そうしないとやることが無くなっちゃうからね。
だからキミのあの背中パワーを見て感動したんだ。
あれはもう異常現象と言うより超常現象に近いもん。
僕には感じられないだけでさ。
だからもっと研究させてもらいたいんだ。
そのためにはなんでもするからどうか協力して欲しいんだ」
光輝はテレ笑いをしながら言った。
「いえ、それこそが僕がこの異常現象研究会に来た理由ですから……
どうぞ、いくらでも研究してください。見返りなんか要りませんよ」
またアロサウルスが光輝の顔を見ている。何を考えているのだろうか?
龍一部長は嬉しそうに雑談を続ける。
「それでも超常現象まではとても及ばないものの、異常現象にもけっこう面白いものもあるんだよ。例えば光輝くん、NYダウって知ってるかい?」
「あ、は、はい。たしかアメリカの株式市場の指数でしたよね」
「うんそう。正確には『ニューヨークダウ工業株三十種平均指数』って言うんだけどさ。
まあ、世界で一番有名な株式指数で、世界中の人たちが注目してるから流動性もすごいんだけどね。
このNYダウを、毎年11月19日に買って翌年の1月3日に売ってたとすると、けっこう儲かってるんだ。
キミは何年ぐらい連続で儲かっていたら驚いてくれるかな。
ああ、応当日が休日だったらその前営業日でカウントね」
「う~ん。やっぱり十年連続ぐらいですかね」
「そんな、十年連続なんかぜ~んぜんたいしたことないよ。
だってコインを投げて十回連続でオモテが出る確率なんか、1024分の1もあるじゃない。
だからけっこうな確率で起きることだよ」
「う~ん。22回連続だと宝くじで一等が当たる確率とおんなじなんですよね。
だったらやっぱり二十年連続ぐらいだったらびっくりしますよね」
「そうそうその調子。
でも二十年連続って言うことは、キミが生まれてから毎年っていうことだよね」
「あ、そうですね。それならものすごく驚くかも」
「それがさあ、これ、今まで過去三十四年連続で上がってるんだよぉ」
「えっ!」
「だから今確率は約百七十億分の一になってるとこなんだ。
今の地球の人口って約八十億人だそうだから、仮に全地球人参加ジャンケントーナメントやったとして、そこで優勝するよりも倍も難しい確率になっちゃってるんだよ」
「えええっ!」
「どうだい、フシギな現象だろ」
「ええ。それにしてもなんでそんなことが起きちゃってるんですか?
それに11月19日とか1月3日とかなにか意味があるんですか?」
「いやそれがぜ~んぜんわかんないんだよ。
もし仮に仮説を立てられたとしても検証不能だしね」
「それにしてもフシギな現象ですねえ。
あ、でもそれがみんなに知れ渡っちゃったら上がらなくなっちゃうんじゃないですか? それどこに書いてあったんですか?」
「どこにも書いて無いみたいだね」
「えっ?」
「うん。これ僕が思いついて、麗子さんにいろんな市場のいろんな商品で調べてもらって見つけたんだ。
だから我が異常研のオリジナルかな」
「そ、それ、ものすごくタイヘンだったんじゃあ……」
「いやそうでもないよ。だって日付の組み合わせなんか、閏年を考慮しても366の二乗で13万ちょっとしかないでしょ。
だからその13万ちょっとの組み合わせを過去22年分チェックして、全勝だった日付の組み合わせを探したんだ。
そうして全勝だった期間があれば、その期間だけ50年ぐらい前からのデータでも調べるんだよ」
「へ、へぇ~」
「NYダウって過去の価格データも公開されてるし、ちょっとしたPCさえあれば誰でも計算出来るんじゃないかな。
高校生にだって出来ると思うよ」
「な、なのにどこにも書いてないんですか?」
「そうなんだ。こんなに簡単に見つけられるフシギな異常現象なのに、株式市場の人たちって誰もそれについて語ってないんだよね。
僕に言わせれば、それこそ最もフシギな現象かも……」
「へ、へへへ、へぇ~……」
「これ見つけたのもう8年も前なんだ。
だからけっこう儲けさせてもらったかな。
だからタマには役に立つ異常現象もあるのかもね……」
そう言った龍一部長はにっこりと微笑んだ。
また別のときにも龍一部長は言った。
「三尊くん。キミのあの能力ってさ。
きっとあれだけのものじゃあないと思うんだよ」
「と、仰いますと?」
「あのままだったらタダの暖房器具じゃない。
それだったらストーブの方が断然便利じゃない。
だからきっとまだ何かあると思うんだ。
あれだけの能力がそれだけで終わるはず無いもの」
「ど、どうなるんでしょうか……」
「それを今考え中なんだ。それに今人に頼んで少し準備もしているし。
だから用意が整ったらまた協力してくれるかい?」
「もちろんですよ。そのためにこのサークルに入ったんですもん」
「ありがとうね」
龍一部長がいつも楽しそうに光輝たちと語っているのを見て、他のメンバーたちの態度も急速に軟化した。
小恐竜たちは実に親切だったし、あのアロサウルスも雑談に加わったりして、時折笑顔すら見せるようになったのだ。
ちょっと犬歯が大きかったので、近くで見せられると光輝は冷や冷やしていたのだが……
もっともT・レックスの態度だけはまったく変わらなかった。
きっとあれはいつも誰に対してでもああいう態度なのだろう。
奈緒ちゃんは小恐竜のひとりから、あの本の表紙裏にサインまで求められた。
龍一部長もあの本を部室で読んで、眼の端に滲んだ涙をぬぐっていたらしい。
光輝は休みの日に奈緒と一緒に自宅に帰り、奈緒の父親の幸雄を訪ねた。
「あの。おじさんは会社を経営されているんですよね」
「うん。小さな会社だけどね。
あっ! こっ、光輝君が継いでくれるのかいっ!」
「い、いえ、そんなつもりでお聞きしたんじゃあないんですけど……」
幸雄は少し肩を落とした。
「そ、それでですね。将来、社会人として一人前になるために、学生時代からやっておくといい勉強にはどんなものがあるんでしょうか。例えば資格とか」
幸雄は将来の義理の息子を頼もしそうな目で見つめた。
「これはまあ常識なんだろうけど、公務員になるためだったらある程度の勉強は必要だね。
例えばキミのお父さんみたいに市役所に勤めるんだったら、公務員試験を受けなきゃならないし、学校の先生になるんだったら教職課程を取って、教員採用試験を受けなきゃならないし」
「はい。でもなんか公務員とか学校の先生とかはあんまり興味が湧かないんです」
「だったらそうだな。
僕の学生時代からの友人で、顧問税理士もしてもらってる榊原に言わせると、社会人にとって一番必要な知識は税務だって言うんだよ。
個人事業主になるんだったら自分で申告書を書かなきゃならないし、サラリーマンになっても会社の税務は知っておいた方がいいって言うんだ。
そうすれば財務も分かるようになるだろう、って言うんだな」
「なるほど」
「でもね、光輝くん。
学生時代は自分の興味があることをとことん追求するのがイチバンだよ。
何かの分野で徹底的に自分を伸ばしたことがあるひとは、必要に迫られて他の分野に行っても、そこでも自分を伸ばせるそうだ。
だから今からあんまり無理して資格取得のための勉強なんかしないで、自分が興味のあるものを探した方がいいんじゃあないかな。
別に将来役に立たないものでもかまわないから……」
光輝は感心した。
娘と光輝に対する扱いはちょっとヘンだが、さすがは人生の大先輩である。
光輝は幸雄に丁寧に礼を言った。
奈緒ちゃんはいつも通り光輝を頼もしそうに見つめている。
光輝と奈緒は充実したキャンパスライフを過ごした。
授業には真面目に出たし、マンションに戻ってからもけっこう勉強した。
試しに本屋で「税理士試験のために」という本を手に取ってみたのだが、その本を持った途端に背中がものすごく暖かくなって、本から白いもやもやが立ち昇って来たので、迷わず買ってしまった。
光輝自身は滅多に自分の背中が暖かいと感じたり、白いもやもやを見たりすることは無かったのだが、それを目にしたときの決断はいつも大正解だったからである。
税理士試験は三年生にならないと受けられないのだが、五科目の試験のうち一科目だけでも受けられるそうだ。
しかも一度その一科目に受かればそれは一生消えないそうである。
受験案内には、たとえ一科目しか受かっていなくとも履歴書にその旨記入出来るし、就職活動の際にはけっこう有利になると書いてある。
光輝は卒業までに一科目ぐらいは受かってみたいとコツコツ勉強を始めた。
奈緒はそうして勉強している光輝の横でいつも微笑んでいる。
どうやらかまってもらえなくとも、二人でいるだけで十分満足しているようだ。
なんとも理想的なカノジョである。
もちろん二人は毎夜愛し合って更に十分に満足してから寝た。
奈緒の寝顔はいつも実に安らかで美しかった……
あるとき、光輝は奈緒の胸が赤くなってきているのに気づいた。
どうも胸がさらに大きくなって、ブラのサイズが合わなくなっているらしい。
光輝は言ってみた。
「奈緒ちゃん」
「なぁに光輝さん」
「あのさ、奈緒ちゃんの胸、最近またすっごく大きくなって来てない?」
「うふ。光輝さんのおかげですね」
光輝はくらっときたが、必死で立ち直ると言う。
「だ、だからちょっとブラのサイズが合わなくなって来てるんじゃあないかな」
「やっぱり光輝さんもそう思われますか。
それじゃあ今度の土曜日に一緒にお店に行っていただけますか?」
「い、いやその、ランジェリーショップはどうもその……」
奈緒の口が少しだけ尖る。
「それじゃあ、お店の近くで待っていて下さいますか?」
「う、うん」
「それで光輝さんはどんなデザインのブラがいいですか?」
「い、いやその、デザインって言うよりさ。
奈緒ちゃんの胸が赤くなったりしないように、お店のフィッターさんに頼んでまずはぴったりフィットしたものを選んでもらったらどうかな」
「うふ。優しいんですね光輝さん。でも本当に他になにかご希望は無いんですか?」
奈緒の口調はちょっとだけスネている。
どうやら光輝好みの下着も着たいらしい。
光輝はそれに勇気づけられて思い切って言ってみた。
「あ、あのさ、引かないで聞いて欲しいんだけど、ショーツの横の部分がこうヒモ状になってて、結ぶようなカタチになってるのあるよね」
「はい」
「あ、あれついでに買ってきて貰えると……」
「わかりました。じゃあ光輝さんがそのヒモをほどいて私のショーツを脱がせて下さるんですね」
そんなことを艶然と微笑みながら言う奈緒の顔を見ているだけで、光輝はまた目眩がした。
「う、うん。それいちどやってみたかったんだ……」
「いちどと仰らずに何度でもどうぞ。
私のショーツを脱がせたくなったらいつでもそう仰ってくださいね♡」
今度の光輝の目眩はしばらく続いた。
次の週末に二人は駅前ビルのショッピングモールに出かけた。
光輝がランジェリーショップのあるフロアの隅の喫茶店でコーヒーを飲んで待っていると、思ったよりも早く奈緒が戻って来た。
その手には大きな紙袋を下げていて頬が上気している。
久しぶりの街デートもそこそこに二人は家路を急いだ。
奈緒はシャワーを浴びると、早速その日の戦果を身につけて見せてくれた。
そのブラはすばらしく綺麗で、そして大きかった。
流石はプロのフィッターである。
それは見事に奈緒の胸を包み、その形を一部も損なうことなく誇示している。
おかげで奈緒の胸は抑圧から解放され、その新しいブラは、昨日までのブラに比べて奈緒の胸を昨日比二割増し、いや三割増しに見せていた。
しかもアンダーバストからトップまでの距離は四割増である。
それを身に付けた奈緒は、スレンダーな体型ながら、もはや巨乳といっていい姿になった。
そのアンバランスさは、大多数の男どもを悩殺するのに十分な破壊力である。
「あのフィッターのひと、『長年この仕事をしていますけど、こんな綺麗なバストは見たことありません。モデルさんですか』なんて言ったんですよ。
お世辞にしては大げさですよねー」
奈緒はにっこりと微笑んだ。
だが光輝は思った。
(そ、それはお世辞じゃあないな。
そのフィッターも、プロのくせにきっと少しは奈緒ちゃんの胸に嫉妬したに違いない)
「あ、それから……」
そう言った奈緒はさらにスカートも脱ぎ始める。
奈緒は光輝の方を向いて心配げに言った。
「あの、こ、これでどうでしょうか。光輝さんのお好みに合いますでしょうか」
奈緒がその身につけていたショーツは……
そう、まさに光輝のリクエスト通り、サイドがヒモになっていて結ぶタイプのものである。
だがその布地の面積の少なさは光輝の予想外だった。
それはもう必要なところを必要最小限だけ隠すといったシロモノである。
リオのカーニバルで踊り子が身につけるマイクロサイズの水着を俗にスタンプ(切手)と言うが、そのショーツも切手と言うには大げさながら、明らかに葉書の半分ほどの大きさしかない。
こういったタイプの下着は、やはりその煽情性を限界まで追求するものだったのである。
光輝の目の前で奈緒はくるりと回り、当然ながらTバックになった後部も見せる。
光輝はまたくらっと来た。
小ぶりだが形のいいまっ白な奈緒のおしりが眩しい。
Tバックの縦の細い部分は、ウエストを一周する横のヒモから離れてすぐに奈緒のおしりの間に消えている。
絶句する光輝を見て心配そうに奈緒が聞いた。
「あ、あの…… お好みとは違ってましたか?」
「い、いやそんなことは無い。絶対にそんなことは無いっ!
予想以上。そう、予想より遥かにいいよ! 見てるだけでどうにかなりそうだ……」
「よかったー。これ白ですけど、まだ他にいろんな可愛い色のがあったんです。
店員さんにも、カレが気に入ってくれたら他のも買いに来るって言っておきました」
(そんなこと堂々と言われた店員さんも驚いたろうなあ。
明日買いに行ったら、今日見せてたっていうのがバレちゃうよなー)
光輝はそう思ったが何も言わなかった……
(つづく)