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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
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*** 25 バチカンからの招待状 ***


 それからしばらく経ったある日。


 なんと瑞祥研究所にバチカンから招待状が届いた。

 日本にいた大司教がわざわざ訪ねて持って来たのである。

 法王様が一行に会いたがっているのだと言う。


 どうやら瑞巌寺ツアーの外国人の中にはバチカンの神父もいたようで、その報告を聞いて、ローマ法王はいたく彼らに興味を持ったらしい。

 さっそく龍一所長と光輝、それに厳空と厳真がバチカンに向かうことになった。


 崇龍さんももちろん行きたがったので、崇龍さん担当の厳上とその弟子たちも二人、お手伝いでついて行くことになった。

 バチカンの差し向けた旅客機で一行は寛いでいたが、崇龍さんははしゃぎまわっていた。

 やはり初めての海外旅行が嬉しいらしい。


 ローマ国際空港に着いた一行を待っていたのはバチカンの大司教だった。

 傍らには流暢な日本語を話す若い神父もいて、一行は税関などは素通りして黒塗りの車列でバチカンに向かう。


 法王庁の玄関で出迎えてくれたのは、サルバドーレ・ロマーニオと名乗った枢機卿だった。

 枢機卿は崇龍さんの姿を見て少し驚いていたが、事前に聞かされていたのだろう。

 硬直することもなく、一行はそのまま小さな法王謁見室に案内される。


 すぐに法王サバティーナ二世が部屋に入って来た。

 気さくそうなおじいさんだ。

 法王はキリスト教徒でない一行に配慮して握手をした。

 本来なら光輝たち全員が法王の前に跪いて法王の指輪にキスするところである。


 法王はやはり崇龍さんの姿を見て少し驚いている。

 枢機卿も法王もさすがの霊力で、厳真の助けを借りること無く崇龍さんが見えた。


 法王は一行にいろいろと質問した。

 もちろんあの若い神父がすぐに訳してくれる。


 法王は特に崇龍さんと話をしたがった。

 崇龍さんも気安く法王様と話をしている。

 バチカンや法王様のことを知らないわけではなく、元来がそういう性格である。


 やはり法王も、崇龍さんはただものでは無いとすぐにわかったらしい。

 子供霊たちの成仏のときのことなどを長いこと話していた。



 ようやく聞きたいことを聞いた法王は、少しいたずらっぽい顔をした。


「ここからほど近い礼拝堂に霊が居ついておりましてな。

 皆さまのお力でなんとかしていただきたいのですよ」


 枢機卿と通訳の神父は、光輝たち一行をその礼拝堂に案内した。

 その礼拝堂の入り口の前に来た一行は驚愕した。

 すぐに厳真がその姿を皆に見せてくれる。


 そこには身の丈二十メートルはあろうかと言う鎧姿の騎士の霊が、大きな槍を持って立っていたのである。

 槍は中世風の装飾のあるゴツいものである。

 騎士の顔は面に覆われていて見えない。


 光輝たち一行を見ると、その騎士は槍を構えて一行に向けた。

 強烈な霊気がその体から発散されている。

 見たことも無いほど強力な霊だと言うこともそれでわかる。


 と、崇龍さんが腰の大刀を抜いた。

 黙って一行の前に出ると、その体がみるみる大きくなる。

 崇龍さん本来の身の丈三十メートルの姿になった。

 大刀を青眼に構えて騎士の霊に対峙する。顔は真剣だ。


 騎士の霊も大きくなった。崇龍さんとほぼ同じ三十メートル近い姿だ。

 まるで怪獣同士の戦いだ。二人の気配がまた大きくなった。

 騎士の気配は先ほどの三倍近い。

 厳空や厳真ですら脂汗を流すほどの恐ろしい気配である。


 お互いの技量を図ろうとする精神の攻防が続いている。

 両者の対峙は五分ほども続いたろうか……



 と、崇龍さんが大刀を降ろした。騎士も槍の穂先を下げる。

 崇龍さんが大刀を腰の鞘に納めて微笑んだ。騎士も槍を立てて面を上にあげた。

 そこには意外に若い青年の笑顔があった。


 崇龍さんはいつもの五メートルほどの大きさに戻った。

 騎士の霊もほぼ同じ大きさに縮む。

 二人は向かい合って座ると笑顔で見つめ合った。


 騎士の霊が通訳の神父を見る。神父は二人に近づき、早速通訳を始めた。

 崇龍さんと騎士の霊はなにやら親しげに話をしている。

 どうやらお互いを相当に気に入ったようだった。


 三十分ほども話していたが、通訳の神父が途中で携帯を開いてなにやら電話で依頼している。

 すぐにワインの大樽と、巨大なジョッキが二つ届けられた。

 中世で使われていた木のジョッキである。

 二人の霊はワインを酌み交わし始めた。

 崇龍さんはワインがかなり気に入った様子だ。


 崇龍さんが厳上を呼ぶ。


「ここには日本酒は無いものかのう。

 この騎士殿にお返しに日本の酒をご馳走したいのじゃが」


 厳上がどうしたものかと悩んでいると、枢機卿がローマの日本大使館に連絡を取ってくれた。

 幸いにも翌週のレセプションに備えて日本から吟醸酒を空輸してあったので、すぐに持って来てくれるという。


 さすがは枢機卿の依頼である。

 菰被りの吟醸酒が枡とともにまもなく届けられ、喜んだ崇龍さんは騎士の霊に吟醸酒を差し出した。


 一口飲んだ騎士は顔を輝かせ、ふたりはさらに意気投合してどんどん飲み始めた。

 もちろんいくら飲んでもワインも吟醸酒も減らないが、それでも酒精は減っているはずだ。


 とうとう崇龍さんが言った。


「わしはここでこの騎士殿と酒を酌み交わしておるからの。

 皆は戻ってくれてかまわんぞ」


 枢機卿はもうひとり通訳を呼ぶと、にっこり笑って崇龍さんたちを残し、光輝たち一行を連れてまた法王庁に戻った。



 今度は光輝たちはさっきの謁見室ではなく、もっと小さな書斎のような部屋に通された。

 後で聞いたのだが、そこは法王の私的な書斎で、滅多なことでは通される客はいないそうである。


 間もなくやってきた法王は、ロマーニオ枢機卿から騎士と崇龍さんの対峙の様子を詳しく聞いていた。

 そして、枢機卿から先に刀を降ろしたのが崇龍さんだと聞くと、にっこりと微笑んで光輝たちに向き直る。


「あの騎士殿の霊は、五百年も昔にこのバチカンを守るために異教徒と戦って亡くなった、ミケッツィオという名の若い騎士の霊なのですよ。

 それ以来五百年にわたってバチカンを守ってくださっていたのです。

 バチカンを害しようとする者には容赦は無いが、それ以外のときは実に気さくで優しいいい霊なのですよ。

 神父や司教の友人も大勢います。


 今日は彼らを通じてミケッツィオ騎士殿にあのような演技をしてもらいました。

 皆さんを試すような真似をしてすみませんでした」


 そう言った法王はまたいたずらっぽく笑った。


「それにしても噂通りでしたな。

 皆さんは攻撃されなければ戦わない。

 相手がどのような悪霊であっても、必ず対話してから事を構える。

 いやお見事なポリシーであります。感心しましたよ」


 法王は嬉しそうだった。


「そのような皆さんに質問があります。

 皆さんのあの哀れな子供たちの霊を天に昇らせて差し上げるという尊い事業のことは、よく見させていただきました。

 お恥ずかしい話ですが、あれこそこのバチカンもやっていなければならなかった事業であると反省したのです」


 法王は率直だった。


「なぜ皆さんはバチカンですらやっていなかった事業を始められたのですか?」


「それは、我々が神や仏は見えず、霊しか見えていなかったからだと思います」


 龍一所長が答える。いつもと違い真面目な口調である。


 法王は、続けてくれというように微笑んだ。


「皆さんは神やイエスキリストと直接話をしておられます。

 我々にはそのようなことは出来ません。

 ただ、地上の気の毒な霊たちが見えただけです。

 だから出来ることから始めただけであります」 


 法王は嬉しそうに微笑んだ。


「これも噂通りですな。

 そのような皆さんにお願いがあります。

 私たちの若い神父を勉強のために皆さんのところへ留学させていただきたいのです」

 

 龍一所長はその場で快諾した。


「ご親切にどうもありがとうございます。

 それではこのロマーニオ枢機卿といろいろお話し下さいませ。

 枢機卿がしばらく皆さんのお世話をさせていただきます」


 法王の謁見は終わった……



 ロマーニオ枢機卿は控えていた若いマリオという名の神父に紅茶を注文した。

 皆で素晴らしく座り心地のいい椅子に移って紅茶を頂く。

 枢機卿が静かに切り出した。


「バチカンはキリスト教以外の宗教を認めていません。

 ですから仏教も認めない聖職者も多いのです。

 ですが一方で、あれは個人が弟子たちに教えた道徳であって、宗教ではないとする一派もあります。


 また、もはや現代では宗教対立などしている場合ではなく、現実に即して他の宗教とも歩み寄るべきだという一派もあります。

 まあこれは少数派ですが」


 光輝たち一行は黙って聞いている。


「法王様はお立場上、キリスト教の絶対性を支持しなければならないのですが、現実派です。

 仏教が宗教であろうとなかろうと、その優れた点は見習わねばならないとお考えです。もちろん私もそうです。

 ですが、今はバチカン内で論争などしている場合ではありません。


 皆さんにはたいへん申し訳ないのですが、留学生の受け入れは非公式なものとしてお願いしたいのです。

 また、形式上は仏教の教義の調査ということにして頂きたいのです。

 もちろん実際にはすべてあなた方の思う通りの教育をしてやっていただいてけっこうです。

 形式ばかり申しあげて申し訳ありませんが、そういうことでお願いできませんでしょうか」


「はい、わかりました」「畏まりました」


 龍一所長と厳空は答えた。

 そんなことはまったく気にしていないという口調だった。



 ロマーニオ枢機卿に連れられてやってきた留学生は、初日に通訳をしてくれたあの若い神父で、名前をマリアーノ・ユシェンコと言った。

 マリアーノ君は身長百八十センチほどの、細身で可愛らしい顔をした優しい青年だった。


 だが語学の天才であり、十ヶ国語を話せると言う。

 日本語もほぼ完璧だった。柔道は黒帯だそうだ。

 さすがはバチカンである。人材は豊富だった。


 帰国した一行に、アメリカ大使館から連絡が入った。

 アメリカ人神父の留学生もひとり受け入れて欲しいと言う。

 もちろん龍一所長はこれも快諾した。


 その留学生は、ミハイル・グレインジャーと言う名のこれも長身のハンサムな若い男だった。

 マーシャルアーツの達人だそうで、やはり日本語は流暢である。


 あのホワイトハウスの件があったとき、現場にいたワシントンDCを管轄している大司教が反省して送りこんで来た留学生であるという。


 ハーバードを卒業後に神父になった変わり種で、子供のころから霊が見えたのが大人になってもそのままだったのを、天の声と思って神父になったそうだ。

 もちろんバチカンのマリアーノ君も霊は見えた。







(つづく)


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