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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
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*** 22 結婚披露宴 ***


 瑞巌寺の本堂では、退魔衆一同が崇龍さんに平伏して、命を助けてもらった礼を言っていた。


「いやそれほどのことをしたわけではござらん。

 じゃがもう少し相手を見て、対話をしてから事に臨まれたらいかがかの。

 誰とでも戦おうとするは、まるで戦国の武将のようじゃぞ」


 そう言って崇龍さんはカラカラと笑った。


 退魔衆一同は、また平伏すると、「仰せの通りに」と言った。

 どうやら退魔衆には最強の交渉人かつボディーガードがついたようだ。


 崇龍さん担当の厳上には瑞祥研究所からプラチナカードが渡された。

 現金も三百万円ほど渡され、無くなったらいつでも研究所の会計担当から貰うこと、そして崇龍のわがままはほとんどなんでも聞いてあげること、という指示が出た。

 領収書は貰えるなら貰うが、別に無くともかまわないという。


 意外にも崇龍さんはこれを喜んだ。

 そうしてまた厳上を振りまわしながら、タブレットPCだのデジカメだのを買ってもらった。

 崇龍さんは現代好き、新し物好きだったのである。

 特に総合家電ショップがお気に入りだった。


 まあ、その程度ならあまりおカネもかからない。

 また、菓子も好きで、スイーツ雑誌を見ながら次々にお供えしてもらって試している。

 ヨックモックのケーキがお気に入りになった。


 厳上の弟子たちがまた走り回ってこれを調達したが、お供えしたあとはみんなの口に入るので誰も嫌がらない。


「崇龍さま、このケーキが評判なのですよ」などと言って自分が興味のあるスイーツを崇龍さんに勧めている娘もいる。

 崇龍さんも目を細めて、「おおおお、それでは是非試してみんとな」とか言っている。


 童たちを連れ歩く重圧から解放され、崇龍さんの心のタガが外れたようだった。

 まあ、退魔衆全員の命の値段としてはタダみたいに安いものだったので、龍一所長はニコニコしながらこれを見ていた。

 特に龍一所長は、ケーキを食べながら崇龍さんと無駄話するのが至福の時になったようだ。



 また、崇龍さんは乗り物も気に入った。

 車はもちろん新幹線や飛行機も大のお気に入りだ。

 遠方に退魔の仕事にいく退魔衆がいると、必ずこれについて行きたがった。


 まあ、場所も取らないし、別に交通費がかかるわけでも無い。

 しかも退魔の前には必ず相手の悪霊と対話をし、退魔中にも退魔衆が危険になればいつでもバックアップ出来るように後ろで待機していてくれた。

 これほど心強い相棒はいない。



 あるとき、上級退魔衆の厳勝がかなり強力な悪霊の退魔に当たった。

 もう何人も現世の人々が犠牲になっている。

 しばらくその悪霊の前で座禅を組んでいた崇龍さんは、その相手に激怒した。


「おのれは我利妄執のために人を殺めておったかあっ! この崇龍、きさまだけは許せんっ!」と言うなり、腰の大刀を抜いてその強力な悪霊を一刀のもとに切り捨ててしまったのである。

 

 退魔衆の元に戻った崇龍さんは、「すまぬ。つい腹が立ってやってしもうた」と悪びれたふうも無く言った。


 その様子は厳勝の八人の弟子たちも見ていた。

 帰ってから幹部たちにも報告されたが、弟子たちも弟子仲間に伝えた。

 改めてみな大いに喜んだ。

 龍一所長は応接室でよく崇龍さんと酒を酌み交わすようにもなっている……





 とうとう龍一所長と桂華の結婚式の日になった。

 もちろん結婚式は瑞祥一族の菩提寺の瑞巌寺での仏前式である。

 光輝と奈緒も誘われて、同じ日に瑞巌寺で結婚式を挙げることになっていた。


 今日は瑞巌寺での法要はお休みである。

 だが大勢の僧侶たちが居残ってくれていた。他宗の高僧たちも大勢いる。


 まず午前中に龍一所長と桂華の結婚式が取り行われた。

 広い本堂には、二人とその親たち、最も近い親族らが座っている。

 本堂の外には毛氈が敷き詰められ、両家の親族らが並んで座っていた。


 斉田家側に配慮して、瑞祥一族の人数はそれほどでもない。

 本気で全員出席すれば二千人はいただろう。

 その周囲は敷物の上に座った僧侶たちが取り囲んでいる。

 こちらは三百人ほどいた。


 厳攪大僧正が祭主となり、結婚式は粛々と取り行われた。

 三々九度も無事終わり、二人は無事夫婦となった。

 筆頭様と二席さんと三席さんはおんおん泣いていた。


 結婚式そのものはおごそかではあったが実に地味である。

 式の最後に両家固めの盃が交された以外は料理も出ない。

 午後の三尊家&三尊家の結婚式も同様に粛々と行われた。

 三尊幸雄も大泣きしていた。



 披露宴は翌日である。

 龍一所長と桂華、光輝と奈緒の結婚披露宴は、瑞祥グランドホテルで朝十時から行われる。

 同時に厳空と詩織ちゃんの婚約披露パーティーも行われる。

 みんなにせっつかれた厳真も、しばらく前に純子さんにプロポーズしてその場で泣きながらOKを貰っていたので、これに加わることになった。


 つまり、二組の結婚披露パーティーと二組の婚約披露パーティーの計四組のパーティーが同時に行われるのである。


「僕らはいいけどさ。

 何度も来て下さる方がお気の毒だから、まとめてやっちゃおうよ。

 いいでしょみんな」 


 龍一所長がそう言って決まった。

 もちろん誰も反対しなかった。

 披露宴の費用はご隠居様が小遣いから出してくれた。



 パーティーは、二席さんの経営する瑞祥グランドホテルで朝十時に始まった。

 完全立食形式で、乾杯もスピーチも無い。

 招待状は一応随分前から配ってあったが、誰でもお友達を連れてご参加くださいと書いてある。

 何人連れて来てもかまわないのだ。ご祝儀も固辞させて頂きますと書いてあった。


 パーティーはなんと夕方六時まで続くが、何時に来てくれてもいつ帰ってもいいことにしてあった。

 これならみんな気兼ねなく来られるだろう。

 いかにも光輝たちらしいパーティーである。



 話には聞いていたが、当日の披露宴会場を見て光輝は驚いた。

 県内一大きな瑞祥グランドホテルはすべて貸し切りである。

 宿泊客は誰もいない。

 

 五百人収容を誇るメインバンケットルームだけでは当然足りず、その外にある広い庭園と、その隣の広大な駐車場にもボードやカーペットが敷き詰められてすべて会場になっていた。


 庭園のほとんどは瑞祥建設自慢の強化ガラス製の屋根に覆われている。

 開口部も広く、来客は自由に外の庭園や会場に出られた。

 あのルーブル美術館の高名なガラス製のピラミッドによく似た巨大な構造物である。

 ルーブルよりも遥かに大きい。


 台風でも来たら危ないのではないかと思われたが、ガラスは実に強固であり、また開口部はすぐに閉ざすことが出来るそうである。

 幸いにも当日は快晴だった。


 会場は全部で同時に五千人収容可能だという。

 バンケット会場としては圧倒的に日本最大だそうだ。

 後に芸能人の結婚式や巨大な催し物が何度も行われて、日本中で有名なバンケット会場になった。



 龍一所長夫妻、光輝と奈緒、厳空と詩織ちゃん、そして厳真と純子さんには、それぞれの名前を記した大きなプラカードを持ったホテルの担当者がつき従っている。


 光輝はモーニングの正装で、奈緒は簡素だがよく見れば凝った白いウエディングドレス姿である。

 女性たちはみな同じようなドレス姿だったが、厳空と厳真はそれぞれの僧階の正式法依を身につけていた。


 会場の片隅では研究所のスタッフたちや女性の弟子たちが、厳真と純子の幸せそうな姿を見てそっと涙を拭いている。

 まあやはり幼なじみは最強なので仕方が無い。

 それに他にもステキな退魔衆たちは大勢いるのだ。

 彼女たちもそのうち笑顔になった。



 会場の外では大勢の警察官が交通規制を敷いている。

 所轄署の警察官だけではもちろん足りず、甲斐県警本部長の指示のもと、県内全ての警察署から応援が来ていた。


 まあ、彼らにとっては栄光のオレオレ詐欺事件発生ゼロと警察長官表彰の恩人たちの式である。

 金一封まで貰っていたのだ。

 不平を言うものはいるはずもなく、皆熱心に働いていた。


 甲斐は事前に警察庁幹部から、VIPの訪問が予想されるので警備に不足が無いようにとの指示を受けていた。

 今さらの指示だったが、つまりは過剰警備になっても叱責は無いという意味である。

 甲斐はにっこり笑って大警備体制を敷いた。


 大勢の警官がホテル周辺の道路に出て、車で来た来場客を近隣の白井グランドホテルの駐車場や河川敷の臨時駐車場に誘導している。

 最寄り駅や空港とホテルの間は、シャトルバスがひっきりなしに往復していた。



 ホテルの入り口を入ると、広いロビーには記帳台が二十もあり、それぞれにホテルスタッフがついて記帳を受けつけている。

 さらにそのテーブルにはそれぞれに私服のベテラン刑事らが二人ずつつき、好ましからざる客をチェックしている。

 怪しげな客は、計四十人もいるそんな彼らの目を見て用事でも思い出したかのようにすぐ帰って行った。


 光輝たちの親しい友人らは、そんな彼らの視線には気づかずに、周囲を見て驚いているのですぐわかる。

 中には強引に中に入ろうとする不審な者もいたが、私服警官が目くばせすると、待機していた元警察官の中級霊が二人ひと組で尾行に入る。

 なにか不自然な行動を取ると、一人がそやつに取り憑いて体の自由を奪い、もう一人がすぐに警備霊本部に待機していた退魔衆のところに報告に戻るのだ。

 幸いにも、そういう輩はほとんどいなかった。



 会場内に入った客はここでも驚かされる。

 メインバンケットルームには、全周囲に料理や飲み物のテーブルがあり、大勢のホテルマンがトレイを持って歩きまわっている。


 瑞祥グランドホテルの従業員だけではもちろん足りず、全ての瑞祥系列のホテルから応援が三百人も来ていた。

 白井グループの系列ホテルからも応援が二百人来ているそうだ。

 それに加えて臨時の派遣スタッフも採用されて、客の前には出ない下働きを手伝っていた。


 これらスタッフの総計は一千人を超えているそうである。







(つづく)


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