表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
38/214

*** 7 凶悪事件 ***


 その凶悪事件はある夏の夜に起きた。


 瑞祥異常現象研究所からさほど離れていない国道沿いの商店に強盗が押し入り、一家三人を殺害して多額の現金を奪ったのである。


 その商店では、最近店主が取引先の銀行と大喧嘩をして預金を全部引き上げていた。

 店先でも多くの客がその諍いを見ていたので、多額の現金を二階の自宅に置いてあることは有名だったらしい。


 その事件は連日県内の報道を賑わせたが、たまたまニュースが少なかったこともあり、それは全国ネットでも報道された。

 もちろん警察は全力を上げて捜査に乗り出している。

 県警に捜査本部が設けられ、地元警察署の署長を筆頭に強力な捜査体制が取られていた。


 普通はそういう場では署長は指揮を取らないものだが、署長は捜査一課長からの叩き上げだった。

 あまたの事件を解決して署長にまでなった男である。

 県警本部長の信任も厚く、現場の実力者としての実績を買われて陣頭指揮を命ぜられていたのである。



 だが捜査は難航した。


 怨恨の線は途絶えがちである。

 その商店主は、銀行との諍いを別にすれば円満な性格で、家族にも問題は見つからなかった。

 まさか取引を打ち切られた銀行やその担当者が凶行に及んだとは考えにくい。

 一応担当者も調べられたが、強固なアリバイもあった。


 物証はさらに少ない。

 犯人は推理小説マニアらしく、全身を何かで覆い、頭もストッキングで覆って体毛を残さないようにしていた。

 靴さえ何かで覆っていて足痕も不鮮明だった。


 捜査本部長でもある徳永警察署長は苦悩した。

 県内の報道は毎日続いているのだが、捜査に進展は見られない。

 県警本部長からは毎日報告を求められる。

 だが報告出来ることはほとんどなく、刑事から叩き上げた徳永は苦しんでいた。


 報道は次第に警察の無能ぶりを非難し、これでは安心して暮らせないという住民の声を連日紹介し始めている。

 とうとう警察庁からも県警本部長に報告を求める連絡が入り始めた……



 そんな折、地元選出の新田代議士が、秘書を通じて徳永署長に連絡して来たのである。

 あの瑞祥異常現象研究所に極秘で助力を求めてはどうかと言うのだ。


 徳永はそういう異常現象だの霊だのは一切信用しない現実主義の男だったが、他ならぬ地元選出の衆議院議員であり、与党の大物でもあった代議士を無視するわけにもいかなかった。

 徳永警察署長兼捜査本部長は、代議士の第一秘書に連れられて、瑞祥異常現象研究所を訪れたのである。


 第一秘書は、あの自死した若手秘書の事件の折りに現場にいた男であり、瑞祥研究所や退魔衆たちを全面的に信頼していた。

 秘書は徳永署長に、瑞祥研究所と退魔衆たちは、ホワイトハウスの役に立ったこともあるのだとほのめかし、消極的だった徳永を説得して連れて来たのである。


 研究所の所長室で、龍一所長や光輝、厳空や厳真といった幹部メンバーと、代議士第一秘書と徳永捜査本部長の会談が行われた。



「……ということで、こちらの研究所の助力をお願いできないかとお邪魔した次第です」


 徳永警察署長はまだ懐疑的な顔をしている。


 龍一所長はいつのも穏やかな声で言った。


「そういう事例は今まで扱ったことはありませんねえ。

 第一、異常現象や霊がからんでいない案件ですのでねえ」


「そこをなんとか…… センセイもあなた方に大いに期待しておりますので……」


「まあ、それほどまでに仰るのでしたら、少しお手伝いさせていただきますか。

 でもあまり期待しないでくださいねえ」


「ありがたい」


 徳永署長は、カネ目当てか、警察に協力したという売名行為だと思って少しうんざりした。


「実際たぶんお役には立てないと思いますけど、お手伝いするにあたってひとつだけ条件があります」


「なんなりと」


「仮にもし我々が何らかの手柄を立てられたとしても、それは全て極秘ということにしてください。

 手柄は全て警察さんのものということで」


 第一秘書は微笑んだ。


「いつも通りということですな。報酬は?」


「もちろん要りませんよ」


「それもいつも通りですな」


 徳永署長は少し驚いている。だがまだ半信半疑だった。


 第一秘書と警察署長が帰ると、龍一所長は光輝たちに言う。


「まあ、そんな捜査みたいなことが出来るかっていう実験と言うことで…… 

 あんまり無理しないでいいからね」


 なんとも気が抜ける檄である。



 光輝は厳真と問題の商店に行ってみた。


 いつか警察小説で読んだ、「現場百度」という言葉を思い出したのである。

 もちろんなんの期待もしていなかったのだが、散歩がてら行ってみることにしたのだ。


 ところが……

 現場の真向かい、国道を挟んですぐ反対側に地縛霊がいて、僧衣の厳真に懸命に手を振っているではないか。


 すぐに光輝と厳真はその地縛霊のところに行った。

 それは三十代前半ぐらいの美貌の女性地縛霊だった。


「どうされましたか」厳真が聞く。


「ああ、よかった。やっとお話が出来るひとに会えた」


 その地縛霊はうれしそうに言う。

 厳真は霊の声を光輝にも伝えた。


 聞けば彼女はこの場所で我が子を交通事故で失い、悲しみのあまり床に伏せるようになって、そのまま死んでしまったのだという。

 気づいたら我が子愛しさのあまり、生前毎日ふらつきながらも通ったこの場所で地縛霊になっていたそうだ。


 それ以来、小さな子供を交通事故から守ろうとこの場所で奮闘してきたそうである。

 助けた子供の数は多かったが、危うく助かった事例はみなすぐに忘れる。

 ましてや相手は子供である。

 たまに霊の見える子供を助けたときに「おばちゃんありがとう」と言われたことを励みに、毎日子供を交通事故から守っているそうだ。


 その美貌の地縛霊が言う。


「私、しばらく前の夜中に、あの向かいの商店に強盗が入るのを見たんです。

 可哀想にお店の人たちはみんな殺されてしまいました。

 交通事故ではないので助けることも出来ません。


 せめてもと、そのときたまたま遊びに来てくれていた浮遊霊さんにお願いして犯人の後をつけてもらったんです。

 幸いにもいくら後をつけても絶対に気づかれることはありませんし」


 女性地縛霊は少し微笑んだ。


 光輝たちは驚いてその地縛霊の話に聞き入っている。


「その浮遊霊さんは、犯人が自宅に帰るところまで確認してくれました。

 犯人は今でも奪った現金と、被害者さんの机の上で見つけた推理小説の古い本を自宅に隠し持っているそうです」


「そ、そのお友達の浮遊霊さんに会わせていただけませんでしょうか」


「ええ、もちろん。

 その方はいつも今ぐらいの時間になると遊びに来て話し相手になって下さるから、もうすぐおみえになると思います」



 光輝たちは待った。待つ間にもその女性地縛霊の話を聞く。


「私、成仏したいんです。成仏してあの世で息子に会いたいんです。

 もっとここで子供たちを助けてもあげたいんですけど、息子に会いたくて仕方が無いんです。

 でも、自殺同然の死に方をした私は、地獄に落とされて息子に会えないかもしれません」


 女性地縛霊の目からは涙がこぼれている。


「だから怖くってあの世に行けないんです……」


 美貌の地縛霊はひとしきり泣いていた。


 そこに空から浮遊霊が降りて来た。

 やはり三十代半ばぐらいの優しそうな顔の男の霊である。


「あ、志郎さん。こちらの方々は私たちとお話ができるのよ」


 志郎さんと呼ばれた浮遊霊は、ちょっと驚いて光輝たちを見つめたが、やがて納得したように頷いた。


「ですから志郎さん。

 あの晩に起きたことと、志郎さんがご覧になったことを教えて差し上げていただけませんでしょうか。

 お願い致します」


「わかった。咲さん」


 志郎と呼ばれた浮遊霊は、女性地縛霊を咲さんと呼んだ。

 どうも咲さんを憎からず思っているようである。


「犯人の住所はわかってる。どうやら犯人はずっと家から出ていないようだね。

 食料も買いこんであって、周到に準備しての犯行だったようだ」


 咲さんと呼ばれた地縛霊は、ようやく現世のひとに自分たちが見たものを伝えられたので嬉しそうにしている。

 そうした咲をちらっと見た志郎という名の浮遊霊は、光輝たちに言った。


「じゃあこれから一緒に犯人の家まで行ってみないか。近所だし」


 光輝と厳真は、丁寧に咲さんにお礼を言い、志郎の後について歩き始めた。 



 道々光輝は厳真を通して志郎の霊に聞いてみた。


「志郎さんはどうして浮遊霊になったんですか」


「うーん。

 なんでだかわからないんだけど、気がついたらこうなっちゃってたんだよ。

 ひよっとしたら、好奇心が旺盛だったからかもしれないね」


「そうなんですか」


「だからいつもふらふらして、いろんなものを見ているんだけどさ。

 そのうち他の浮遊霊とか地縛霊の友達もたくさん出来たんだ。

 今はそういった友達たちと、おしゃべりをして回るのが楽しいかな」

 

 いろんな霊もいるものである。


「志郎さんや咲さんみたいな霊の方っていっぱいいらっしゃるんですか?」


「うん、いっぱいいるよ。

 でも現世のひとには見えないし、いくらいっぱいいても僕ら場所も取らないからね」

 志郎は明るく笑った。


「中には咲さんみたいに現世の人を助けようとして頑張ってる霊もいるけど、大半は僕みたいなふらふらしている霊かなぁ」

 志郎は久しぶりに現世の人間と話が出来るのが嬉しいらしく、饒舌である。


「悪霊は?」


「ああ、あいつらには近づきたくないね。

 なんか陰湿だし話も出来ないし。でもあんまりいないかな」 


 光輝たちと志郎は三十分ほども歩きながら話したろうか。

 志郎が言う。


「着いたよ、この家だ。犯人はひとりで住んでる。

 なんだか海外に行く計画があるみたいだから、捕まえるなら早い方がいいよ」


「本当にどうもありがとうございます。

 あ、そう言えば志郎さんにまたお会いしたくなったらどうすればよろしいのでしょうか?」


「うん、また今ぐらいの時間に咲さんのところに来てくれれば会えるよ」


 光輝たちは志郎にも丁寧に礼を言って別れた。



 一旦異常現象研究所に戻って龍一所長に報告すると、「うっわー、僕も行けば良かったよお。なんで途中で呼んでくれないのお」と不謹慎なことを言った。

 所長はかなりスネている。


 光輝が、「こんど咲さんや志郎さんに会うときは一緒に連れてってあげますから」と言うと、渋々大人しくなった。


 アメリカ合衆国大統領と堂々と渡り合った所長も、異常現象に関してはまるで子供である。







(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ