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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
36/214

*** 5 座禅会 ***


 麗子は真剣な表情で奈緒に向き直った。


「あ、あの…… お師匠様」


「はい?」 


「も、もうひとつだけ聞いてもいいかな」


「ええ」


 奈緒はまた麗子さんの役に立てるかもしれないと思って、にっこりした。

 まるで天使の微笑みだ。

 もともと純真な奈緒がそんなふうに微笑むと、もうこの世のものとも思えない。

 そう思いながらも、麗子は恐る恐る聞いてみた。


「あ、あのその。お師匠様はこれに書いてあることは、ほとんど全部とっくにやったことあるんだろ」 


「ええ」再び無邪気に答える奈緒。


「じ、じゃあさ、どうしてまだそんなに光輝はエッチしてくれるんだ? 

 これよりすごい超上級者編があったりするのか?」


「い、いえ、そんなサイトは無いんですけど……」 


「じ、じゃあどうして……」


「……………………」


「い、いや私が悪かった。そ、そんなこと聞くもんじゃあないな。すまん」 


「いえ、いいんですよ麗子さん。ちょっとまたお待ちください」 

 そういうと奈緒はまた自分の部屋に戻った。

 机の引き出しからシールを取りだして、なにかにぺたぺた張っている。


 それを持ってアロさんのいるソファに戻ると、それを裏返しにしてアロさんに渡した。

 奈緒の頬がちょっとだけ赤らんでいる。


「これをお見せしたことは光輝さんにはナイショにしておいてくださいね」 


 それはA4ほどの大きさの写真らしかった。アロさんがそれを裏返すと……

 それはなんと二人の愛の行為の写真だったのである。

 それも麗子には信じられないほどの淫蕩なものであった。

 いちおう際どい部分にはシールが張ってある。


 そんな超越的なことをされているのに、奈緒の目は光輝の目を愛しそうに見つめていて、顔も悦びに輝いている。

 やっぱり天使の笑顔だ。

 光輝の顔はよく見えないが、それでも奈緒をやはり愛おしそうに見つめていることはよくわかる。


 こんな信じられない程恥ずかしいことをされている最中に、こんな天使の笑顔が出来るとは……

 これほど淫蕩な行為の中に、これほどまでに二人の幸せな愛が写し込まれているとは…… 


 麗子は度肝を抜かれた。

 口が少し開いてわなないている。

 麗子は、目の前にいるよく知っているはずの奈緒が、実は聖女かなにかだったのかと思って少々狼狽した。


 尚もその写真を見つめるうちに、麗子はふとももをぴったりと合わせてちょっともじもじもし始めた。

(あ、あたし…… ち、ちょっと感じてる?)


 どうやら二人の淫蕩な、それでいて凄まじい愛の姿を見せつけられて、自分でも知らなかった心の奥底の願望に気づかされ、麗子は少し潤ってしまったようだった。

 麗子はその恥ずかしさに気づかれまいと、また奈緒に聞いた。


「こ、これ、隠し撮り?」 


「いいえ、光輝さんにおねだりして撮っていただきました……」 


「げげげげげげげげっ! お、おねだりっ!」


(麗子さんの驚いたときの声って、少しヘンかも……)

 そう思った奈緒はまた笑顔になって言った。


「私がいないときにも、他の女のひとの裸の本なんて見ないで私の裸を見てください、って言っておねだりして撮っていただいたんです」 


「そ、そんな大事な写真にシールなんか張ってもらって、も、申し訳ない」 


「あ、大丈夫ですよ。二人の写真は他にもまだ千枚ぐらいありますから」 


 再び驚愕に絶句する麗子。


「ま、参りましたっ!」


「えっ」 


「やはりあなたは私のお師匠様ですっ! れ、レベルが違いすぎますっ! 

 い、いやもう次元すら違いますっ! 

 お、お師匠様っ、これからもよろしく御指導くださいませっ!」 


「えええっ」 


(いつかお師匠様のおかげで、私もレックスに、こ、こんなこと…… 

 でも、も、もしそんなことしてもらえたとしても、私はこんな天使の笑顔が出来るんだろうか……)


 そう思った麗子は、これからの道のりの遠さを想いながらまた頬を赤らめた。




 その日の夜。

 やはり豪一郎の帰りは遅かった。

 いつもの通り夕食は外で取るので要らないと言われていた。


 麗子は奈緒に貰って記入したあのペーパーを、ダイニングのテーブルの上に置いていた。

 さらに麗子は大河君がすやすや寝ているベビーベッドを、自分と豪一郎の巨大なダブルベッドの脇からちょっと離した。

 そして持っている中でいちばん魅力的だと思っているネグリジェを着て、どきどきしながらベッドに寝ていたのだ。


 豪一郎が帰って来た音が聞こえる。

 麗子はますますどきどきしながら寝たフリをした。


 三分後。

 豪一郎が勢いよくベッドルームに飛び込んで来た。

 大河君のベビーベッドを軽々と持ち上げて、さらに二人の巨大なダブルベッドから遠ざける。


 豪一郎は急いで衣服を脱ぎ棄て、情熱的に麗子に覆いかぶさって来た……

 麗子は、「ああ、豪一郎さん…… 麗子 う れ し い 」と言いながらぽろぽろ涙をこぼした。


 豪一郎は麗子をきつく抱きしめている。

 麗子の方からも積極的に豪一郎にキスをしてその口に舌を差し入れた。

 麗子は、もし豪一郎が来てくれたら、今日はさっそくあの項目を最低五つは実践すると決心をしていたのだ……



 翌日の土曜日の朝。

 光輝と奈緒が早朝の散歩をしていると、大河君のベビーカーを押しながら、麗子さんと豪一郎さんが散歩をしているのに出会った。

 豪一郎さんが一緒なのは珍しい。


 麗子さんが頬を赤くして奈緒に小さく手を振った。

 麗子さんの顔は美しく輝いている。

 豪一郎さんは目を少し赤くしている。寝不足だろうか。

 豪一郎さんが奈緒にちょっと会釈をした。これも極めて珍しい。


 その日の麗子さんたちに外出の気配は無かったが、夕方遅くになって奈緒がまた光輝と散歩をしていると、豪一郎さんと麗子さんが大河くんを連れて買い物から帰って来たのに出会った。

 麗子さんはその腕に豪一郎さんの腕をしっかり抱えている。

 麗子さんの大きくて綺麗な胸がそちら側だけ少し歪んでいた……



 後で奈緒が麗子さんに聞いたところによれば、その日の麗子さんの机の上には、ほとんどの項目に○がついた、「カレがアナタにしたいと思っていること」が置いてあったそうだ。

 麗子さんが嫌がるのが怖くて、したくても出来なかったことばかりだったらしい。


 最後の欄には、「子供に万が一のことがあるのが怖く、またまだ産後の具合がわからず何も出来なかった。許してくれ。愛している。豪一郎」と書いてあったそうだ。

 二人はそれから毎日あのペーパーを見ながら実践を始めたらしい。

 もちろん豪一郎さんの帰宅時間もとっても早くなったそうである。


 麗子と豪一郎は、それぞれの評価点も項目ごとにつけている。

 麗子八十五点、豪一郎九十五点とか書き込んでいるそうである。

 二人の総合点が百五十点を超えたものは復習することになっているそうで、どうやら上級編の最後の方以外は全部復習しているとのことである。



 数日後、光輝が奈緒に言った。


「今日レックスさんがさあ、最近なにか困ったことはないか、俺に出来ることならなんでもしてやるぞ、って言ってくれたんだ。

 そんなこと言われたこと今まで無かったのに。なにかあったのかなあ」


「きっと光輝さんを一人前の男として認めてくださるようになったからですよ」 

 奈緒はうれしそうにそう答えてかわした。



 光輝は、レックスさんがせっかくそう言ってくれたので聞いてみた。


「レックスさんは、瑞祥グループのいろんな会社に出入りされてますよね」 


「ああ、一応全社の社外取締役だからな」 


「僕、税務顧問として顧問料を貰っていながら、ぜんぜんお役に立っていないんですよ。

 ですから皆さんに、なにか僕に御要望があったら教えてください、ってお伝え願えませんでしょうか」


「わかった。任せておけ」 



 レックスさんは翌日たったの一日で瑞祥グループ全社のヒアリングを終えた。

 その中で十二社ほどは、自社や取引先に霊障事件と思われる件を抱えていた。

 ただ、それほど重要ではなく些細なものだと思われたので、今や全国的に有名になって多忙を極めている光輝に遠慮して、相談出来なかったそうである。


 光輝はすぐに十二社全てに連絡を取り、近いところはその日のうちに光輝が偵察し、遠いところは退魔衆に頼んで訪問してもらった。


 退魔衆たちは、すわ三尊守護神殿の御依頼だ、名誉法印大和尚様からの御指示だ、と言って上級者が駆けずり回り、五台の瑞祥交通退魔衆専用車を駆使してその日のうちに全ての事件を解決してしまった。

 中にはけっこう強力な悪霊もいたらしい。


 霊障事件を解決してもらった各社はもとより、噂を聞きつけたグループ全社の光輝に対する評価はさらに上がった。

 こちらでも光輝の守護神扱いが始まっている。


 瑞祥豪一郎社外取締役の評価ももちろん上がった。

 なにしろ結果的にあの高名な退魔衆たちを即座に動かして、相談した翌日には事件を解決してしまったのである。

 グループ各社首脳は親切で実行力のある本家次期当主補佐役を、さすがという目で見始めた。




 翌日光輝が瑞巌寺にお礼に出向き、丁寧に平伏して感謝の意を述べると、厳攪大僧正が晴れ晴れとした笑顔で言う。


「なんのなんの。あれは退魔という修行の一環でありますぞ。

 それに退魔衆一同、無事に名誉法印大和尚様の御指示に応えることが出来て、たいへんに喜んでおりまする」 


 厳空を始めとする退魔衆たちも実に嬉しそうで誇らしげな顔をしている。

 厳攪がいなかったら皆でハイタッチしていたかもしれない。


(こんなふうに見返りをまったく期待せずに、恩義を恩義で返していくやり方って素晴らしいよなあ。みんな本当にいいひとたちだよなあ)


 光輝はそう思っていたが、自分がその中心人物だということには気づいてはいなかった……





 光輝は瑞巌寺で週に一回の座禅会を続けている。

 僧侶たちはどんなに忙しくともその座禅会には全員が参加していた。

 おかげで瑞巌寺の僧侶たち、特に退魔衆たちの霊力が、格段に上昇して来ているそうである。


 あの沖縄のリゾートでは、光輝が近くにいさえすれば、厳空や厳真は霊の姿を一般人に見せてあげられて会話までも出来ていたが、もはやその能力は退魔衆十五人全員が会得したとのことだそうである。


 彼ら自身も、光輝との座禅修行を続けるうちに、どこまで自分たちの能力が伸びて行くのか見当もつかないと言っていた。


 実は光輝の霊力も上がっていた。

 墓地の上にふわふわと漂うあのもやもやが、徐々に人の形に見えて来ていたのである。

 最近ではその表情すらもわかるようになってきていた。


 それを聞いた龍一所長も実に嬉しそうに微笑んだ……






(つづく)


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