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【初代地球王】  作者: 池上雅
第一章 【青春篇】
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*** 26 ゆでダコ ***


 退魔衆の弟子になった瑞祥青年団の霊視能力者の中には、成人前後の女の子も十五人ほどいる。


 その子たちは初日にはかなり大人しい水着を着ていたのだが、翌日は驚くほど大胆な水着に変わっていて、頬を染めながら師匠の周りを闊歩している。

 ゆさゆさまではいかないが、ふるふるぐらいまでは行っている。


 そんな大胆な水着を着るのは彼女たちも生まれて初めてだったろう。

 どうやら美人スタッフ軍団に対抗するためにホテルのショップで買い求めたらしい。

 やはり集団心理とは恐ろしいものであり、かつ嬉しいものなのである。


 ホテルのショップなんて高いのに…… 

 と光輝が思っていると、社長の好意で八割引で売ってもらえたそうだ。


 さすがは高級リゾートホテルの社長である。

 瑞祥研究所ご一行様方の様子を観察していて、地味な水着を着ていた若い娘たちが、ちょっと悲しそうに自分の水着を見てため息をついているのに気づいたらしい。


 社長はお客様のニーズがすぐにわかったのだろう。

 彼女たちが恐る恐るブランド品ばかりを扱うショップを覗いてみると、大胆な水着のみが八割引になっていたそうである。


 退魔衆予備軍団や瑞祥青年団の男の子たちの大半は、彼女たち以上美人スタッフ以下の年齢である。

 つまり、美人のお姉さんたちには相手にされないものの、霊視能力者の女の子たちは充分にターゲットなのだ。


 大胆な水着に着替えた女の子たちは、たちまち男の子たちの熱い視線を浴びた。

 女の子たちは、あくまでお師匠様を選ぶか、それともステキな兄弟子やお兄様たちを選ぶかという究極の、そして贅沢な選択を迫られたのだ。


 結論から言うと、お師匠様を選んだ娘たちから将来の退魔衆のお嫁さんになった娘は五人ほど出たが、お兄さんたちを選んだ娘はほとんどうやむやになったらしい。



 そうした時ならぬモテ期を迎えた娘たちも、家に帰って冷静になってから自分が身に着けていた水着を見て愕然とすることになる。


 いったいなんという布地部分の少ない水着であろうことか。

 慌てて裸になって鏡で自分を見てみると、日焼けした部分は驚くほど多く、白い肌の部分は異様に少ない。

 特におしりなんか白いところがほとんど無い。

 ビキニショーツの横のヒモ状の部分で出来た白い線は、お尻の割れ目が始まるところよりも下にあったりするではないか。


 この日焼けした部分を全部お師匠様に見せていた…… 

 そう気づいた彼女たちは皆、ただでさえ日焼けで赤い顔をさらに赤くしてゆでダコのようになった。

 翌日以降の修行の際にも、お師匠様の顔がまともに見られないゆでダコ娘が続出した。

 繰り返すが集団心理とは、嬉しくもかつ恐ろしいものなのだ。


 だが結果的にそのゆでダコ顔が決定打になったことに気づいた者は少なかった。

 真面目なお師匠様たちに対しては、意図的な大胆水着よりも、そうした恥じらいの方が遥かに遥かに有効だったのである。


 お師匠様たちの多くが胸きゅんさせられてしまったのだ。

 やはり計画よりも作為の無い純情の方が効果絶大であった。



 ビーチリゾートでは、彼女たちばかりではなく、一部の瑞祥青年団の男の子たちや退魔衆予備軍の若い僧侶たちと、美女スタッフ軍団の一部の間にも恋が芽生えつつあるらしい。

 どうやら退魔衆をめぐってもみあいを続けているうちに、お互いが気になりだしたようだ。


「なんだか合コン旅行みたいになってきたぞぉ」と光輝は思った。

 それが自分や奈緒が出しまくっている超絶フェロモンのせいでもあることには気づいていない。


 まあ、光輝や奈緒、そしてレックスさんやアロさんクラスの美男美女がフェロモンを大盤振る舞いしながら、いちゃいちゃしているのを見せつけられているのである。

 ましてアロさんのお腹はレックスさんとの愛の結晶で膨らんでいるのである。

 そしてここは亜熱帯の離島の高級リゾートなのである。

 若い男の子たちと女の子たちが突如種族保存本能に目覚め、ときならぬ恋の季節を迎えても致し方のないことである。


 翌日からは、相変わらず退魔衆を囲むグループごとの行動が多かったが、中にはそっとカップルで消えて行くものも出始めた。

 光輝たちも厳空を誘ったりせずに放っておいた。

 麗子さんに言われて龍一所長と桂華も誘わなかった。

 どうやら龍一所長は、この旅行の間に桂華に正式に交際を申し込むつもりだそうだ。


 あとでアロさんから聞いた話だが、そのときの龍一所長と桂華の会話は一方的だったらしい。


「あ、あの、桂華さん…… 

 僕と正式におつきあいしていただけませんでしょうか……」

 

「はい」(珍しく初々しく)


「あ、あの、所長と秘書というのではなく、プライベートで……」 


「はい」(それは当然でしょう、何を言ってるんだこのひとは、という顔をして)


「あ、あの、たまには二人だけでドライブしたり、食事をしたりして、その、デートとかも……」 


「はい」(元気よく)


「ひょっとしたら家に来てもらったりもして……」 


「はい」(頑張ってつつましやかに)


 つまり桂華は頬を染めて龍一所長を見ながら、何を言われてもはいとしか言わなかったそうだ。

 その場で結婚を申し込んでも「はい」(うれしそうに)としか言わなかったかもしれない。



 ビーチでは、真さんや箭さんがまたウインドサーフィンの見事な腕前を披露している。

 真さんや箭さんの取り巻きたちが、完全に心酔しきった顔できゃーきゃー言いながらそれを応援していた。


 ビーチの一方では、レックスさんが空さんに、「久しぶりにまた軽くやるか」と言って立ち合いを始めた。

 他の退魔衆やその取り巻きたちが大勢見守る中、強靭な大男二人の立ち合いが始まったのだ。


 もとより二人は本気では無いものの、その余裕を立ち合いの型にまわして実に優美かつ華麗な、まるで舞のような立ち合いが繰り広げられている。

 たまに相手に当たる拳の音も凄まじい。まるで格ゲーのような立ち合いだ。

 大勢の観客からはどよめきやため息が止まない。


 最後には空さんがレックスさんをハデに投げ、横たわるレックスさんの胸に向かって、強烈な気合とともに必殺の一撃を繰り出した。もちろん寸止めである。


「ま、まいった……」


 二人は正座して礼をすると、にっこりと微笑みあった。

 周りの大歓声と盛大な拍手はいつまでも止まなかった。

 アロさんはちょっとだけ残念そうな顔をして、やはり盛大な拍手を送っている。

 横にいる詩織ちゃんはもっと激しく拍手している。

 感動と憧れに溢れる恋心が加わって涙まで流していた。


(さすがはレックスさん。ナカナカ粋なことをするものだ)

 光輝はそう思った……







(つづく)


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