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【初代地球王】  作者: 池上雅
第一章 【青春篇】
24/214

*** 23 親睦旅行 ***


 それからしばらくの後、光輝は厳攪和尚から、是非瑞巌寺までお越し願いたいという立派な書状を受け取った。

 もしよろしければ奥方様も一緒に来て頂きたいとも書いてある。


 当日光輝と奈緒が研究所を出ようとしていると、なんと五人もの退魔衆たちが迎えに来た。

 なんだか恐ろしいほどのVIP扱いだ。


 案内されて瑞巌寺本堂に入った光輝はちょっと驚いた。

 厳攪の斜め前には小さな老僧がちょこんと座り、その後方には大柄な僧侶が十人ほども並んで座っていたのである。


 全員厳めしい顔つきで、厳空よりもだいぶ年上のようだった。

 光輝が座って名を名乗り、お辞儀をして挨拶するとその小さな老僧が口を開いた。


「三尊殿。わしは厳正と申しますじゃ。

 この度は、ここにいる厳攪やその弟子たちがえらくお世話になり申した。

 厚く御礼申し上ぐる」


 厳正が低く平伏する。後ろの僧侶たちも一斉に平伏した。

 光輝も奈緒もたじろいだ。


 厳攪が取りなすように言う。


「こちらは総本山の厳正大僧正殿での。

 今日は三尊殿に御礼を奏上するために総本山から参上させて頂いたのじゃ」 


 厳正が光輝の後上方に目をやった。


「おおおお、まことにありがたい三柱もの尊いお姿であらせられることじゃ。

 これほどのありがたいお姿はわしも初めてじゃ。長生きはするもんじゃのう」 


 そう言うと厳正はまた合掌したまま平伏した。

 後ろのコワい僧侶たちも同様に合掌して平伏する。


 光輝はまだたじろいだままそわそわしている。

 厳正は続ける。


「ここにいる厳攪はわしの弟弟子での。

 その弟弟子がなんと五人もの弟子に神仏視の力を体得させおった。

 神仏視の力を得るものは三十年にひとりと言われておるが、五人もの弟子にその力を授けたのは、間違いなく当派新記録じゃろうのう。ほっほっほ。


 その功績を認め、ついにわしの説得を聞き入れた厳攪は大僧正となったのじゃ。

 そして三尊殿。

 わしたちの多大なる感謝の意を込めて、名誉法印大和尚位をお贈りさせていただきたいのじゃが、お受け頂けるものかの」 


「あ、あのその、それって私がお坊さんになるっていうことですか?」 


 無意識に髪の毛に手をやりながら光輝は聞いた。


「ほっほっほ。いやいや、あくまで名誉位階じゃよ。

 我らの感謝の印の名前だけの位階で三尊殿にはなんの義務も無いのですじゃ」


「あ、ああ、そうですか。

 それではありがたくお受けさせていただきますです」 


「お受け下さって、まことに嬉しく思いますじゃ」


 そう言うと厳正大僧正は三たび平伏した。

 後ろのコワい僧侶たちも全員平伏する。


 謁見が終わると、後方にいた屈強な僧呂たちがどこからともなく輿を持ってきた。

 そして厳正大僧正をそっとその輿に乗せると、八人がその輿を担ぎ上げている。

 どうやら高齢のために足腰の弱っている大僧正をそうやって移動させているようだ。

 五台の黒塗りに分乗した総本山の僧侶たちは、光輝たちが見送る中無事帰っていった。



 大僧正となった厳攪が光輝に向き直る。


「いやはや、御礼を申し上げるためにお呼び立てするとは。

 三尊殿、すまなんだの」 


「いえいえとんでもない。あ、大僧正御就任おめでとうございます」 


 その後、本堂でまた厳攪と向き合った光輝たちに、退魔衆が茶と茶菓子を持ってきた。

 退魔衆たちも皆厳攪の後ろに座る。


「三尊殿は名誉法印大和尚位にお就き下されたからのう。

 これからは三尊殿が一声かければ、我が宗派の全ての僧侶たちがその命に従うのじゃ」


「ええっ!」 


「困ったことが起きたら、いつでもこの厳空に御連絡下されい。

 我が宗派の全員がその全力をもって三尊殿をお助け申す」


「ええええっ!」 


「三尊殿だけではない。その奥方様も以後五代の御子孫方も、向後百年に渡って我が宗派が全力でお守り申す。

 これこそが名誉法印大和尚位なのじゃ。

 この地位が発せられたのは二百年ぶりじゃのう」


「そ、そそそ、そんなあ」 


「まあ、それほど堅くお考えにならず、気楽に構えていてくだされ。

 ほっほっほっほ」 



 光輝にはまだよくわからなかったが、どうやら凄まじい守護神がついたようである。

 厳空や厳真並みの猛者たちが、これからは三尊一族を守ってくれるのだそうだ。

 自分たちだけでなく、子供や孫まで守ってもらえると知った奈緒は嬉しそうに光輝を見つめている。

 どうやらまた光輝に惚れ直してくれたようである。


「あの…… 厳攪大僧正様」


「厳攪さんでよいぞ」 


「あ、ああ、そ、それでは厳攪さん。実はひとつお願いが……」 


「おお! 早速御依頼を下されると申されるか。

 なんでもお申し付けくだされい」 


「あ、あのですね。私は退魔衆の方々と…… あのその、も、もっとお友達になりたかったんです。

 尊敬されたり崇拝されたりするんじゃあなくって、お友だちになりたいんです。

 皆さん素晴らしくいい方々ですから。

 こんな立派な方々が十五人も友達になって下さったら、それは僕たちの人生にとってもものすごく素晴らしいことだと思うんです……


 で、ですから、その…… 

 皆さんともっとお近づきになれるように、旅行、い、いや修行合宿にでも……」 


「おおっ! なんという素晴らしい御指図をいただけたことじゃろう! 

 のう、厳空や。どうじゃろのう」


「ははっ。誠に素晴らしき命を賜り、この厳空、感じ入りましてございます」


「それでは師からも提案じゃ。

 三尊殿と一緒にしばらくの間、どこぞに旅にでも行って一緒に楽しく遊んでおいで。

 お前たちはそれだけの修行と仕事をしてきたのじゃからのう」 


「ははあっ! 誠に有難く存じ上げまする!」 



 ということで光輝は退魔衆とともに休暇旅行に行くことになった。

 もちろん費用は全額瑞祥研究所持ちである。

 瑞祥旅行社の担当者を呼んで、旅行日程は七泊八日と決められた。 

 そのうち最初の三泊四日は、光輝と退魔衆だけで遊んで親睦を深め、その後龍一所長や奈緒ちゃんやレックスさんやアロさんも合流することになっている。


 龍一所長はもうノリノリである。

 こんなに楽しいことは生まれて初めてだと言っていた。


 所長は研究所の美人スタッフたちや瑞祥青年団や退魔衆見習いたちにも声をかけ、後半の四泊五日は総勢百五十人を超える大旅行にしてしまった。

 もちろん所長秘書の桂華も行く。


 どうやら光輝の名誉法印大和尚位就任に心底驚愕した御隠居様から、たんまりと旅行費用をせしめたらしい。


 場所は沖縄の離島の高級リゾートホテルを貸し切りにすることになった。

 沖縄はすでに夏だが、まだ夏休みには少し間があり、貸し切りに出来たのだ。

 一部には予約が入っていたが、瑞祥旅行社の担当者が別の高級ホテルを半額以下で提示してそちらに誘導してくれた。


 総勢百五十人以上も泊まるのに、最初の三泊四日は光輝と退魔衆十五人しかいない。

 なんとも贅沢な旅行になりそうである。



 出発前のある日、コジャレた服を扱う瑞祥グループ系列のブランドショップの閉店後、光輝と奈緒、そしてアロさんや桂華と退魔衆たちの姿があった。

 龍一所長の指示で、私服をあまり持っていない退魔衆たちのための服を買いに来たのである。


 店員さんたちは退魔衆のスタイルの良さに驚きながらも、ブランド物のジーンズやチノパン、デザイナーズTシャツやポロシャツなどを次々に勧める。

 どんなTシャツを身につけても、退魔衆たちの大胸筋が盛り上がっていて素晴らしくクールである。


 なるべく地味な服を選ぼうとする退魔衆たちを説得し、麗子さんや桂華や店員さんたちの応援を得て、オシャレでハデな服を押しつけた。

 退魔衆たちは当惑しながらも嬉しそうだ。


 請求書はすべて龍一部長に回すように言われているので大盤振る舞いである。

 特に剃髪している彼らのために、イカしたキャップやワッチが重視された。

 水着もサンダルももちろんブランドものである。


 十五人分で総額は百万円は軽く超え、二百万円に迫ろうとしている。

 費用はちょっと心配だったが、龍一部長は、「先月だけで謝礼や寄付を二千万円も貰ってるんだもの。ぱーっと使っちゃおうよ」などと軽く言っていた。


 買った品物は、到底持ち帰れそうになかったので、ひとり分ずつ大きな箱に詰めて配送にしてもらう。

 これで準備は万端である。


 沖縄まで飛ぶ飛行機の出発前日、光輝たち十六人は瑞祥交通のバスで空港近くのホテルまで連れて行ってもらった。

 もちろんホテルの部屋もスイートである。

 翌日のフライトも全員ファーストクラスだった。


 沖縄本島からチャーターヨットに乗り換えた光輝たち一行は、無事離島の高級リゾートホテルに着いた。

 プライベートビーチを持つ、白亜の壮麗な建物である。

 百五十人以上は泊まれるホテルにはほとんど光輝たちしかいない。

 ホテルのスタッフたちも大勢出迎えてくれている。

 しばらくの休息の後、光輝たちはダイニングルームに集合した。


 広いダイニングルームの中央に大きなテーブルが設えられ、その周囲には光輝たち一人につき一人の専用ホテルスタッフがついた。

 見たことも無いような豪勢なフルコースが始まる。

 テーブルには巨大な伊勢海老や見事な天然クルマエビ、山盛りのフルーツなどが置かれ、ホテルスタッフに頼むと小皿に綺麗に取り分けてくれた。


 アルコールこそ頼まなかったものの、若い光輝と退魔衆たちは、存分にその豪勢な食事を堪能した。

 皆さすがの食欲である。


 食後は水着に着替えてみんなで外のプール脇にある大きなジャクジーに入った。

 南国の澄み切った空に満天の星が輝き始めている。

 ホテルのプライベートビーチの方角からは、静かな波の音が聞こえていた。



 光輝は退魔衆の中でも最も若い僧が泣いているのに気づいた。


「どうしました? 大丈夫ですか?」


「せ、拙僧は自分が怖いのです。

 このような素晴らしい待遇を受けたせいで、今までの修行の成果を失って、路頭に迷いそうな自分が怖いのです。

 こ、こんな経験をさせて頂いた後で、自分は果たして今まで通りの修行を続けて行けるのでしょうか……」 


「それを心配しているうちは大丈夫だ。

 そういう心配をしなくなったところから堕落が始まるのだ。

 堕落が不安で泣くようなお前が堕落するはずはあるまい」


「は、はい、厳空僧正様」

 

「おいおい、自分を拙僧と言ったり、わしを僧正様などと呼ぶのは、この旅行中にはやめようと皆で申し合わせたではないか。

 空さんでよいぞ。厳真は真さんだ」


「は、はい」 


「これはな、戦士の休息なのだ。

 戦士は戦うときは全力で戦い、休息するときにも全力で休息するのだ。

 そうして全力で休息できる者こそが全力で戦えるのだ。

 だからお前も全力で休息せよ」 


(さっすが厳空さん。いいこと言うなあー)光輝は感心した。


「それにだな、ここには三尊殿もいらっしゃるのだ。

 三尊殿の御側にいるのは修行のうちである。心して修行するように」


「は、はい」 


「空さん、空さん」


「なんですか三尊殿」 


「拙僧と言ったり厳空僧正様と言ったりするのは禁止なんでしょ。

 だったら僕を殿とか呼ぶのもおかしいんじゃあないですか?」 


「おお! これは失礼をば。それではなんとお呼びしたものかのう」


「空さんは僕より年上なんですから、光輝って呼んでくださればいいんじゃないですか?」


「……光輝…… なにやらバチが当たりそうじゃのう」 


「あはははは、そんなもん当てませんってば。

 そんなもん当てる前に空さんに拳を当てられて気絶しますってば」


「あはははは。それでは光輝さん。これからもよろしく」 


「はい空さん。御一緒できて楽しいです」 


 他の僧侶たちもなにやらほっとした様子だった……







(つづく)


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