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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
213/214

*** 43 二つ目の惑星所有者 ***


 しばらくして、今や銀河連盟の手によって太陽系から半径百光年の範囲に拡大されている警戒網の末端で、小さな脅威物体がひとつ発見された。


 太陽系との相対速度〇・二C、質量はおよそ地球の月ほどの天体であり、その軌道予測も冥王星軌道のかなり外側を通過する見込みであった。


 地球の資源があればソフィアちゃんでも対応出来るレベルの脅威物体である。

 もちろんその最接近は五百年後の予定である。


 だが…… 銀河連盟防衛軍に加えて、なんと百万を超える連盟加盟恒星系から数百万隻もの最新鋭軍艦が派遣され、その脅威物体は直ちに排除されたのである。

 同一の目的で一か所に集結した艦隊の規模としては、圧倒的に銀河史上最大の超絶大艦隊だったそうである。

 その信じられないほどの大威容は見る者全てを畏怖させた。


 彼らにとって、特に彼ら個々の惑星防衛軍のAIたちにとって、ディラック閣下とソフィア閣下のおわす聖なる地を脅かす存在があること自体、許しがたかったそうだ。

 それにどうやら彼らには、この地球という地が自らの第二の生誕の地であるという認識があるらしい。



 空前の規模の超絶大艦隊の壮絶な飽和攻撃によって、脅威物体が素粒子レベルにまで完全に分解されると、大艦隊のみならず全銀河でも一様に大歓声が沸き起こった。

 銀河連盟にしても、連盟の結束が大いに高まったこうした行動は、大歓迎すべきものだったそうである。



 地球の森林惑星やシベリアシェルターで三週間に渡って行われた『脅威物体消滅祝賀会』には、大派遣軍のすべての将兵一億二千万人がAIも含めて招待され、これも銀河の歴史に残る一大イベントになった。


 まあ、既に二十億人を受け入れる態勢が整っている施設である。

 それが六%増えたからといってどうということはない。




 その後、銀河連盟の手によって、地球防衛網は半径五百光年の範囲に拡大された。

 銀河連盟への十分な出資も集まったため、冥王星軌道付近には銀河連盟防衛軍一個大隊が常時駐留することにもなった。


 もちろんその分遣隊も地球や森林惑星の周囲に配置され、地球は連盟の本拠惑星やあの惑星ファサード並みの防衛体制が取られることになったのである。


 おかげで隕石はもちろん、もはや地球近傍に彗星が訪れることすら無くなってしまったのだ。


 実は派遣軍の兵士たちには森林惑星での休暇が解放されていたため、この派遣軍参加は実に人気があるそうである。



 森の惑星表面では、銀河連盟防衛軍の兵士たちや、研修の合間のヒューマノイドや、研修を終えたAIや、避難生活中の惑星デューンの住民らが入り乱れて休暇を楽しんでいる。

 瑞巌寺学園が森の惑星に移転してくると、これに地球の子供たちも加わった。

 もう地球人なのか銀河人なのかAIなのかすらもわからない。


 そのうちに、デューンの子供たちは惑星表面でもデューン牛やデューン羊の背に乗ったピクニックを始めたのだが、これが大人気になっている。


 ここでもデューンと地球とAIの子供たちが入り乱れて、長い隊列を組んだデューン牛や羊の背に乗って長距離ピクニックをするのである。


 慣れない地球の子のために、防衛AIの子が遮蔽フィールドで守ってあげたりもしていた。


 牛から落ちても痛くもなんともなかったのに驚いた小さな子が、にこにこしている少し年上に見えるAIの子に、「お兄ちゃんどうもありがとう!」とか言っている。



 海辺のバーベキューゾーンまで来ると、そこでデューンの子が牛になにやら声をかける。

 そうするとその牛は、大きな尻尾を地面にぶつけて落としてくれるのだ。

 それをその場で焼いてみんなで食べるのだが、これが実に美味しかった。


 大勢の大人たちは少し羨ましそうな顔をして眺めていたが、たまにもう何頭かも尻尾を落としてくれたので仲間に入れてもらえることもある。

 デューン牛たちも、子供たちからお返しにお菓子を貰えるので嬉しそうである。


 ピクニック隊の解散前には、こどもたちみんなにおしりにつけるシッポが配られて、家畜たちと一緒にまたあのおしり振り体操をする。

 みんな笑顔できゃきゃー言いながらこれに参加したが、そのうちに周囲の大人たちも大勢加わるようになっている。


 おしり振り体操とその音楽は、その後全銀河宙域で流行したそうだ。

 宇宙港などの公共の場で誰かがイタズラであの音楽を流すと、みんな笑顔でおしりを振り始めるらしい。




 そうした楽しそうなひとびとの数がどんどん増えて来たので、光輝たちは試しにデューンの大農場の下のスペースも改造して惑星表面のように作り直してみた。


 百メートルの高さを持つ個々の土壌工場を十段ほど取りはらって、高さ一千メートルほどの自然スペースを作ってみたのだ。


 もちろん周囲の太陽光集光衛星からの太陽の光もふんだんにあったし、天井には青空や星空を映し出すバーチャルスクリーンも張った。

 そのスクリーンには朝焼けや夕焼けも映し出される。


 最初は光輝たちも出来栄えを心配していたのだが、資金やドローンの労働力にほとんど制限が無かったため、それは素晴らしいスペースになった。


 安心した光輝たちは、この空間にも海を作り、また地球表面から巨木を運んで大きな森も作ったのである。

 まあ、光輝は惑星管理AIのニールスくんにただお願いしただけだったのだが……



 その出来栄えの素晴らしさは銀河人たちにすら絶賛された。

 大いに喜んだ光輝は、あと数十階層ほどこうしたスペースを作ることにしたのである。

 熱帯階層や亜寒帯階層、ウインタースポーツ用に寒帯階層も作った。

 マリンスポーツ用に半分以上が海に覆われている階層まである。


 マグロなどの回遊魚の養殖のために、階層全体がほとんど海で覆われているスペースまで作られた。

 まあ、なんせ一周するだけで三千キロもあるスペースである。

 力いっぱい泳いでいる回遊魚たちも、まさかここが養殖槽だとは思っていないだろう。


 この大養殖事業はまたもや光輝の資産を大幅に増やすことにもなったが、なによりも美味しいマグロをたくさん食べられるようになったのでみんなが喜んだ。


 銀河技術のおかげで、実は回遊魚であるウナギの養殖にも成功し、「うな重」の店は森林惑星名物として定着した。

 うなぎ専用養殖階層の一部の陸地に造られた清流には、いつも超大量のうなぎが生息している。


 その後「うな重」は、かの地球名物超高級料理として銀河中に広まり、またしても光輝の資産を大幅に増やしてしまった。




 これらの階層の総面積は、地球の全陸地面積に匹敵している。

 完全に人工物のくせに、人工物らしきものがほとんど見当たらない空間と言うものも奇妙なものだったが、まあ中にいるひとが満足してくれるならそれでいいのだろう。


 一方で本来の樹木育成を目的とする二つ目の森の惑星も、もう完成間近であった。

 これで光輝は二つ目の惑星所有者になったのである。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 その後、地球とZUIGANJIは銀河連盟から『銀河功労章』を授与された。

 それと共に、技術力が高く富裕な星々からは、さまざまな無償の返礼の申し入れが相次いだ。

 その中にはなんと地震を激減させるテクノロジーまであったのである。


 そのテクノロジーは、膨大な量の特殊なナノマシンを地殻中に送り込み、プレートが重なり合った部分の岩石の歪圧力を重層次元に逃がしてしまうという驚異的なものだった。


 割れたり押しつぶされたりしそうになっている部分を、そのままの形で圧力の無い状態にしてしまうらしいのだ。


 そうして歪を逃がした後で、特にプレート同士が激しくこすれ合う部分や、地殻とマントルの間そのものにナノマシンが滑らかな層を作り、それぞれの摩擦を軽減もしくは無くしてしまうそうである。


 銀河でも富裕な星々では既に多くが導入済みの標準技術だそうだ。

 それ以外にも、大気や海の浄化技術や、高度医療技術の提供などが相次いだ。



 おかげで地球人の幸福度は跳ね上がった。

 これも銀河宇宙からの返礼として、地球各地に優秀な防衛用AIが多数配置されたため、爆発事故のような偶発事故が起きることも激減した。

 犯罪行為も防衛AI配下のナノマシンたちのチェック体制によって激減している。

 防衛AIたちにとっては、あの憧れの地球での仕事だということで、希望者が殺到しているそうだ。


 こうした福音は、地球人にとってはやはり全て光輝の功績に見えたのである。



 あの瑞巌寺治療施設による世界一億人のガン患者救済は、第一次世界大福音と呼ばれていた。

 それに続いてあの人類救済プロジェクトは第二次世界大福音と呼ばれ、この時期の福音は第三次世界大福音と呼ばれるようになった。


 そうして、第一次から第三次までの超絶的大福音をすべて成し遂げた人物として、光輝とその一派は、以降地球で永遠に尊崇される存在になったのである……






(つづく)


***次号エピローグ***

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