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【初代地球王】  作者: 池上雅
第一章 【青春篇】
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*** 20 修行場と法要 ***


 光輝のところには、大勢の退魔衆たちから、「どうか拙僧にもっと難しそうな霊障事件を与えてくださいませ」というお願いが殺到している。


 そういう際には、光輝は時間があるときは一緒に退魔の仕事について行き、その後方で座禅を組んであげた。

 退魔中に霊力が大幅にUPした退魔衆たちはこれに大いに喜び、光輝の人望はさらに高まった。


 週に一度の瑞巌寺での光輝の座禅は、退魔衆の間で「光輝会」と呼ばれるようになり、全員が一緒に座禅を組みたがるようになっている。


 その光輝会には厳空はもとより、時折厳攪までもが加わって光輝の横に座り、「ああ、ありがたや。暖かい御光のおかげで肩のコリがほぐれおった。極楽極楽……」などと言っている。


 光輝会には同じ宗派の別の寺からも大勢僧侶が来るようになった。

 光輝を取り囲んで巨大な座禅の輪が出来、もはやお堂の周りは足の踏み場もない。

 お堂の周りの修行場では、拡張工事が始まっていた。


(なんだか僕、RPGに出て来る治療師みたいになってきたぞお…… 

 ああいう服や杖を作ってもらおうかなあ……)


 厳攪によると、光輝の後上方の尊い三柱のお姿は、ますます大きく、そして強く光輝くようになっているそうだ。



 光輝は、そういう自分の霊力が、修行や退魔に手を貸すことではなく、奈緒ちゃんとエッチするごとに上がって来ているのではないかと考えている。

 冗談ではなく、本当にそう感じているのだ。


(そんなバチ当たりでハズかしいこと絶対言えないよなぁ…… 

 エッチ退魔衆守護神兼治療師三尊光輝かぁ……)


 その後も光輝は自宅で奈緒ちゃん相手に毎日せっせと楽しい修行にいそしんだ……




 ある日奈緒が光輝に言った。


「こんどわたしのおじいちゃんの十七回忌があるの。

 それでお父さんが光輝さんにも来て頂けないかって言うんですけど……」 

 

 三尊家の菩提寺は瑞巌寺である。

 だから奈緒も瑞巌寺を子供のころから知っていたのであろう。


「いつなの?」 


「来月の二十日なんですけど……」 


 翌月二十日は土曜日だった。光輝会の日である。

 修行会は通常なら早朝から行われるのだが、最近では近県からの参加者に考慮して朝九時から行われている。

 遠方からの参加者は前日から瑞巌寺や近郊のホテルに宿泊していた。


「何時から?」 


「えーっと、十一時からです」


 光輝会は通常一時間ほど座禅を組んで終わる。


「わー、ちょうどいいや。

 僕は九時から修行会に出てるから、それが終わってから十一時からの十七回忌に出られるよ」


「ありがとうございます光輝さん」 



 奈緒がそう幸雄に報告すると、幸雄はその修行会とやらを見てみたくなった。

 話を聞いた榊原も一緒に行きたいと言い、九時前に行くから修行会に参加させてくれという。 

 奈緒がそれを伝えると、光輝は厳空にお伺いを立ててみた。

 返事はもちろん快諾で、大歓迎だとのことであった。


「なにしろ三尊殿のお師匠殿と、将来の義父上殿ですからのう」




 十七回忌当日の朝、三尊幸雄と榊原源治は瑞巌寺に出向いて驚いた。

 山門で若い僧侶が五人も揃って彼らを出迎えてくれたのだ。

 案内されて一歩境内に足を踏み入れると、広い瑞巌寺の境内には既に大勢の僧侶たちが参集している。

 若い僧侶ばかりではなく、むしろ高僧の修行着をまとった老僧が多い。


 幸雄たちは一瞬、大きな法要でもあるのかと思ったが、その僧侶の集団は続々と瑞巌寺裏の石段を昇っていた。教えられた修行場へと続く石段である。


 幸雄と榊原は案内の若い僧侶に連れられてその石段を昇った。

 石段を昇っていた大勢の僧侶たちは、僧衣をまとっていない彼らに気づくと、皆端によって道を開けてくれた。

 丁寧に両手を合わせてお辞儀までしてくれている。


 修行場にあるほとんど壁の無いお堂の周りは広く拡張され、玉砂利が敷かれている。

 その修行場に足を踏み入れた幸雄はまた度肝を抜かれた。

 広い修行場は僧侶で埋め尽くされている。

 ここにいるだけでどう見ても二百人は下らない。

 まだ下の境内にいる僧侶も含めれば三百人を超えよう。


 その日は寒い寒い冬の日だったが、修行場は既に僧侶たちの熱気に包まれていた。



 その僧侶たちは、修行場の中心にある、ほとんど壁の無い柱と屋根だけのお堂を中心にして座っている。

 そのお堂の隅に座っているのは厳攪である。

 そしてお堂の中央には、なんと光輝が座っているではないか。


 幸雄と榊原は案内の僧侶に連れられ、光輝の隣に座らされた。

 修行僧の粗末な修行着を着た光輝が挨拶する。


「ようこそ修行会にお越しくださいました三尊さん、榊原さん。

 お出迎え出来なくてすみませんでした」 


「あ、いやなに、かまわんさ」 


 幸雄と榊原は参加を快諾してもらったお礼を言いに、厳攪に挨拶に行った。


 まもなく、座禅開始を告げる鐘の音が鳴り、その場にいる全員が座禅を組み始める。

 さすがは僧侶の集団である。しわぶきひとつ無い中静かに座禅は続いた。

 

 幸雄はときおり薄目を開けて周囲を見回したが、恐ろしいことに全ての僧侶が、自分、いや光輝の方を向いて座禅を組んでいる。

 しかも光輝に近い位置ほど年齢が高い高僧らしき僧が座っている。


 一時間があっという間に過ぎ、修行会の終了を知らせる鐘の音が響いた。

 圧倒されていた幸雄たちは寒さもあまり感じていなかった。


 と、隣の光輝が座禅を解き、前を向いて平伏した。

 すると修行場を埋め尽くす僧侶たちが、全員音を立てて光輝に平伏するではないか。

 幸雄と榊原の全身に鳥肌が走った。


 さらに僧侶たちが脇に寄って道を作り、まずは厳攪が、そして驚いたことに次に光輝がその空いた道を歩いて行く。

 幸雄も榊原も案内の僧に促され、光輝と一緒に歩き始めた。


 その後には見るからに高僧と思われる僧侶たちが続き、その後ろには中年の僧侶たち、そして最後には寒さに唇を紫色にした若い僧侶たちが、年齢順と見られる順番で続く。

 そういえば若い僧侶たちが寒そうにしているのに、不思議なことに高僧たちは皆暖かそうな赤い顔をしている。



 皆が広い本堂や退魔衆たちの宿舎に分散して収まると、若い修行僧たちが大勢動き回って高僧たちのお茶の準備を始めた。

 すると、高僧たちのなかでも長老と思われる僧侶が大きな声で言う。


「おおい、若い修行僧たちよ。

 まずはお前たちが暖かい飲み物を二杯でも三杯でも飲んで暖まりなさい。

 みな寒さで唇が紫色になっているぞよ。


 修行の足りないお前たちは、三尊殿の御光で暖まれなんだようじゃのう。

 わしらは三尊殿のおかげでぽかぽかじゃあ。

 年寄りは後回しでよいからお前たちが先に熱い茶を飲んで暖まりなさい」

 

「そうじゃそうじゃ」 


「わしらはまったくもって暖かい座禅を頂戴出来たからのう」 


 などという声があちこちから聞こえた。


 若い僧侶たちはほっとした顔で正座すると、急いでまだ熱い茶を飲んだ。


 もちろん光輝と並んで座っている幸雄と榊原の前には、皆と違った美しい茶碗に入ったお茶が真っ先に出されている。


「光輝君。あの暖かい御光というのはなんのことかな」幸雄が小声で聞いた。


「あ、すいません。ここじゃあなんですので後でご説明させてください」


 いつもならお茶を飲んだ僧侶たちはすぐ帰るのだが、今日は何故か帰ろうとしない。皆同年代の僧侶たちと実に楽しそうに話を続けている。

 まるで同窓会みたいだ。

 光輝は大勢の僧侶たちの間を回って挨拶をしていたが、どの輪でも大歓迎されているようだった。



 十一時が近づき、三尊幸雄と榊原源治と光輝は三尊家代々の墓の方に向かった。

 奈緒とその母ももう来ている。

 厳攪権大僧正が、煌びやかな正式法依を身につけて祭主としての位置についた。


 ふと気配を感じた幸雄と榊原が後ろを見ると、なんと修行会に参加していた全員と思われる僧侶たちが、三尊家の墓を取り囲んでいるではないか。

 二人の体に震えが走った。


 厳攪の読経が始まると、二節目からその場にいた三百人を超える僧侶たち全員が唱和し始めた。

 それは驚くべき大音量と荘厳さをもって続いたのである……



 十七回忌が終わると、光輝と幸雄は急いで山門に行き、大勢の僧侶たちが帰るのに合わせてひとりひとりにお礼のあいさつをした。

 光輝が僧侶たちに丁寧にお礼を言うと、皆から「いやいやこちらこそありがとうございました。これからもよろしくお願い致しまする」とか、「三尊殿の義祖父殿の法要に参加出来まして、拙僧身に余る光栄でございました」などと挨拶を返されている。

 あながち単なる儀礼でもなさそうだ。


 みんな光輝とひとことでも話がしたくて列に並んでいるらしい。

 列に並ばずに帰る僧侶がいなかったため、列が無くなるまでに一時間近くもかかったが、僧侶たちは大型バスや弟子の運転するクルマに乗りこんで、無事帰って行った。


(わたしにはひとを見る目が無かったな。逆の意味で……) 

 榊原源治もそう思った。







(つづく)


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