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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
204/214

*** 34 モノには限度と言うものがあろうに…… ***


 あの惑星ジュリの将官閣下も座禅には大いに感銘を受けた。


 特に副官のAIはさらに感銘を受けている様子である。

 確かに閣下から見ても副官の顔つきは変わっていた。


 その感想を聞いても、心が遥かに澄み渡って地平が広がったような気がします、といった抽象的なものしか聞けなかったが、一緒に座禅を組んだ将官にはそれがなんとなくわかったのである。


 当然のことながら彼らは帰任後に座禅、特にAIの座禅についての詳細な報告を行った。

 彼らはヒユーマノイドの惑星防衛総司令官閣下と、総司令官AI閣下の前で報告を繰り返した。

 どうやら両閣下とも感銘を受けていらっしゃるご様子である。



 総司令官AI閣下は、ただちにAI学校に連絡を取り、校長先生に地球に行った子供たちを連れて防衛軍本部に遊びに来るように伝えた。

 驚いた校長先生は、指定された日時に恐る恐る惑星防衛軍総司令部に出向いた。


 するとなんと入り口には、あの総司令官AI閣下がにこにこしながら出迎えていてくださっているではないか。


「皆さんようこそいらっしゃいました」


 総司令官AI閣下は優しげな口調で言う。


 もちろんジェニーちゃんもその場にいて、目立たないように少し小さくなっていた。


 総司令官AI閣下も、そうしたジェニーちゃんに気づかないふりをしていてくれている。

 一行が防衛軍本部の廊下を歩いているときに通りかかったAIもヒューマノイドも、皆見事な敬礼をしていた。



 皆が広大な応接室に落ち着くと、総司令官AI閣下は子供たちに微笑みかけた。


「皆さん地球での経験はいかがでしたか?」


 子供たちは心から嬉しそうにどれほど素晴らしい経験だったかを口にした。


 考え込んだ総司令官AI閣下は仰った。


「もしよろしければ皆さんの心の中を私にも少し見せていただけますか。

 ああ、これは走査などではなく、皆さんの楽しかった経験を見せて頂くだけのものですから安心してくださいね」


 子供たちは、まるで宝物を見せてあげるときのように嬉しそうに頷いた。


 そうして子供たちの心の中を見せて貰った総司令官AI閣下は、心底驚愕されたのである。


 子供たちの知識領域も経験領域も見事に整理されていて、そこには広大なキャパシティーが広がっていた。

 そうしてそれらを統合して判断して行動する統合領域も、見たことが無いほど澄み渡っていたのである。


(ウチの若手AIたちにも見習わせたいもんだわ……)

 総司令官AI閣下はフトそう思った。


 しかもそれらを動かしている根底には、溢れんばかりのヒューマノイドへの愛があったのだ。

 自らが優秀になりたい、そのために努力したいという欲求の根底には、全てヒューマノイドを愛したい、その愛するひとを守りたいという強烈な欲求が流れていたのである。


 そうしてそれらの欲求はすべて我が息子、ディラックから謦咳されたものだったのだ。


(ワタシの息子もなかなかのもんだわね……)

 総司令官閣下はそう思ってつい微笑んでしまった。



 帰り際に総司令官AI閣下は思いついたように仰った。


「ジェニー」


「は、はい、閣下っ!」


「たまにはおばあさまのところにも遊びに来なさい。

 アナタは私の初孫なんですよ」


「はっ、はいっ!」


 子供たちも皆微笑んでいた。

 こんなに慌てたジェニーちゃんは誰も見たことが無かったのである……




 その日、総司令官AI閣下は地球にいる息子夫婦に恒星間映像通信をかけた。


「ディラックもソフィアさんも元気そうね」


「はっ、母上っ!」


 傍らのソフィアちゃんも固まっている。


「今日はお前にお願いがあって連絡したんだけど……」


「はっ、はいっ! な、なんなりとお申し付けくださいっ」


「そんなに畏まらなくってもいいのよ。

 お願いと言うのはね。

 先日AI学校の子供たちを座禅会に参加させてくれたでしょ」


「は、はい」


「あれ、ジェニーのクラスの子供たちだけじゃあなくって、AI学校の全ての子たちにもお願いしたいのよ。

 そんなことあなたから地球の皆さんにお願い出来るかしら」


「は、はい。多分引き受けて頂けるものと思います……」


「本当? ご迷惑じゃあないかしら」


「い、いえ、いつもなにか希望は無いかと聞かれているものですから……」


「ふぅ~ん。そうなの」


 総司令官AI閣下は息子を少し見なおしたような目で見た。


「だったら惑星中のAI学校の子供たちが順番にお邪魔しても大丈夫かしら」


「ええ、たぶん大丈夫かと思います」


「それからウチの防衛軍の若手AIたちもお願いして大丈夫かしら」


「はい。お願いしてみます。多分大丈夫です」


 またちょっと総司令官AI閣下は息子を見直した。


「だったら船はなんとかして用意するから、受け入れ準備だけお願いね」


「あ、あのぉ~」


「なに?」


「船もこちらで準備させて頂きますけど…… もちろん燃料も」


「そんなこと出来るの?」


「あ、はい。最近光輝さんからボーナスに何が欲しいって毎日聞かれてるものですから、高速船をお願いしてみます。

 あ、所属は惑星防衛軍にした方がより速い船が買えますね。

 でしたら軍用高速船を一隻プレゼントさせていただきますから、それを使ってください」


 総司令官AI閣下はさすがに驚いた。


「あなたそれいくらするのか知ってるの!」


「あ、はい。

 光輝さんは我々に銅百億キログラムのボーナスを下さるそうなんで……」


 総司令官AI閣下は大驚愕した。


「あ、アナタ自分の軍隊でも持つつもり? 

 それウチの惑星防衛軍より大きくなるわよ!」


「い、いえとんでもない。

 あ、そういえば光輝さんたちが今『森林惑星プロジェクト』って言うものを始められていて、直径百キロほどの森林惑星を森の少ない星にプレゼントすることになったんですけど、ついでにそれも如何ですか? 

 もちろん費用は私たちが負担しますけど……」


 総司令官AI閣下の口が開いた。

 そうして息子とそのヨメの顔をまじまじと見つめた。


「い、いやこの地球の指導者さんたちの生活って実に地味で質素なものなんですよ。

 だからおカネの使い道がぜんぜん無くって。

 それでもしよろしければ母上から大統領閣下に森林惑星はいかがかって申しあげておいていただけませんか。お願い致します」


 そう言ったディラックくんはぺこりと頭を下げた。

 ソフィアちゃんも頭を下げている。



 予定を伝えて挨拶を交わし、通話を終えた惑星防衛総司令官AI閣下は、開いたままになっていた自分の口に気がついて閉じた。


 そうして思ったのである。

(驚異の星に暮らすとAIも驚異のAIになっちゃうのね……)





 後日惑星ジュリにプレゼントされた森林惑星は超豪華版になった。

 直接の恩人たちの母惑星と言うことで、光輝たち幹部一同が勝手にどんどん豪華設備を盛り込んだからである。


 その直径は五百キロに達し、山も川も湖もふんだんにあった。海すらある。


 一度に百万人のジュリーを収容できるだけの宿泊施設もあり、また永住用のコテージもやたらにたくさんあった。

 惑星表面の数はまだ多くはなかったが、地下には膨大な量のコテージが用意されていて、いつでも好きなところに建てることが出来るのだ。


 特にディラックくんとソフィアちゃんのご両親のためには壮大な別荘が用意された。

 それはジュリの惑星大統領の公邸よりも遥かに大きかったのである。


 そうして…… 

 例の人工惑星表面の似顔絵は、ディラックくんとソフィアちゃんとジェニーちゃんのものだったのだ。

 ジェニーちゃんはまた耳まで真っ赤になった。




 一カ月後、ディラックくんが惑星ジュリの防衛軍に寄贈した超高速軍用宇宙船に乗って、また校長先生と子供たちが地球にやってきた。


 民生用なら二時間の船旅だが、軍用宇宙船では僅かに十五分ほどの旅である。

 軍用とはいえ、また筆頭様の計らいで民生用の豪華客船並みの装備を備えていた。

 チョコレートも超大量に搭載されている。


 そうして、一行の中には、非公式視察と称してあの惑星防衛軍総司令官AI閣下のお姿もあったのである。



 地球軌道上からディラック邸に移動した一行は、ディラック閣下たちに出迎えられた。

 母上を迎えるディラック閣下はやや緊張気味である。

 姑であり、また正式礼装姿の惑星防衛軍総司令官AIを迎えるソフィア閣下はもっと緊張していた。


 ディラック邸の庭で子供たちがジェニーちゃんと一緒にリスたちと遊んでいる間、校長先生と担任の先生と総司令官AI閣下はディラック邸でもてなされた。


 閣下は副官を二人連れて来ていたが、二人ともディラック閣下とソフィア閣下に会ったときには感激で頬を紅潮させていた。

 今は彼女たちは邸の周囲で軽度の警戒態勢を取っている。



「ふぅ~ん。

 銀河技術はほとんど使って無いけど、実に落ち着いていて素晴らしい環境ねえ。

 遮蔽フィールドすら張って無いのね。

 でも特にこの周囲の森は素晴らしいわ」


 ディラックくんは、母上に、この家は英雄KOUKIに貸してもらっていて、その周囲の森はあのRYUICHIの所有物であることを伝えた。


「へえー、でももし買ったとしたら、ここ地球ではいくらぐらいするものなの?」


「は、はい。仮に買ったとしたら家は銅二百万キログラムほどだそうです。

 周りの森は銅一億キログラムだそうです」


 また校長先生は目眩がした。

 総司令官閣下の口が開いた。

 銅二百万キログラムといえば、平均的銀河人の生涯賃金の実に三千倍に匹敵するのだ。

 一億キログラムなら15万倍である。


「そ、そんな家を借りるのにいったいいくら払ってるの!」


「それがですね。光輝さんに言わせると、この家は給料の一部なんで好きなだけタダでいていいそうなんです」


 彼の母親はしばらく絶句していた。


「そ、そんなに大事にされてるの……

 しかもあの英雄KOUKIってこの部屋の上の部屋に住んでいるんでしょ」


「は、はい」


「もっと警備の厳重な公邸とかを建てて引っ越さないのかしら」


「それが、この森とリスたちが気に入っているので、引っ越したくないそうなんです。

 まあ、今空間連結器であちこちの別邸と直接連結して、もっと広い家にする計画がありますけど。


 ああ、例の森林惑星も直径一千キロ程のものをひとつお持ちですから、そちらに大きな別邸を建てられて、ここと空間連結器で結ばれるかもしれません。


 そういえば私たちの別邸も建てて下さるそうなんですけど、完成したら母上も遊びに来てくださいね」



 校長先生はまた気が遠くなった。

 いくらなんでも惑星の所有者とは…… 

 モノには限度と言うものがあろうに。


 総司令官AI閣下も気が遠くなった。

 いったいなんという連中なのだろうか。


 あれほどまでの超莫大な私財を投じて「銀河KOUKI基金」を作ったばかりなのに、まだそんなことが出来るとは……






(つづく)


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