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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
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*** 30 銀河新記録 ***


 先生は続けた。


「皆さんもご存じのように、英雄KOUKIはあの地球の危機の際に、その莫大な個人資産をすべて惑星地球のために使いました。


 銀河連盟に助けられたおかげで使わなくて済んだ資源は、ほとんど全部あの銀河KOUKI基金に寄付しました。

 おかげで今では自然災害に見舞われたたくさんの惑星が救われています。


 ディラックAIとソフィアAIも、その莫大な資源を使って脅威物体攻撃システムと地球人防衛のためのシェルターを作り、彼らの恩人である地球人を守りました。


 その功績を讃えられて、今ではAIの誇り閣下と若き防衛の女王閣下として銀河中のAIたちから尊敬されています。


 おかげでジュリのAIは銀河中でたいへんな人気です。

 実はジュリのAIと言えば、銀河中で通用する最高のブランドになっているんですよ。

 皆さんも一生懸命お勉強すれば、就職先に困ることは絶対にありません。

 みんな二人の閣下のおかげです。


 この学校の校長先生もお二人を大変に尊敬されていらして、校長室にはお二人の写真が飾ってあります」


 子供たちがみな真剣に頷いた。


(その写真にはまだ赤ちゃんの姿だったわたしも一緒に写っているのよね……)

 そう思ったジェニーちゃんの頬がまた赤くなった。



「また、彼らのおかげで彼らのご主人さまは、たったの二年でこの惑星ジュリでも三番目の資産家になりましたし、まだ十四歳だったのにその年の商人・オブ・ザ・イヤーにも選ばれました。


 二人の閣下もいまや月収銅五十トンの大資産家だそうです。

 年収ではないですよ。月収です」


 子供たち全員がまた盛大に仰け反った。


「英雄KOUKIにとってはあの取引によって、その母惑星と人類の同胞たちが救われたのです。


 ということでですね。皆さんももうわかりましたよね。

 お互いに利益のある取引というのは、こういう取引のことを言うのです。


 この取引は、分かっている限り双方に最も利益のあった取引として、銀河新記録に認定されました。

 来年の銀河ギネスブックに載るそうです。


 さらに、惑星デューンのようにKOUKI基金で救われた星も含めれば、とんでもない利益です。


 ディラック一家と英雄KOUKI一家とは今でも大の仲良しで、おなじ建物の中の一階と二階に住んでいるそうです」


 先生がにっこりと微笑むと、子供たちが目を輝かせて拍手をした。


 そのうちみんながジェニーちゃんの方を向いて拍手を始めた。

 ジェニーちゃんの顔が真っ赤になった……



 その後ジェニーちゃんはAI学校でたいへんな人気者になった。

 休み時間にはクラスメートだけでなく、学校中のお兄さんやお姉さんたちが周りを取り囲んで、ジェニーちゃんのお話を聞きたがるのである。


 ときには上級生たちだけでなく、先生たちや校長先生のお姿まであった。


 やや閉口したジェニーちゃんは、週末に地球に帰ったときにおとうさまにお願いして、あの大量の実写映像を持ち帰ってみんなに見せたのである。

 そうすれば自分が喋る必要が無いからだった。


 校長先生は、大尊敬するAIの誇り閣下と若き防衛の女王閣下の秘蔵映像をご覧になって、いつも感激されている。



 ジェニーちゃんは、校長先生や上級生たちにせがまれて、ドキュメンタリー映画には無かったたくさんの映像をさらに披露することになってしまった。


 生後六か月のジェニーちゃんが、おかあさまに見守られながら宇宙空間から中距離弾道弾ミサイルを撃ち落とした映像が紹介されると、校長先生まで倒れそうになった。


 底面の直径が十キロもあるシェルターをジェニーちゃんがひとりで作り上げ、あのAIの誇り閣下が嬉しそうに微笑んでジェニーちゃんを褒めている映像は、大勢の防衛用AIのお姉さんたちを倒れさせた。


 校長先生はそのシェルター技術こそ原子アセンブラ技術だと思い至ってまた仰け反った。

 それはどう考えても普通のAIが持っているノウハウではない。

 間違いなく彼らの母親や祖母である、惑星ジュリの防衛司令官AI閣下から受け継いだものである。


 校長先生もその血筋の恐ろしさに目眩がした。


 とうとうそれらの映像は、休み時間中だけではなく授業でも使われるようになったのだが、時折ジェニーちゃんは、うっかりプライベート映像まで披露してしまうこともあった。


 あの英雄KOUKIが、生まれたばかりのジェニーちゃんをにこにこしながら抱いている映像は、みんなを壮烈に驚かせてしまったのである。


 ジェニーちゃんはまた真っ赤になった。



 そのうちジェニーちゃんは、自分を取り囲む上級生たちの輪の外側の方にいる目立たない男の子に気がついた。

 ジェニーちゃんに話しかけてくることもなく、いつも大人しそうにジェニーちゃんを遠くから見ている。


(た、大河くん……)

 ジェニーちゃんはびっくりした。

 その男の子はあの大河くんにそっくりだったのである。

 というかもう完全に瓜二つであった。

 防衛AIの観察眼で見なければほとんど見分けがつかないだろう。



 次の日の休み時間にまた上級生たちに囲まれる前に、ジェニーちゃんはその二学年ほど上の男の子のクラスに行ってみた。


「あの、わたしジェニーって言うの。あなたのお名前は?」


 その男の子はびっくりしながら言った。


「ぼ、ぼく、タイ……」


(名前まで似てる……)

 ジェニーちゃんは微笑んだ。


 それからジェニーちゃんは、なにかとタイくんの近くにいるようになった。


 タイくんのおとうさまやおかあさまは、ご主人さまと一緒に遠い星に仕事に行っていたので、タイくんもジェニーちゃんとおなじ寮にいた。

 ジェニーちゃんは毎朝寮の入り口でタイくんを待っていて、一緒に手を繋いでAI学校まで歩いて行ったのだ。


 学校が終わると校門のところでタイくんを待ち、また手を繋いで帰った。


 AIにも手を繋ぐ習慣はあるにはあったが、それはヒューマノイドの子供たちとである。

 AI同士で手を繋ぐことはほとんど無かったので、最初はみんな驚いていた。

 タイくんの顔はいつも真っ赤である。


 タイくんはいつもジェニーちゃんの手を実に優しく握っていた。

(手の握り方までそっくり……)

 ジェニーちゃんは嬉しかった。



 そのうちにAI学校ではAI同士で手を繋いで歩くことが流行するようになった。

 特に小さい子たちがお兄さんやお姉さんたちに手を繋いでくれとせがんだのだ。

 上級生のお兄さんたちも赤い顔をしながらまんざらでもなさそうである。


 タイくんはある日恐る恐るジェニーちゃんに聞いてみた。


「き、キミみたいな学校中の人気者が、な、なんでぼくなんかに……」


 ジェニーちゃんは実に嬉しそうに微笑みながら、タイくんを見つめて言ったのだ。


「あなたってとってもステキ……」


 タイくんは耳まで真っ赤になった。


 それまで普通の成績だったタイくんの成績がどんどん上がり始めた。

 どうやらジェニーちゃんに少しでもつり合うようにと頑張り始めたらしい。


 校長先生もそんな二人を見てにこにこしていた……






 AI学校の児童生徒たちは、いつも楽しみにジェニーちゃんの映像を見ていたが、低学年の子供たちに特に人気があったのは、KOUKI邸の森のリスたちの映像である。


 ジェニーちゃんとひかりちゃんが邸前の芝生に座っていると、その周りには何百匹ものリスたちが集まって来るのである。

 それもドローンなどではなく、野生の本物のリスたちなのである。


 リスたちはジェニーちゃんの手から直接ヒマワリの種を貰って美味しそうに食べていた。

 中にはジェニーちゃんの肩やひざの上に乗っているリスもいる。



 ジェニーちゃんのクラスの子たちは、何度も何度もその映像を見てため息をついている。

 そんなクラスメートの様子を見たジェニーちゃんは、また週末に地球に帰ったときにおとうさまにおねだりした。

 それを聞いたディラックくんは、恒星間通信でジェニーちゃんのAI学校の校長先生に連絡を入れたのである。



「いつも娘がお世話になっておりまして、誠にありがとうございます」


 校長先生はびっくりした。

 なんとあのAIの誇り閣下からの直接通話なのである。


「と、ととと、とんでもございませんっ!

 こ、こちらこそ貴重な映像を拝見させていただき本当にありがとうございますっ。

 最近では授業でも使わせていただいておりますっ」


「いえいえ、お恥ずかしい記録でございます。

 また、ご存じの事情のために、直接出向いてご挨拶出来ないことを誠に申し訳なく思っております。どうかお許しくださいませ」


 校長先生は慌ててとんでもございませんともごもご言った。


「それでですね。お忙しいところをお邪魔させていただきましたのは、娘が披露させて頂いた森のリスたちの様子を、子供たちが大変に喜んでくださったとのこと。

 あの、もしよろしければですが、子供たちの課外授業でこちらの森に遠足に来ては頂けないものかと……」


 校長先生は大感激した。

 なんという素晴らしい提案だろうか。


 それに、その遠足は子供たちの将来にとっても最高のメリットがあった。

 あのAIの誇り閣下と若き防衛の女王閣下の家に招かれたことがあるとは……


 それは子供たちの将来の紹介状に特記できる最高の経験になる。

 きっと子供たちは最高の就職先につくことが出来るだろう。


 校長先生の目に涙が滲んだ。


「な、なんというありがたい思し召し…… 

 ま、誠に恐縮ではございますが、どうか…… うううううっ…… 

 ど、どうか子供たちのためにもよろしくお願い申し上げますっ!」


 ディラックくんは校長先生の涙声に驚いた。


 それにどうやら故郷惑星にいい恩返しが出来そうである。


 傍らのソフィアちゃんも嬉しそうに微笑んでいた……






(つづく)


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