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【初代地球王】  作者: 池上雅
第一章 【青春篇】
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*** 19 待遇改善 ***


 数日後、光輝が救った若者の祖父であるその一族のご隠居様と、父である現当主、そして母である現当主夫人が、その一族の筆頭様を伴って瑞祥本家に御礼にやってきた。

 次期当主である若者はまだ入院中である。


 彼らは、瑞祥家の御隠居様を始めとする面々と光輝の前で深々と頭を下げ、畳に額を擦りつけて御礼を言上した。


 全員の頬が、喜びと感謝の涙で濡れている。

 龍一所長の母喜久枝ももらい泣きをしている。

 そうしてその御隠居様は、龍一所長と光輝ににじり寄り、泣きながら所長と光輝の手を交互に取って御礼を繰り返したのである。



 所長の祖父である喜太郎ご隠居様はこれをことのほか喜ばれた。

 孫の道楽だと思っていたものが、なんとひとさまの絶体絶命だったお命を救い、赤の他人からあれほどまでに感謝されたのだ。

 これほど尊い仕事がこの世にあったものかと感動するとともに改めて孫を見直した。


 おかげで、「瑞祥異常現象研究所」は本家直轄の重大事業となり、予算も大幅に増加した。

「けっこうおカネかかりますよお」と部長が言うと、御隠居様は、「ふん。そんなもんはわしの小遣いから出してやるわい」と言ったそうである。



 その一族、白井家は、別に瑞祥一族と敵対していたわけではないが、特に親しくもなかった。

 だが、それ以降、本家次期当主が瑞祥本家次期当主に命を救われたと知った白井一族企業は、急速に瑞祥グループに接近し、合わせて一大友好企業グループが出来る勢いである。

 もちろん瑞祥グループの業績はさらに上がった。


 喜んだグループ企業たちは、頼みもしないのに光輝の顧問料を値上げしてくれている。

 一社当たり新入社員の年収並みだった顧問料を、部長級の年収並みにしてくれたのだ。

 おかげでもはや光輝の年収は莫大なものになり、あと数年以内に邸の代金を払い終えられそうな勢いである。


 その白井一族企業からも、光輝の税務顧問への就任要請が徐々に入り始めた。

 奇跡の力で実際に次期当主の命を救ったのが光輝だということを聞きつけたらしい。


 榊原・瑞祥税務・会計事務所は、やはり後継者問題に悩んでいた白井税務・会計事務所との合併話が持ち上がっているそうだ。

 もしそうなれば県内一位の税務・会計事務所になるらしい。


 榊原事務所も仕事が増えたのを喜び、光輝の報酬を大幅にUPしてくれた。 

 普通の家に住めば、その報酬だけで充分に生活できそうである。



 光輝は奈緒ちゃんとも相談した結果、将来生まれて来るこどもたちのために充分な貯金をしたあとは、貰った顧問料やボーナスのうち余裕分をすべて瑞巌寺や異常現象研究所に寄付しようと思っている。

 御隠居様の小遣いもそれほど減らさなくともいいかもしれない。



 そうして光輝は思っていたのだ。

 こうした仕事こそが、あのもやもやたちが自分にやらせたかった仕事なのだと気がついたのである。

(税理士試験に合格させてくれて、少なくとも収入だけは安定させてやったんだから、空いた時間でその分この仕事をしっかりやれということなんだな)


 そう思い至った光輝は、研究所や瑞巌寺での仕事に一層真摯に取り組んだ。




 光輝の収入にかかる税務はもちろん榊原・瑞祥事務所が管理している。

 したがって、光輝の収入は榊原源治には丸見えである。

 榊原から聞いた三尊幸雄は、光輝の莫大な収入を知って内心驚いていた。

 なにしろその年収は、普通のサラリーマンの生涯賃金に匹敵していたのである。


 三尊幸雄は、俄かに超高額所得者になった光輝の生活の乱れを危惧して、頻繁に異常現象研究所を訪れて光輝を観察した。

 だが、どう見ても光輝の暮らしぶりは、乱れるどころかただ単に忙しいだけである。

 スーツは最初に仕立ててやったあの三着しか無いようで、着まわして使っていた。

 自家用車すら持っていない。

 実際にはあまりの疲労で危ないから、自分で運転はするなと言われていただけだったのだが……


 また幸雄は、研究所などで、あの高名な退魔衆の光輝に対する態度を見て驚いた。

 幸雄も従業員二十人を抱える会社の社長である。

 ひとを見る目は持っているつもりだったが、その幸雄の目から見ても、退魔衆たちの光輝への尊敬ぶりは本物だった。


 どんなに離れていても、退魔衆は光輝に気がつけば両の手を合わせて丁寧にお辞儀をする。

 たとえ光輝が気づいていなくともお辞儀をする。

 もはや尊敬と言うよりは崇拝だった。


(ひとを見る目は持っているつもりだったが…… 

 やはり奈緒の婿になると思って、三尊君を見る目にバイアスがかかっておったか…… 

 それも逆のバイアスだったかな)

 そう思って幸雄は苦笑し、帰りに以前光輝のスーツを作ってやったテーラーに寄って、あと三着注文した。


 実は奈緒も、あれほどの豪華な家に住みながら、実に質素な暮らしぶりだった。

 アクセサリーはエンゲージリングしか持っていない。

 服装も高校時代とほとんど変わらなかった。化粧すらしていない。

 下着だけはやや高価なものだったが……


「光輝さんとその赤ちゃんがいれば、あとはなんにも要らない」

 と言った奈緒の言葉に嘘偽りは無かったのである。

 実は生涯を通じてそれは変わらなかったのだ。



 瑞祥、白井両一族は、結婚適齢期の若者たちやそれより少し若い世代たちの合同懇親会を開催するようになった。

 一族婚をあまり繰り返さないためにもそれは奨励されている。

 瑞祥一族の分家の嫡男たちは、白井一族の娘たちを瑞祥豪一郎邸の見学に次々と誘い、豪一郎邸はエラいことになった。

 ついには瑞祥不動産が豪一郎邸を模したモデルルームを作ったほどである。


 モデルルームが完成すると、白井一族の嫡男たちが、瑞祥一族の適齢期の女性たちを誘って大勢訪れるようになり、瑞祥不動産からの光輝への顧問料は、役員級のそれになった。




 一カ月後、ようやく退院できた白井一族の次期本家当主である白井幸之助は、再び祖父と両親と共に瑞祥本家に退院の挨拶と御礼に出向いた。

 光輝もまた呼ばれている。


 やはり最上級の礼を尽くして丁寧に命を救ってもらった礼を述べた幸之助は、最後に大きくて重そうな桐の箱を差し出した。


 そして、「些少ではございますが御礼でございます。どうかお受け取りいただけますよう、伏してお願い申し上げ奉ります」と言った。

 まだやつれてはいるもののナカナカの好青年だ。


 龍一所長は、いつものように固辞しようとしたが、御隠居様に止められた。


「まあ、ありがたく頂戴しなさい。それで退魔衆を労ってあげればよいのじゃ」


 驚いたことにその大きな桐の箱の中にはお札がみっしりと詰まっていた。

 それ以降、余裕のある依頼人からは、たまに謝礼や寄進を貰うようになった。

 もちろんこちらからはなんの要求もせず、寄進が貰えなくとも誰も文句は言わなかったのだが……



 異常現象研究所に資金的な余裕が出来ると、龍一所長は少年少女団を大幅に拡充した。

 研究所の評判が高まるにつれ、子供たちの人数はどんどん増えている。

 

 団員の中には中学生や高校生もいる。

 親にゆとりの無い子たちには瑞祥奨学金から大学への進学資金が支給されるが、その中からは退魔衆の見習いになって修行し、将来は退魔の仕事をしたいという男の子たちも出て来た。

 女の子の中にも、研究所に就職して、霊視の力を生かした偵察部隊になりたいなどという子もいる。


 僧侶にならずとも、民間退魔衆になれるものなのだろうか?

 その研究も異常現象研究所の仕事になり、龍一所長は青年団も作った。




 退魔衆の仕事のおかげで有形無形の恩恵を蒙った瑞祥グループは、次期当主がなにも言わなくても瑞巌寺へ多額の寄進をしている。

 一社ずつの金額はそれほどでもなくとも、全社合わせると莫大なものになる。


 喜んだ厳攪は、宗派のあちこちの寺から有望そうな弟子たちを招き、大勢の退魔衆見習い軍団を組織した。

 入団の条件は少なくとも霊視の力があることである。

 退魔衆の名が、それも良心的な評判とともに全国的になりつつあるのをたいへんに喜んでいた総本山の厳正大僧正は、これを全面的にバックアップした。


 龍一所長はまた、白井一族から頂戴した謝礼を遣い、瑞巌寺の退魔衆たちの待遇改善にも努めた。

 もちろん退魔衆たちの激務を労うためである。

 

 瑞巌寺にある彼ら退魔衆の宿舎を大幅に改築し、年長の退魔衆には広い個室を用意して、他に大きな談話室やサウナまで作った。

 もちろん食費も大幅にUPして従来の三倍にしてしまっている。


 彼らは僧侶なので普段は修業に明け暮れるものなのだが、なんといっても退魔の業こそは、最も厳しくまた効果的な修行でもある。

 誰でも出来るという修行ではなく、優れた素質を持ったものが従来の厳しい修行をくぐりぬけて、初めて為すことのできる究極の修行なのである。

 そして、気力体力が充実しているときほどその修行は効果的なのだ。


 厳空も退魔衆たちに訓示した。


「お前たちは今たいへんな忙しさで実に苦しいことだろう。

 だが、こうして瑞祥殿が素晴らしい待遇を寄進してくださった。

 また、厳攪権大僧正様や瑞祥殿がお前たちの後進も大勢育成してくださっている。

 しかも傷つけばお前たちの後ろには三尊殿まで控えていて下さるのだ!


 おまえたちも今しばらくの辛抱であるっ!

 こころおきなく退魔の業に精を出して功徳を重ね、世の為人の為霊の為となれいっ!」 

 退魔衆たちは、「応っ!」と、大きな、そして明るい声で答えた。


 そんな檄が無くとも退魔衆の士気は非常に高い。

 任務があり、その任務が人の役にたって感謝され、しかも好待遇下で子供たちにも英雄崇拝されているのだ。


 もちろん僧侶仲間の間でも評判は非常に高い。

 退魔衆ともなればその宗派では究極のエリートである。

 いや全国の僧侶たちの間でも垂涎の地位である。

 まあ、士気が高いのも当然だろう。



 光輝が助けた友人でもある退魔衆厳真は、退魔の仕事に復帰するとその霊力が大幅にUPしていた。

 もはや厳空に次ぐ退魔衆No.2の実力者である。


(なんか死にかけたあとで復活するとその力が大幅にUPするなんとか人みたいだな…… 

 それで怒ったりするとスーパーなんとか人になるのかな? 

 あ、スーパータイマ人か…… でも髪の毛剃ってるから、スーパータイマ人になって髪の色が変わってもわかんないかも……)

 などと光輝は思っている……







(つづく)


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