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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
197/214

*** 27 「デューンの恵み」 ***


 もちろん閉所恐怖症を発症していた惑星デューンのお気の毒な患者さんたちは、すぐに森の惑星に収容された。


 そこにはドローンたちが突貫工事で作った診療施設が続々と完成している。

 広大な敷地に点在する平屋建ての開放的な宿泊施設には、患者とその家族たちが収容され、銀河連盟の派遣した医療用AIたちが患者を診察している。


 彼らはまだ鬱蒼と生い茂る森の中は恐れたが、広大な苗木畑を飽きることなく散策しているうちにまもなく回復を始めた。


 またこれも急遽作られた温泉施設には、地球上の多くの温泉からお湯が引かれ、あちこちに湯治場も出来た。

 開放的な露天風呂は、これら神経症患者たちの治療に大いに役に立っているようである。



 閉所恐怖症患者の治療体制が一段落し、これも突貫工事でレストランや休息施設が完成し始めると、この森の惑星もデューンの住民に開放された。


 彼らは好きな時に好きなだけここ森の惑星にやってきて、広大なスペースでピクニックをすることが出来たのである。

 特に子供たちには森のリスたちが大人気になった。


 さらにディラックくんの分弟であるニールスくんの獅子奮迅の活躍で海が完成した。

 白砂の砂浜が周囲に広がる見事なエメラルドグリーンの海である。


 そのビーチの全長は三百キロメートルもあった。

 海中にはイルカ型やマーメイド型のドローンが大勢いて、救助員の役割を果たしている。


 ところどころに点在する、地球のリゾートビーチを出来るだけ忠実に再現した施設は、デューンの住民たちに大人気となり、いつも大勢の家族連れやカップルの姿が見られるようになっている。



 倫理度の高いデューンの住民は、地球やKOUKIに感謝するあまり、ほとんど不平を言わなかった。

 そこで光輝たちは、ニールスくんやシェルター管理AIに、彼らの配下のドローンたちを通じてデューン住民の不満を汲み上げ、即座に対応して行くように指示していた。


 だがしかし、デューンたちは驚異の施設を歩き回ることに忙しく、やはりほとんど不満らしい不満は無かったのである。


 光輝の招待客たちは、想像以上に十分に満足していてくれているようであった。



 これらの様子は詳細に銀河ネットワークが報道していた。

 あまりにも高視聴率が得られたために、その番組は次第に報道からドキュメンタリーにも拡大していった。


 そうして……

 困窮し、疲弊していたデューンの惑星住民たちの笑顔が報道され始めるとともに、銀河全域から想像を絶する数と量の義捐金や物資が地球に送られて来たのである。


 それも惑星政府からだけでなく、富裕な個人や銀河人たちの職場の有志が出しあったりした善意のおカネである。

 お小遣いを出し合った子供たちの学校からの寄付もあった。


 それらは銀河連盟を経由して、惑星デューン政府や三尊研究所にまで届けられたのである。



 確かに地球と銀河の物価差を考えれば、個々の寄付はそれほどでもなかった。

 だが銀河連盟加盟恒星系は五百八十万もあるのだ。

 ヒューマノイドは数千兆人もいるのである。


 個々の金額は少なくとも、その総額は莫大なものになっていった。

 どうやらこのままのペースだと、光輝が使ったおカネよりも多くのおカネが集まってしまいそうだ。


 まさかそんなことになってしまったら、一体どうしたらいいというのだろう……




 光輝はデューンの大統領閣下と共に銀河連盟を訪れて、連盟の担当者たちと共に銀河宇宙に呼びかけを行うことにした。

 それにはなんと銀河連盟最高評議会の議長はじめ幹部たちも同席してくれたのである。

 あらゆるネットワークがその呼びかけを報道した。


 まあ、銀河連盟の公式声明などではなく、単なる呼びかけだったので雰囲気もフランクなものだったが。



 まずはデューンの大統領閣下が、銀河宇宙に対して涙ながらに丁重にお礼を述べられた。

 銀河人の多くも貰い泣きした。


 次に光輝が話し始める。


「銀河宇宙の皆さん。地球の三尊光輝でございます。

 このたびは、惑星デューンの住民の方々のためにと、私どもにまで多額のご寄付を頂戴いたしまして誠にありがとうございました。

 私どものご提供させて頂きました物資に対する代価であるというご趣旨のご寄付を、たくさん頂戴してしまいました。


 ですが……

 実はこのままでは、私どもがご提供させて頂きました資源資材よりも多くのご寄付を頂戴することになってしまいそうです。


 そんなことになってしまいましたらタイヘンでございます。

 まさかお困りの方々を少々お手伝いさせて頂いたようなことで、却って利益が出てしまうようなことにでもなったら、それこそ皆様に顔向けが出来なくなってしまいます。


 ですから銀河の皆さまにお願い申し上げます。

 どうかこの上は、私どもにではなく、惑星デューンの皆さまの復興のためへのご寄付を頂戴出来ませんでしょうか」


 そう言った光輝はまたあの有名な平伏をした。



 銀河最高評議会議長が突然笑顔で口を挟んだ。


「三尊参与殿」


 慌てた光輝が答える。


「は、はい……」


「三尊参与殿は、今回の惑星デューンの皆さまのご不幸をお助けするために、自発的に私財のご提供を申し出られましたよね」


「は、はい……」


「それは惑星デューンの方々と懇意でいらっしゃったからですか?」


「い、いえ、失礼ながら、今回の事件が起きるまで全く存じ上げませんでした」


 議長閣下はソファの背にもたれて、光輝の顔を見てにっこりと微笑まれた。


「ということは、また銀河の別の星で同じようなご不幸な事件が起きた際にも、同様にご援助の手を差し伸べられるおつもりということなのですな」


「は、はい。我々に出来ることでありましたら……」


 議長閣下は今度はカメラの方に向き直り、更に微笑みながら仰った。


「ということで銀河の皆さま。

 万が一皆さまの惑星がご不幸に見舞われ、緊急避難を余儀なくされた場合でも、ただちにこの三尊銀河最高評議会参与殿がその避難先をご提供下さることでしょう。


 その避難先は、皆さまも報道等でよくご存じの、あの素晴らしいリゾートホテルのような施設になることでありましょう。

 もちろん食事や日用品などの一切もセットになっていることは間違いございません。


 それは今回の惑星デューンの方々へのご援助と同様、素晴らしい厚遇になることも間違いございません。


 デューンの皆さまと同様、銀河連盟としても地球や三尊参与殿に深甚なる感謝を表明させていただきたいと思います」


 ここで一旦声を切った議長閣下は、少しだけいたずらっぽい顔で続けられた。


「ですから皆さま。

 皆さまが今までに三尊参与殿に寄付されたり、これから寄付される莫大な善意の資金は、必ずや大切にプールされて、いつの日にか皆さまや皆さまのご子孫たちのために使われることになるかもしれませんのであります」


 そう言うと議長閣下は立ち上がり、惑星デューン大統領閣下と共に、驚愕した表情の光輝と笑顔で握手を交わされたのである。


 会見場の全員からびっくりするほど大きな拍手が沸き起こった。

 銀河中でもネットワークの視聴者達から大拍手が沸き起こった。


(これで少しはあの地球での授賞式のときに驚かされた敵は討てたかな……)

 そう思った議長閣下は嬉しそうだった。



 その後、惑星デューンにも三尊研究所にも、銀河宇宙からさらに莫大な寄付金が寄せられたのである。


 子供のころから「デューンの恵み」というイディオムを使って育って来た議長閣下は、それをお聞きになってさらに喜ばれたそうであった……





 また一カ月ほど経つと、惑星デューンの大統領閣下が光輝たちを訪れて来た。

 大勢の随員たちと共に、閣下はまず光輝たちの前に平伏して丁寧に日頃のお礼を述べられた。

 どうも光輝たちを見ていてそういう動作を覚えたらしい。


 平伏から顔を上げた大統領閣下一行は、応接室の大きなソファに案内された。

 さすがに銀河人たちには正座は苦痛だろう。


 大統領閣下はやや言いにくそうに仰られた。


「日頃これほどまでのご厚情を受けていながら、さらにお願いを重ねるなど誠に心苦しいのですが……」


 龍一所長がにこにこしながら言う。


「どうぞどうぞ。なんでも仰ってくださいませ。

 皆さまから苦情やご希望を頂戴出来ないものですから、実は我々も少々心配しておりましたのですよ」


「そ、そんな。苦情などとんでもない。

 それでお願いと申し上げますのはですね。

 あの森の惑星の地下に広がる土壌工場の一部を、我々に貸して頂けないかという願いなのでございます。


 惑星デューンの住民は、ここ地球で大いに癒されました。

 心身ともに癒されただけでなく、皆さまの温かいお心に触れて勇気も湧いてまいりました。


 来週からは大勢の技術者たちがデューンに戻り、銀河連盟の助力も得て、惑星改造プログラムを開始致します。

 併せてこれも大勢の者たちが、ドローンを指揮して惑星表面に積もった膨大な量の火山灰の除去作業を開始致します。


 それは大変な仕事でしょうが、皆仕事の合間にはここ地球に帰って来られると思うと、さらに勇気が湧いて来ているそうでございます。


 ですがしかし、一般の惑星住民にはすることがございません。

 癒されて勇気も湧いて来た彼らにとって、何もしないでただ寛いでいることもそれなりに苦痛なのでございます」


 光輝たちは頷いた。その気持ちはよくわかる。

 

「そこで地下の土壌改良施設をお借りして、我々が得意とする農業を始めたいのです。

 各種の穀物や野菜を作り、畜産を行い、せめて我々が食べる分だけは働いて得たいと望んでおりますのです。


 もちろん食事に不満があるわけではございません。

 単に労働への欲求が抑えられないだけなのでございます」


 十分に納得した光輝はすぐに言った。


「地下の土壌改良施設はどのぐらいのスペースのご利用をご希望ですか?」


「地下第一層のスペースの十分の一ほどでもかまいませんので、どうかお願い申し上げます」


 龍一所長は微笑みながら光輝を見た。

 光輝も微笑みながら言う。


「それでは第一層から第十層までのスペースをすべて皆様にご提供させていただきますです。

 後で惑星管理AIのニールスくんをご紹介させて頂きますので、ご必要な金属資源や水資源は全て彼に言って調達してくださいませ。

 如何なるものでもご用意させます」


 大統領閣下がまた驚愕された。


 今提供を申し出られた農地の総面積は、三千万平方キロを上回るのである。

 これは地球の陸地面積の七十%を超える。


 それを自由に使っていいとは……






(つづく)


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