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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
196/214

*** 26 威厳なんか見せたくても見せられない…… ***


 驚愕に震える大統領閣下の横では、龍一所長が光輝に話しかけていた。


「このままだと海が無いねえ」


「海は地球のものを使っていただいたらいかがですかね」


「それだと安全措置が無いから少し危険かも。

 それに地球の海ってけっこうアブナイ生物もいっぱいいるし、もし万が一のことでもあったらタイヘンだよお」


「じゃあ、この惑星表面に海を作りますかぁ」


「うん。その方がいいね」


「じゃあ、デューンの皆さんに避難して頂けることが決まったら、さっそく惑星管理AIのニールスくんにお願いして海を作ってもらいますね。

 ところで塩水にしますか? それとも淡水にしますか?」


「せっかくだから薄めの海水にしようか。海で浮くのって楽しいから」


「ええ」


「それに最近またちょっと地球の海水面が上昇してるみたいだから、その方がみんな喜ぶかも」


「なるほどー」


 デューンの大統領閣下はまだ驚愕のあまり立ち尽くしていた。


 この人工天体の表面積は三百万平方キロを超えている。

 さらにそこに海まで作ろうと言うのである。

 それもデューンの住民たちだけのために……



 森林惑星のエントランス施設に戻ったデューンの大統領とその随員たちは、光輝たちに対して深々と頭を下げた。


「お願いでございます。

 どうか、どうかデューンの住民たちのために、この驚愕の施設を貸して頂けませんでしょうか。

 彼らは今、多くが避難先で閉所恐怖症を発症してしまっております。

 ですからせめてそうした病人たちだけでも受け入れてやっていただけませんでしょうか」


 大統領閣下は涙まで流されながらまた深々と頭を下げられた。


 龍一所長が珍しく真面目な口調で言う。


「いえあの。病人の方だけと仰らずに惑星住民の皆さんでどうぞ。

 それに今のままだとご健康な方々までそのうち閉所恐怖症を発症されてしまいますよ」


 大統領閣下はまたもや深々とお辞儀をされて仰った。


「誠に、誠に暖かいお言葉。惑星全住民に代わりまして深く御礼申し上げます」


 光輝も真摯な口調で言う。


「そんなこと仰らずに…… 困ったときはお互い様です。

 だいたい我々地球人だって、ものすごく困っていた時に銀河の皆さまに助けて頂いたわけですから……」



 大統領閣下はまじまじと光輝の顔をご覧になった。


(こ、これこそがあの英雄KOUKIだったのか……

 な、なんという若さ。それになんという謙虚さ。

 あれほどまでの大偉業を為した銀河中で讃えられる大偉人であるにもかかわらず、その威厳の片鱗すら見せないとは……)


 まあ、光輝の場合、威厳なんか見せたくても見せられないのだが……



 大統領閣下は涙もぬぐわずに続けられた。


「そ、それで地球政府のご承認は頂けるものなのでしょうか。

 もしお許しを頂戴出来るなら、この足で地球政府をご訪問させて頂いて、こちらに避難させて頂けるよう懇請させて頂きたいのですが……」


 龍一所長が微笑みながら言う。


「国連の承認は必要ありません。

 また、あのシェルターのある地域の地域国家の承認はもう貰ってありますからどうぞご心配なく」


「で、ですが、この森の惑星での滞在許可は……」


「はは、やはりご存じありませんでしたか。

 あのシェルターも、この人工天体も、実はこの光輝くんの個人所有物なんですよ。

 ですから彼の了解さえあれば、どなたでも自由に使えます」


 デューンの大統領閣下とその随員たちは本当に固まった。



 龍一所長は微笑みながら続ける。


「あ、でもさ。皆さんも、もし三尊くんの気が変わったらってご心配かも」


「そ、そんなぁ。気なんか変わりませんよぉ」


「だから正式に契約してみたらどうかな。

 そうだなあ。この森の惑星とシベリアのシェルターを、銀河連盟に避難地として五年間ご提供させていただくっていうのはどお。

 それを銀河連盟さんがデューンの皆さんに提供するカタチにしたらどうかな。

 そうすれば皆さんもご安心なんじゃないか」


「それはいいアイデアですねぇ」


 龍一所長は随伴してきていた銀河連盟の担当者に向き直ると言った。


「ということで如何ですか。我々とご契約いただけますか」


 銀河連盟の担当者は、驚愕の硬直をようやくの思いで振りほどくと言った。


「も、もちろん連盟に帰りまして評議にかけなければなりませんが…… 

 と、ところでご提供頂く代価はおいくらなのでしょうか」


「言い方が悪かったですね。すみません。

 提供じゃあなくって供与にします。

 ですからタダです。

 もちろん食事などの滞在費も含めてです」


 連盟の担当者は目眩がした。


「確か銀河法典では、こうした口約束も契約として有効でしたよね。

 じゃあ三尊くん。正式に契約内容をご提示して」


「はい。それでは私は銀河連盟に対して、ここ森の惑星とシベリアシェルターを、銀河のヒューマノイドの方々のための避難地として、すべて無償で五年間供与させていただきます。

 これでいいですか?」


 その場の銀河人たちはまた倒れそうになった。



 龍一所長が言う。


「そうそう。

 今デューンで避難生活をされている方々を、まずはお客様としてご招待させていただいたらどうかな。

 銀河連盟の承認が得られるまで。

 そうすれば具合の悪くなった方々も、すぐに快方に向かって下さるかもしれないし」


「さすがは所長。ではそうさせていただきますね」


 光輝は惑星デューンの大統領閣下に向き直ると微笑みながら言った。


「それでは、銀河連盟のご承認が頂けるまで当面の間、惑星デューンの方々全員をご招待させていただきたいと思います。

 もちろんご招待ですから費用のご心配は無用です。

 どうか地球滞在をお楽しみ下さるようお願い申し上げます」


 そう言って光輝は皆に深く頭を下げたのである……




 その日のうちに銀河連盟の巨大輸送船がデューンに派遣され、地球とデューンを往復し始めた。

 すぐに近隣の惑星からも旅客船や高速軍用船がかき集められてデューンに向かった。


 惑星デューンは蝟集する恒星船の超絶大艦隊に取り囲まれ、その数はまもなく数万隻に及んだ。

 これらの費用は「銀河KOUKI基金」や近隣惑星からの義捐金で賄われている。


 同時に連盟や銀河全域からは、膨大な量の食材やドローンたちが無償で提供された。

 そうして、瑞巌寺学園で料理を担当していたベテランドローンたちが、これら銀河宇宙のドローンたちにそのレシピを提供して、またたくまに受け入れ態勢は整ってしまったのである。


 さすがはドローンたちで、全ての技術伝授は電子的にカンペキに行われる。

 まあ、便利なもんだ。


 また、既に森の惑星に配置されていた惑星管理AIのニールスくんや、新たに雇われたシェルター管理AIも張り切って活躍してくれたために、デューンの住民受け入れは順調に進んだ。


 そうしてわずか二週間で、デューンの避難住民二十億人は、すべて地球への避難を完了してしまったのである。


 まあ、光輝たちにとってはあのトルコ地震のときに十分に経験を積んでいたし、その規模が多少大きくなったぐらいの認識しか無かったのだ。

 しかも受け入れ施設が既に整っていた分、今回の方がむしろラクだったぐらいである。



 だが、この事業はまたもや銀河全域を震撼させたのである。


「あの地球が! 英雄KOUKIがまたやった!」

 という意味の活字が銀河中のニュースメディアに踊った……




 あまりにも多くのニュースメディアが押し寄せてきたため、銀河連盟の提案で取材は共同取材ということになった。

 それでもいつも大勢の取材クルーがシェルターや森の惑星での取材をしている。



 軌道上の輸送船団から空間連結器でシベリアシェルターに降り立ったデューンの住民たちは、例外無く驚愕に立ち尽くす。

 誰もこれほどまでに超巨大な人工建造物は見たことが無かったのである。


 そうしてエントランスで道案内兼パートナーのミニドローンを渡される。

 三十億体も用意されていながら、それまで仕事が無かったミニドローンたちは、張り切って仕事をした。

 あの巨漢ガードマンドローンたちは、にこやかにほほ笑みながら住民たちの荷物を運んだ。



 ミニドローンたちは、デューンの市町村の役人たちの割り振りにしたがって、まずは惑星住民たちをその住居に案内する。

 そうしてそこからほど近いレストランに案内し、疲れ切った彼らを落ち着かせることに尽力した。


 次に近所のショッピングモールを紹介し、住民たちの生活をさらに快適なものにした。

 彼らの日用品の中には地球に無いものもあったが、それらは自動的にドローンを通じてシェルター管理AIに連絡が行き、ただちに輸入体制が取られる。

 こうした様子を次々に代表取材のクルーたちが撮影している。



 ある惑星住民はインタビューに答えて言った。


「本当に驚きました。ものすごく立派な部屋なんです。

 まるでデューンのリゾートホテルみたいです。


 しかもそれぞれの部屋に、あのチョコレートとコーヒーが大量に用意してあったんです。

『どうか地球でのご滞在をお楽しみください』って書かれたメッセージカードまでありました。

 感激のあまり泣いてしまいましたよ。


 それにあのショッピングモール。

 それこそ本当になんでもあるんですよ。食べ物から着るものまで。

 ゲームまでたくさんありました。

 しかもそれがぜんぶタダだっていうんです。

 おカネを払おうとしても受け取ってもらえませんでした。


 それからあのレストラン。

 ものすごく豊富な種類のレストランがものすごくたくさんあるんです。

 別のフロアに行ったら、もっとたくさんレストランがあるから楽しんでくださいってミニドローンに言われました。


 全てのレストランを回るのには十年以上かかるんでよく選んでくださいね、とも言われました」


 そこで涙をぬぐった住民は、感極まった声で続けた。


「わ、私たち…… こ、こんなに大事にしていただいて本当にいいんでしょうか。

 ま、まるで天国から地獄に突き落とされたのが、すぐに別の天国に拾っていただいたみたいです…… 

 うっ、ううううううっ」



 また別の住民は言った。


「本当にここKOUKINIAの底知れぬ国力と善意を感じています。

 見るもの聞くもの全て震えが来るほどです。


 あの最上階のスペースはご覧になりましたか。

 シェルターの中に海や山まで作ってしまうなんて。

 夕方になると空が暗くなって、夜空には星まで見えるんですよ。


 それにあの森林スペース。

 全ての遊歩道を歩くのには一カ月かかるって言われました。

 シェルター内の公共施設や、地球の各地域の街並みを全部歩くのには十年かかるって言われたんですけど、そのうちの一割でもいいから歩いてみようと思っています」


 また別の家族連れの住民は言った。


「来週から子供たちの学校が再開されるそうです。

 学校に見学に行って驚きましたよ。とんでもない数の施設があるんです。

 それも皆開放的で十分に余裕のあるものでした。

 あれなら安心して子供たちを学校に行かせることが出来ますね。


 それからあの劇場の大きさと数。

 デューンの首都の大劇場並みのコンサートホールが五つもあるんですよ。

 そろそろコンサートや演劇が始まるそうですから楽しみにしています。


 最初は抽選制になるそうですけど、そのうちにデューン側の体制が整えば毎日でも行くことが出来るかも知れません。

 とても楽しみにしています」



 ついでながら、その年の「銀河エンサイクロペディア」に「シベリアシェルター」という新語が採用され、ロシア政府は大いに喜んだ。

「地球」という単語以外では地球の地名が初めて収録されたからである。


 地球人にとって「シベリア」という言葉のイメージは「最果ての地」とか「極寒の地獄」というイメージしか無かったが、惑星デューンの住民たちへの手厚いホスピタリティーのおかげで、銀河宇宙では「シベリア」という言葉が、果てしない善意と友情の象徴として使われるようになったらしい。


 素晴らしい歓迎を受けた銀河のひとびとが、「まるでシベリアのようなおもてなし」という言い回しを使うようになっているそうだ。


 大喜びしたロシア政府は、記念と称してあの土地売却代金のうちのかなりの額を使って豪勢な食材や酒類を調達し、デューンのひとびとに振舞った。

 また、この調達によりロシア全体の景気もさらに良くなったそうである。


 大統領の支持率も10%も上がったそうだ。






(つづく)


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