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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
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*** 25 惑星デューン ***


 そのころ、銀河のある惑星が大規模な自然災害に見舞われた。


 その惑星はデューンと呼ばれ、やはり銀河連盟に加盟して数千年しか経っていない新興惑星だったが、温暖な環境と農業に適した平坦で広大な土地を有する豊かな星だった。


 それらの農産物は近隣の星々にも輸出され、半径数百光年の範囲一帯の星々の穀倉地帯としての役割を果たしていたのである。


 機械文明はさほどでは無かったが、惑星の特質を更に生かす農業系のバイオテクノロジーには特に優れた技術を持っていた。

 そのために、新興星ながら技術等級は八・〇ものスコアを持っていたのである。


 だが、なんと言ってもデューンを特徴づけていたのはその惑星住民の倫理水準の高さであった。

 住民の平均値ですら八・五を超えていたのである。

 これは銀河連盟でも加盟一万年未満の星の中ならば、一、二を争うハイスコアである。


 大昔にはその大地の恵みのせいで人口過剰となったこともあったが、当時から優れていた為政者たちの真摯な努力により、人口は穏やかに抑制された。

 現在は二十億人ほどで長らく安定していて、そのほとんどが農業に従事している。

 それ以外の多くは、音楽や演劇、絵画などの文化活動の分野で活躍していた。


 つまり、彼らデューンのヒューマノイドとは、豊かな大地の恵みに感謝し、足ることを知った精神的にも実に裕福な人々だったのである。


 近隣の惑星にも美味で栄養溢れた農産物を、それも廉価で供給していたために、常に感謝されていた。

 それらの惑星では「大地の恵み」を意味する言い回しとして、「デューンの恵み」というイディオムが使われているほどである。



 だがしかし、突如としてその惑星デューンの一部に巨大な火山噴火が起きてしまったのである。

 数千万年に渡って沈静化していた火山活動だったが、却ってそのことがスーパープリュームの発生を誘発してしまったらしい。


 その超大噴火はみるみる高度一万メートルにも及ぶ巨大な火山を作り上げてしまったのである。



 さすがは銀河連盟加盟惑星だけあって、人的損害は最小限に抑えられた。


 デューンの住民二十億人は、あるいは大規模遮蔽フィールドの中に、あるいはその大きな衛星の基地に、またあるいは急遽救援に駆けつけた銀河連盟の提供した大型輸送船の中に避難した。


 だが……

 気の毒なことに、その豊かな惑星表面は、厚さ平均三十メートル以上にも及ぶ火山灰で覆われてしまったのである。

 噴火が小康状態になった現在でも、地表付近の視界は五十メートルも無いそうだった。


 デューン惑星政府は、「銀河KOUKI基金」の援助も受けて抜本的な対策に乗り出した。

 あまりにも大きな衛星が近くを回っていたために、そのダイナモ効果でデューンのマントル層には膨大なエネルギーが蓄えられてしまっていたのだが、そのエネルギーを重層次元に逃すプロジェクトを始めたのである。


 また、そもそもの原因となった巨大衛星の軌道を変え、母惑星からかなりの距離に遠ざけるプロジェクトも行われる予定である。

 もちろん惑星表面の膨大な量の火山灰は、莫大な数のドローンを投入して樹脂で固めた上に、廃棄物投棄専用重層次元に廃棄されることになった。


 だがしかし、さしもの銀河技術をもってしても、それらのプロジェクトの終了までには、最短でも銀河標準年で三年を要することになる。

 地球なら二年と八カ月ほどである。



 惑星上の遮蔽フィールド内に避難していた住民は、惑星表面を覆ったぶ厚い火山灰を見て涙を流した。


 また衛星の居住施設にいた住民も、避難用輸送船にいた住民も、無残にも一面の灰色と化した母惑星表面を見て同じく涙を流した。

 狭い避難施設に詰め込まれた住民たちの疲労の色も濃い。



 銀河宇宙からは次々に膨大な量の救援物資が届けられてはいた。

 だがしかし、広大な惑星表面の農場で大らかに豊かに暮らしていた彼ら惑星住民たちは、短期間のうちに多くが閉所恐怖症を発症し始めてしまったのである。


 銀河連盟は、その加盟惑星に避難住民の緊急受け入れを要請した。

 もちろん人口密度の低い多くの惑星が手を上げたのだが、いかに銀河連盟加盟惑星といえども、惑星住民二十億の受け入れがすぐに出来るほどの施設は有していなかったのである。


 このままでは数百万人ずつに分かれた惑星住民が、分散して銀河中の惑星に避難することになってしまうであろう。

 それら避難先の惑星でもデューンの住民たちの困窮は続くだろう。


 しかも銀河技術をもってしても、数百万人の受け入れ態勢を整えるには最低でも数カ月はかかるだろう。

 その間にデューン住民の健康被害はさらに広がっていくのである。




 こうした一連のニュースを見て涙を流していた光輝たち幹部一同は、即座に銀河連盟に連絡を取ったのである。


 そう……

 地球にはあったのである。

 二十億どころか、ひとつで三十億人ものヒューマノイドを収容可能な居住施設が三つもあったのだ。

 しかもそのうちのシベリアシェルターは、すでにほとんど完成していたのである。


 食材と十分な数のドローンさえいれば、明日からでも二十億人ものひとびとが普通の生活が出来る施設があったのだ。


 しかも居住空間だけでなく、直径一千キロもの森林惑星すらも完成間近であった。

 既に惑星表面の森は完成し、また広大な苗木農場も完成していた。

 点在する巨木の森や湖の間に、緩やかにうねる大地を小さな苗木が埋め尽くしていたのである。

 残るは地下の広大な土壌改良施設の工事の一部だけだったのだ……



 銀河連盟本部は、直ちに地球に職員を派遣してシェルターと森林惑星を視察させた。

 そうして、その規模と設備に大驚愕する連盟職員に、光輝は言ったのである。


「どうかデューンの皆さまに、これらの施設をお好きな期間、お好きなだけ、そしてお好きなようにお使いいただけるようお伝え願えませんでしょうか」と……


 シェルターの位置するロシア政府も即座にこれを了承して、全面的な協力も約束している。

 光輝はついでに五兆円ほどの代金を提示して、シェルターの敷地を買わせてもらえないかとロシア政府に申し入れた。

 ロシア大統領は、笑いながら「議会には秘密にしておいてくれ」と言って、代金を三兆円にまけてくれた。


 日本国政府もアメリカもバチカンもサウジアラビアも、即座に全面的な協力を表明している。もちろん国連もである。



 銀河連盟からの提案を受けた惑星デューンの大統領閣下も、直ちに大勢の随員を連れて地球に視察にやってきた。


 そうして涙を流す英雄KOUKIから、心からのお悔みとともに、直接にそれら施設の完全提供を提案されたのである。



「完全提供、と仰られますと……」 


 苦悩のあまり顔つきが蒼ざめているデューンの大統領閣下が聞く。


 まだ涙の止まらない光輝は答えた。


「はい。銀河連盟の担当の方にも申しあげましたが、このシェルターと森林惑星は、皆さまのお好きな期間、お好きなだけ、そしてお好きなようにお使い下さいますようお願い申し上げます」


 デューンの大統領閣下は驚愕した。


「ですがなにしろ我々未開星が急遽作りました居住施設や人工天体でございます。

 ですからどうかこれから隅々までご視察いただき、惑星住民の方々の使用に供していただけるかどうか、徹底したチェックをお願い申し上げます」


 光輝はまたしても深々と腰を折った……


 光輝たちに深くお礼を述べた大統領閣下はすぐに視察を始めた。

 事態は一刻を争うのだ。

 こうしている間にも惑星住民の健康被害は広がっている。


 軌道上からそのシェルターをご覧になった大統領閣下とその大勢の随員たちは、その大きさを見てまた驚愕した。

 なんと軌道上からでもはっきりとその巨大さが認識出来るのである。

 これほどまでに大きな地表の建造物は、銀河宇宙にもそれほど多くはなかったのだ。


 さらに内部を案内された一行は大驚愕した。

 一部はバーチャルながら、シェルター最上部には海や山まであるではないか。

 さらに直径二十キロもの森林スペースもあり、それ以外にも膨大なスポーツ施設や劇場群や美術館のスペースもあった。

 子供たちのための学校施設も超大量にある。


 しかもそれらの広大な公共施設の下には、更に広大な居住施設群が広がっていたのである。

 それも画一性とは程遠い、実に変化に富んだ住宅群である。

 それらの収容人数は三十億人を誇り、もちろん各家庭では自炊も出来るのだ。


 それぞれのエキゾチックな住居群の中には、これも大量の素晴らしいレストラン群があった。

 ショッピングスペースも大充実している。

 大規模なゲームセンターまである。


 さすがは光輝たちが一生懸命作りあげた、三十億人のヒューマノイドが八十年閉じ込められても生きていけるだけのシェルターであった。



 さらなる調査のために大勢の調査員を残し、光輝とデューンの惑星大統領閣下一行は森林惑星に移動した。

 ここでも大統領一行はその驚異的な大景観を見て、衝撃のあまり立ち尽くしたのである。


 メインエントランスは巨木の森の中に控えめに作られた建物の中にあった。

 だがそこから一歩外に出ると、巨木の森と点在する美しい湖水のスペースが十キロも続いているのである。


 重力遮断板を応用した高速地上車に乗って森を抜けると、そこには見渡す限りの苗木畑が広がっている。

 直径が一千キロであるために、地平線は丸く見えるが、それでも広い。

 実に広い。


 一行は二十メートルほどの高度で時速三百キロほどのスピードで人工天体内を移動したが、それでも一周するのに十時間以上もかかるために、途中から引き返したほどである。


 そうしてそこには、ところどころに移動用の空間連結器が点在する他には、人工物が一切見られなかったのである。

 まあ、天体そのものが人工物だったが……


 地下の施設はさらに広大である。

 一層が百メートルほどの高さの土壌改良用スペースが、延々と四千層もあったのだ。


 上部のスペースではそろそろ土壌改良も始まり、将来的にはここも苗木農場になる予定であった。


 そのために近傍の宇宙空間には多数の巨大な太陽光集光衛星も配置されており、大気圏と同様の機能を持った装置を通過した太陽光が、この地下スペースにも降り注ぐ予定である。


 そのうちに、大変な樹木生産能力を持つ人工天体になることだろう。


 もちろんこの森の惑星の中心部には、森林生育用の水も一千億トンも蓄えられていたのである。






(つづく)


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