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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
194/214

*** 24 森林惑星贈呈式 ***


 ということで新たな超巨大プロジェクトが発足することになったのである。


 まあ、龍一所長や光輝たちにとっては、半年で巨大診療施設を作って全世界一億人の人々の命を救った事業や、地球を挙げて大脅威物体と戦った事業に比べればなんということは無い。


 なにしろ緊急性が無いし誰も死なないのである。

 資金にも全く不足は無い。

 こんなラクチンな事業は無かったのであった。


 だが……

 名誉鉱夫総監督やスミルノフ氏や緊急パック会社社長は、さっきから震えっぱなしである。

 なにしろ彼らの物価感覚で五千兆円相当の予算に匹敵し、全銀河に渡る超絶的大プロジェクトが、目の前でほいほい決まって行ったのである。


 そうしてやはり彼らも思い知らされたのだ。

 これほどまでの資源動員力、資金力、決断力、そして実行力があれば、あの超絶的大脅威と戦った驚くべき大快挙も当然だったのだろうと……


 そう…… ここはあの地球だったのである。

 しかも目の前にいたのは、あの大快挙を成し遂げたプロジェクトの中心メンバーたちだったのである。


 そうして彼らはまた改めて思い至ったのだ。

 この地球という星は、勇気と倫理と神秘と富裕の星というだけでは到底言い表せなかったのだ。


 それはもはや驚異の惑星と言うしか表現出来ない星であった……




 三カ月後、まずは地球から見て太陽の反対側の軌道に、直径一千キロの森林惑星が完成した。

 そのドームを覆っているシェルは、透明にして宇宙空間を映し出すことも出来たし、またバーチャルな空を映すことも出来た。


 この人工天体全体はクラス15の遮蔽フィールドで覆われていて、中のヒューマノイドを太陽からの放射線などから守っている。


 惑星内生態系維持のためにと、隕石などから人工惑星を防衛するために、それぞれ専任のAIが二人雇われて働いていた。

 生態系管理AIには、自然が好きだったディラックくんの分弟であるニールスくんが就いている。

 

 分弟とは、両親が作った弟とは異なり、ディラックくん自身が自分の本体内につくったいわば分身である。

 だがもちろん作られたときから分化が始まり、もうすでにほとんど別人格になっていた。

 


 地表付近は一部に深い森がある他は、ほとんどが苗木を育てるための場所である。

 北欧ゾーンとロシアゾーンとカナダゾーンとそれから日本ゾーンに分かれていて、それぞれの地域の木の苗木が育てられている。


 その一階層下のゾーンには、管理者たちのための宿泊施設や一部観光客のためのホテルなどがある。


 その地下には、ひとつが百メートルほどの厚さの層が、四千層にも重なった広大な土壌工場があった。

 地球各地や火星から集めて来た土を、森林生育に適した土壌に作り替えるための施設である。



 光輝たちは、事前に一応国連と日本政府にお伺いを立ててみた。

 一九六七年の宇宙条約により、宇宙空間の領有は禁止されていたが、こうした宇宙構造物の場合の規定は存在しない。

 なにせ、人工惑星を作ろうとする者が現れるなど、誰も想定していなかったのである。


 また、万が一にも固定資産税を払うことにでもなったらタイヘンである。

 なにしろその表面積だけで日本の国土面積の八倍を超えるのだ。


 あまりのことに驚いた日本政府と国連は、相手が『惑星地球人類の福音』であり、またその目的が銀河の公益に供するものであることもあって、例外規定を作ってくれた。


 すなわち、あの公益法人三尊資源食糧備蓄協会の名義で人工惑星を作った場合、その所有を認めるというものである。

 また、日本国政府も固定資産税の非課税化を認めた。


 領有権についてはあいまいなままにされたが、所有権については認められたのである。

 まあ、国際宇宙ステーションと似たような扱いだった。


 こうして、人工天体とはいえ、光輝はとうとう惑星の所有者になったのであった……




 地球表面の光輝邸の森では、ひかりちゃんがリスたちを集めてなにやらお話をしている。

 ひかりちゃんを取り囲んだリスたちは、既に二千匹を超えていた。


「みんなだいぶ増えて来たわね。

 最初、おとうさんがこの森をリスの楽園にしたいと思ったそうだけど、本当にそうなったんで嬉しいわ。


 でもこのままだとさすがに少し混雑して来そうでしょ。

 それでみんなに相談なんだけど、こんどおとうさんたちが『森の惑星』プロジェクトって言って、いろんな星に森をプレゼントすることを始めるのよ。


 だからみんなの中の何人かにはその森に行ってそこで暮らして欲しいの。

 土や木はこことほとんど同じだから大丈夫よ。

 食べ物もたくさんあるわ。

 そこで赤ちゃんを産んでまた楽しく暮らしてね。


 あ、まだ小さい子や大きな大人は行かなくてもいいわ。

 大人になりかけの若い子たちにお願いするわね。

 それじゃあ行ってくれるひとは、わたしと一緒にこの輪の中に入ってください」


 五百匹ほどのリスたちがひかりちゃんに続いてぞろぞろと輪をくぐった。

 皆中ぐらいの大きさの若いリスたちで、既にカップルになっているものも多かった。

 ほとんどのリスたちが、輪をくぐる前に警備犬の近くに寄って、その足に手を置いたり、顔を見上げてなにやら言いたげにしていた。

 警備犬の目も、少し涙目になっているように見えた……



 空間連結器をくぐることで、リスたちの体表や体内にいる有害な寄生虫などは自動的に駆除される。

 健康的な体になったリスたちは、新しい広大な森林を前にして嬉しそうに走り回った。


 その地面には既に木の実が大量に撒かれていたし、あちこちに清流もあって飲み水も豊富である。

 餌のペレットも、生態系管理AIであるニールスくん配下のドローンたちが配ってくれることになっていた。

 



 それから一カ月ほど経って、惑星バイクの太陽を巡る軌道に直径百キロの森林惑星が完成した。


 こちらも北欧、ロシア、カナダ、日本のゾーンに分かれていたが、その敷地内の三%ほどにはそれぞれの地域の巨大な樹木が集められて森を作っている。

 湖もたくさんあった。


 地球のそれと違うのは、宿泊施設や食事施設の多さだった。

 空間連結器でいつでも惑星表面には帰ることが出来るが、やはりリゾートの良さは実際に泊まって見なければわからないということで、ホテルやコテージも大量に用意されていたのである。


 それらの宿泊施設にはふんだんに暖炉もあった。

 もちろんその排気は空間連結器によって一か所に集められて集塵処理が為されるが、その排出物である二酸化炭素は多くの場合、そのまま人工天体内に排出されている。

 これだけの量の植物があると、そのままでは酸素濃度が上がり過ぎて惑星住民が酸素酔いを起こしてしまうからである。


 また、その地下も地球の森林惑星とは違って土壌工場などではなく、広大な畑になっていた。

 森林惑星の周囲に無数に配置された巨大な太陽光集光衛星が、空間連結器を通じて太陽の光を畑に届けていたのである。


 これにより、森林惑星内で作られる料理はすべて取れたての新鮮な野菜を使ったものにすることが出来た。

 バイカーたちにとってはほとんど生まれて初めての大変な贅沢である。





 膨大な人数を集めた森林惑星贈呈式が始まった。

 これから森林惑星をプレゼントされる予定の多くの惑星からも、たくさんの政府関係者らが見学に来ている。


 彼らも森林惑星の規模と施設の内容に心底驚愕していた。

 これほどまでに巨大で高価な施設が、なんと惑星住民に森の生活を供するためだけに用意されていたのである。



 贈呈式のフィナーレは、ひかりちゃんに連れられて空間連結器からぞろぞろと出て来たあのリスたち百匹ほどが、森を走り回る光景である。

 惑星バイクの住民に木彫りのリスとしてあまねく知られたあのリスたちが、実際に嬉しそうに走り回っているのである。

 バイカーたちから大歓声が上がった。


 ひかりちゃんがリスたちに呼びかけた。

 リスたちはその場で止まってひかりちゃんを見、またひかりちゃんの足元に近寄って来る。


「それじゃあみんな。この大きな森で楽しく暮らしていっぱい増えてね。

 みんなとはもう会えないかもしれないけど、あなたたちの子供やその子供たちにはまた会いに来るわ」


 ひかりちゃんの頬を涙が伝わった。

 大観衆も銀河中の視聴者も固唾を飲んで静かに見守っている。


 そうしてひかりちゃんが涙を流しながらも微笑んで手を振ると、リスたちはまた後ろ足で立ち上がってひかりちゃんに手を振ったのである。


 大観衆から驚愕のどよめきが上がった。

 銀河宇宙数百兆のテレビ視聴者たちも驚愕に固まった。


 こうして森林惑星贈呈式は無事終了したのである。




 森林惑星内のメインエントランス付近にはあの名誉鉱夫総監督やスミルノフ氏や緊急パック製造会社社長の姿があった。

 光輝や龍一所長や筆頭様も合流した。

 周囲は大変な数の報道陣が取り囲んでその映像を全銀河に配信している。


 スミルノフ氏が辺りをきょろきょろと見回していた。


 龍一所長が尋ねる。


「どうされましたか」 


「い、いや、あのその。も、もしもよろしければ、この森林惑星のどこか片隅にでも場所を頂戴してですね…… 

 あ、あの小さくてかまいませんから我々の名前を残させて頂けないものかと思いまして…… いや、お恥ずかしい」


 龍一所長が微笑んだ。


「皆さんは空間連結器で惑星表面から直接お越しになられたんですよね」


「は、はい。そうですけど……」


「それでは今から小型艇用の宇宙ポートに行ってみませんか」



 森林惑星内のほとんどの移動は空間連結器によって行われるが、人工天体表面のメインテナンスなどのために、天体の北極部分には小型艇用の宇宙ポートがあった。


 その部分だけは人工天体から五キロメートルほど高くなった塔になっている。

 そこからの眺めは素晴らしく、展望レストランもあった。


 そうして……

 一行がその展望レストランの一画から森林惑星表面を見渡すと、そこには差しわたし一キロほどもある男性の似顔絵が描いてあったのである。


 似顔絵は四人分あった。

 鉱夫総監督とスミルノフ氏と緊急パック製造会社社長と、そして光輝の似顔絵である。

 四人とも優しそうな顔で微笑んでいる。


 森の基金創設者の三人は大硬直した。

 光輝も大硬直した。


 もちろんこんなことは知らされていなかったからであった……








【銀河暦50万8166年  

 銀河連盟大学名誉教授、惑星文明学者、アレック・ジャスパー博士の随想記より抜粋】



 こうして現在銀河宇宙全域に知られる「森の惑星」プロジェクトがスタートすることになったのである。


 当初は年間五十個ほどの森林惑星寄贈だったが、その数は惑星製造の熟練や基金の拡大と共に次第に増え、三年目には年間三百個、十年目には年間一千個、現時点ではその総数約五万五千個にもなっている。


 また、銀河中心部では、近隣の恒星系住民にも森林惑星が解放されるようになっているため、その恩恵に浴する恒星系の数はさらに増えている。


 その成果はすぐに目に見える形で現れた。

 周知の通り、銀河連盟加盟五百八十万の恒星系の平均倫理水準を、短期間で〇・五ポイントも引き上げた功績により、「森の基金」創設者たちと地球は、銀河連盟より「銀河貢献章」を授与されたのである。



 だが……

 筆者は直接RYUICHIと話をする機会があったので、聞いてみることが出来たのだ。


 その質問内容は次のとおりである。


「皆さんがあの森の惑星プロジェクトを始められた動機は、単に銀河宇宙への感謝の表明というだけでなく、またもや超巨大プロジェクトを立ち上げてみたいという欲求もあったのではありませんか?」


 彼らにとってのこうした大プロジェクトは四回目だったのである。


 一回目は、彼らが霊と呼ぶ重層次元に住む存在を組織して、非暴力的手段で彼らの惑星の反社会的勢力を壊滅させたこと。


 二つ目はあの英雄KOUKIの治癒能力を使って彼らの惑星住民の疾病を治療し、なんと一億人ものヒューマノイドの命を救ったこと。


 そうして当然ながら三つ目はあの大脅威物体の排除などを試みた地球救済プロジェクトである。


 筆者の質問に対してRYUICHIはこう答えた。


「もちろんそうですよ。

 あの森林惑星プロジェクトのときには資金も人員も技術も資源もたくさんありましたからねえ。

 今までで一番余裕のある状況でした。


 だからまた何か皆さんが喜んで下さることをしてみたくなったんですよ」


 そう言ったRYUICHIは筆者に向かってにっこりと微笑んだのである……






(つづく)


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