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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
191/214

*** 21 太陽系の小惑星帯に出稼ぎ ***


 スエーデンの消防当局は、国内の消防士や消防団員を次々に呼んで銀河装備での訓練を受けさせたのだが、これが大評判になった。


 おかげで連日マスコミが押し寄せて来て、消防士や消防団員になりたがる若者が急増することにもなったのだ。

 一般の見物人も大勢来て、訓練場はすぐに観光名所になっている。


 フィンランドやノルウェーはもとより、全ヨーロッパの消防当局が視察官をスエーデンに派遣してきた。

 彼らの報告に驚いた各国当局者は、次第に消防監や消防総監、担当大臣など高官を送り込んできたが、皆驚きまくり硬直しまくりで疲れた顔で帰って行った。


 もちろんアメリカやロシア、新生中国などの政府高官も続々とスエーデンにやって来て、おなじく疲れた顔で帰って行った。



 スエーデンの消防本部でのプレゼンからしばらくの後、地球上のほぼすべての国から、スミルノフ氏のもとへ、合計で実に三千万セットを超える装備一式と、一億個もの消火剤の注文が入った。


 ほとんどの国で、学校や工場などの施設にこの消火剤の設置が義務付けられたそうである。

 なにしろただ投げつけるだけで広範な範囲の火が瞬時に消えてしまうのだ。


 因みにこの消火剤には初心者用バージョンがあった。

 これはその場で地面にぶつけて割ると、消火剤に含まれているナノマシンたちが、半径百メートル以内の火に勝手に向かって行って消火してくれるというものである。

 こちらのバージョンはおひとつ五ユーロだった。


 火災を自動的に探知して消火してくれるプチAI付きは十五ユーロだったが、こちらは直径五十センチの大きさがあり、一万平方メートルの範囲の消火能力がある。


 そうして、実際に瞬時に火が消えて、多くの人命が助かった例が報告され始めると、この消火剤はさらに売れに売れた。


 あと数年もすれば地球上のすべての家屋、建物に標準装備されそうな気配である。


 スミルノフ氏は信じられないほどの大儲けをし、またあの緊急パック製造会社は惑星バイクでも三本の指に入る大会社になった。


 今日も世界各地でバイクの訓練教官の指導のもと、大勢の地球人が消防訓練を受けている。


 商業とはなんとも儲かるものである。

 惑星ジュリの商人たちはさらに張りきった……




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 小惑星帯は、今や惑星バイクの男の子たちの就職先として最高の人気を誇っている。

 因みに女の子たちの一番人気は「アンディとサンディアのコットンドレスの店」のモデルである。

 なにしろ小惑星帯は稼ぎがいい上に、惑星表面とくらべて平均倫理水準がまだ遥かに高いのだ。


 多くの若者が就職したがったため、今は小惑星帯の鉱夫総監督になっていたあの鉱夫監督は逆にやや不安を感じていた。


(惑星中の若者たちをここで働かせて一人前にしてやりたい。

 そうしてあの地球の森に連れていってやって更にまともな人間にもしてやりたい。

 だが果たして小惑星帯の資源埋蔵量がそこまで保つだろうか……)


 もう小惑星帯の資源採掘は、数千年に渡って続けられてきている。

 調査の結果、現在の採掘が続けば可掘埋蔵量はあと数百年分しか無いことが分かっていた。

 自分たちはまだいいが、このままでは小惑星帯の将来が不安である。



 鉱夫総監督はまたスエーデンの森に休暇に行ったときに、この悩みをスミルノフ氏に語った。

 スミルノフ氏はすぐに日本に出向き、光輝に言ってみたのである。


「地球の小惑星帯の資源開発を、バイクの鉱夫たちに請け負わせてやって頂けませんでしょうか」と……


 光輝たちは驚いた。

 驚くとともになんと素晴らしいアイデアなのかと感心した。

 なんせ連中は数千年もの間、宇宙空間での資源採掘を続けて来たプロ中のプロ集団なのである。


 その人柄もよくわかっている。

 なにしろスエーデンの英雄でもあるのだ。

 筆頭様はもろ手を挙げて大賛成した。


 光輝は早速国連に連絡を取り、バイクの鉱夫組合に太陽系の小惑星帯の資源採掘を再委託したいと申し入れた。


 今の国連加盟国で光輝のこうした提案に反対する国は無い。

 なにしろ今まで三尊研究所の言う通りにしていたおかげで地球が救われたのである。


 ついでに三尊研究所のおかげで世界の景気は信じられないほどの大活況を呈してもいる。


 さらに火災などの犠牲者はこれも信じられないほどに激減しているのだ。

 と言うより火災そのものがほとんど起きなくなっていた。

 火災と見做されそうになるとすぐに消火されてしまうからである。


 さらに交通事故も急速に減ってきている。

 ほとんど全ての新車に安くなったプチAIが搭載され始めたからである。

 おかげで運転の必要すら無くなっていた。


 もともと空間連結器のおかげで長距離運転の必要は無い上に、それらの新車は全てが電気自動車であったため、世界中の大気汚染もみるみる減っている。


 そうして、皆の眼にはそれらがすべて英雄光輝の功績に見えたのである。

 もはや光輝の指導力を疑う者は誰もいなかった。


 まあ、光輝自身には誰かを指導している意識など金輪際全く無かったのではあったが……



 しかも光輝の後ろには、光輝に心酔しきっているホワイトハウスとロシア大統領とバチカンまでついているのである。

 さらにサウジアラビア次期国王までもが有力後援者である。

 地球最大の四大勢力がその強力な後ろ盾なのである。


 おかげで光輝の陰でのアダ名は、

「キング・オブ・ジ・アース・ザ・ファースト (初代地球王)」

 であった。




 こうして、バイクの鉱夫たちは太陽系の小惑星帯に出稼ぎに来ることになったのである。


 国連と三尊研究所とバイク小惑星帯鉱夫組合の間に正式に契約が取り交わされた。

 契約の内容は、採掘された資源のうち、銀河の法律で定められた分を鉱夫組合が受け取ること。

 また、地球の若者たちが小惑星帯で働きたいと言ったら、バイクの鉱夫組合が彼らを指導教育することなどである。


 鉱夫総監督を始めとする鉱夫たちは、びっくりするほど喜んだ。

 なにしろ太陽系の小惑星帯で働けば、あのスエーデンの森に行くのに宇宙船に乗る必要すら無いのだ。

 空間連結器で行けるのだ。

 その気になればあの森に住んで職場である太陽系の小惑星帯まで通えるのである。


 これ以上の職場は想像も出来なかった。

 誰もが太陽系に行きたがった。



 鉱夫総監督は最初、念のために鉱夫経験十年以上のベテラン試掘チームだけを三百人ほど引き連れて、太陽系の小惑星帯にやってきた。

 ディラックくんの事前探査で有望そうだった大きな小惑星にまず基地を作る。


 こうした初期費用は三尊研究所が全て負担した。

 まあ、日本円にしてわずか一千万円ほどの初期費用である。

 今の三尊研究所にとってはどうということもない。


 そうして基地が建設され、地球との空間連結器網も完備されると、彼らバイキングたちは試掘を始めたのである。


 その結果…… 

 実にとんでもない量の潜在可掘資源が発見されたのである。

 数千年前のバイクの小惑星帯よりも多いかもしれない埋蔵量であった。

 特に鉄資源が多かったが、銅の鉱石もたくさんあった。

 その他の重金属や稀少鉱物も多かった。


 大いに喜んだ鉱夫総監督は、ただちにバイクから鉱夫たちを呼び寄せ、大勢のベテラン鉱夫たちがこれも大喜びしながら地球に移住した。

 やはり彼らはスエーデンの森に住んで小惑星帯に通うことを好んだのである。


 あの森のホテル周辺だけでは到底彼らを収容することは出来ず、スエーデン全域や近隣国ノルウェーやフィンランドにも彼らの受け入れが打診された。


 もちろん両国も喜んだ。

 あの英雄バイキングたちがスエーデンにしか行かないことを、常々口惜しく思っていたのである。




 太陽系の小惑星帯から産出する資源のうち、バイクの鉱夫組合の取り分は十%である。

 国連が五十%で三尊研究所が三九・九%でアレックくんが〇・一%だ。

 光輝たちは鉱夫たちの取り分が少ないのを気の毒に思ったが、これでも法で定められた最高の取り分だそうである。

 バイクの小惑星帯では八%だそうだ。


 その代わりに居住施設や緊急パックや精錬設備の購入などに際しては、惑星政府からの補助金が出ているそうである。

 光輝たちもそうすることにした。



 北欧全体の広大な範囲に大きなコテージが大量に建てられた。

 土地は各国が提供し、木材も格安で譲ってくれた。

 その土地に三尊研究所が建物を建てたのである。


 まあ、道路や上下水道も無いような土地はもともと価格もタダみたいなものだったのだが、なにしろ鉱夫たちには空間連結器があった。

 どんなに辺鄙な土地でも、首都の近郊に作られた上下水道場と直接上下水道管が結べたし、彼らには銀河技術の電力パックもあるので電線工事も不要だったのである。


 地面を整地した後に、首都近郊の工場で組み立てたコテージを重力遮断装置でふわふわと持って行くだけでよかったのだ。

 道路ももちろん要らないのだ。


 三尊研究所は、そうした大量のコテージを鉱夫たちに無償で提供したのである。


 当初熊やオオカミの心配をした地球人もいたが、彼らに笑って言われた。


「当面の間コテージの周辺は遮蔽フィールドで覆いますし、それより外に出るときにはいつも持ち歩いているパーソナル遮蔽フィールドがありますので」



 鉱夫たちの地球上での生活費についてはみんな少し悩んだ。

 両者の物価水準があまりにも違いすぎたからである。


 結局、三尊研究所が各国の首都郊外に大きなショッピングモールを建て、そこではバイクの鉱夫たちが彼らの物価水準で買い物が出来るようにした。

 食料から衣料品までなんでも揃っている。

 特にコットン等の天然繊維の衣料の取り揃えは充実していた。


 もちろん地元住民も地球通貨で買い物が出来るし、各種のレストランもたくさんある。


 そのショッピングモールの駐車場脇には大きな建物が建てられており、すべてのコテージ群と空間連結器で結ばれている。

 まあ便利なもんである。


 そのモールで彼らが購入する商品は全て地元で調達されたため、各国政府も喜んだ。


 ショッピングモール以外での彼らの消費については、あの森のホテルにプールされている莫大な宝石売却代金が分配されて使われている。






(つづく)


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