*** 16 結婚式 ***
翌日のスエーデンの全ての新聞には大見出しが躍った。
ある主要紙の見出しは、「バイキング、北欧の森を救う!」だった。
またある新聞は、三メートルも水位の下がった湖の写真を載せていた。
まあ、一雨降れば湖はまた元に戻るだろう。
ほとんどの新聞が、あのままでは推定五万平方キロもの広大な森林が完全に焼失してしまい、また犠牲者も三百人は超えていたはずであったという消防当局の談話を載せていた。
それがバイキングたちの大活躍のおかげで、数平方キロの焼失だけで済んだのである。
ホテルには大変な数の報道陣が詰めかけていた。
消防当局の調査隊もいる。
支配人はバイキングたちに配慮して報道陣にはご遠慮願い、彼らに代わって当局の質問に答えた。
さすがに鉱夫監督は呼ばれて当局の質問に答えている。
調査に当たった消防本部の幹部はやたらに丁重だった。
その後ろにいた部下たちも、直立不動の姿勢で鉱夫監督に敬意を表している。
外に締め出されていた報道陣が少し可哀想だったので、鉱夫監督は自らの緊急キットに記録されていた救助作業と消火作業の映像を、支配人を通じて彼らに進呈した。
あの空飛ぶ消火作業のシーンは大変な人気コンテンツとなり、後に空飛ぶ消火ゲームまで出来た。
その日の昼過ぎにはスエーデンの首相がホテルを訪れて、バイキングたちにお礼を言った。
夕方には国王陛下もお見えになって、丁寧にお礼を言って下さった。
バイキングたちは、単にヤマの義務を果たしただけなのに、なぜこれほどまでに感謝されるのかがわからなくてきょとんとしている。
また、このニュースは日本でも大々的に報道された。
筆頭様はひざを叩いて大喜びし、「あの大男たちめが、やりおったわいっ!」と叫んだ。
新聞には消防当局の質問に答えるあの鉱夫監督の写真が大きく載っていたのである……
アンディとその独身の仲間たちは、サンディアの村に招待された。
村の集会場に村民の全てが集まり、バイキングたちに大変な感謝をするとともに彼らの勇気と行動を讃えたのだ。
バイキングたちは、勇気の星KOUKINIAのひとびとに勇気を讃えられて驚いている。
そんな彼らの姿を見て村の娘たちの目がハート形になった。
乾杯が行われ、村の女たちが一生懸命作った豪勢な料理が大量に運び込まれる。
なにしろ完全に燃えてしまうはずだった村が救われたのである。
みんな実に嬉しそうだ。
座が広がると、アンディはサンディアのお父さんに酒勝負を挑まれた。
サンディアの父親は村一番の酒豪であることを誇りにしていたのである。
だが、アンディは四十度もの蒸留酒をまるで水ででもあるかのように飲んだのだ。
彼は酒に強いバイカーの中でも特に酒に強かったし、その蒸留酒のアルコール度数は彼らのビールと変わらなかったのである。
アンディはあまりにも酒に強かったせいで、あまり酒は飲まなかったのだ。
酔うまで飲んだら二日分の稼ぎが飛んでしまうからだった。
サンディアのお父さんはたちまち潰れ、すぐに他の酒自慢たちがアンディに挑戦したが、五人が潰れたところで挑戦者がいなくなった。
アンディは平気な顔でサンディアを手伝って皿洗いをしている。
村中の男たちはバイキングたちをさらに尊敬し、村の娘たちの目もますます大きなハート形になった。
酒勝負に完敗したサンディアの父親は、娘の異星人との交際を許さざるを得なくなった。
だがまあ村の大恩人であり、スエーデンの英雄でもある。
実は父親は密かに誇らしく思っていた……
休暇を終えた巨人たちは、徐々に小惑星帯に戻り始めた。
アンディがサンディアに、「こんどバイクの小惑星帯に遊びに来てくれないか」と言うと、サンディアは涙で潤んだ目をしたまま頷いた。
そうして別れ際にアンディに抱きついてくれたのである。
周囲では大勢のバイキングたちが微笑んでいる。
数カ月後にまたスエーデンの森を訪れた鉱夫監督は驚いた。
なんと広大な森林の広大な範囲に三百五十棟もの大きなコテージが建てられていたのである。
スエーデン王国が国有地と木材を提供し、国連の支援で建てられた大きくて豪華なコテージがたくさんあった。
もはやコテージというより邸宅に近い。
もちろん三尊研究所や筆頭様からの寄付金で建てられたものである。
大勢のドローンたちが仕上げの内装をしていた。
それら王侯貴族の邸のような木造建築が、すべてバイキングたちへのお礼のプレゼントだというのである。
鉱夫監督たちはびっくりした。
まあ、スエーデン当局としても、彼らがいなければ燃えてしまっていた木々でもあるし、一人で消防隊員一千人分の働きが出来るバイキングたちが森に点在してくれるのは実に心強かったのである。
森のホテルも敷地内に巨大なレストランを建設していた。
四百人のバイキングが一度に食事を出来る広さがある。
どんなに混雑しても、首都と空間連結器で結ばれているため、契約したレストランから即座に料理が運び込まれた。
もちろん木造で、外見は目立たぬ丸太小屋風である。
大きな暖炉が五つもあった。
また、全てのコテージと空間連結器で結ばれているので、コテージがどんなに遠くても客はすぐにレストランに来ることが出来る。
さらに筆頭様の好意で、湖畔には家族風呂も含む巨大な露天風呂も作られていた。
三百キロ離れた源泉から大量の温泉が空間連結器を通って流れ込んでいる。
湖を汚さないように、排水は空間連結器を通って首都の下水処理場に直接流されている。
この温泉には常に地元民とバイキングたちの姿が見られるようになった。
バイキングたちにとっては、ほとんど生まれて初めてのたいへんな贅沢だったのである。
鉱夫監督と消火を手伝った鉱夫たちは、自分たちがいないときにはコテージを仲間たちに開放した。
いずれ引退したらこのコテージに住むことになるだろうが、それまでは皆とシェアしたのである。
あのとき誰がいたとしても、全員が消火作業に参加したはずだと考えたからだった。
だが彼らは、いつかはここに住めると思っただけで感動で体が震えたのだ。
若い鉱夫たちはさらに真面目に働いた。
自分たちもカネを貯めて、いつかはあの森に移住したいと憧れた。
そのときにも安く家を建てさせてもらえるそうである。
森はそれほどまでに広大だったのだ。
後日、あの空飛ぶ消火作業は消防訓練と称して人気の娯楽になった。
湖の上で鉱夫たちが雄叫びをあげながら、水の吹き出る輪を持って楽しそうに飛びまわるのだ。
こんな遊びは絶対に小惑星帯では出来ない。
たまに慣れていない鉱夫が湖をはみだして村の見物人や洗濯物をびしょ濡れにした。
彼らはすぐに村に出向いて平謝りに謝っていたが、村人たちはこれを笑って許し、その鉱夫たちに酒をおごった。
このニュースは惑星バイクでも大々的に報道され、バイクの報道陣も大勢森にやって来た。
そうして皆どんどん柔和な顔つきになりながら、森や湖や地球政府が鉱夫たちにプレゼントした木の邸宅を撮影しまくったのである。
おかげで小惑星帯は、惑星表面の若者たちにとって最高のあこがれの職場になった。
優秀な若者たちが銀河宇宙に出て行ってしまうのを嘆いていた惑星住民も、これを歓迎している。
ある日、アンディが本当にサンディアを連れて小惑星帯に戻って来た。
サンディアは嬉しそうにアンディと腕を組んで小惑星帯を見学して回った。
宝飾店では巨大な宝石を使ったアクセサリーにびっくりしたが、それもここでは驚くほど安いのだ。
サンディは大きなルビーのネックレスを母親と妹のために買い、アンディはサンディアのためにダイヤのネックレスを買ってくれた。
直径が五センチほどもある薄くカットされたダイヤである。
アンディとサンディアが鉱夫組合の集会室に行くと、大勢の鉱夫とそのカノジョたちがアンディたちを見た。
なぜか女の子たちは皆サンディアを見てため息をついている。
後でレストランで二人きりになったとき、サンディアはアンディに聞いてみた。
「私って、ひと目で地球人ってわかるのかしら」
「いや。そんなことないよ。言わなければ誰にもわからないよ」
体の大きさを除いてバイカーと地球人の外見はほとんど同じだった。
特に北欧の人々とはそっくりである。
「で、でも、さっき鉱夫会館でみんなが私のこと見ていたの……」
アンディは笑いながら言った。
「それはキミがものすごく高価なドレスを着ているからだよ」
サンディアはびっくりした。
「だってこれ、ただのコットンのワンピースよ。
私が自分で作ったから少し装飾も多めにしてあるけど」
アンディはますます微笑みながら言う。
「ここでは植物性の繊維で作られた服はものすごく高価なんだ。
それと同じ服を買おうとしたら、僕の一カ月分の稼ぎでも足りないね」
サンディアはまたびっくりした。
「地球なら布地代はわたしの一日分のお給料より少ないぐらいよ。
しかも自分で作ったから布地代以外はタダだったし」
「だからきっとスミルノフさんみたいな銀河商人が飛びまわっているんだろうね。
スミルノフさんも今や大会社の社長さんだし」
スミルノフ氏は採掘の終わった小惑星を買って、そこを壮麗な日本家屋にしてしまっている。
そろそろお嫁さんが欲しいなぁと思っていた。
だが小惑星帯には自分より小さな女の子がほとんどいないので悩んでいたのだ。
アンディはまもなくサンディアにプロポーズし、二人はすぐに結婚式を挙げた。
式は村の教会で行われ、披露宴は森のホテルで盛大に行われた。
大勢のバイキングたちや地球人たちが二人を祝福した。
また、地球人と銀河人との初の結婚とあって、地球のマスコミも大勢やってきている。
スエーデン首相も来て二人にお祝いを言った。
筆頭様と一緒にスーツ姿の光輝もやって来た。
その場にいた地球人たちもバイキングたちも、皆光輝に気づいて大硬直している。
サンディアの両親と妹は、あの英雄光輝に祝福されるサンディアを見て泣いた。
(つづく)




