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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
175/214

*** 5 木の装飾板 ***


 ゴッツォの出来事以降、銀河ネットのドキュメンタリー番組「英雄KOUKIの一日」は、銀河商人たちのほとんどが見るようになった。


 英雄KOUKIが番組内で食べたり使ったりしたものは、たちまち大人気になっていくらでも売れたからである。


 あるときその番組内で、特別に許可されたひかりちゃんのインタビューがあった。


 レポーターに、「英雄KOUKIは家ではどんなおとうさんですか?」と聞かれたひかりちゃんは、

「ええ、昼はわたしたち兄弟姉妹といっしょに楽しく遊んでくれるやさしいふつーのおとうさんなんですけど、夜になるといつもおかあさんと一緒にでれでれになって、毎日毎日飽きもせずにいちゃいちゃしています。

 おかげでわたしはまだ八歳なのに、弟たちや妹たちがもう四人もいます。

 おかあさんは、おとうさんが他の女の人を見ていたりすると、その後、怒って家の中では裸で暮らすようになります。

 仕方が無いのでわたしもおかあさんを応援して裸で暮らします。

 おとうさんはすぐに平謝りに謝っています」


 と言いたかったのだがヤメた。


 代わりに、「とってもやさしいふつうのおとうさんです」と答えた。


 後で家族でその番組を見ていたひかりちゃんは、おとうさんやおかあさんから、「もっといろいろ答えてあげればよかったのに」と言われて、にっこり笑った。


 ひかりちゃんは、

(ほんとにあれ言ってたらどうなっていたんだろう。

 多分もう二度とインタビューは許可されないな)

 と思ったが何も言わなかった……



 八歳になっていたひかりちゃんは、毎日大河くんと手をつないで小学校に通っている。

 見かけが八歳になったジェニーちゃんも、特別に許可をもらって一緒に小学校に通っている。

 ジェニーちゃんは大河くんの反対側の手を握っている。


 四年生になっている大河くんの顔は少しずつ赤くなり始めていた。

 まあ、これだけ可愛らしい女の子を二人も左右に侍らせているのだから、顔が赤くなるのも仕方がないことではある。


 大河くんがジェニーちゃんの横顔に見とれていると、大河くんの手を握るひかりちゃんがだんだんその手を強く握り始める。


 大河くんがひかりちゃんの横顔に見とれていると、ジェニーちゃんの手がだんだん大河くんの手を強く握り始める。


 後ろから見ていると、大河くんは左右をきょろきょろしながら歩いていた。



 龍一所長と桂華夫妻の子供の数も四人になった。

 男の子二人と女の子二人である。

 子育てが大変になった二人は瑞祥本家の本宅の裏に洋館を建てて引っ越していた。


 空いた一階は光輝が買い取って、ディラックくんたちに貸してあげている。

 だから毎朝ひかりちゃんと大河くんとジェニーちゃんは、自宅の建物を出たすぐのところで待ち合わせして小学校に通っているのだ。


 そこにはあの引退した警備犬が三頭デンと座っていて小リスたちもたくさんいる。


 ジェニーちゃんはリスたちが大好きだったので、いつも早めに出て来てリスたちに囲まれて嬉しそうな顔をしていた。


 ある日いつものようにジェニーちゃんが早めに出て来てリスたちと遊んでいると、大河くんがこっそりジェニーちゃんに忍び寄ってきて、「わっ」と言って驚かせた。


 防衛用AIの血を引き、おかあさまに言われて常に周囲一キロをチェックしているジェニーちゃんを驚かせることなど出来るはずもないが、ジェニーちゃんもつきあってあげて「わぁっ!」と言って驚いてあげた。


 翌日もまた大河くんがジェニーちゃんを驚かせようと、にこにこしながらこっそり近づいてきて、「わっ」と言った。


 ジェニーちゃんは、また「わぁっ!」と驚いてあげて、ついでに手足を分解させた。

 おとうさんゆずりのびっくりワザである。


 大河くんは腰を抜かした。

 ひかりちゃんが出て来たときには、大河くんは「ごめんよー、ごめんよー」と泣きながらジェニーちゃんの手足を拾い集めていたそうである。


 その日から、大河くんは女の子たちにみょーに優しくなった。

 手をつないでいるときも、実にやんわりと優しくにぎってくれている……



 今や一千匹近くに増えたリスたちは、小学校に行くひかりちゃんたちの後をぞろぞろとついていく。

 やはり巨大な茶色いじゅうたんのような光景である。


 最初はひかりちゃんのあとから門も出ようとしたので、仕方なくひかりちゃんはジェニーちゃんに頼んでクラス1の遮蔽フィールドで門のところを塞いでもらった。


 ひかりちゃんたちの姿が見えなくなるとリスたちは森の中に解散していくので、遮蔽フィールドを張っている時間は短くて済んだのだ。


 リスたちは最初は何か見えない壁に当たって驚いていた。

 先頭の方にいるやや大きいリスたちは、後ろから押されて自然に後足で立っている。

 まあ、リスが前足で持った木の実を食べる時などのお得意のポーズである。


 まるでお見送りしてくれているかのようなリスたちの姿を喜んだひかりちゃんたちは、リスたちに向かって「行ってきまぁ~す」と手を振る。


 ある日それにつられてか真似をしてか、先頭の方にいたリスが同じように手を振った。

 それに気づいたひかりちゃんたちがきゃーきゃー言いながらさらに手を振る。

 翌日もそのリスは手を振り、また子供たちが喜んだのを見て他のリスもマネをしはじめた。


 そのうちに一千匹のリスたちが、そろって後足で立ちあがって手を振ってお見送りしてくれるようになったのである。

 もう遮蔽フィールドも必要無くなっている。


 この奇跡の光景は大評判となり、毎朝門のところには大勢の見物人が押し掛けるようになった。


 ひかりちゃんたちが見物人たちにも手を振ると、見物人たちも歓声をあげながら子供たちに手を振る。


 ひかりちゃんはにこにこした顔を崩さないまま、ジェニーちゃんに、「リスも人間もいっしょね」と醒めた小声で言った。


 ジェニーちゃんも、おなじようににこにこした顔のまま、醒めた口調で「そうね」と答えた。


 大河くんは、(女の子ってコワイな……)と思ったが何も言わなかった。



 そのうちにこの光景は銀河ネットワークでも紹介された。

 銀河中の子供たちが驚いた。

 これはドローンなのではなく、野生の小動物なのだそうだ。


 銀河中の子供たちがうらやましそうにため息をついた。

 銀河商人たちはさっそくお見送りドローンを売り出した。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 銀河宇宙のヒューマノイドの主要産業は商業である。


 その卓越した技術力はもはや各種工業製品の生産を容易にしていたし、実際の生産は皆自動工場かドローンたちが行っていた。

 主なサービス業もほとんどがドローンたちの手で行われている。

 要は銀河のヒューマノイドたちはヒマだったのである。


 だが、各惑星の特産品などの交易は別である。

 ある種の商品はその惑星ではありふれていても、別の惑星では大歓迎されるかもしれない。

 そうした需給のアンバランスを埋める恒星間交易は実に盛んだったのだ。


 だが銀河ヒューマノイドたちはその交易自体にもやや限界を感じていた。

 もはや新しい商品の発掘などの機会は無くなりつつあるのではないかと。


 だがそこへ起こったのがこの地球の事件である。

 コーヒーやチョコレートを取り扱った商人たちは、大儲けをするとともに大変な興奮を味わった。


 あのジュリの子などはたったの数年で惑星有数の大資産家になったではないか。

 また、惑星ゴッツォの特産品もあれほどまでに銀河中で大人気になったではないか。


 銀河の商人たちは奮い立った。

 まだまだ商売の種と興奮はそこら中に転がっているかもしれないのだ。


 特にジュリの商人たちは新しい商品の発掘に熱心だった。

 地球のような未開惑星や、連盟加盟星の中でもゴッツォのような新興惑星にはまだまだ驚異的な新商品が眠っているかもしれない。

 大勢のジュリの商人たちが地球を訪れて珍しい商品を探していた……



 スミルノフという名のとある商人も地球を訪れていたが、彼の商取引用AIは、ディラックくんと知り合いだったので、彼らはディラックくんを訪ねてアドバイスを乞うことにした。

 ディラックくんは、喜んで旧友とそのご主人さまのスミルノフ氏を自宅に招いてもてなした。


 スミルノフ氏は、ディラック邸を取り囲む広大な森を見て羨ましそうにため息をついている。

 惑星ジュリではこれほど見事な森はすべて星立公園になっていて、その中に住むことなどは出来ない。

 僅かにお金持ちのためのリゾートホテルがあるだけである。


 しかもその木々の大きいこと。

 これほど大きな木々の森は、故郷惑星にも滅多に無かったのである。



 ディラック邸は、銀河技術をほとんど一切使っていない素朴な作りであったが、その上の階があの英雄KOUKI邸だと聞いたスミルノフ氏は仰天した。

 邸を取り囲むこの広大な森も当然のことのように思われた。


 そうしてもうひとつ、ディラック邸にはスミルノフ氏の興味を大いに引いたものがあったのである。

 それはリビングルームの一角に張られている飾り板であった。


 床から一メートルほどの高さまでが美しい木の板で覆われている。

 よく見ればその板には細かい彫刻が施された部分もある。

 その板の表面の一部は、薄く塗装されていたが、板の美しい木目を覆うほどではない。

 しかもその塗料はURUSHIと言う植物性の天然塗料だそうである。


 壁の上に目を転じれば、大きな板に見事な絵画彫刻が施されたものが飾られていた。

 こちらは塗装されておらず、無垢の木のままだそうだ。

 木の香りが素晴らしい。


 この邸に引っ越した際に、ヒューマノイドの友人から頂いた引越祝いだそうで、上階のKOUKI邸の部屋にも飾ってあるそうだ。


 スミルノフ氏は、チョコレートやコーヒーでもてなされながらも、それらの木製品から目が離せなかった。

 惑星ジュリにも木製品はあるにはあったが、大きな木自体が貴重品で、伐採許可などは滅多に下りなかったのである。


(こんな装飾板が、僕の殺風景な宇宙船の部屋にあったらどんなにか素晴らしいことだろうか)

 そう思った氏はディラックくんにこの装飾板の価格を聞いてみた。

 まあ、ジュリの商人の間ではそうした行為は失礼には当たらない。


 久しぶりに故郷惑星の商人と商取引の話が出来るディラックくんも嬉しそうだった。


「これらの商品は売り物なのではなく、ある篤志家が例のシェルター内の装飾用に寄付しようとして用意していたものなのです。

 ですから価格は分かりませんが今聞いてみますね」


 あの板を作った時以来、ディラックくんと筆頭様は懇意である。

 友人と言っていい間柄だ。

 ディラックくんは早速筆頭様に連絡を取ってみた。


 ヒマだった筆頭様は、それでは今から一緒に倉庫に行ってみようと言ってくれた……






(つづく)


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