表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
174/214

*** 4 親地球惑星 ***


 あるとき三尊研究所にひとりの銀河人がやってきた。

 営業部長の豪一郎に連れられて、その実直そうな銀河人は光輝の質素な社長室に通された。


「わたくしなどにお会いくださって本当にありがとうございます。

 最高評議会参与さま」


 銀河人は深く頭を下げた。

 最近銀河で流行の倫理感溢れたお辞儀である。


「いえいえ、わたくしは未開惑星の一介の商人にすぎません。

 どうか頭をお上げくださいませ。

 わざわざお越しくださってどうもありがとうございます。

 それで本日はどのようなご用件でご来訪くださいましたのでしょうか」


「はい。わたくしはゴッツォと言う名の銀河辺境の惑星から参りました。

 まだ銀河連盟に参加してから一千年弱しか経っていない貧しい星でございます。


 惑星ゴッツォは水や天然資源が乏しく、また太陽からもやや遠いために農業生産も多くありません。

 資源も少ないために農業衛星も持つことが出来ません。


 ですが、貧しい星でも住民たちはみな心豊かに幸せに暮らしております」


 聞けばその人物は惑星ゴッツォの大統領の特使だそうだった。


「大統領と私は、こちらの地球産チョコレートとコーヒーを買い求めました。

 さしもの大統領といえども、それは少しずつしか買えませんでした。

 そうしてそれらを頂いた私どもは、そのあまりの美味しさに驚嘆致したのでございます。


『このチョコレートをゴッツォの子供たちにも食べさせてやりたい』 

 そう申して大統領は涙を流しておりました。


 そうして最近銀河ネットワークで、カカオ豆があの貴重なチョコレートに加工される様子を拝見させていただいたのでございます。

 その映像の中で、より美味しい高級チョコレートを作るために、未成熟なカカオ豆を取り除いて捨ててしまうシーンがございました。


 どうかお願いでございます。

 あの捨ててしまうカカオ豆を格安で私どもに売っては頂けませんでしょうか。

 惑星ゴッツォの子供たちにもチョコレートを食べさせてあげたいのでございます」


 そう言った惑星ゴッツォの大統領特使は、また光輝に深々と頭を下げた後、光輝をすがるような目で見上げた。


 目に涙を滲ませた光輝が豪一郎を見ると、豪一郎が腕組みをしながら重々しく頷いている。

 豪一郎の目も赤くなっていた。



「畏まりました。

 後日惑星ゴッツォ様に、地球の国連から貴惑星に友好を求めさせていただくご挨拶の印として、チョコレートとコーヒーと、あといくばくかの品をお届けさせて頂きたいと思います。

 惑星ゴッツォ様のご住民の方々は何人いらっしゃいますか」


 大統領特使は、「恥ずかしながら農業生産が少ないため十億人ほどしかおりません」と言った後、大きな箱を差し出した。


「これも恥ずかしながら惑星ゴッツォの特産品でございます。

 この産物だけはゴッツォの土地から大量に収穫されますので、住民たちの主食のひとつになっております」


 光輝が箱のふたを開けると、驚くべきことに、そこには巨大な白トリュフ、黒トリュフ、そしてマツタケそっくりのキノコがぎっしりと詰まっていたのである。



 翌日あのイタリアンのシェフや清二板長と一緒に皆で食べてみたのだが、それらのキノコは素晴らしく美味しかった。

 香りも最高である。


 シェフが言った。


「これは地球産の最高のトリュフと比べても遜色が無いどころかそれ以上ですな」


 マツタケも最高だった。あの板長ですら唸って言った。


「是非これを仕入れさせてもらいたいもんだ。お客が大喜びするだろう」


 光輝はすぐに瑞祥物産に連絡して、チョコレートとコーヒーを用意してもらった。

 瑞祥物産はいまや地球最大の商社になっている。

 それらはすぐに用意が整った。


 光輝は国連にも連絡し、惑星ゴッツォに地球の国連の名のもとに友好関係を求めて贈り物をする許可を求めた。

 国連はそういう理由ならばと物資の提供を申し出たが、光輝はそれを丁寧に断ってすべては三尊研究所が寄付することにした。


 これも地球最大級の規模になっている瑞祥物流が、すぐに銀河技術である巨大高速輸送船をチャーターして、それらの品を惑星ゴッツォに運んだ。

 地球の国連特使は豪一郎である。



 ゴッツォの大統領とあの大統領特使は、それぞれ一万トンに及ぶ最高級チョコレートとコーヒーの壮大な山を前にして、驚愕で口もきけなくなった。


 その後からは、軌道上の巨大輸送船から次々に膨大な量の物資とドローンが吐き出され、ゴッツォの太陽を巡る軌道に大型の農業惑星が突貫工事で建設され始めたのである。


 まあ、こうした工業製品の価格は光輝たちの感覚からすればさほどに高くは無い。

 ディラックくんに代金を確認してみても、それは三尊研究所の一時間分の収入にも満たなかったのである。


 思惑通り、豪一郎は返礼として超大量のトリュフやマツタケを貰って帰り、みんなを大喜びさせた。

 それからも毎年たくさん送ってもらえることになったのである。



 その農業惑星の本体には、さしわたし百キロもあるゴッツォの文字が書いてあった。

 それは、

「ゴッツォの皆さま。どうかこれからよろしくお願い致します。 地球」 

 という文字であった。


 もちろん光輝たちには地球産のトリュフやマツタケをいくらでも買う余力はあったのだが、そんなことをすれば地球での価格が高騰して顰蹙も買ってしまう。


 つまり、「ゴッツォの皆さま。どうかこれからよろしくお願い致します」のよろしくとは、トリュフとマツタケをよろしくお願い致します、との意味も含まれていたのである。




 その後、銀河ネットのドキュメンタリー番組で、「英雄KOUKIの一日」という番組が放映された。

 まあ、その手の地球モノは今でも大人気なのでそう珍しいことではない。


 一千匹近いリスたちを引き連れた光輝一家が朝の森を散歩する光景。

 二千人を超える僧侶たちや一万人近い銀河留学生たちを前にして、光輝とひかりちゃんが座禅を組む光景。


 その周りには今日も大量の鳥やリスやシカたちが集まって来ている。

 それから瑞巌寺学園での児童生徒たちに大歓声で迎えられる様子。


 それら光輝の日常が次々と紹介された後、ナレーターが言う。


「このように地球の英雄、銀河の英雄KOUKIの日常は実に勤勉でまた質素なものであります。

 しかしそのKOUKIにも、月に一度の贅沢と、半年に一度の贅沢があります」


 カメラが光輝の食事風景を映し出した。

 そこにはパスタが見えなくなるほどの白トリュフを乗せたカルボナーラを前に、恍惚とした光輝の表情がいた。


 そして光輝は実に嬉しそうに美味しそうに、そのトリュフまみれのカルボナーラを食べ始めたのである。

 もちろん実際に大好物なので演技ではない。


 次はマツタケを食べるシーンだった。

 これも山盛りにしたマツタケを、嬉しそうな表情で焼きながら実に美味しそうに頂く光輝とその家族の姿があった。

 その後にはマツタケの土瓶蒸しやマツタケごはんが紹介された。


 視聴者たちは、いつも倫理観に溢れた高貴な顔立ちをした光輝の、そんな恍惚とした嬉しそうな顔を初めて見てびっくりした。



 ナレーションが続く。


「あの英雄KOUKIがなんと美味しそうに食べていることでしょうか。

 皆さまも食べたくなってきたのではありませんか?


 ですが残念ながら、これらのキノコはここ富裕惑星地球ですら大変に稀少で高価なものなのです。

 あの白いトリュフは同じ重さのコーヒー豆の三百倍の価値があるそうです。

 その隣のマツタケというキノコも同様です。

 つまり今英雄KOUKIの家族が召し上がったマツタケの価格は、銅200キログラムに相当しているのですね。


 まさに富裕惑星地球でも随一の大資産家、英雄KOUKIならではの贅沢といっていいでしょう」


 銀河系数百兆の視聴者たちは皆ため息をついた。

 それは一般的な銀河人の12年分の年収に相当していたのである。

 それほどまでに貴重で高額な食材があったとは。

 まさに銀河の英雄の食卓である。


 ナレーターがにっこりと微笑んで言った。


「ですが皆さんお喜びください。

 私ども銀河ネットワークとKOUKIの共同調査により、これらのキノコが大量に生産されている惑星が発見されました。


 KOUKIに食べて頂いたところによると、それらは地球産のキノコと比べても全く違いがわからないほど美味しいそうであります。


 その惑星の名前はゴッツォと言うそうです。

 その惑星では惑星住民の主食のひとつになっているほど生産が豊富だそうであります。

 きっとお安いかもしれませんよ」


 そう言うとナレーターはにっこりと笑った。



 惑星ゴッツォにはたちまち膨大な数の銀河商人たちが押し寄せてきた。

 みんなほくほくしながら超大量のトリュフやマツタケを買いつけて輸送船に運んでいる。


 トリュフは白い肌と薄い色の髪の毛の住民のいる惑星に飛ぶように売れた。

 また、マツタケは髪の毛の黒い住民の多い惑星で大人気となった。



 農業惑星のおかげで農産物の収穫が豊富になった惑星ゴッツォは、その惑星表面の農地を元に戻してトリュフやマツタケの生産地にし、ゴッツォは一年で富裕惑星の仲間入りをした。


 その住民たちは、毎日三時になると自分たちで買ったチョコレートを食べながらコーヒーを飲めるようになったのである。


「英雄KOUKIの誕生日を惑星ゴッツォの祝日にする」

 という法案が、ゴッツォ国会で満場一致で採択された。


 その日にはゴッツォの全ての住民が、あの農業惑星を見上げて、英雄KOUKIと地球に感謝の祈りを捧げたのである。



 惑星ゴッツォ政府からは、友好と感謝の印として年に二回、三尊研究所に膨大な量の最高級トリュフやマツタケが届けられた。

 もちろんみんなこれを楽しみにしていて、盛大なトリュフ&マツタケパーティーが開かれている。


 惑星ゴッツォの税収はこの二年間で三十倍になっているそうである。

 その潤沢な予算を使って、最近あの農業惑星の表面の文字の下に、新しい文字が書き加えられた。


 それは、

「こちらこそよろしくお願い致します。 ゴッツォ」

 という文字だったそうである。


 またひとつ親地球惑星が増えた……






(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ