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【初代地球王】  作者: 池上雅
第六章 【完結篇】
171/214

*** 1 銀河KOUKI基金 ***


 太陽系が救われてから三カ月が経った。


 地球上のあちこちには、まだあの白い個人向けシェルターがたくさん建っている。

 特にアフリカ諸国と中国にたくさんあった。


 欧州とアメリカの高地にもかなりの数のシェルターがあったが、暗号キーを持った代理人が開放を依頼してきたので、三尊研究所は契約通りに中の人たちのコールドスリープを解除してドアを開けてやった。


 だが、アフリカと中国からは誰も依頼に来なかった。

 コールドスリープに入った本人たちが暗号キーを持っていたためである。


 これらはシェルターもその中のコールドスリープ装置もそのままにされた。


 中の人たちは契約通り百年後にコールドスリープから起こされたときに、さぞかしびっくりすることだろう。


 アフリカの旧独裁国家では、全ての国が議会制民主主義国家になって名前も変わっていたし、中国も六つに分かれてやはり名前が変わった民主主義国家になっていたからである。




 しばらくして、光輝は銀河連盟最高評議会の特別参与として招聘された。


 参与と言ってももちろん投票権も無く、単なる参考人のようなものだったが、それでもなにしろ銀河最高評議会の参与である。


 未開星からの参与選出はかなり異例なことだそうだ。


 まあ、評議会の人気取りということもあったのだろうが、評議会の面々も地球人に興味を持ったのだろう。


 そんな仕事を引き受けたら、奈緒ちゃんや子供たちと過ごせなくなってしまうと思った光輝は、また最初断ろうと思ったのだが慌てたディラックくんに説得された。


「評議会の超高速艇なら、地球から評議会の置かれている銀河中心部の惑星まで三十分で行けますよ。

 だから毎日ご自宅から通えますし、評議会は通常年に一回、一週間ぐらいしか開催されません。

 そのときはご家族全員で銀河見物のおつもりで行けばいいではないですか」


 そう聞いた光輝はまあいいかと思って受諾することにした。


 ついでにこの仕事を引き受けたことで、地球は銀河連盟の准加盟星という扱いになり、地球人が銀河世界に行くことも出来るようになるそうである。


 どうやらスピーチも無いらしいと聞いて、龍一所長も豪一郎も招聘の受諾を勧めた。



 光輝は、最初に評議会に呼ばれたとき、評議会議場のある惑星のホテルに部屋を二つ取った。

 一つは大きな部屋でもう一つは小さな部屋である。


 光輝と奈緒は小さな部屋で、またでれでれになって新婚旅行気分で子作りを再開した。

 もうひとつの大きな部屋では、またため息をついたひかりちゃんが、あの五人のお弟子さんたちと一緒に弟たちや妹たちの面倒をみてくれている。




 銀河連盟最高評議会はもちろん全銀河ネットワークで放送されているが、普段は誰も見ていない。

 だがこの日は地球人の銀河デビューだということで、評議会の視聴率は過去最高水準に達しているそうである。

 議長の機嫌は実によろしかった。


 評議会の冒頭で光輝は議長から公式に紹介された後言われた。


「招聘をご承諾くださって誠にありがとうございます」


 最高評議会の広大な議場のこれも広くて高い壇上で、光輝は見事な所作で平伏した。


 実は最近銀河系ヒューマノイドの間では、あの地球のドキュメンタリーのせいでこの平伏が流行っていたのである。


 なんだかとても礼儀正しく見えて、倫理度が高そうに見えたからである。

 評議委員たちも大勢自宅で密かに練習したりしていた。


 その評議委員たちが顔を赤らめるほどの格調の高さで所作で光輝が平伏したのである。

 何人かの評議員たちは(さ、さすがは本場の平伏だ……)と思って密かに感嘆した。

 多くの銀河人たちも密かに感嘆した。



 光輝は平伏から顔を上げると言った。


「こちらこそご招聘頂き誠にありがとうございました。

 また全地球人を代表して、太陽系を助けていただいたことに感謝し、ここに深く御礼申し上げます」


 今度の光輝の平伏は、先ほどの平伏よりも遥かに平らかだった。

 思わず大勢の評議委員たちも頭を下げたほどである。

 テレビの前の視聴者たちさえつられて頭を下げた。


 スピーチではなく、御礼などなら光輝は第一級の人材である。


 また議長が言う。


「招聘をご快諾くださった御礼と、参与の報酬として何か差し上げたいのですが、ご希望はございますでしょうか」


 まあ、大勢の銀河人たちが見ている前で、地球人を試してやれとでも思ったのだろう。


 光輝は真剣な表情で言った。


「私ども地球以外にも、銀河連盟未加入の未熟な文明が今も危機に瀕しているかもしれません。


 どうか皆さま方に於かれましては、そのようなお気の毒な文明を、私たちをお救いくださいましたようにお救いいただけませんでしょうか。


 また、その救援に際しては、私どもが危機に際して備蓄した資源や食糧を無償でご提供させていただくことを、どうかお許しいただけませんでしょうか。


 元はと言えば、皆さまのおかげをもちまして使用しなくとも済んだ資源・食糧でございます」


 そうして光輝は三度平らかに平伏したのである。



 評議委員たちは大感動した。

 銀河人たちも大感動した。


 報酬として他の惑星の危機を救って欲しいと言い出すとは、いったいなんという倫理度の高い要望なのだろう。

 しかも費用まで負担すると言うとは……


 さらにその後、地球から提供の申し入れのあった資源や食糧のリストを見て、彼らは壮烈に腰を抜かすことになる。


 その資源は平均的惑星国家予算の三十標準年分、食料はその消費量の百年分にも達していたからである。


 しかもそれはほとんどが銀河連盟最高評議会の新特別参与、KOUKIそのひとの個人資産だというのである。

 KOUKIの私有財産のうち、地球の不動産を除く動産の九十%にも相当していたのだ。

 残りの十%は、将来の地球の危機に備えて備蓄してあるそうだった。



 その後、銀河連盟最高評議会は惑星文明不介入の方針を一部変更し、自然災害によって絶滅に瀕した未熟文明に対しては、銀河連盟の名のもとに無償で救援の手を差し伸べることとなったのである。


 これで絶滅から救われた文明はその後の百年間で三ケタに達し、その全てが銀河連盟と光輝を恩人として崇めることになる。


 将来の親地球惑星がたくさんできた。



 また、KOUKIから提供された資源・食糧を元に、多くの連盟加盟星や富裕な個人からの多額の寄付も加わって、連盟加盟、未加盟を問わず、危機に瀕したヒューマノイド文明を救うための基金が設立された。


 この基金は、『銀河KOUKI基金』と命名された。


 これでもし太陽系が再び脅威物体などの危機に見舞われたとしても、その基金の趣旨によって銀河連盟が救援に駆けつけてくれるそうである。


 地球が独自に防衛体制を固めるよりも、その方が遥かに心強かった。


 そうして……

 光輝は遂に、その名を銀河連盟の歴史にまで残すことになったのである。



 そのうち、銀河人たちは地球のことをKOUKINIAと呼ぶようになった。

 多くの銀河人にとって「ちきゅう」という単語が発音しにくかったからであり、「アース」という名の星は他にもあったからだが、もちろんその意味は、KOUKIの惑星、もしくはKOUKIのいる惑星という意味だった。




 銀河の子供たちは皆、いつかあの童話の星に行ってみたいと願うようになった。

 裕福な星からは、惑星ジュリを通じて子供たちの修学旅行の申し込みも来たりしている。

 銀河宇宙に地球のことを知ってもらういいチャンスである。


 だが万が一のことがあっても困るし、もとより銀河宇宙と地球の物価水準は違い過ぎた。

 それにまだ通貨交換制度も確立されていない。


 そこで三尊研究所は、銀河宇宙からの見学者のために、あのシベリアシェルターを解放したのである。

 シェルター内ならセキュリティーも安心だし、なにより地球生活の全てが揃っていた。


 こうして徐々に銀河宇宙からの観光客が地球を訪れるようになったのである。



 地球を訪れた銀河人たちは、地球の莫大な水資源を見て驚くとともに、かつての危機の際にディラックくんが作ったシェルターに宿泊して驚嘆したのである。


 実際にこのシェルターで百年近くもの間、来るかどうかもわからない助けを求めて八十億人もの人々が耐え忍ぼうとしていたのだ。

 その臨場感は身に迫った。


 彼らの恒星系では既に防衛体制が整っていたため、誰もシェルターなどというものは見たことが無かったのである。


 そうして彼らは改めて地球人たちの勇気に感動するのだ。



 子供たち修学旅行生にはたくさんのチョコレートが振る舞われた。

 お土産には大きくて綺麗な箱に入ったチョコレートの詰め合わせを貰えた。

 惑星政府からの子供たちへのお土産だということで、それは代価無しでも許されている。


 子供たちの母惑星では、そのお土産をもらった両親や親戚たちがそのあまりの美味しさに驚嘆した。

 値段を調べてもっと驚いた。


 子供たちの中には、そのお土産のチョコレートの一部を密かに売って、三年分のお小遣いをせしめた猛者もいたらしい。

 きっと将来優秀な商人になることだろう。



 地球のコーヒーとチョコレートの輸出量はどんどん増えている。

 明治HDとゴディバの大株主であり、地球のコーヒー農場とカカオ農場のそれぞれ三十%を所有する光輝もまたどんどん資産が増えている。


 地球産明治の板チョコは、誰にでも喜んでもらえる高級交易品として銀河中で有名になり、ゴディバという言葉も銀河の一般名詞になった。




 光輝はその所有する広大な農場や鉱山から上がる莫大な収入の一部を使って、あのシベリアのシェルターだけでも完成させることにした。


 当面の間銀河からの観光客の宿泊先にもなったし、またトルコの地震のような災害が起こったときに、すぐに避難民たちを受け入れることが出来ると思ったからである。


 もうジミーくんやべスちゃんとお別れだと思って泣いていたキャシーとジェームスはびっくりした。

 なんとそのままシェルターに住んでいてもかまわないと言われたのだ。


 その代りに、銀河人たちのためにシェルター観光ガイドブックを作ってやって欲しいと依頼されたのである。


 二人はそれまでの小さな二つの部屋から、中ぐらいの一つの部屋に引っ越したが、その引っ越しはあの巨漢ガードマンたちが手伝ってくれてすぐに終わった。




 銀河KOUKI基金のおかげで、今後の地球の危機については一安心となったが、それでも光輝たち幹部一同は、やはり独自の資源備蓄の重要性を強く感じていた。


 これからも子供たちやその子供たちのために、ある程度は資源を備蓄していかなければならない。


 ディラックくんに相談すると、火星と木星の間に広がる小惑星帯の探査をしてみてはどうかと言う。

 ディラックくんの遠隔探査ではけっこう有望だそうである。


 すぐに光輝は国連に相談した。

 もちろん小惑星帯の資源は人類すべてのものだったが、まだ地球人にはそんな遠くの、しかも宇宙空間の資源を採掘する技術も経験も無い。


 国連は三尊研究所に銀河技術での資源の探査と試掘を依頼した。

 将来の利益は国連と三尊研究所の折半の契約である。

 どうせ三尊研究所が莫大な資源を備蓄したとしても、それはまた人類のために備蓄されるのだ。


 探査や試掘の結果、有望な鉱脈がいくつも見つかったが、光輝も国連も採掘はそれほど急がなかった。

 もし慣れない宇宙空間での仕事で事故でも起こしたら大変であるし、まあ、小惑星帯が採掘を嫌がって逃げて行ってしまうことはないのである。






(つづく)

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