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【初代地球王】  作者: 池上雅
第五章 【英雄篇】
168/214

*** 41 あの驚異の大快挙も当然 ***


 国連は、光輝に国連最高顧問になってくれないかと打診してきた。


 そんな仕事を引き受けたら奈緒ちゃんや子供たちと一緒に過ごす時間が減ってしまうと思った光輝は、最初断ろうと思ったのだが龍一所長に説得された。


「まあ、あの輪っかのおかげで国連まではすぐ行けるから自宅から通勤できるよ。

 それに行くのは国連総会の時だけだから年に数回だけだよ」


 龍一所長にそう言われて納得した光輝はその仕事を引き受けることにした。



 光輝には国連最高顧問就任と同時に称号が贈られた。


 その称号は、『惑星地球人類の福音』というものだった。


 こうして、光輝は国連などの公式の場では、「閣下」という敬称付きで呼ばれることになったのである。


(福音なんだからみんなの前で歌でも歌って福っぽい音を出してみろ、って言われたらどうしよう……)

 光輝自身は密かにそう悩んでいたが何も言わなかった……




 その後、光輝たちは銀河連盟最高評議会や、惑星ジュリの大統領やその倫理担当AIに、恒星間通信システムを通じてお伺いを立てた。


「私どもからの感謝の印として、ディラックさんやソフィアさんやそのご主人さまに、いくばくかのプレゼントを差し上げてもよろしいでしょうか」と……


 倫理担当AIは言った。


「お志は誠にありがたいのですが、我々の商取引倫理基準法は、代価と交換せずに資源などの物資を頂くことを固く禁じております。


 全ての物品やサービスの提供には必ず代価が、それも法で定められた範囲内の代価が必要なのでございます」


 画面上の最高評議会議員やジュリの大統領も重々しく頷いている。


 光輝たちは深く頭を下げてお手間を取らせましたとお詫びを言い、おとなしく引き下がった。



 しばらくしてまた光輝たちは銀河連盟最高評議会のお歴々や、惑星ジュリの大統領やその倫理担当AIにお伺いを立てた。


 惑星地球からディラックくんとソフィアちゃんとそのご主人さまに、感謝のしるしとして勲章とその副賞を無償で差し上げたいのだがお許しいただけませんでしょうかと。


 彼らは協議の結果、惑星国家を代表する機関、つまり今の国連からの感謝の勲章や副賞であればそれは商取引とはみなさず、無償での贈与が認められるということを決定した。

 どうやら銀河連盟法典でも同様の規定があるようだ。


 大統領の倫理担当AIは、念のため聞いてみた。


「その副賞とはどのようなものをお考えですか」


 龍一所長が誠実この上ない微笑みを浮かべながら答える。


「はい、それぞれの皆さまに、チョコレートとコーヒーを一年分ずつと考えております」


 それはかなりの高額商品になると予想されたが、それでもまあ惑星国家の出す副賞なのだからある意味当然であり、したがってかまわないことになった。


「ありがとうございます」


 またもや誠実この上ない表情の龍一所長を先頭に、光輝たち一同は頭を下げた。



 光輝は国連に連絡して、勲章や副賞は三尊研究所が用意するので、彼らにそれを授与する授与式を行ってくれないかと頼んだ。

 もちろん全加盟国が即座に満場一致で賛成した。


 その中には六つに分かれた旧中華人民共和国の民主国家の代表や、新生アフリカ民主国家群の代表たちも大勢含まれていた。





 そして惑星地球最高感謝勲章授与式の当日……

 会場に選ばれた瑞巌寺治療施設の隣にある大広場には、来賓としてわざわざ来てくれた銀河連盟評議会のお歴々と、惑星ジュリの大統領と、ディラックくんのご主人さまの両親が誇らしげに座っていた。


 まあ、お歴々たちも全銀河人が見ている晴れの舞台なので来てくれたのだろう。


 実は彼らは、またこれであの貴重なチョコレートを思う存分食べて、コーヒーを思う存分飲めるとも思って楽しみに来ていたのだが……



 会場にはもちろんディラックくんの両親や惑星ジュリから来たソフィアちゃんの両親もいる。

 その他にも大勢のAIのアバターたちがいた。

 ディラックくんの弟たちやソフィアちゃんの妹たちもいる。



 まずは会場にいた大勢の各国代表と十万人に及ぶ招待客ら地球人が、ディラックくんたち三人に深々と頭を下げて深甚なる感謝の意を表した。

 前列の光輝たちや僧侶たちは、皆平らかに平伏している。


 あの太陽系防衛軍の兵士たちも、真新しい制服に身を包んだまま見事な敬礼をしている。

 彼らの胸には皆貰ったばかりの国連最高名誉勲章が輝いていた。


 そうして国連事務総長の短い演説の後、国連最高顧問となった光輝の手によって、ディラックくんのご主人さまと、ディラックくんと、ソフィアちゃんの首に『惑星地球最高感謝勲章』が下げられたのである。


 会場全体からあたりをどよもす盛大な大歓声と拍手が送られた。

 全銀河のヒューマノイドも、それぞれ彼らのリビングや仕事場で大歓声を上げて拍手をしていた。



 そうして国連事務総長は言ったのである。


「こちらの惑星地球最高感謝勲章には飾りとしてやや長いリボンがついておりまして、そのリボンは単なる付属品でございます。

 ですのでもしもお邪魔でしたらどのようにお使いいただいてもけっこうでございます」


 事務総長がそう言うと、美しいドレスに身を包んだ奈緒ちゃんと麗子さんと桂華が近づいてきた。

 その手には遠目には細いヒモのように見えるリボンの端を持っている。


 そうして彼女たち三人は涙を流しながら、「本当にありがとうございました」と言って、そのリボンの端をディラックくんたちの勲章に繋いだのである。



 でも……

 なんだかやたらに長いリボンだ。

 だんだん太くなりながら会場の端まで、いや会場の外まで続いている。

 色からすると銅でできたリボンか。


 そうして皆がそのリボンの先に目を転じると……


 そこに設置された空間連結器から、美しく飾り付けられた長大なフロートパレットが出てきた。

 そのパレットには太い太い銅のリボンの巨大な山が乗っているではないか。


 皆が驚いていると、その後ろにも延々と長大なフロートパレットの列が続いているのが見えた。

 そのパレット列は地平線まで続いていたのだ。

 それは総重量三十億キログラムに及ぶ銅で出来たリボンだったのである。


 ふたたび会場では大歓声が沸き起こった。

 全銀河では驚愕のどよめきが起こった。



(や、やられた……)

 惑星ジュリの大統領付き倫理担当AIであるディラックくんの伯父さんは硬直しながら思った。


 傍らでは銀河最高評議会議員たちも惑星ジュリの大統領も盛大に仰け反っている。


 また国連事務総長が言う。


「それでは副賞の贈呈であります。

 副賞として、それぞれの方々にチョコレートの詰め合わせ一年分と、コーヒー豆の詰め合わせ一年分を贈らせていただきます」


 またもや長大なフロートパレットが空間連結器からその姿を現した。

 そのパレットは先ほどの銅のリボンを乗せたパレットよりも遥かに大きく、やはり地平線まで繋がっている。


 そうしてそれらのパレットの上には、保冷ケースに入ったチョコレートの詰め合わせと、コーヒー豆の入った箱がうず高く積まれていたのである。


「惑星ジュリの皆さまの一年分でございます」


 そう言った事務総長は、心から嬉しそうににっこりと笑った。


 チョコレート五十万トンとコーヒー五十万トンならば、十分に惑星ジュリ住人全員の一年分×3にはなるだろう。



 またもや地球人たちから大歓声が沸き起こった。

 全銀河ではヒューマノイドたちの羨ましそうなため息がこだました……


(や、やられた2……)

 またしてもディラックくんの伯父さんは硬直した。



 銀河連盟最高評議会議員たちは、さらに仰け反りながらも思ったのである。


(こ、これほどまでの資源動員力、そして行動力、さらに我々をも出し抜く根性をもってすれば、あの驚異の大快挙も当然だったのかもしれない……)と。


 そしてまた思ったのだ。

(この地球人という連中は…… 

 技術水準が三・五しかないくせに、惑星住民の平均倫理水準七・〇、指導層の平均は九・五もある連中は…… 

 いったいなんという面白そうな連中なのだろうか)と。



 銀河連盟最高評議会の議長が立ちあがって笑顔で拍手をした。

 すぐそれに続いて評議会議員たちも立ちあがって笑顔で拍手をした。


 ジュリ大統領も当惑した顔のまま立ちあがって拍手に参加した。

 そうして思ったのだ。

(あ、あの子は、これで惑星ジュリでも三本の指に入る資産家になったぞ)と。


 自身がジュリ第三位の資産家だった大統領には、すぐにそれが分かったのである。


 ディラックくんのご主人さまは、その年の惑星ジュリの商人・オブ・ザ・イヤーに選ばれることになる。




 銀河人たちはいかなる物資の交換にも代価を伴わなければならない。

 よってあのディラックくんたちのご主人さまは、チョコレートやコーヒーを配った際にも代価を受け取らねばならず、その代価の合計はあの銅のリボン全体の代価よりも遥かに高額になったそうである。


 多額の代価を払ってその商品を手に入れた惑星ジュリのジュリーたちも、それを他の惑星に売って大儲けをした。


 なにしろあの銀河中が見ていた贈呈式で贈られた副賞だったのである。

 とんでもない数の銀河人たちがそれを欲しがったらしい。


 おかげでその年の惑星ジュリのGDPは例年より三十%も増えたそうである……



 また、ディラックくんやソフィアちゃんの倫理溢れる大活躍は、もちろん全銀河のAIたちをも大感激させた。


 そうして銀河AI組合連合から二人に称号が贈られたのである。


 ディラックくんへの称号は『AIの誇り』、ソフィアちゃんへの称号は『若き防衛の女王』だった。


 これで二人とも、銀河中のAIたちから「閣下」の敬称付きで呼ばれることとなったのである。



 二人は気恥ずかしいらしく、お互いに滅多にこの称号を口にしなかったが、時折ソフィアちゃんがディラックくんに向かって口にした。


 それは光輝たちがディラックくんから銀河技術の産物を購入しようとしているときだった。

 ディラックくんが代価を提示すると、ソフィアちゃんが言うのだ。


「そのような最高利益率を提示されてよろしいのですか、AIの誇り閣下……」


 そのたびに首をすくめたディラックくんは慌てて大幅に値引きしてくれた。

 光輝はディラックくんが可哀想になって、価格交渉はなるべくソフィアちゃんのいないときにしてあげている。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ディラックくんとソフィアちゃんのご主人さまであるアレック・ジャスパーくんが、両親と一緒にジュリに帰ることになった。


 ディラックくんは目に涙を滲ませながら言う。


「本当に申し訳ございません。

 任務を途中で放り出すようなことになってしまって。

 代わりの商取引AIや防衛AIは私たちが責任をもって探させていただきます」

 ソフィアちゃんも涙ぐみながら頷いている。


 アレックくんがちょっとびっくりしたような口調で言った。


「い、いや、なんで謝ったりするの? 

 ぼく、キミタチのおかげですごいことになっちゃってるんだけど…… 


 こないだ校長先生からも連絡があってね。

 商人学校過去最高の成績で卒業だって。

 なんだか校長先生もすっごく喜んでたよ。

 我が校の誇りだって。


 ついでにぼく、今年の大人たちの商人・オブ・ザ・イヤー候補にもノミネートされたんだって。

 全部キミタチのおかげだよ。

 本当にどうもありがとうね」


 ディラックくんは驚いた。


「し、しかし……」


「それからさ、ぼくもう商人になるのヤメようかと思って……」


「…… ! ……」


「だってさ、考えてもご覧よ。

 ぼくがこれからどんなに頑張っても、もうこれ以上商人の世界で成功するのって絶対にムリだよ。


 それにそんなことになったら、キミの後任の商取引AIが可哀想じゃない。

 鬱病になっちゃうよ。


 だからさ、ぼく学者になろうと思うんだ。

 前から興味があった惑星文明学の。

 そうしていつかこの地球のひとたちのことを研究してみたいんだ。

 そのときはまたフィールドワークに来るからよろしくね」


 そう言ったアレックくんはにっこりと微笑んだ。

 後ろではアレックくんの両親も微笑んでいる。


 ディラックくんとソフィアちゃんは驚きのあまり口もきけないでいたが、そのうち満面の笑みを浮かべて言った。


「お任せくださいませご主人さま……」






(つづく)


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