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【初代地球王】  作者: 池上雅
第五章 【英雄篇】
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*** 38 我々AIの誇りであります…… ***


 全ての取り調べを終えた先遣隊の指揮官AIは、後続の三個艦隊にもおよぶ大派遣軍団の旗艦で、ヒューマノイドの総司令官を前にして報告をしていた。


 艦隊は脅威物体の近傍空間に集結している。



 黒い髪の色をした高齢の総司令官が言った。


「それではあれだけの破壊行為を本当にたった一体のAIが行っていたというのか……」


「はい。容疑AIの走査情報を鵜呑みにせず、先遣隊の全ての超々高速艇が重層次元を含めて周囲の空間を徹底的に捜索致しましたが、他のAIもAI本体の残骸すらも発見されませんでした」


「ふ~む」


「また、この脅威物体の進路上にも、容疑AIの証言通りAIは二体しかおりませんでした。

 そのうち一体はまだ一歳の子供でした」


「う~む」


「また、それら三体のAIの走査内容と、容疑ヒューマノイドの心理走査内容は完全に一致しております」


「あれほどまでの大量破壊兵器が、すべてこの脅威物体の破壊のために費やされていたというのか……」


「はい」


「なぜ彼らは銀河連盟に救援を求めなかったのだ」


「もともと彼らは遭難者としてかの惑星に不時着しておりました。

 その際に重層次元航法装置が破壊されていたために、通常空間を通ってしか救援要請が出来ない状況下にありました」


「そのAIたちの主はどうしていたのか」


「彼の母惑星からの救助を待ち、コールドスリープに入っておりましたので、こうした破壊行為にはまったく加担していなかったもようであります。

 またその子は銀河標準年齢十四歳の子供でありました」


 総司令官と幕僚たちが仰け反った。


「そんなに小さな子供だったのか……」という呟きが聞える。



「そ、それにしてはまだこれほどの大きさの脅威物体が残されているではないかっ。

 それに大規模投射装置は持っていなかったのか!」


「容疑AIは、商取引AIと個人防衛用AIでしたので、最新鋭の大規模投射装置を作るノウハウは持っておりませんでした。

 しかも二百歳と百五十歳のまだ若いAIでございました」


 司令官と幕僚たちはまたもや仰け反った。


「そ、そんなに若いAIだったのか……」


「はい。その通りでございます。

 防衛AIは、これが初めての実戦行動だったそうでございます」


「ううううう…… 

 こ、これほどまでの戦闘行為が、は、初めての実戦とは……」


「さらに、その防衛AIは、この脅威物体の質量を五十%も減らすことに成功していた模様であります」


「な、なんとっ! 元はそれほどまでに巨大な脅威物体だったのかっ!」


「はい閣下。元は半径約22万標準キロ、質量6.5×10の28乗標準キログラム、彼らの太陽系との相対速度0.5Cにも及ぶ超巨大ガス惑星でありました。


 しかもその核部分はほとんどが液体と固体の混合物でゲル状になっており、反物質爆弾の反作用をも吸収してしまう状況でございました」



 派遣軍総司令官は長々と嘆息した。


「な、なんという見事な恒星系防衛任務遂行だったことか……」


「はい。しかもこのヒューマノイドの技術水準はたった三・五しかございません。

 恒星間航行はおろか、太陽系内の他の惑星に基地すら保有していませんでした。

 しかし惑星資源を総動員して、僅か二体のAIにその太陽系の存続を全て託していた模様でございます」


「う、うううううううっ……」



「そのAIとヒューマノイド兵士二名の乗った小型艦は、今は八百メートルほどの大きさですが、彼らの太陽系を出発した際には直径二十キロもの超大型艦でありました。


 その中の八十二%は水資源、十六%は金属資源でしたが、脅威物体攻撃のために船体も含めてすべて使い尽くしていたとみられます」


「な、なんということだ……」



「また、その惑星のヒューマノイド兵士の搭乗した小型の高速宇宙艇が、原始的な核分裂兵器を脅威物体に投下した後、亜光速でそのまま脅威物体に体当たりをしていました」


「なっ…… なんだとぉぉぉっ!」


「兵士たちは激突の直前に救命ポッドで重層次元に逃れておりますが、時空間の擾乱と重層次元航法装置を持っていないため、現在完全に行方不明になっております」


「な、なんということだ…… 

 そっ、その兵士たちの捜索はしたのかっ!」


「はい。近傍重層次元を彷徨っていた救命ポッドは五つほど発見、救助いたしましたが、なんと全部で二百三十八機もの高速宇宙艇が自殺的体当たり攻撃を敢行しており、先遣隊の高速艇だけではその全ての発見はたいへん困難な状況であります。


 尚、二百三十八名とは、戦艦勤務のヒューマノイド二名を除く、急遽編成されて志願した彼らの太陽系防衛軍の兵士全員だったそうであります」


「に、二百三十八機もの…… へ、兵士全員が……」


 総司令官以下全ての幕僚たちが、衝撃に仰け反ったままである。


 その兵士たちの信じられないほど勇敢な自己犠牲的戦闘行為は、おなじ兵士である彼らにこそやはり信じられないほどの衝撃を与えたのだ。



 指揮官AIは続ける。


「また、同時に彼らの母惑星表面では惑星住民を全て収容可能なシェルターが完成間近になっておりました。


 資源とエネルギーと食糧はすべて九十標準年分の備蓄が終わっておりました。

 九十年とは、遭難した少年の母惑星からの救援隊が来るであろうときまでの期間だったそうであります」


 総司令官の頬を涙が伝った。


「な、なんという…… なんという勇気ある惑星住民であることか……」



 しばらくの沈黙の後に幕僚の一人が先遣隊の指揮官AIに聞いた。


「な、なぜそのAIたちは自分たちとその主とだけで近傍重層次元に避難しなかったのか」



 指揮官AIは少しだけ微笑んで誇らしげに静かに言った。


「彼らが遭難して資源を失い、困窮を極めていたときに、その惑星住民たちは一万リットルもの水資源を無担保で提供してくれたそうであります。

 またあらゆる金属資源もいくらでも必要なだけ貸し越してくれたそうなのです。


 おかげで彼らの主は、十分な資源と共に安全にコールドスリープに入ることが出来ました。


 AI達はそのせいで惑星住民たちにたいへんな恩義を感じていました。

 その後にこの超脅威物体が発見されたのであります。


 二人の若いAIは、結婚して子供まで作っていました。

 脅威物体の接近時にはその子にご主人さまを託して避難させ、自分たちは最後まで惑星住民を守り、また共に脅威物体と戦おうとしていた模様であります……」


「う、ううううっ……」


「また、もちろん彼らはこうした戦闘行為や高度技術の連盟非加盟星への提供が、分解刑を含む重罪に当たることは承知しておりました。


 ですが、恩義ある惑星住民を救うために、最初から覚悟は出来ていたそうでございます。

 その代わりにせめて彼らの子が主を助けて行くことを喜んでおりました……」


 またしばらくの間、艦隊司令部には沈黙が流れた。

 総司令官も含むすべての幕僚の頬を涙が伝っている。



 ようやく総司令官が声を出して言った。


「そ、そのAIたちの倫理水準も任務遂行能力も、み、見たことも聞いたことも無い程素晴らしいものであるの……」


 先遣隊の指揮官AIは、今度ははっきりと微笑んで言った。


「はい。まさに我々AIの誇りであります……」



 また長い沈黙の後に、総司令官が真剣な声で命令を発した。


「ただちに派遣軍の全救援艇を発進させ、その兵士たちの捜索を開始せよ。


 また、その容疑AIと惑星のヒューマノイドたちの取り扱いは最高度の丁重さで行うように。

 さらに、規定に従って惑星住民が費用を負担した場合には、即刻この脅威物体を除去せよ。


 まあ、それだけの期間に備えた惑星住民たちの資源備蓄があれば、彼らには支払いも出来るだろうな。

 万が一足りないようであれば直接私に報告せよ。

 私が直に銀河連盟最高評議会にかけあってやろう」


「はい、閣下。畏まりました」


 先遣隊指揮官のAIは嬉しそうな顔で答えた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 取り調べが終わって解放されていた光輝のところに、連盟先遣隊の指揮官AIがやってきた。


「法定費用をご負担頂ければ、あの脅威物体を取り除いて差し上げますが、いかがなさいますか」


 指揮官の態度ははなんだか前に比べて妙に丁重になっている。

 それに若干困惑しながらも光輝は答えた。


「は、はい。ぜひお願い致します」


「残念ながら貴惑星は銀河連盟未加盟のため、法定費用はかなりの高額になりますが、かまいませんか」


「そ、それはおいくらですか」


 指揮官AIはやや心配そうに言った。


「水資源であれば費用は十億トンになります」


 ほっと溜息をついた光輝が答えた。


「はい。お願い致します」


「支払いが完了次第脅威物体の処理が開始されますが」


「そ、それではもしよろしければ今お支払いしてもよろしいですか?」


「はい」



 光輝を遮蔽フィールドで包んだ指揮官AIは、月の倉庫に案内されて仰天した。


(あ、あれだけの海を持ちながら、まだこれほどまでの水資源を備蓄していたとは……)


 その場でドローンたちが空間連結器を通って銀河連盟防衛軍の輸送船に氷の塊を運び始めた。


 指揮官AIは心の中でまたため息をついた。

(水資源十億トンもの費用と言っても、この備蓄倉庫の備蓄量の四百万分の一ほどに過ぎないとは…… 

 いったいなんという裕福な惑星だろうか……)



 その報告を受けた銀河連盟派遣軍総司令官は、ただちに脅威物体を除去するよう命じた。


 三個艦隊もの銀河連盟派遣軍は、大規模投射装置を集中使用して、一日ほどで命令された任務を終えた。



 そうして、その惑星地球に興味を持った総司令官閣下は、直接視察に出向くことにしたのである。


 あの先遣隊指揮官AIは、わざわざまた光輝たちを訪ねて来て、彼らの総司令官がここ地球に非公式に視察にやってくると伝えた。

 これはかなりの外交儀礼を意味する。


 指定していた日時に、地球防衛の要となっていた三尊研究所横の広場に現れた総司令官と幕僚たちは、驚きのあまり立ちつくした。


 そこには少なくとも一万人はいようかというヒューマノイドがみっしりと正座して出迎えていたのである。


 最前列には、光輝たち幹部と御隠居様を始めとする瑞祥一族の重鎮たち、それに瑞巌寺の高僧たちがいた。

 その後ろには瑞祥一族や三尊研究所の職員たちや瑞巌寺の僧侶たち、その後ろには瑞巌寺学園の子供たちがいた。



 光輝が大きな声で御礼を言上した。


「このたびはわたくしども地球の危機をお救いくださいまして、誠にありがとうございました」


 その場の全員が、「誠にありがとうございました」と唱和して、一斉に平伏した。


 総司令官閣下は驚愕に立ちすくみながらも思ったのである。

(こ、これは…… 

 我が母惑星に伝わる古代の最高儀礼、平伏と同じではないか……)と。



 総司令官閣下と幕僚一行は、光輝たち幹部と歓談した。

 次第に上機嫌になっていった総司令官閣下は、光輝の招待に応じて料亭瑞祥で食事までした。


 もちろん彼らの防衛担当AIが全ての飲食物を密かに走査したが、銀河人たちに害になるようなものはまったく無い。

 驚いたことに総司令官閣下も幕僚たちも、全員が瑞祥椀に感嘆してくれ、龍一所長がお代わりの希望を募ると全員がこれに応じた。


 総司令官閣下や幕僚たちは、直接光輝たちに太陽系防衛のための行動を聞きたがり、光輝たちも真摯にこれに答えた。


 総司令官閣下はますます上機嫌になり、地球人の勇気を褒め称えた。


 歓談は夜遅くまで続いた……






(つづく)


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