表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初代地球王】  作者: 池上雅
第五章 【英雄篇】
152/214

*** 25 全てが偶然ではなかったのだ…… ***


 しばらくの沈黙の後、イタリア首相が発言した。


「先ほどシェルターの建設を始められると仰いましたが、そのシェルターの最大収容人数は何人ですか? それから何年の運用が可能ですか?」


「現在備蓄した資源量で九十億人が八十年生き延びられるシェルターが作れます。

 八十年とは、通常空間を通ってディラック氏の故郷惑星ジュリに向かっている救難信号が、電波中継施設まで届く間の期間です」


「そ、そんな巨大なシェルターを作る資金があるのですか!」


「現在四兆ドル相当の資源と、二兆ドル相当の食糧が備蓄されていますので可能です。

 それらは実際にはこちらの三尊氏の個人財産なのですが、三尊氏はこの人類救済計画にすべて寄付してくださるそうです」


 各国首脳が仰け反ったが、アメリカ、ロシア大統領とバチカンのロマーニオ枢機卿だけは微笑んでいる。



 またフランス大統領が発言する。


「そ、そのシェルターはどこに建設されるおつもりですか……」


「ディラック氏に検討していただきましたところ、現在三か所の候補地がございます。

 中央シベリアの溶岩台地と、オーストラリアの中央部砂漠地帯と、アメリカアリゾナ州の砂漠地帯です。

 すべて地域的な要素ではなく、単に地盤がより安定しているという要素で選びました」


「たったの三か所ですか……」


「もちろん一か所に作る方が資源効率はいいのですが、一つの籠に卵を盛ってはいけない、ということわざの通りに三か所にしました」


「し、しかしたったの三か所では……」


「そ、それにあまりにもヨーロッパから遠いな……」


「皆さま既にご存じのように、空間連結器のおかげで距離は何の問題にもなりません。

 それからそのシェルターはお皿を伏せたような形になりますが、その底面は直径百キロメートル、高さは十キロになる予定ですので、広さは十分かと思われます」


 各国首脳が驚愕のあまり固まった。



 しばらく経って、ようやくフランス大統領が言う。


「そ、それらをいつから建造するおつもりですか……」


「現在ディラック氏の生産設備のほとんどが脅威物体迎撃システムの生産に費やされています。


 その生産が終わり、攻撃部隊が出撃すると同時に今度は防衛システムの生産、すなわちシェルターの建設に着手させて頂きたいと考えております。

 もちろん候補地各国の皆さまのご承認がいただけたらの場合ですが」



 アメリカ合衆国大統領が微笑んで言う。


「アメリカ合衆国政府は承認させていただきます。

 議会の承認が必要ですが、それは得られると思います」


「ロシアも承認します。議会も間違いなく承認するでしょう」


「オーストラリアも承認するとお考えいただいて結構でございます」


「どうもありがとうございます。

 本格的建設開始は一年後ですが、それまでにも多少の準備を始めればと考えております」


 各国首脳は頷いた。



「それからもうひとつ、皆さまにご了解を頂戴したいことがございます。

 それは南極の氷の処理についてであります。


 南極には現在四×十の十八乗キログラム、四百兆トンほどの量の氷がございまして、万が一地球の軌道が狂うとこの氷が全て溶け出す恐れがございます。


 その場合には現在の海面が最大二百メートルほど上昇してしまうでしょう。

 氷期にはそれらが凍って多少の不便が発生するかもしれません」


「それって多少なのか」という呟きが聞えた。


「ええ。そのシェルターはたいへん硬い物質で作られる上に、ディラック氏の提供してくださる遮蔽フィールドで覆われるため、氷どころか核攻撃にすら耐えられます。


 ですがそのような状況になりますと、百年後の地球復興が多少困難になるかもしれません。

 我々の子孫のために、南極大陸の氷を月の地下倉庫に移すことをご承認いただけませんでしょうか」


 また各国首脳が盛大に仰け反った。


「そ、そのようなことができるのですか……」


「はい。比較的簡単です。

 最初は南極の氷をレーザーで切り取って月に運びながら、合わせて地表近くの氷をレーザーで溶かし、溶かした分は海水を月に運びます。


 その行動を、地球防衛プランの一環としてご承認いただけませんでしょうか。

 これはディラック氏の生産設備にそれほどの負担をかけませんので、ご承認さえ頂ければすぐに始められます」

 

 龍一所長は、それが単なる簡単な土木工事ででもあるかのような口調で言った。



 各国首脳は、またもや仰け反りつつも思い至ったのである。


(この連中の技術力と資源をもってすれば、たとえ我々全員が強硬に反対してもその行動を防ぐことは絶対に出来ないのに違いない)と……


 なにしろ全世界の核兵器すら一時間で無力化出来ると言い切る連中なのだ。




 それまでにこにこと微笑みながら聞いていたロマーニオ枢機卿が発言した。


「私どもからもお願い致します。

 どうか皆さま、この三尊研究所の偉大なる人類への貢献をご承認くださいませ」


 敬虔なキリスト教徒のイタリア首相が聞く。


「バチカンは三尊研究所の活動を支持されるのですか」


 ロマーニオ枢機卿はさらに微笑んで言った。


「はい。バチカンは、その総意をもって、常に、完全に、強力に三尊研究所の活動を支持し、協力いたします。

 必要とあれば、全世界のキリスト教徒に向けて法王様が公式にそう表明されます」


 そう言い切ると微笑んだまま各国首脳を見渡した。

 また何人かの首脳が仰け反っている。



 龍一所長がまた発言した。


「最後にもう一つだけお願いがございます。

 このままでは若干資源が足りません。

 シェルターを作るには充分なのですが、百年後に惑星ジュリに地球の軌道を直してもらうための対価としての資源が足りないかもしれません。


 それから農産物もこのままではあまり余裕がありません。

 我々の子孫のためにも、どちらももう少し備蓄を増やしておいてやりたいのでございます。


 ああ、どうか誤解の無いようにお願い致します。

 三尊研究所にはまだ二兆ドルほどの余裕資金がございますし、それもかなりのペースで増えています。

 ですがこのままでは資源や農産物の生産そのものが足りないのでございます。

 ですから皆さま、どうか鉱業生産や農業生産の後押しをお願い出来ませんでしょうか」


 各国首脳たちは了承する以外の途は無いと悟って沈黙した。


 アメリカ合衆国大統領とロシア大統領だけが微笑んだ。


 そのロシア大統領の微笑みを見て、龍一所長も微笑んだ。


(日米首脳に続いてロシア大統領も気づいてくれたか。さすがだな)



 瑞祥龍一はとっくに気づいていたのである。


 何故三尊光輝には三柱もの守護霊がついていたのか。

 何故その三尊光輝と瑞祥一族の長である自分が出会ったのか。

 そして何故三尊光輝は厳真と厳上の命を救い、瑞巌寺という強力な後ろ盾を手に入れたのか。


 更に何故三尊光輝は霊たちにあれほどまでに慕われて、バチカンというさらに超強力な後ろ盾を手に入れたのか。

 そして何故全世界一億人ものひとびとの命を無償で救い、人類史上最も尊敬される人物のひとりとなったのか。


 その全てが偶然ではなかったのではないか。

 アメリカ合衆国大統領の娘がホワイトハウスの木の霊を見て怖がっていたことさえ、偶然では無かったのかもしれない。


 更に三尊光輝はお堂様の導きでディラックくんと出会った。

 そして彼からも多大なる信望を得、併せてやはり人類史上最大の資産家になって超莫大な資源を手にした。



 それらのすべてがこの滅亡の危機から人類を救うためだったのではなかろうか。

 ディラックくんたちの遭難ですら偶然ではなかったのかもしれない。


 また、奈緒ちゃんという最愛の伴侶を得て実に円満な家庭を持てたことも、彼の倫理度をさらに大幅に引き上げて、人類史上最良の指導者に育て上げることに一役買ったのであろう。



 これらはどう考えても偶然ではなかろう。

 遥か以前から何者かの大いなる意思が働いていたとしか思えないのである。


 そしてついに日米首脳もロシア大統領もこれに気づいたのだ。

 法王さまはとっくにお気づきだったのだろう。


 瑞祥龍一も豪一郎も、もう既にこのことには気づいていた。

 もちろん瑞巌寺の高僧たちも皆気づいたのである。



(気づいていないのは当の本人だけだな……)


 そう思った瑞祥龍一はまた微笑んだ……







【銀河暦50万8159年  

 銀河連盟大学名誉教授、惑星文明学者、アレック・ジャスパー博士の随想記より抜粋】



 現在の銀河人たちには多少理解が困難かもしれないが、当時の地球には惑星統一政府が存在しなかった。


 彼らの三・五しか無い技術水準では、未だに惑星を一周するのに一標準日以上かかっていたため、あたかも広い銀河宇宙に惑星政府が点在しているかのように、広い惑星表面に地域政府が点在していたのだ。


 そうした地域政府は全部で百四十もあったのだが、このうち二大国家として存在していたのがアメリカ合衆国とロシア共和国である。


 また地域国家とは異なる宗教上の大勢力も二つあった。

 そのそれぞれの代表がバチカンとサウジアラビアである。


 英雄KOUKIは、これら四大勢力には全く属していなかった。

 アメリカやロシアに次ぐ規模の地域国家に生まれたものの、その地位は完全に一般人だったのである。


 だが彼は、前述の通り、霊と呼ばれる重層次元の住人たちからの強い支持と援助を受けて、全世界に大いなる福音をもたらすことでその知名度を急速に向上させていた。


 その福音とは、惑星規模での反社会的勢力の非暴力的解体であり、また直接的に一億人ものヒューマノイドの命を救ったという大快挙であった。


 そうした実績のせいで、これら地球の四大勢力から崇拝に近い支持を勝ち取っていたのである。



 だが……

 筆者には思えるのである。

 果たしてそうした実績だけで、これら大勢力が一個人である英雄KOUKIをあれほどまでに支持しえたのだろうかと。


 そうしてあのRYUICHIの言葉が蘇って来るのである。


「人類史上最大最悪の危機が発生したが故に、人類史上最良最強の指導者が現れただけのことだったのですよ」と……


 彼の言を敢えて拡大すれば、その人類史上最良最強の指導者とは、単に英雄KOUKIを指すだけでは無いのではなかろうか。


 当時のKOUKIを支えたRYUICHIやGOUICHIROUやGENJYOUといった指導層のみならず、アメリカやロシア、バチカンやサウジアラビアといった四大勢力のリーダーたちもまた、人類史上最大最悪の危機に際して現れ集った、人類史上最良最強の慧眼を持つ地域指導者層であったと思えるのである……






(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ