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【初代地球王】  作者: 池上雅
第五章 【英雄篇】
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*** 8 作業用ドローン ***


 翌日の会議室。

 部屋の端には昨日注文した品物がうず高く積み上げられている。


 豪一郎が言う。


「ディラックくん。確認させて頂きたいのだが……」


「はい。なんでございましょうか」


「あなたから買わせて頂いたこれらの品物を、あなた方のルール以上の利益率で我々が売ることは許されているのかな?」


「はい。皆さまの惑星はまだ銀河連盟に加入しておられませんので何の問題もございません。

 ただ、他の加盟星にお売りになるときだけはルールが適用されます」


「まあ、当面他の惑星に売ることは無いだろうな」


「はい」


「それからもちろん、これら商品の製法を教えてもらうことは出来ないと思うが……」


「申し訳ございません。銀河連盟未加入の星の方に原理や製法をお教えすることは固く禁じられております」


「やはりそうか。

 ではそれでは我々がこれら商品の特許を取ることについてはいかがかな?」


「皆さまの惑星のルールに干渉することはございません」


「だとしても特許の出願書類の書き方は微妙だな。

 出願者が製法を理解しないまま特許出願するのだからな」


「あの、もしよろしければ私が書かせていただきましょうか」


「!」


「実は、昨夜この星の特許について調べさせていただきましたが、詳しい原理や製法に触れることなく、出願書類を作成することは可能と思われますです」


「ふ~む。それでは是非お願い致します」


「はい、今作りました」


 豪一郎は、改めて目の前の少年が想像を絶する超ハイパー高性能AIなのだということを思い知らされた。

 豪一郎のモノ言いがさらに丁寧になっていく。


「ありがとうございます」


「いえいえ、ほんのサービスでございます。ですが……」


「どうかされましたか」


「失礼ながらこの星のハードウエアやネットワークは隙が多いですね。

 これでは情報が漏れまくりです。

 ですから皆さまのPCに転送させて頂くのではなく、もしよろしければ皆様のお使いになっている紙とプリンターをお借りして、私がプリントアウトさせていただきますが」


「よ、よろしくお願い致します」


「あと、もしよろしければ皆様のPCを一台ご用意して頂ければ、私がガード機能を追加することが出来ると思います」



 会議室のPCとプリンターがふわふわと輪っかの中に呑みこまれていった。

 まもなくそのPCとプリンター、それからひと束の書類が出てくる。


「これでいかなる手段を持ってしてもそのPCに侵入することは不可能になりました」


「さ、さすがですね」


「あの、罰則はいかがいたしましょうか……」


「ば、罰則ですか」


「はい、銀河連盟加盟星では、この星で言うハッキング行為は重罪に問われます。

 そのような行為を試みただけで犯罪行為とみなされます」


「ど、どんな罰則なんですか」


「第一段階は、ハッキングに使用されたハードウエアの使用停止措置です。

 強力な監視コンピューターがそのハードウエアを逆ハッキングして数日から数年の間使用出来なくさせます。

 さらに重い犯罪行為だとみなされると、ハッカーを特定してやはり数日から数年の間ネットワーク接続禁止措置を取ることになります」


「そ、そんなことが出来るんですか……」


「はい、ハードウエアの逆探知は簡単ですし、監視コンピューター配下のナノマシンたちが惑星中に配備されていますのでその人物もすぐに特定されます。

 そうしてその人物が触れようとした端末をロックしてネットワークに接続出来なくさせるのです」


「う~ん、す、スゴいな」


「この星ではそうした監視用ナノマシンはお使いではないようですね。

 でしたら逆探知と使用不能措置だけでもいかがですか。

 お安くしておきますですよ」


 ディラックくんはにっこりと微笑んで続ける。


「そういえば、先日貸していただいたこのスマホにもなにやら怪しげなメールがたくさん入って来ていますね。

 少なくともこれらの配信者のスマホやPCに対して今後こういうメールを送れないようにする措置はいかがでしょうか」


「そ、そんなことが出来るんですか。そ、それにその措置を逆探知されませんか?」


 ディラックくんはにっこりと微笑んだ。


「私を誰だとお思いですか。

 私のコンピューターとしての能力は、この星のすべてのコンピューターを合わせたそれの十の二十乗倍あるのですよ」


 光輝にはやっぱりよく分からなかったが、どうやらものすごいものだということは分かった。

 コンピューターに詳しい豪一郎は驚愕のあまり声も出ない。


 それ以降豪一郎のディラックくんへの言葉遣いがさらに丁寧になった。

 メール送信停止措置の代金は水二リットルだった……



 その日以降、怪しげなメールの一斉発信者たちは、メールを発信しようとした途端にフリーズするPCに困惑することになる。

 一時間経つと解凍するのでまた発信を試みるのだが今度は二時間フリーズする。


 こうした試みが三回に達すると、そのPCの画面には、「私は怪しげなメールを大量発信して詐欺をしようとした悪い人です。ごめんなさい」と大きく書かれたメッセージが三日間走り回る。

 いったんスイッチを切っても、また電源を入れるとそのメッセージだけが走り回るのだ。


 こうして、発信者たちは密かな喜びでもあった詐欺用のメール一斉発信が出来なくなり、徐々に欲求不満に陥っていった。


 それに気づいたハッカーたちが逆ハックしようと試みると、彼らのPCの画面には、『やーい、へたくそー♪』というメッセージが流れ始めるとともに、PCが三日間使用不能になる。

 彼らは屈辱と欲求不満のあまりのたうちまわった。



 特許出願の準備が無事終わると、豪一郎は瑞祥弁理士事務所を呼んでこれをチェックさせた。

 もちろん出願書は何事もなく受理されるのだが、その後の審査申請では多少難しい顔をされるかもしれないと言う。


 まあ、審査申請は特許出願から三年以内にすればよい。

 その間は「特許出願中」で済ますことにした。



 龍一所長がにこにこしながら皆に言う。


「じゃあ今晩はディラックくんの歓迎会と言うことで、みんなで料亭瑞祥に行って御馳走でも食べようかぁ」


 こうして一行は全員家族連れで料亭瑞祥に場を移し、みんなで楽しくお食事を頂いたのである。


 麗子さんたちは、ディラックくんに何かキライなものはあるかとか、瑞祥椀のおかわりはどうかとか言いながら、なにくれとなく世話を焼いていた……




 龍一所長はバチカンとホワイトハウスと首相官邸に連絡をとり、重大なお話があるので瑞巌寺にご参集願えないかと丁重に依頼した。


 瑞巌寺がそんなことを言うのは初めて聞いた首脳たちは、驚いてすぐさま日程を調整し、瑞巌寺に来てくれることになったのである。


 実は彼らは驚くとともに相当に楽しみにしていたのだ。

 あの瑞巌寺がまたなにをやらかしてくれるのかという興味とともに、あの瑞祥椀が頂けると思ったからである。

 会合は一週間後に決定した。





 そのころ瑞巌寺の僧侶たちが困惑していた。

 彼らから話を聞いた光輝たちも困惑していた。


 光輝の後上方のお釈迦さまが、片手を上げて北の空を示されるようになっていらっしゃったからである。

 最初はそれはかの有名な「天上天下唯我独尊」のポーズなのではと囁かれた。


 だが違和感もあったのである。

 その指が指し示す方向は、真上ではなく北の空だったからだ。





 VIPたちとの会合までの間、光輝や所長や豪一郎たち幹部一同は、毎日遅くまで会議をするとともに、瑞祥グループの助力も得てディラックくんが作ってくれた試作品をチェックした。


 あるとき、みんなで瑞祥病院から取り寄せた患者用のベッドに、重力遮断板を設置してテストしていた。

 重力遮断板は驚くほど軽く、また薄い。


 重力遮断板を置いたベッドに寝た者は見事に宙に浮いて実に快適なのだが、間違ってもベッドから落ちないように体中にベルトを巻かなくてはならない。

 これが結構面倒だった。


 それを見ていたディラックくんが言う。


「あの、それならばいっそのこと、上に寝た方が落ちないような制御機構をつけませんか。

 そしてそういった機能付き重力遮断板を組み込んだベッドごと作らせていただけませんでしょうか」


 みんながディラックくんを見る。


「ベッドだと大きさが二メートルを超えるけど大丈夫なんですか?」


「はい、組み立て式にいたしましょう。

 重力遮断板は折りたたみが出来ませんが、これはあとで嵌め込めるようにベッドの形に会わせましょう。


 また完全に無重力だと回復後の患者さんも大変でしょうから一Gから〇Gまでの調節式にいたしましょう。

 ついでに重力が無いと空気が対流せずに患者さんが酸欠になってしまいますから、空気循環機能も組み込みましょう」


 瑞祥院長は即座に十台のベッドを依頼した。


「毎度ありがとうございます。

 お代はベッドひとつにつき水三リットルでございます」

 またもやディラックくんは実に嬉しそうににっこりと微笑んでいる。



 翌日重力遮断ベッドが届いた。

 空間連結器からは十個の薄い箱がふわふわと出てくる。

 それぞれノートパソコンほどの大きさだ。

 手に取ってみると驚くほど軽い。重さは百グラム無いだろう。


 その後に続いて一メートル四方ぐらいの板が二十枚出てきた。

 こちらもやはり軽い。


 ディラックくんが組み立ててくれるのかな、と光輝は思っていたのだが、その後に続いて三十センチほどの大きさの昆虫のような機械が出てきたので驚いた。

 その七台の機械は空中をふわふわと浮かびながら、すぐにベッドを一台組み立てる。


「こ、これはなんですか?」


 光輝が聞くとディラックくんがまた微笑みながら教えてくれる。


「作業用のドローンです。大抵のものは彼らが組み立ててくれます」


 なんだか音が聞こえるので光輝が耳を澄ますと、ドローンたちは作業をしながらなにやら歌っている。

 光輝には何の歌かわからなかったが、麗子さんによるとそれは「靴屋の小人」の歌だそうだ。


 光輝はびっくりしてディラックくんを見たが、ディラックくんはウケたのが実に嬉しいらしくて笑っている。


(ディラックくんのユーモア回路だけで地球上のすべてのPCを合わせたより大きいのかも)

 光輝はそう思ったが何も言わなかった……



 作業が終わるとドローンたちはお辞儀をして帰って行った。

 出来上がったベッドは半透明で実に華奢な作りである。

 まるでガラスのベッドだ。

 その上に寝ただけで折れてしまいそうである。


「あの…… このベッドってどのぐらいの重さに耐えられますか?」


 光輝が恐る恐る聞くとディラックくんが微笑んだ。


「万が一のことが無いように多めの資源を使って頑丈に作りましたので、五千トンの重量に耐えられると思います」


「ええええええ~っ!」


 もうあまり驚かないようにと自分に言い聞かせていた豪一郎が言う。


「まだ地球人たちはああしたドローンに慣れていないので、気味悪がるひとがいるかもしれませんね」


「畏まりました。それでは地球人の皆さまに親しんでいただけますよう改良させて頂きます」


 次に作業にやってきたとき、ドローンたちは白雪姫と七人の小人たちの小人の姿になっていた。


 今度は彼らはあの歌を歌いながら作業をしたのである……






(つづく)


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