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【初代地球王】  作者: 池上雅
第五章 【英雄篇】
131/214

*** 4 商取引用AI ***


 光輝は瑞巌寺に戻ると厳空や厳真たち幹部に山であったことを報告した。


 厳空には、「御光やお釈迦様や飛空術に続いて今度は宇宙人ですか…… まったくあなた様というお方は……」

 とまた呆れ顔で言われてしまった。


 光輝は「そういう厳空さんだってカ○ハメ波じゃないですかぁ」と言いたかったのだがヤメた。



 翌朝の九時ぴったりに、その子は瑞巌寺に姿を現した。

 顔つきは十六歳ほどの少年、それも超絶的美少年である。


 やや高めの身長。

 金色がかった細くて美しい長い髪。

 そしてやはり金色がかった切れ長の青い目。

 その目は強い意志を秘めているかのように輝いている。


 服装は光輝たちの修行衣を真似たのか、同じような修行衣を着ている。

 修行衣に合わせたのか手には風呂敷包みも持っていた。


 その少年は、瑞巌寺の山門のところに居合わせた若い修行僧に丁寧にお辞儀をして言った。


「三尊さまと厳上さまにお約束を頂戴いたしておりますディラックと申します。

 どうか御取次願えませんでしょうか」


 その修行僧は丁寧にお辞儀を返して「少々お待ち下さいませ」と答え、「上手な日本語を話す外人さんだなあ」と思いながら光輝たちのところに急いだ。

 まあ、瑞巌寺には上手な日本語を話す外国人留学生たちはたくさんいる。



 少年はすぐに本堂にいる光輝たちや上級退魔衆たち幹部の前に通された。

 厳攪もいる。

 ディラックくんは彼らの前で見事な所作で正座して平伏した。


「ディラックと申します。よろしくお願い申し上げます」


 厳攪が言う。


「ご不幸にもご遭難されたとのこと。心よりお悔やみ申し上げます。

 私どもでお役に立てることでございましたらなんなりとお申し付けください」


「誠に、誠に暖かいお言葉、心より御礼申し上げます」


 ディラックくんはまた見事な所作で平伏した。

 きっと昨日スマホで検索して勉強したのだろう。


「それでどのような援助を御所望でいらっしゃいますか?」


「はい。昨日三尊さまと厳上さまのお許しを頂戴して、エネルギーは十分補給させていただきましたが、金属などの修理のための資源が不足しております。

 主に鉄とそれからいくらかの有機化合物を借り越しさせていただけませんでしょうか」


「有機化合物と仰いますと……」


「はい。昨日調べさせていただきましたところによりますと、こちらの星で使用されております有機化合物を多く含む化石燃料と、後は鉄原子があれば我々が通常使用しております有機鉄化合合金○○○○を作ることが出来ます。


 後はいくらかのケイ酸や微量元素があれば。

 微量元素はこちらの山の土にほとんど含まれておりますので、土を少々借り越しさせてくださいませ」


「別に土などいくらでも使ってくださってもかまいませんが……」


「いえ、そういうわけにはいかないのです。

 我々の商人法は、他の人類居住恒星系の資源を代価なしに取得することを固く禁じているのです。

 ですから是非借越勘定にて使わせていただけますよう伏してお願い申し上げます」


 またディラックくんは見事な平伏をした。


「鉄や化石燃料や土はそのままの形でいいのですかな?」


「幸いにも工業プラントは破壊されずに残っておりますので、原料資源さえ貸していただければ後は船が自分で自分を修理出来ます。

 残念ながら重層次元航法装置だけは修理できないのですが……」


「それではそれぞれの資源はどれぐらいの量必要ですか?」


「厚かましいお願いで誠に恐縮ではございますが、鉄原子はこちらの星の単位で五十キロほど、化石燃料も五十キロほど、土は十キロほど貸していただけませんでしょうか」


 皆の表情が緩んだ。その程度の量ならすぐに揃えられるだろう。


「鉄原子は不純物が含まれていてもだいじょうぶですか?」


「はい。それはこちらのプラントで対処できます」


 厳空は後ろに控えていた若い僧侶に、瑞巌寺の鍛錬場にあるバーベルの重りを持ってくるように言った。

 直ちに届けられた重りを見てディラックくんが微笑む。


「こういった鉄でもよろしいでしょうか……」


「はい。十分でございます」


 その後も直ちに瑞祥燃料社に連絡を入れ、ガソリン、灯油、軽油、重油などをそれぞれ十八リットル入りのポリタンクで五本ずつ注文する。

 バケツ十杯の土や砂も用意された。

 燃料の到着を待つ間、瑞巌寺本堂ではディラックくんを前にして歓談が続いている。


「それにしてもディラックさん。

 異星のコンピューターとはお見事なものですな。

 それに見た目も完全に本物の人間に見えますよ」


「お褒めに与り恐縮であります」


「そのお体は本当に機械なのですか?」


 ディラックくんはにっこり微笑むと、右手で左手の二の腕を掴んだ。

 そうしてその手を回すような動作をしたと思うと、左手を付け根から抜いて、ごとりと自分の前に置く。

 その左手の付け根には見たことも無いような金属や細い線が無数に見える。

 その場の全員が硬直した。


「どうぞお手にとってご覧くださいませ」


 そう言ってディラックくんは微笑む。


 光輝は恐る恐るディラックくんの腕を手に取った。

 それは見た目には完全に人間の手に見える。

 付け根部分の金属や、なにやら柔らかそうなプラスチックのように見える部分を除けば。


 その腕はまだ暖かく、血管も見えていて産毛まであった。

 僧侶たちも恐る恐るディラックくんの腕を手にとって感嘆している。


 ディラックくんは、「お恥ずかしいものをお見せいたしました」と言うと、また右手で左手を持って肩にはめた。

 そのまま左手を普通に動かしてまた微笑む。


 狼狽した光輝が聞いた。


「だ、だいじょうぶなんですかディラックさん……」 


「はい。まったくもって大丈夫です」


「で、でもなんか線が切れてたようにも見えましたし……」


「今ナノマシンたちが修復しているところです。そろそろ終わります」


「そ、そそそ、そうなんですか」


「首でもおなじようにやってごらんにいれましょうか?」


「い、いえ、そっ、それにはおよびませんっ!」



 しばらく経って瑞巌寺の庭に用意された資源の数々を見て、ディラックくんは微笑んだ。


「それではこれら資源をお借りさせて頂いてよろしゅうございますでしょうか」


「どうぞどうぞ。足りなければまたいくらでも仰ってください」


 ディラックくんはまた平伏すると立ちあがって山の方を見た。

 昨日とおなじ輪が音も無くふわふわと飛んでくる。

 ディラックくんの近くに停止したその輪の中に、やはり資源がふわふわと入って行って消えた。


「これで航法装置以外はすべて修理出来そうです。

 本当にありがとうございました」


「こ、こんなんですべて修理できるんですか」


「はい。船は修理できますが……」


「他に何か必要なものでも……」


「ええ、ですがまあ、それはそれほどの緊急性がありません。

 おいおいお願いさせていただくことにして。

 まずは今の莫大な負債をなんとか少しでも減らさねば……」


「そ、そんなに莫大なんですか」


「ええ、このままでは間違いなくご主人さまが卒業試験に落第してしまいます。

 ご主人さまを悲しませるわけにはまいりません。

 それに、もしそんなことになったら私もAI界で笑い物になってしまいます」


「そ、そそそ、そうなんですか……」


「それでは、もしよろしければこれから私どものテクノロジーの産物を購入して頂けないか、プレゼンを行わせていただけませんでしょうか」


「は、はい。それ、よろしければ別の場所でもいいですか?」


「もちろんです」




 光輝は昨日のうちに龍一所長たち研究所の幹部に依頼してあったので、そのプレゼンとやらは研究所で見せてもらうことになっている。

 約束は昼からだったので、光輝たちはまたディラックくんと歓談した。


 ディラックくんは見事に端坐した姿勢のまま僧侶たちの上方を見つめて言う。


「それにしても皆さまの周りには3.1次元から3.3次元の間にいらっしゃる存在の方々が大勢お見えですね。


 それにどうやら皆さまはその方々ととても親しくおられるご様子です。

 その方々はこの次元に影響を及ぼすこともお出来になるのですねえ。

 いや実にお珍しい重層次元のご利用方法でございます」


 僧侶たちは驚いた。

 ディラックくんは霊が見えるようだ。


「それにこちらの三尊様のお近くには、常にもっと高次の次元にいらっしゃる方のお姿もございますね。

 やさしく微笑んでいらっしゃるご様子であります」



 退魔衆たち高位の僧侶はその霊力に比例して僧階が上がる。

 ディラックくんは人間ではなくアンドロイドだということは先ほども見せてはもらっているが、これではまるで上級僧侶ではないか。

 それも僧正クラスである。

 知らない僧侶が見れば、金色がかった青い目をした美少年僧正である。


 光輝たちの後ろに控えていた若い僧侶たちが、思わず居住まいを正していた……




 研究所に向かう車の中でディラックくんが言う。


「それにしてもあの僧侶の方々は皆さま倫理水準の高いお方たちばかりでしたね」


「やはりそうでしたか」


「あそこにいらっしゃった方々の平均でも優に九・〇はございましたでしょう。

 まるで故郷の議会に呼ばれていたようで緊張致しました」


「そ、そうなんですか」


「やはりこの星の方々の倫理水準は素晴らしく高いのですね。

 これならば安心して商取引ができます」


 ディラックくんは嬉しそうだった。


「ですが……」


「ど、どうされましたかディラックさん」


「この警備ぶりはやや……」


 ディラックくんは周囲の自衛隊の装甲車両を見て眉をひそめた。


「や、やっぱりこんな警備が必要になるような惑星の倫理評価は低くなりますか」


「ええ、それもそうなんですが、失礼ながら少々規模が大きいかと。

 もしよろしければ今度私どもの船にいる防衛用AIをご紹介させてくださいませ」


「そ、そんな方もいらっしゃるんですか」


「はい。宇宙にはもちろん倫理水準の低い方もいらっしゃいます。

 そうした方々からの不測の攻撃に備えて、ご主人さまのご両親が用意された最新型の防衛用AIであります」


「な、なんかとっても強そうですねえ」


「はい。資源さえ十分に与えてあげれば。

 そうですねえ。

 昨日頂いたスマホで調べさせていただいたところによりますと、この惑星の最大の国家の総攻撃に耐えて、必要ならば反撃することも出来るでしょう」


「ええっ!」


「もちろん防衛用ですから、反撃も必要なときしか致しませんが」


「す、すごい……」


「ですからいつか三尊様の個人用防衛装備もプレゼンさせてくださいませ」


 そう言ってディラックくんはにっこりと微笑んだのである。


(そ、そういえばディラックくんって、商取引用AIなんだよな……)


 光輝はそう思ったがなにも言わなかった……






(つづく)


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